社会学部 社会調査・社会学/数土 直紀ゼミ

『HQ2022』より

数土直紀教授の写真

数土 スド 直紀教授  

日本社会における"格差"をテーマに、
問題の真相に迫るマインドとスキルを磨く

社会における不平等から生じる"格差"の問題。連想しがちなのは、富裕層と一般階層との間に広がる所得格差ではないだろうか。ところが、所得の問題は一例に過ぎず、雇用、地域、教育をはじめ、最近では新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が引き起こす格差も存在し、それぞれが関連し合って問題を複雑化させている。

格差の実態を客観的にあぶり出し、データ分析に努める"社会調査"は、問題を引き起こす背景や社会構造などを紐解く上で有効な手段といえる。数土ゼミでは、グローバル社会が抱える格差に焦点をあて、計量的、数理的な手法を用いて問題の背後にあるさまざまな事象について考察する。

4つのステップで取り組む
格差問題の本質的理解と体験的学修

ゼミ中の写真

2021年度、数土ゼミには7人が所属し活動を行っている。どのような特徴を持つゼミなのか、指導にあたる数土教授に話を伺った。「高齢化やグローバル化といった社会の著しい変化によって、日本はかつての"一億総中流"と形容された時代から、現在の"格差社会"といわれる時代に移り変わりました。人々の階層意識や主観的な幸福感がどのように変わり、私たちの社会全体に対するイメージをどう変えてしまったのか。ゼミでは、その過程を計量的、数理的な手法を用いて考察し、多様な視点を身につけることに努めます」

数土ゼミでは、実施する社会調査における一連のプロセスを通じて、日本社会における格差問題を体験的に学修する。

ステップ1(4・5月頃)では、調査対象となる格差全般について基礎的な知識を身につけ、理解を深める。具体的には、社会的な不平等の発生メカニズムを研究対象とする社会階層論を学修し、基礎的な"文献の読解"に取り組む。文献は、学生各自が関心を持つ格差をもとに選定。専門書や一般書などから自由に1人1冊を選び、輪読と議論を順次行っていく。2021年度のゼミは7人の学部生でスタートしたため、7種類の文献の内容を全員で共有し、議論を重ねることで価値観や視点の多様性を認識する。

続くステップ2(6・7月頃)では"社会調査の設計"に取り組み、学生は自身の関心や問題意識を明確にしていく。具体的には、各自で調査テーマを決め、どのような対象者に何を尋ねるかを調査項目として列挙した調査票を作成。外部の調査会社に調査の実施を依頼する。たとえば、教育格差を調査テーマとした場合であれば、子育て世代の保護者に対して「大学進学は当然だと思うか?」といった調査項目が考えられる。このプロセスを通じて対象者の人物像や生活環境などに対する想像力を高めていく。

問題を発見し、エビデンスに基づいて意見を述べる
論理的思考を身につける

ステップ3(9・10月頃)として行うのは、調査結果の整理や加工を経て取り組む"データ分析"である。ある調査項目において、結果に何がどのような影響を及ぼしているのか、統計的に意味を持つのかといった観点から分析を進めていく。予め立てた仮説に対して、予想外の結果が出た場合、その要因について想像力を働かせていく。また、データ分析の手法や統計分析ソフトの活用法も修得できる。身につけたスキルは社会調査以外の幅広いシーンに応用できるため、学生の満足度も高い。

その後、学生一人ひとりが調査結果の発表を行う。このプロセスで重要なのは、正解を求めるのではなく、社会は複雑であることを理解することである。そして、集大成となるステップ4(1・2月頃)では、レポートや報告書の作成に取り組む。数土教授に、学生に対して期待することを尋ねてみた。

「ゼミ活動の目的は、社会問題を知識として学ぶことではありません。自ら問題を発見し、エビデンスに基づいて社会のあるべき姿を構想する能力を身につけることです。その意味でも、問題に対する実践的な関心の源となる"熱い心"が芽生え、エビデンスをベースに解決策を導き出す"冷静な知性"を養ってくれることを願っています」

Student's Voice

エビデンスをもとにして
客観的に問題を考察してこそ
真相に近づけると実感

伊藤 耕さんの写真

伊藤耕さん

社会学部3年

数土ゼミを志望するきっかけになったのは、「社会調査法」を履修したことです。調査のスキルを活用し、自分の問題意識や仮説から社会問題の要因を探るというアプローチに興味を持ちました。

私が注目した格差は、労働格差です。調査を進めるうちに雇用条件や待遇などの不平等の原因は、単に労働に対する能力の問題だけでなく、家庭環境や教育といったさまざまな要因も関係していることに気づきました。また、社会調査では「5年後も生活に満足を感じていると思うか?」というアンケート調査を実施し、収入別では高所得層よりも中所得層の満足度が高く、世代別では中高年層(35歳以上)よりも若年層の満足度が高いと予想する結果が出ました。

この調査を通して、データに基づいた結果に対して多角的に考察することの重要性に気づきました。このことは、社会でのあらゆる課題解決に当てはまりますし、実践的で汎用性の高い学びの場であることが数土ゼミの魅力だと思います。

あらゆるデータ分析に役立つ
統計分析ソフトの活用法が
身につくことも数土ゼミの魅力

根本 美紗紀さんの写真

根本美紗紀さん

社会学部3年

ゼミの初期段階では、教育格差に関する書籍を選択しました。私は進学校に通っていたこともあり、教育格差を自分ごととして感じたことはありませんでした。自分が多数派でないことを認識し、格差に対する自分の解像度を上げることができたのは、問題が生じる背景や発生するメカニズムについて理解を深められたからです。

格差を無くすことは困難だとしても、格差が存在する事実を知らなければ、差は埋まらないと思います。自分の想像だけで認識している世界と、現実の世界との乖離を埋めることに社会調査の意義があり、実態を正しく把握するための客観的なアプローチとして大きな価値があると実感しました。

データ分析の手法やツールの活用法を修得できることも、数土ゼミを受講した理由の一つでした。社会学部で何かを身につけた証しになると思ったからです。当初の期待どおり、統計分析のスキルを身につけることができました。さまざまな事象に対して問題意識を持つことと客観的に分析することのバランスの重要性に気づいたことは、私にとって大きな収穫でした。

調査テーマ一覧

  • 未来の生活満足度の見立ては、現在の状況や過去の自分の人生によって規定されるか
  • 社会との接点の多さや共助と幸福度との関係について
  • 何が教育観の地域間格差を規定するのか
  • 社会経済的地位によって、転職や退職の要因や目的は異なるか、また転職した結果の満足度が変わってくるか
  • コミュニケーションの量や能力が社会経済的側面・個人の幸福度に与える影響について
  • 社会への関心・メディア利用と生活の質の関係について