法学部 国際関係論・国際政治学/市原麻衣子ゼミ

『HQ2023』より

市原麻衣子氏の写真

市原麻衣子教授

国家間に生じる事象を多角的に考察し、
国際社会をリードするための課題設定能力を養う

一橋大学では国際関係を専攻できるコースが法学部に置かれている。法は国家運営の骨格を成すものだが、国の枠を越えた国家間のルールも定めている。国際化が進んだ現代においては、たとえ日本国内の問題であっても国際的な諸関係を抜きにしては語れない。

政治、経済、軍事など、さまざまな領域で国家間に生じる事象を分析し、国際社会が目指すべき関係性を提示する。そのための研究分野が、市原ゼミの国際関係論・国際政治学である。個々の問題意識をもとに課題解決につながる方法論を探り、次世代の日本や外交が果たすべき役割について考察していく。

理論学修を通して身に付ける、
因果関係を紐解くためのモノサシ

ゼミ中の写真

安全保障、民主化支援、開発援助などを学びのキーワードとして掲げる市原ゼミ。2022年度は3年ゼミのみ開講され、6人の学生が所属している。

最初に学修するのは国際関係論・国際政治学の基礎的な理論であり、国家間の関係性を分析する際に有効な3つの視点である。それが、現実に即して国際関係を捉える"リアリズム(現実主義)"、相互依存の可能性や国際協調を重視する"リベラリズム(自由主義)"、非物質的な規範などの役割を分析する"コンストラクティビズム(社会構成主義)"である。

リアリズムに注目すると、古くはアクターとしての国家の動きが国際社会に影響すると論じた"クラシカルリアリズム(古典的現実主義)"、東西冷戦末期には国際レベルでの安全保障構造が国家行動を規定すると説いた"ネオリアリズム(新現実主義)"が支持された。そして1990年代終盤以降は、両方の主張を兼ね備えた"ネオクラシカルリアリズム(新古典的現実主義)"に注目が集まる。「国際レベルからの影響は国内の政治制度や認識によって差異をもった外交行動として発露する」という議論であり、市原教授の研究対象となっている。こうした理論を学ぶ狙いについて市原教授に話を伺った。

「理論理解は、学生が興味関心のある事象について、因果関係を分析する際のモノサシになります。諸外国に対する民主化支援を例に挙げると、内政干渉ととらえられる側面がある一方で、人権という普遍的な価値を守るためには必要な支援といえます。ウクライナに対するロシアの行動が示すように、近年は民主主義と人権を切り崩す動きが活発化しています。このような事象を背景も含めて客観的かつ多面的に考察する能力を身に付けてもらいたいと思います」

世界で何が起きているかを知ると、
国内の諸問題を相対化できる

ゼミ中の写真

理論学修には、市原教授が選定した欧米の論文や日本の専門書が使用される。ゼミでは、学生がその内容や着眼点などについて発表し、全員で議論を重ねていく。並行して行われるのが、卒業論文の途中経過発表である。研究テーマには個々の問題意識が反映され、その対象は安全保障、途上国開発、EU・アメリカ外交など多岐にわたっている。また、海外からゲストを招いたワークショップ型の学修機会(グローバル・ガバナンス研究センター提供のプログラム)を設けていることも市原ゼミの特長である。

「国際政治は常に動いており、世界の最新情報を得られる機会が必要です。また、国際会議に出席することを想定し、英語で発表や議論を行う状況に置かれることも貴重なトレーニングになると考えています」

他にも、卒業論文の精度を高めるゼミ合宿や、他大学(ケンブリッジ大学、ソウル大学、防衛大学校ほか)の学生と学び合う合同ゼミが企画されるなど、視座を高める機会も設けられている。

「第二次大戦後の世界で、今ほど国際秩序と国内秩序が連関して崩れてきた時代は過去に思い当たりません。その連動性に気づき、世界で何が起きているかを知ることで国内の諸問題を相対化できることも、国際関係論・国際政治学を学ぶ魅力だと思います」

卒業後を見据えたとき、ゼミで培う知見は、これからの社会を生き抜くうえで汎用性が高いものと市原教授は語る。

「グローバリゼーションが日常化している今を生き抜いていくためには、国際社会が進むべき方向性についてアジェンダ・セッティング(課題設定)ができる能力を備えていることが不可欠です。どのようなキャリアを歩むにしてもフォロワーというスタンスではなく、自ら発言をしてイニシアティブをとれるリーダーに育ってもらいたいと願っています」

