商学部 会計学/河内山拓磨ゼミ

『HQ2020』より

河内山拓磨准教授の写真

河内山拓磨准教授

企業活動を「科学」的に分析し、物事のメカニズムを解明する思考力

商学といえば、企業と消費者を結びつけるビジネスそのものを学ぶというイメージが強い。しかし、企集の業績を評価し、活動の実態を分析するスキルが得られるのも商学である。その代表的な学問が、会計学。決算書や財務データなど数字を扱うだけでなく、経済社会を形づくる上で重要な役割を担っている。会計という"事実"の記録から産み出される"概念"が利益であり、利益によって株価は変動し、富の分配、雇用や働き方も変わる。そのメカニズムを解き明かすことを研究の柱にしているのが、河内山ゼミ。データや統計学を活用し、科学的なアプローチによって企業活動を分析。研究を通して養われるのは、時代の変化に左右されない普遍的な思考力である。

実際の企業データを駆使し、「会計と人間行動」の関係性に迫る

書籍

河内山ゼミは、2017年度からスタートしたゼミナール。商学部の学問領域の中で柱としているのは、「財務会計」や「企業財務」「統計学」である。企業活動にはさまざまなステークホルダー(利害関係者)が関わっている。「誰が会計情報を利用しているのか?」「経営者は本当に会計数値を操作したがるのか?」といった問いについて、実際の企業データを駆使しながら、さまざまな事象を客観的に分析していく。科学的なアプローチによって「会計と人間行動」の関係性に迫れることも、河内山ゼミの特徴の一つである。指導にあたる河内山准教授に話を聞いた。

「一橋大学は社会科学の大学ですから、『科学』的アプローチを重視しています。科学と聞くと理系を連想するかもしれませんが、観測対象を自然や生物から企業活動に置き換えるだけです。企業活動には、経営状態を示す決算書や財務データなどがあるので、分析もしやすいのです。会計学というレンズによって明らかになる事実や概念が、どのような経済的影響をもたらすのか。さまざまなテーマを扱いながら、物事の背後にあるメカニズムを解明できる思考力を身につけていきます。論理的思考力は、社会人に求められる普遍的な基礎力であり、この力がしっかり身についていれば、目先の変化に左右されずに最適解を導くことができると考えます」

批判的な見解にも屈しない、強靭な思考力を身につける卒業研究

3年次のゼミ活動では、「知識の構築」に多くの時間が割かれる。企業活動を科学的に分析する際の土台となる専門知識や分析手法などを、河内山准教授が厳選したテキストを輪読しながら学習する。
「会計を用いることで、企業の見え方がどのように変わるのか。統計分析を行うことで、どのようなことが解明できるのか。会計の世界に入門する学生にとって分かりやすく、学ぶ面白さを感じられる教材であることが大切です。そのうえで、研究活動に必要なスキルを習得できる専門書を選んでいます」

4年次には、構築した知識を基にした「応用の実践」となる卒業研究に取り組む。河内山ゼミには現在5人の4年生が所属し、教室を訪れると卒業研究の進捗発表を行っている最中だった。研究テーマは、個人投資家の存在が企業の投資活動に及ぼす影響やCSR活動の株価効果など、バラエティに富んでいる。
「研究テーマを私から与えることはありません。学生自身が関心を持ったトピックを取り上げてもらいます。徹底的に思考力を磨く場が大学であり、ゼミですから、学生にはあえて批判的な指摘を投げかけるようにしています。それでも、想像を超えた視点や分析結果を投げ返してくる学生がいると嬉しくなりますし、研究に日々携わる者としても熱くなる瞬間です」。

3年次の学生には教師という立ち位置で向き合い、4年次の学生に対しては良い意味で「天邪鬼」でありたいと河内山准教授は笑顔で話す。研究とは、新しいコトを発見し、その「もっともらしさ」を追求する行為。その喜びを本気でつかみたい人にぜひ勧めたいゼミナールである。

ゼミ風景1

ゼミ風景2

卒業研究テーマ一覧

  • 個人投資家が企業の投資活動に及ぼす影響
  • CSR活動の有事価値関連性
  • のれん及び減損損失と将来キャッシュ・フローの関係性
  • 定性情報の可読性と有価証券報告書の事後訂正

Student's Voice

簿記は会計学の一側面にすぎない。
数字の背景にあるさまざまな事象について探究しています

山際淳平さん

山際淳平さん

商学部4年

高校時代に会計学に興味を持ったことが一橋大学を受験した理由です。ですから、会計学研究を専門とするゼミを選択したことは、自分にとっては自然なことでした。ところが河内山ゼミで学ぶことで、会計学の印象が大きく変わりました。私が高校時代に思い描いていた会計学とは、簿記であり、それは会計学の一側面でしかありません。河内山ゼミでは、企業活動の背景にあるさまざまな事象について理論を使って検証し、数値化してとらえていきます。たとえば、上場企業は毎年、業務報告=有価証券報告書の提出が義務付けられていますが、中には報告書提出後に内容を訂正する企業があります。なぜ訂正する必要があったのだろうか?入力ミスや計算ミスといったヒューマンエラーなのか?あるいはほかの意図があったのだろうか?自分なりの仮説を立て、企業活動を観察し、統計学や理論を駆使しながら要因分析をしていきます。そしてたどり着いた結論の妥当性を丁寧に検証していきます。こうしたことを繰り返し行うことで、多面的に企業活動をとらえられるようになりました。

2019年11月撮影

大学で学ぶとは、
「巨人の肩に立つ」ということ

藁谷慎吾さん

藁谷真吾さん

商学部4年

質、量ともに密度の高いコミュニケーションを行うのが河内山ゼミの特徴です。河内山先生の発言で印象深いものに「巨人の肩に立つ」という表現があります。これは大学で研究活動を行う際の姿勢を意味しています。「巨人」とは、これまで社会に影響を与えた理論を唱えてきた先人研究者のことです。肩の上に立っているのは、現在の研究者や学生たちです。この言葉の意味を私なりに解釈すると、より良い社会を築くために「知の巨人」が唱えた理論を理解し、学んだ理論をベースにさらに発展させる役割が、大学で学ぶ者にはあるということです。自分が立てた問いに対し、性急に答えを出すのではなく、これまでに蓄積された理論を使い丁寧に検証していく。「なぜそうなるのか?」と自分に問いながら論理的思考力を鍛えていく。「大学で学ぶとは?」「研究とは何か?」、ゼミを通して学んでいます。

2019年11月撮影

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