経済学部 労働経済学/横山泉ゼミ

『HQ2021』より

横山泉准教授の写真

横山泉准教授

"働くこと"に関する諸問題の最適解を、
経済学というツールを駆使して導き出す

賃金格差や長時間労働といった国民の幸福や健康に関わる問題から、生産年齢人口の減少や労働生産性の低迷といった国の将来を左右する問題まで、日本は働くことに関する数多の問題を抱えている。こうした諸問題に対して、経済学というツールを使ってさまざまな社会問題の解決法を導き出す。それが横山ゼミで理解を深めていく「労働経済学」である。

働くことは身近な関心事だけに実態をイメージしやすい。その働くことに関するトピックに経済学の理論モデルや計量経済学を適用して分析するのが労働経済学であり、そのような労働経済学の親しみやすい側面に関心を寄せ、横山ゼミを志望する学生も少なくない。指導にあたる横山准教授は、「ゼミを通して、卒業後でも使える、"人生の満足度を最大化するヒント"を、得ることができると思う」という。そんな、労働経済学のゼミナールに迫った。

理論に基づいた実証分析が出来る学生を育てる

ゼミ中の写真

イギリスの哲学者・経済学者であるアダム・スミスは、各経済主体(消費者や労働者、企業)が、人間が生まれつき持っている"自己利益の追求"という個人的な合理主義に従って行動することで社会的余剰も自ずと最大化されることを唱えた。このような合理的な選択の繰り返しとも考えられる人間の人生において、上記のような考えに主に基づくミクロ経済学と、労働経済学は切っても切れない関係にある。すなわち、消費者、労働者である私たちも、効用(満足度)を最大化するような選択を行い、企業側も利潤を最大化するような選択を行う。その選択の種類は多岐にわたり、労働経済学でカバーする、多くの最適決定が私たちの人生に関わっている。そんな労働経済学を学ぶ魅力について横山准教授に話を伺った。

「労働経済学はミクロ経済学に属し、中でも労働に関する諸問題に焦点を当てています。その意味では、学生にとっても比較的身近な経済学といえ、就職活動が近づくほど学生も自分事としてとらえるようになっていく傾向があります。働き手と企業の両面から合理的な行動について考察し、伝統的な教科書の輪読を通して、理論的に最適解を導き出す過程をまずは勉強します。その後で、学んだ理論を基に、どのような実証研究が可能かを考え、分析後の実証研究の結果も、理論的側面から解釈できるようになることを目指した教育をゼミでは行っています。」

卒業後、大学院に進まなくても、学んだことを活かせる場面はビジネスに限られず、応用できるシーンが幅広いことも、労働経済学の特徴の一つと横山准教授は続ける。

「たとえば、余暇に使う時間、ワークライフバランスの決定や、時間外労働にどれだけ時間を割くべきか。ある選択をすることで得られなくなる経済的価値を示す機会費用を考えると、育児休暇をどれほどの期間取得するべきなのか。他にも、家族設計の決定や、自分の家庭に合った子供の最適人数を算出することも可能です。つまり、人生の満足度を最大化するヒントが多くしきつめられているとも考えられるのが労働経済学であり、人生におけるほとんどすべての重要な決定に、ゼミで学んだことを活かすことができるといっても過言ではありません。」

理論を政策に落とし込み、
学んだ手応えを掴むゼミナール

秋冬学期は、コロナ禍の影響もあり、学生は対面またはオンラインで授業に参加していた。ゼミナールはテキストの輪読を中心に進められる。使用されるのは、米国で最もポピュラーな労働経済学の専門書『Labor Economics』(George J. Borjas 著)。まずは理論をしっかりと学習し、労働経済学を自分の言葉で語れるレベルを目指す。そのうえで、データの実証研究を行う際に用いる統計解析ソフトの活用法なども習得し、各自が自由に設定した研究テーマで取り組む4年次の卒業論文作成に活かしていく。

