経済学部 比較経済史

『HQ2024』より

田頭拓己氏の写真

マシュー ノーラット 准教授

過去の経済活動を史料から読み解き、
影響を与えた事実を統計分析によって発掘する

歴史を学ぶ意義とは、過去の出来事を知ることだけではない。「なぜ起きたのか」「社会にどのような影響を与えたのか」を理解し、歴史から得た知恵や教訓を現代や未来に活かすことにある。

経済史という学問も、同様の意義を持つ経済学の一分野である。時代とともに変化する経済活動に焦点をあて、歴史的な史料の評価や検証を通じて事実をひも解いていく。事実をあぶり出す際に有効となるのが、〝比べる〞という学術的アプローチであり、その研究方法を修得できるのが「比較経済史」の授業である。主に〝時間〞や〝空間・地域〞を比較用の指標に置き、統計分析によって浮き彫りとなった類似点や相違点を考察する。知識の詰め込みに終始せず、歴史として残っていない事実を自ら発掘していく授業の中身に迫る。

史料の理解力と統計分析のスキルを
並行して身につける二本立ての授業

この授業では、日本史における世帯・家・人口の史料に基づいて学修が進められていく。古代(律令時代)から近代(大正時代)までの史料を取り上げ、〝人と家〞〝世帯と国〞といったテーマが設けられている。人々の営みや社会現象との相関関係を学修し、並行して経済活動に影響を与えた要因を統計分析によって明らかにする点に特徴がある。歴史学と統計学が一体となった学びといえるだろう。

授業は週2枠開講され、経済史の研究者である2人の教員が指導を行っている。その1人である友部謙一教授が担当する授業枠では、史料に対する理解力の強化に取り組む。社会の枠組みである制度が成立した背景や過程の解説が行われ、当時の状況が記された一次史料からの情報の読み取りに注力する。その後、既存の研究成果や比較研究の可能性について討議を重ねていく。

対して、マシュー ノーラット准教授が指導を行う授業枠では、一次史料からの情報の読み取りから始め、データ化、分析方法や比較研究方法までを一貫して実践的に身につけていく。その際に活用されるのが統計分析フリーソフトRであり、基礎的なプログラミングを修得していく。分析に取り組む際は、学生自ら加工した歴史データに基づく探索的データ解析を行い、先行研究を通じて比較に用いる指標や考察上のテーマを探る。

ゼミ風景1

ゼミ風景2

人々の営みをあぶり出してこそ
新たな展開や創造につながる

比較研究とは何か、具体例をあげてみる。人口分布に注目し〝戦前と現在〞および〝都市部と地方〞を比較すると、現在は過疎化が進む地方の人口が、戦前までは都市部を上回っていることが分かる。どのような事実が生んだ社会現象なのか。その答えは出身地、男女比、出生率などのデータをもとに、通時的かつ多角的に分析してこそ明らかになる。指導を行うノーラット准教授に、授業の狙いや目的について尋ねた。

「教科書にも載る歴史は誰もが知っています。しかし、その裏側で起きていたことをあぶり出していくのが、この授業の醍醐味です。当時の社会を理解するには、その基本単位である家族や個人に焦点をあて、人々の営みとその背景状況との相互関係を推察する必要があります。その際に有効となるのがデータに基づいた統計分析であり、その相互関係をあぶり出すスキルを身につけてもらうことが授業の目的です。また、あぶり出した事実を新たな展開や創造につなげる能力を養ってほしいと期待しています」

2023年度の課題として与えられたのは、〝明治時代におけるエリート層〞の史料であった。当時と現在との比較、学歴、世帯構成、就業先の産業・職業など、どのような観点から考察するかでさまざまな事象が発掘され、そこには多くの気づきや発見が満ちている。

学生がこの授業を履修した理由は、「経済現象の研究に新たな視点を加えたい」をはじめ、「データの統計分析手法を身につけたい」「歴史を学ぶことが好きだから」など幅広い。その誰もが面白さや醍醐味を感じとれることも、「比較経済史」を学ぶ魅力となっている。

ゼミ風景3

ゼミ風景4

Student's Voice

歴史に対する理解と、データ分析のスキル修得、
両方を楽しみながら学んでいます

川口 貴史さんの写真

川口 貴史さん

経済学部4年

授業で印象に残っているのは、歴史書や文献といった一次史料からの情報の読み取りです。第三者によって加工されていることが多いWEB上の情報とは異なり、紙に残された当時の史料は出所が明確である反面、解読や変換が困難なものが少なくありません。データ化する際に自分なりの解釈が必要になるため、そのことも事実を読み解くスキルを高めてくれたと思います。また、多くの気づきを得たのが"明治時代におけるエリート層"の統計分析でした。私は職業別・産業別に分類し、当時のエリート層が就く仕事の傾向を分析しました。そして浮かび上がったのは、大学卒業後に官僚や軍人となる人の多さでした。大半が企業への就職を目指す現在との違いに驚き、推察を通じて導き出した"働く=国家に資する"という当時の職業観に触れたことは大きな収穫でした。私がこの授業を履修したのは、興味があった歴史とデータ分析を並行して学べるからです。両方を楽しみたい人には特に薦めたい授業です。

比較する手法や統計分析ソフトの活用スキルは、
大学院での研究にも活きています

熊 芷馨さんの写真

ユウ 芷馨 シキョウ さん

一橋大学大学院経済学研究科
修士課程2年

この授業を履修したのは、もともと経済と歴史のつながりに興味があったからです。たとえば、戦争が繰り返された時代は、戦地に向かう男性の人口が減り、女性人口が増える傾向にあります。そうした現象が国の経済、ひいては社会、政治にどう反映されるのか。過去の歴史から新たな視点や発想を得られる点に魅力を感じています。比較するという手法は、大学院で行っている研究にも活かすことができています。研究テーマは、中国の杭州市(江南地域)で近代化が最も進んだ15世紀-19世紀前半の経済発展についてです。授業で修得したプログラミングや統計分析ソフトを活用するスキルも成果を出すうえでとても役立っています。そして何よりも、経済史という自分が一番好きなことを掘り下げて学んでいるので、大きな達成感を得ることができています。

授業の内容

第1回:概要
第2回:近世の社会
第3回:近世の経済
第4回:人口史料の成立
第5回:人と家
第6回:世帯と国
第7回:生命と死亡
第8回:結婚と出産
第9回:職業と経営
第10回:財産と相続
第11回:日本と外国
第12回:近世と近代
第13回:期末発表

学修する時代区分と史料

第1回:ガイダンス/日本史における世帯・家・人口史料
第2回:古代日本(1)/律令時代の史料
第3回:古代日本(2)/奈良時代の史料
第4回:中世日本(1)/平安・鎌倉時代の史料
第5回:中世日本(2)/室町・戦国時代の史料
第6回:近世日本(1)/江戸時代初期の史料
第7回:近世日本(2)/江戸時代中期の史料
第8回:近世日本(3)/江戸時代後期の史料
第9回:近代日本(1)/明治時代の史料
第10回:近代日本(2)/大正時代の史料
第11回:研究史(1)/江戸時代以前の研究史
第12回:研究史(2)/江戸時代の研究史
第13回:研究史(3)/明治・大正・戦前の研究史

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