社会学部 社会・文化心理学/宮本百合ゼミ

『HQ2023』より

宮本百合氏の写真

宮本百合教授

気づかないうちに受けている影響に焦点をあて、
他者や自分の社会的・文化的立脚点を解き明かす

新型コロナが猛威を振るい、人々はマスクの着用を余儀なくされた。その中で見受けられたのが、着用を続けるアジア諸国の人々と、それとは対照的に着用を固く拒む欧米諸国の人々との間の相違である。欧米人の行動を見て、我々日本人は"ウイルス感染を恐れない"という心の表れと捉えがちだ。しかし感情豊かに意思疎通を図る欧米諸国の人々にとっては、それは"コミュニケーションを阻害されたくない"という心理が生んだ行動とも考えられる。

この事例が示すように、社会的・文化的環境が人間の心や行動に与える影響は計り知れない。それを解き明かすための研究分野が社会・文化心理学である。自ら立てた仮説を、統計学の手法も駆使しながらデータで実証していくプロセスは、宮本ゼミを選んだ学生の知的好奇心を満たす気づきや発見に満ちている。

多様化する社会において
人間関係を構築する一助となる

ゼミ中の写真1

社会心理学とは、日常生活の中で互いに影響を受けながら生きる人と人との相互作用に注目し、そのあり方について研究する心理学領域である。

また、文化心理学は社会心理学と関りが深い分野であり、文化的文脈とそれを構成する人間の心理的プロセスとが相互に形成し合う様相に焦点を当てる。

宮本ゼミでは社会心理学、特に文化心理学について理解を深めることができる。環境が人間の心や行動に与える影響を研究対象とし、社会的文脈(他者との相互作用など)と文化的文脈(歴史・生態学的環境や文化的慣習・制度など)から心の基盤を解明していく点に特徴がある。

「個々人が日頃なにげなく考え、感じていることも、気づかないうちに社会的・文化的な環境の影響を受けています。それらを理解することは、自分とは異なる他者への理解を深め、自身の考え方に影響を与える文化的・歴史的な基盤を理解することにもつながります。ゼミでの学びや経験が、多様化する社会において円滑な人間関係を構築する一助になることを期待しています」

そう語る宮本教授の指導を受けるゼミ生は、同教授が教壇に立つ1・2年次の基礎科目「社会心理学」の履修者が多い。宮本ゼミを選ぶ学生はどのようなプロフィールを持つのだろうか。

「ゼミ生の中には、帰国子女や海外からの留学生など、国際経験が豊富な人もいます。異文化に触れた経験がなくても、周囲の社会的・文化的環境の影響を受けていることに改めて気づく機会となるゼミだと思います。多様なバックグラウンドを持つ学生が集うため、議論を通してお互いに異なる視点から学び合えることも多いです」

仮説を検証する過程の中で実感する
社会・文化心理学の醍醐味

ゼミ中の写真2

宮本ゼミの活動内容や流れを紹介する。3年次の前半は、社会・文化心理学に関する英語の研究論文を中心に文献の輪読を行い、議論を重ねながら知識や理論を身に付けていく。そして後半には、実証研究に役立つ計測・分析方法を学修する。統計学的な手法の修得も行い、先行研究を参考にしながら各自でテーマを設定し、調査や実験を実施して、仮説検証を行う。また、豊富な知見やノウハウを持つ海外の研究者と交流できる機会も設けられている。

4年次からは卒業論文に本格的に取り組むべく、研究計画の具体化を進めていく。

「このゼミの醍醐味は、自ら立てた仮説を実証していくプロセスにあると思います。学生は既存研究に基づき、産み出される新たな視点や問題意識から卒業論文のテーマを見つけ、ゼミでの議論を通じて実証可能な仮説に落とし込んでいきます。たとえば、企業における文化的要素を分析したい場合も、マネジメント、組織、雇用形態など、研究対象となり得るテーマや仮説は多岐にわたります。調査や実験をした結果、たとえ仮説とは異なる結果が出たとしても、そこから得る気づきや発見は少なくありません」

このゼミで学んだことは、個人の生活から社会や企業における活動まで、あらゆる環境やシーンに適用できる点も、ゼミ生が社会・文化心理学に知的好奇心を掻き立てられる理由といえるだろう。

Student's Voice

あらゆるものが分析対象になり、
世の中を見るレンズが変わるゼミです

増井拓紀さんの写真

増井拓紀さん

社会学部3年

社会心理学とデータサイエンスに興味があり、将来は機械学習等を用いて心理学の理論を深めていきたいと思っています。研鑽を積むために大学院進学を目指しています。宮本ゼミを選んだ理由は、先生が扱う「文化」「幸福」「感情」といったテーマに惹かれたからです。先生の研究論文を読む中で、人間の心理や行動に影響を与える抽象的で感情的な要因を、統計的な分析によって数値化できることを知り、感銘を受けました。先生の親身な指導にはとても感謝しています。研究計画などについて相談すると、探究の道筋を示し、仮説を実証する機会を与えてくださいます。学びを深めていくにつれ、正義や宗教、知覚や感性など、あらゆるものが分析対象になり、世の中を見るレンズが変わる。そこに宮本ゼミで学ぶ魅力があると思います。

他者の特性を受容し、
自分を相対化できるようになりました

加藤桃子さんの写真

加藤桃子さん

社会学部4年

2年次に履修した社会心理学で、「人間の心は無意識のうちに社会の影響を受けている」という見方に興味を持ったことが宮本ゼミを選んだ理由です。その背景には、体育会の幹部としてチーム運営や部員のマネジメントに携わる中で抱いた、「組織に適応できる人とできない人がいるのはなぜなのか」という疑問がありました。環境適応に影響を与える文化的要素や心に対する理解を深めたことで、個々の特性を受容しながら応対できるようになりました。また、他者との関係の中で自分を理解し、相対化する力も養われました。自分の実体験を活かし、卒業論文では仕事に対して意欲的に取り組める心理状態を指すワーク・エンゲージメントに注目し、組織特性と個人特性の一致が与える影響について研究を進めています。

人間味豊かな
興味深い心理学です

戸髙裕太さんの写真

戸髙裕太さん

社会学部4年

社会・文化心理学と出合ったことで、心理学のとらえ方が一変しました。以前までの自分にとって、心理学は人間の心を普遍的、機械的に解釈する印象が強い学問でしたが、社会・文化心理学は非常に人間味豊かな心理学だと感じます。それは、社会や文化というバックグラウンドによって、思考や感情、動機など様々な心理プロセスに構造的な違いが出ることを示してくれるからです。統計学のツールを使って実証研究に取り組むため、目には見えにくい影響を具体化できる点でも印象が変わりました。宮本ゼミの魅力は、ディスカッションの時間にも感じることができます。「なぜ日本人はマスクを着用し続けるのか?」といった日常生活に溢れている疑問についても議論することができ、文化的文脈から答えを見出していく面白さを実感しています。国という単位を越え、多文化間における人間関係の構築に関心のある人にも薦められるゼミです。

研究テーマ一覧

  • 雇用形態と職場自己観の関係性について
  • 職場流動性と従業員のワーク・エンゲイジメントとの関係:組織コミットメントと自尊心の役割
  • Foreign Population and Values Toward Migrants and Migration: A Test of Intergroup Contact Theory
  • 他者からの評価が失敗体験に及ぼす影響
  • 関係流動性とCapitalizationについて
  • 評価予測が規範順守行動にもたらす影響:日本人はなぜマスクを着用し続けるのか?
  • 文化的自己観と過剰適応及び抑うつの関係性について

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