法学部 GLP国際セミナー/国立台湾大学との交流

『HQ2022』より

但見 亮教授(中国法)の写真

但見 亮教授(中国法)

世界が抱える"法的な問題"の研究を通じて、
国際感覚に優れたグローバル人材を養成

法学部志望の受験生が目指す将来は、法曹界とは限らない。法的な素養を身につけて官公庁や企業で活躍したい人や、外交官や国際的に活動する専門機関などを進路として考えている人もいるだろう。一橋大学の法学部には、法学と国際関係の二つの専攻があり、法的な論理的思考力と優れた国際感覚の養成を教育目標として掲げている。

法学部では、グローバル人材の育成を目的としたGLP(グローバル・リーダーズ・プログラム)が設けられており、その履修者に向けて開講されているのが「国際ゼミナール」である。この授業は海外の大学や企業との学術交流を通して、世界が抱える課題に対する法的なアプローチを学ぶ場となっている。

他国の学生との学術交流によって
明らかになる日本との"相違点"

ゼミ中の写真

国際セミナーは、法学部GLP選抜クラス(1年次終了時点で10名程度を選抜)の学生が履修する指定科目の一つ。ゼミは国別に開講されており、学生は英国、ベルギー、韓国、中国語圏(中国、香港、台湾)の大学の学生との学術交流に参加できる。

その中から今回は台湾の国際セミナーを取り上げる。プログラムのファシリテーションを務めるのは、中国法の専門家であり、中国圏に広くネットワークを有する但見教授である。プログラムの詳細について但見教授は、「一番の特徴は、国立台湾大学の学生と学術交流を行うことです。具体的には、世界的な事象やトピックを取り上げ、その法的な問題をテーマとして調査や研究に取り組み、研究結果をレポートにまとめお互いに研究発表を行います。問題の解釈や国内事情、法制度や解決策など、台湾と日本の相違点について理解を深めていきます」と語る。

こうしたプロセスは、法学部GLPの教育目標の一つである国際感覚を養う上で常に有効といえるだろう。

研究発表は冬学期の後半、1月に開催される交流イベントで行われている。国立台湾大学を訪問し、会場に集まった多くの学生や教員と主に中国語でコミュニケーションを図るのが恒例だが、2021度はコロナ禍の影響からオンライン形式での開催となった。

数々の刺激を受けることで
引き出される潜在的な資質や能力

2021年度の履修者は、学部生・留学生で計8名。セミナーで取り上げた研究課題は、多くの感染者を発生させた新型コロナウイルス感染症への対応とそれに伴う法制度について。感染症対策やワクチン接種によって生じた法的な問題にフォーカスし、各国で取られた対応などについてプロジェクトベースで学生による調査が進められた。

台湾と日本の相違点に目を向けると、たとえばAI(人工知能)の活用がある。人々の行動や経済活動に対する感染症対策の効果シミュレーションなどに活かされ、この分野で日本は台湾に遅れを取っている。とはいえ、台湾も一夜にして実現できたわけではなく、既存の法制度がAIの活用による感染症対策を導入する壁となった経緯がある。その際に台湾が採った対応を、日本の先行事例として学べる場が学術交流であり、参加する学生にとっては大きなメリットといえる。

学術交流の他にも、例年は現地で台湾の実状を学ぶプログラムが企画されている。裁判所や弁護士事務所、政府機関や企業などを訪ね、法律家や関係者から直接話を聞く機会が用意されるなど、学生にとっては非常に収穫の多い時間となっている。最後に、但見教授が考える国際セミナーの魅力について尋ねた。

「グローバル化による世界の変化や動きを、法的な問題を介して肌感覚で学べることが魅力だと思います。さらにいえば、各自が潜在的に持っている興味や好奇心、行動力や対応力などが引き出される機会でもあります。学生に対しては、あまたの刺激を受けることで新しい自分に出会ってもらいたいと期待しています」

GLPの修了要件を満たした学生には卒業時にプログラム修了証書が授与されるが、それ以上の価値が国際セミナーには詰まっているといえるだろう。

Student's Voice

国際関係法への関心が
高まると同時に、
日本に対する理解も深まりました

RYAN WONG(ライアン・ウォン)さんの写真

Ryan Wong(ライアン・ウォン)さん

法学部2年

私の母国はシンガポールで、高校生の頃から海外に留学することで見識を広げたいと考えていました。日本は同じアジアの国でありながら異なる点が数々あり、法律という観点から国際関係について研究したいと思ったことが一橋大学に入学した理由です。そんな私にとって、法学部GLP選抜クラスに選ばれ、国際セミナーを履修できることは願ってもない機会でした。私はこれまでベルギー、英国、韓国の国際セミナーも履修し、台湾は4ヵ国目になります。国際セミナーの魅力は、法的な問題について他国の大学生と意見を交わし、自国とも比較しながらプロジェクトベースで研究できる点にあると思います。現在は、国立台湾大学の学生との交流イベントに向けてプレゼンテーションの準備を進めているところです。コロナ禍における政府の対応や、企業によるワクチン接種の強制などから起こりうる憲法問題や人権問題に注目し、日本のケースと比較しながら調査や分析を行っています。国際ゼミナールを履修したことで、国や人々の関係を平和で安定的なものにする国際関係法への関心が高まり、それと同時に日本という国や法律に対する理解もいっそう深まりました。

二つの学問分野から
一つの事象にアプローチできたことで、
新たな視点が増えました

坂田 萌音さんの写真

坂田萌音さん

社会学部3年

高校時代に1年間の海外留学を経験したことで、国際関係に興味を持ちました。私は社会学部のGLP科目を履修していますが、他学部のGLP科目も履修できることから、法学部の国際セミナーを選択しました。その理由は、台湾の政治や法律について理解が深められると知ったからです。旅行で訪れたことをきっかけに台湾の歴史や国民性などに深く関心を持ち、中国と日本の価値観が混在した独自の文化も形成されていることから、研究対象としての魅力を強く感じました。社会学部では国際社会学を中心に学び、移民問題について研究していますが、このセミナーを通して法学的な視点を得ることができました。たとえばコロナ禍のワクチン接種に関する課題を通して、社会学的視点からワクチンパスポートの普及における国家間格差を貧困問題と結びつけてとらえる一方で、ワクチン接種から生じる問題が法的に妥当かという法学的な知見を用いて検討する手法も学ぶことができました。国際セミナーを履修したことで二つの学問分野からアプローチでき、自分の中に新たな視点が増えたという点で収穫の多い学びの場となっています。