Student's Voice

漠然としていた疑問が言語化され、
研究したいことが明確になりました

KIM JUNOさんの写真

KIM JUNOさん

法学部3年

民主主義のあり方に疑問を感じ、政治や国民に与える影響について国家間の相互作用を観点に入れつつ考察したいと思ったことが市原ゼミを選んだ理由です。規範解釈をめぐった国家間で起きている近年の摩擦や、国内における民意と普遍的価値の衝突は、法治国家体系存続における危うさを示していると思います。とりわけ、「人権が保障されているはずの先進国の中でも、徐々に社会における人権のプレゼンスは弱まっているのではないか」といった問題意識から、卒業論文は人権の規範性を対象とした外交をテーマに取り組みたいと考えています。市原先生は、学生の興味関心に応じてゼミで取り上げる論文や文献を提示してくださいます。学んだ理論と自分の問題意識がつながり、漠然としていた疑問が明確になるので、研究の道筋も見えてきます。議論を通してさらに新たな疑問が生まれるなど、ゼミでの学びを楽しんでいます。

興味のある事象に仮説を立て、
国際関係を分析できる点が醍醐味

朝山 真さんの写真

朝山 真さん

法学部3年

入学当初は法学コースで学び、警察官僚を目指すつもりでした。1年次に市原先生の授業「国際関係論」を履修したことで国家間のダイナミズムに興味が湧き、国際関係コースを選択、市原ゼミを志望しました。毎回行われる発表や議論では、理論に加えて批判的思考力が身につき、因果関係を明確にしながら発言できるようになりました。また、国際社会の一員であるという当事者意識が芽生え、多様性に対する理解も深まりました。卒業論文では、安全保障という観点から国際関係を分析したいと考えており、経済や防衛に関する問題にアプローチして研究を進める予定です。

養われる視点や考察力は
あらゆる領域に活かせます

中島崇裕さんの写真

中島崇裕さん

法学部3年

アメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、国際情勢に強く関心を持ちました。多様な国家が存在する中で、守られるべき共通のルールといえる民主的諸価値や人権について研究したいと思いました。市原ゼミで得た物事を多角的に考察する力は、あらゆる領域の課題解決に活かせると思います。学生の視点に立ってどんな質問にも親身に答えてくださる市原先生の指導方法やお人柄もゼミの魅力です。卒業後は引き続き国際関係論を研究したいと考えており、一橋大学大学院法学研究科への進学を検討しています。

2022年にグローバル・ガバナンス研究センター(GGR)が提供した講演会

【ランチセミナー】米中関係を中国外交史の視点から読む

【ウェビナー】ラリー・ダイアモンド『侵食される民主主義』(勁草書房)刊行記念イベント

【ランチセミナー】クーデター後のミャンマー

【ランチセミナー】ロシア・ウクライナ戦争における核の側面

【トークセッション】ミャンマーで今何が起きているか ─ミャンマー人との対話

【ランチセミナー】外交官なき外交 - 戦後日本外交史における特使の役割

【ウェビナー】ロシア・ウクライナ戦争に見る『正義』 ─国際法と規範の観点から

【トークセッション】政治学・社会科学を研究・就職で活かす ─若手卒業生とのトーク

【ランチセミナー】グローバル化する国際経済と冷戦 ―1970年代~80年代前半

【ランチセミナー】時代を超えた影響力と技術
─ソーシャルメディアにおける影響力・偽情報の理解と研究

【ウェビナー】次世代リーダーと民主主義 ─権力の外縁から自由を求める若者たち

【トークセッション】デジタル・イノベーションでSDGsに貢献 ─途上国開発の現場から─

【ランチセミナー】EU法空間における裁判官対話

【ランチセミナー】「中国式」とは何か ─「新時代」の「普遍的価値」

【ワークショップ】インパクトのある視覚表現で差をつける方法 ─グラフからプレゼンまで

【ランチセミナー】石橋湛山新人賞受賞論文報告 ─幻の経済関係:戦後日朝貿易の外交史的研究

【トークセッション】ラーム・エマニュエル駐日米国大使による特別講演
─自由で開かれたインド太平洋と日米関係

【ランチセミナー】グローバル時代の貿易と労働 ―自由貿易協定における労働条項の政策決定過程

【国際会議】デジタル時代のプロパガンダ・偽情報・影響
─グローバルな影響範囲、リージョナルな課題─

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