2020年度、横山ゼミには学部生7人のほか、IPP(一橋大学国際・公共政策大学院)の院生4人も参加している。学部3年は、秋学期に、IPPの院生とペアを組んで論文や教科書の報告に取り組むことにより、学んだ理論を政策に落とし込む思考回路が養われていく。横山准教授に指導で心掛けていることを尋ねてみた。

「数学的な理論モデルや、計量経済学を主に習得したい学生がいる一方で、ゼミに入ってきた時点では経済学を学ぶ目的や将来像が明確になっていない学生もいます。そこで、政策提言を常日頃からよく考えているIPPの学生にも学部ゼミに参加して頂き、お互いに足りない側面を補完し合ってもらっています。また、何かの理論を教える際には、必ず、政策提言につながるような具体的事例の紹介も行い、抽象化レベルを下げた話も盛り込むことで、実感としてイメージしやすく、記憶に残るようなゼミナールの開講を意識しています。そして、そのような具体的なトピックを盛り込むことで、学生間の活発なdiscussionを促しています。」

横山准教授は一橋大学大学院経済学研究科の修了生であり、いつも念頭に置いているのは学生の目線である。当時の実体験を踏まえ、求められている知識やスキルの習得に力を貸したいと話す熱量の大きさが印象的だった。

Student's Voice

決め手は"働く"という身近なテーマの経済学だったこと

田中朝陽さんの写真

田中朝陽さん

経済学部3年

ゼミを選ぶにあたって決め手になったのは、自分事としてとらえやすい経済学だと思ったからです。賃金格差の問題や、働くことによる消費や余暇への影響といったトピックを扱うので、漠然としていた経済学の理論が社会の実態とつながりやすく、面白さを実感できる学問だと思います。また、実証研究ではさまざまなデータを扱いますが、Stataに代表される統計解析ソフトの活用法を習得できることも横山ゼミの魅力だと思います。先生による解説が分かりやすいので理解も進みます。(談)

数学が得意な人にも勧めたい経済学のゼミナールです

河原岳大さんの写真

河原岳大さん

経済学部3年

数学的な理論モデルを駆使して最適解を導き出していく。そんな労働経済学の側面に惹かれたことも横山ゼミを選んだ理由です。ゼミナールには理解が追いつかない時でも質問しやすいムードが漂っており、横山先生の親身な指導のおかげで着実にレベルアップできています。労働に関する諸問題については、就職活動を前にしていっそう考えるようになりました。労働市場がどのように成り立っているのか、企業側と労働者側の両方の視点から理解できたことは大きな収穫です。(談)

労働経済学は、アルバイトにおいても実感できる学問です

犬飼未来さんの写真

犬飼未来さん

経済学部3年

入学後アルバイト先で協働する方々との交流が広がり、働くという行為が生活の根幹にあると気づいたことが、労働経済学に関心を持ったきっかけです。経済学は実生活の中で感じにくいものですが、労働経済学は身近なトピックの実態が数字となって表れるので実感しやすいと思います。1・2年次に学んだ経済学の基本的な理論も、ゼミナールで学ぶことで腑に落ちるようになりました。卒業論文では、労働に対するコロナ禍の影響などを研究テーマにしたいと考えています。(談)

"経済学=生活に根付いた学問"であると考えが変わりました

竹田奈央さんの写真

竹田奈央さん

IPP(一橋大学国際・公共政策大学院)1年

学部時代は人間科学を専攻し、IPP進学後も一貫して「ブラジルの学校給食制度と家族農業の連携」について研究しています。質的な考察を続ける一方で、量的な視座の必要性を感じたことが、計量経済学の専門である横山先生のゼミナールを選んだ理由です。経済学は一つの学問分野としか捉えていませんでしたが、労働経済学を学んだことで生活に根付いたものであると考えが変わりました。客観的なデータから、物事の変化や相関を掴めるところに学ぶ魅力を感じています。(談)

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