社会学部 地理学(人文地理学)

『HQ2024』より

小泉 佑介氏の写真

小泉 佑介 講師

人間の営みがもたらす地域特性の変化を視覚化
自ら仮説を立て、地球社会の課題解決策を探る

地理学という学問分野は幅広く、そして奥深い。一般的に日本で高校まで行われている地理教育では、地形、気候、植生、土壌といった自然環境の成り立ちにはじまり、人口、産業、文化といった人間の営みまでまんべんなく学習する。一方、大学で学ぶ地理学は、そうした自然と人間との関わりから地域の特性を解き明かすことを目指しており、社会学部の授業で学べる「人文地理学/社会地理学」もその一つとして位置づけられる。

その傘のもとには、貧困や犯罪などの社会問題をはじめ、経済、都市、文化、歴史、政治などを研究対象とする地理学分野も存在する。「なぜこの地域には人口が密集しているのか」「どのような社会経済活動が環境破壊を進める要因となっているのか」。抱いた疑問や問題意識を出発点に、自ら仮説を立てて現地の実態を調査する。そうしたプロセスを経て、地球社会の課題解決に向けた知見を得られることが、この学問の魅力といえる。

〝人間-環境関係〞をテーマに
地域に生じた現象の文脈を読み解く

授業は大きく二つのパートに分けられている。前半に行われるのは、学説史に基づいた人文地理学の理論や方法論についての学修である。19世紀から現在までの学説史について解説が行われ、地球社会の課題解決において人文地理学のアプローチがどのような知見をもたらすのかを学んでいく。考察の軸として指導を行う小泉講師が設けているのが、〝人間-環境関係〞というテーマである。

「たとえば、地域に生じる人口の集中・分散といった現象が、どのような文脈によって決まるのか。一つは地形や気候といった自然環境条件が効いてくると考えられるでしょう。たとえば、ある地域での人口が増えると別の地域に移住していく人々が出てくるわけですが、移住先の土地が開拓可能であるかどうかによって人口分布が決まるといえます。一方、森を切り拓き、都市を形成するといった人間による自然環境の『改変』プロセスにも注目する必要があります。こうした人間と自然との関わりを捉える上で、人文地理学では〝景観〞というキーワードを重視してきました。現在で言えば、人間と環境の相互作用によって成り立つ『文化的景観』が世界(文化)遺産の登録基準の一つに挙げられており、こうした部分にも地理学の知的蓄積が反映されているといえます」

地図で表すことで視覚化される
地域における発展や衰退

後半の授業では、前半で学んだ知識の応用に取り組む。〝人間-環境関係〞を掘り下げるため、各回の授業では、具体的な事例が紹介される。基になっているのは、長年インドネシアをはじめとした東南アジア地域研究に取り組んでいる小泉講師の知見である。課題を読み解く枠組みとして人文地理学的なアプローチから、現地で実態を調査するフィールドワークを重視してきた。

授業の特徴について小泉講師に尋ねたとき、例として提示されたのが、インドネシアの首都ジャカルタ周辺における〝飲料水〞の分布変化を時系列で示した地図だった。主に湧き水や井戸が使用されていた2000年からの20年間で、ウォーターサーバーが急速に広まったことが一目瞭然である。「指標とするものを地図で表すことで、各地域の特徴を視覚化できます。大事なことは、変化の要因について自ら仮説を立て、現地調査によってその実態を正しく把握して検証することです。こうした学びを通じて、学生には人文地理学の有効性を実感してもらい、地図を描くことでマクロな事象をミクロな視点で読み解く力を身につけてほしいと期待しています」

仮設の立て方も、事象の見方も、人それぞれ異なる。人文地理学は、地球社会の課題に興味関心を持つ人すべてに受講を薦めたい学問である。

Student's Voice

課題解決策としての有効性を判断するうえで
自分の尺度を持つ礎ができる授業です

山田 凌雅さんの写真

山田 凌雅

社会学部3年

私が所属するゼミでは開発途上国の地域研究に取り組んでいます。研究対象であるアフリカについて小泉先生から学びたいと思ったことが履修の動機です。授業では課題解決の具体的な事例を学び、授業で学んだ知見をゼミでの研究に活かしたいと思いました。人文地理学を通じて学んだのは、現地の実状を把握することの重要性です。たとえば、先進国が進める途上国での開発を、現地の人々はどう受け止めているのか。砂漠化防止への取り組みでは、森林が増える一方で放牧地が減少し、食糧不足を招いていたりします。起きている事象に対する課題解決策として適しているかどうかは、現地の実状によって異なると気づかされました。だからこそ一般論に流されず、自分で調査を行い、自分の尺度で判断することが大切だと感じています。

"地域+地球規模"で環境問題を考える
視点や視野の大切さに気づきました

小山 栞奈さんの写真

小山 栞奈さん

社会学部4年

人文地理学を学ぶ面白さは、環境によって人間の営みがどのように変化するかを知り、その関係性を科学的に解明する点にあると思います。ゼミでも人文地理学を専攻していますが、分析にあたっては定量的なデータを用いるだけではありません。現地に足を運んで手や体を動かし、人と話をすることで、行動の背景にあるさまざまな事象の理解に努めています。私は、交換留学で1年間フィンランドに滞在し、そこで自然と暮らしの深い結びつきを実感しました。そのことが都市緑化に関心を持つきっかけになり、現在取り組んでいる卒業論文のテーマにつながりました。環境問題に取り組むには、目に見える地域レベルでのミクロ現象に加えて、地球規模で起きているマクロ現象にも注視する必要があり、切り分けて考えていては解決できないと、人文地理のアプローチの重要性に気づきました。

画像:資料01

ジャカルタ首都圏における飲料水事情(2020年)

画像:資料02

ジャカルタ首都圏における飲料水事情(2000年)

授業の内容(2024年度予定)

第1回 イントロダクション
【人文地理学の理論・方法】
第2回 人文地理学の視点
第3回 「人間―環境関係」のとらえ方①
第4回 「人間―環境関係」のとらえ方②
第5回 場所・空間・スケール①
第6回 場所・空間・スケール②
【人文地理学の応用】
第7回 東南アジアの人と自然
第8回 東南アジアにおける「人間―環境関係」
第9回 「文化的景観」という意味付与
第10回 環境運動のローカル/グローバル
第11回 ローカリティを問い直す
第12回 アジアの大都市という空間
第13回 地球社会の課題解決にむけて

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