法学部 経済法/柳武史ゼミ

『HQ2021』より

柳武史准教授の写真

柳武史准教授

法の視点から経済活動の実態をとらえ、
判例研究を通して「論理的思考力」を養う

民法や刑法といった数ある法分野の中でも、「経済法」は聞き慣れない人も多いだろう。現代の経済を研究対象とした比較的新しい法分野であり、たとえば景品表示法や下請法などは経済法に含まれる。その中でも中核を成しているのが、柳准教授が指導する経済法ゼミナールの主な研究対象となっている「独占禁止法」である。

近年のトピックを挙げると、GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)に代表されるプラットフォーマーをどのように規制するかが国際的な議論になっている。米国では日本の独占禁止法にあたる反トラスト法違反の疑いで、Google社が米国司法省から提訴されたことはまだ記憶に新しい。この事案を取り上げた学生の研究発表も、取材班が柳ゼミを訪れた日に行われていた。その活動内容や養われる能力についてレポートする。

法曹界でもビジネスの世界でも
活躍を目指せる法学研究の場

「経済憲法」とも呼ばれる独占禁止法は、資本主義経済において公正かつ自由な競争秩序を守る法律である。過去には、公共工事の入札における談合や、証券会社による不当な損失補填など、反競争的な行為が大きな社会問題となってきた。そして、デジタル経済が進展した昨今、新たな問題も生じている。その一つが、冒頭でも触れたプラットフォーマーが提供するサービスにおける不透明な取引慣行である。

たとえば米国のGoogle社のケースでは、膨大な利用データを用いた検索サービスに関してスマートフォンメーカーとの連携などによって、ユーザーの囲い込みや競合他社の締め出しが進めば他のサービスの選択が困難になり、結果として独占・寡占が維持されるため問題視されている。こうした先端的な事案にフォーカスし、法的な解釈を学べることも柳ゼミの特徴である。独占禁止法を中心に経済法を研究する魅力について柳准教授に伺った。

「法学の中でも、経済活動全般に関わり、扱う領域が非常に広い学問といえます。また、公正かつ自由な競争秩序が守られているか否かを法的に判断するには、その前提として市場の構造やビジネスモデルなどの事実関係を正しく把握する必要があります。その意味では、弁護士など法曹界を目指す学生はもちろん、今後の世界経済やビジネスに関心のある学生にとっても有益な法学研究の場になると考えています」

人生全般に役立つ
汎用的な能力を身につける

経済法ゼミナールでは、3年生と4年生がともに学び合う。副ゼミナールとして履修している経済学部生や外国人研究生が参加していることも、学際的・国際的な研究内容の特徴を物語っている。週1回開講されるゼミでは、前半は3年生による問題演習(事例問題に対する起案や報告発表)に充てられ、後半は4年生や外国人研究生による研究発表(卒業論文などの中間報告)が行われる。コロナ禍の影響もあり、秋冬学期はオンラインを中心とした学習スタイルが採られていた。

「3年生を対象とした問題演習では、司法試験の選択科目である経済法の過去問題に取り組みます。判例をもとに法的な推論を重ね、他の事例にも当てはめていきますが、このようなプロセスを通して学生に養ってもらいたいのが論理的な思考力です。これを備えていれば、人生のあらゆる場面で問題の所在や議論の構造を正しく把握したり、明確なエビデンスによって相手や時には自分自身を説得したりすることもできます。つまり、卒業後も続いていく人生において役立つ汎用的な能力を磨くトレーニングにもなると考えています」

そう話す柳准教授は、一橋大学法科大学院の修了生であり、司法試験合格後は弁護士として活躍。そして、経済法の研究活動に打ち込み、その成果を活かして独占禁止法のスペシャリストといえる法律家や実務家が育ってくれればという想いを抱きながら、2019年度より一橋大学の教壇に立っている。

「学生の置かれた立場というものに想像力を働かせながら、寄り添うことに最善を尽くす。それが、研究者・教育者としてのプロフェッショナルサービスだと考えています」

学生、法律家、研究者・教育者。すべてを経験しているからこそ、指導を受ける学生からの信頼も厚い。

Student's Voice

法律と経済、両方の視点からスキルを磨けるゼミナールです

駒寿直斗さんの写真

駒寿直斗さん

法学部3年

もともと私は、税法や商法などの企業活動に関わる法分野を学びたいと思っていました。経済法に関心を持ったのは、2年次に柳先生の授業を履修したことがきっかけです。法律に関する知識や理解が十分でない状況の中で、柳先生の講義は非常に分かりやすく、法学と経済学が融合している点も自分の志向に合っていると思い柳ゼミを受講しました。

独占禁止法に関する事案は経済ニュースでも頻繁に取り上げられるので、非常にリアルな学びができます。市場における「競争」と「消費者利益」のどちらが優先されるのかも含め、法律によって競争への悪影響を判定する点にも醍醐味を感じています。

今年度は問題演習に取り組みましたが、問題の意図を読み解く力も含めて論理的思考力が磨かれているという実感があります。それは、判例の分析や法に基づく推論を繰り返していく中で、自分なりの判断や解釈が求められるからだと思います。一筋縄ではいきませんが、1人で黙々と取り組むのではなく、3・4年生全員で議論しながら進めていくのでモチベーションも上がります。

将来については、公認会計士や企業コンタルタントに興味があるものの、法曹界を目指すという選択もあると考えています。法律と経済、両方の視点から経済活動を深く考察し、スキルを磨けること。そして、法律の研究の奥深さと併せて、思考力が試されるパズルを解くような面白さを持ち合わせていること。そこに経済法ゼミナールを受講する魅力があると思います。(談)

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