経済学部 計量経済学/山本庸平ゼミ

(『HQ』2016年春号より)

山本庸平准教授

山本庸平准教授

"人々の営み"や"ゆたかな世界"をデータから読み解く経済学

ひと口に経済学といっても、研究対象にする経済現象によってその分野は多岐にわたる。大別すると、ミクロ経済学やマクロ経済学は"理論"、国際経済学や公共経済学などは"応用"の分野といえるだろう。それでは、今回クローズアップする計量経済学はどんな分野にあたるのか。ひと言でいえば"実証"だ。統計学の手法を用いてデータを分析し、理論によってつくり出された経済モデルの妥当性を検証する経済学である。ただ、誤解しないでほしい。山本ゼミで磨かれていくのは、経済アナリストに求められる高度な専門性ばかりではない。むしろ目標は、"ビジネスリーダーに求められるバランス感"の修得にある。

目標は、あらゆる事象を"多面的に分析して判断する"能力

山本准教授の授業の様子

そんな特徴を持つだけに、学生がこのゼミを志望する背景もバラエティーに富んでいる。ゼミ生は現在16人。経営コンサルティングに興味を持つ学生もいれば、研究者を目指している留学生もいる。ただ共通していえるのは、計量経済学を通じてあらゆる事象を"多面的に分析して判断する"能力を磨いているということだ。山本准教授に、指導にあたって重視していることを尋ねてみた。
「極めて数学的な分野だと思うかもしれませんが、計量経済学は"人々の営み"の実態を把握する学問でもあります。ゼミでは学生にさまざまなデータを分析してもらいますが、まずはその取り組みが"楽しい"と思えるゼミにしようと心掛けています。経済の状況を示す膨大なデータから、とてもシンプルで貴重な答えが見えてくる。そこに醍醐味があり、ゆたかな世界が広がっていることを感じてもらいたいからです」
計量経済学は、専門書を読んだだけでは理解できない。分析手法だけを身につけても意味がない。そんな山本准教授の考えは、ゼミの進め方にも色濃く反映されている。

ゼミの授業風景1

ゼミの授業風景2

統計学の手法でデータを分析し、経済モデルの妥当性を多角的に検証

"多角的な検証"の重要性を、データを活用&解釈することで実感

分析にあたって学生には、山本准教授から課題としてデータが与えられる。実社会が抱える経済問題を示すものから、生活者の身近な問題に触れるものまでさまざまだ。その事例はコラムでも紹介するが、大事なことは単純に結論づけないこと。"多角的な検証"だという。データは、扱う本人の解釈によって諸刃の剣になる。そのことを実感してもらうためにも、山本准教授にはこだわるポイントがある。
「与えられたデータを言われた通りに分析するのではなく、学生が自ら"手を加える"ことです。どのように分析し、どう解釈するか。そのプロセスが、卒業後に役立つスキルに変わるからです。一方でデータは、思うがままに加工できる危うさも持っています。たとえばビジネスの舞台で、合意を得るために都合の良いデータだけを編集すれば、相手を誤った方向へ誘導しかねません」

"英語"で取り組むことで、経済学の最先端にいち早く触れられる

山本ゼミには、もう一つ見逃せないポイントがある。"英語"で計量経済学に取り組むことだ。
「もともと経済学は英語圏で発展していった学問ですから、英語で記述されたものが最も正確に内容を表しているといえます。つまり、日本語に変換するのは非効率的で、慣れてくれば英語のほうが早く理解できることに気づくでしょう。教科書や課題も基本は英文です。世界中で同世代の学生が学んでいる最先端の経済学に、いち早く触れられる。そんな環境をつくるためにも英語を基本言語にしたわけです」
山本ゼミには留学生も在籍し、また、卒業後に海外で学位を取得することを希望する学生もいる。ビッグデータ社会の到来が叫ばれている中で、日本はもちろん世界を舞台に活躍したい、そんな志を持つ学生のニーズを満たす条件が、この計量経済学ゼミには揃っている。

データ分析事例

『インフレ率─経済成長率』『気温変動─電力需要』『マンション価格─専有面積』など、データの背景にある因果関係を分析する課題が与えられ、自分なりの解釈で実態を解き明かしていく。多角的な検証が重要になるが、その事例を挙げてみよう。たとえば、実際にアメリカで分析された『ビール税─交通事故率』の因果関係だ。「ビールにかける税金を上げる→飲酒運転が減る→交通事故率が低下した」ということを示すデータがあったとする。しかし、交通事故が減ったのは、増えた州の税収によって取り締まるにあたり警察官の雇用を増やしたことが要因となった可能性もある。このように、経済現象はさまざまな要因が複雑に絡み合って起きているため、簡単には結論づけられない。また、鵜のみにできないデータも当然ある。その一つが『金の相場価格』で、世の中の不確実性が高まるほど、その価格は上昇するというのが一般的。しかし、世の中の不確実性が高い時期でも、金を購入する人が減少すれば価格は下落する。つまり、金は長い目で見れば安定資産だが、時期によっては不安定資産にもなる。データというのは平均化されるので、価格を刻々と変動させている背景までは表れない。それが分析や解釈の難しさであり、計量経済学の醍醐味ともいえるだろう。

英語で書かれた経済学の本

ゼミ集合写真

経済学は、慣れると日本語より英語のほうが効率的に理解できる

Student's Voice

世間の声に惑わされず、実態を把握できる力が身につきます

遠山智大さん

遠山智大さん

経済学部3年

もともと数学は得意科目ではありませんでした。このゼミを志望したのは、データがつくり上げる世界に触れられると思ったからです。分析に取り組んでみて、データが語ろうとしていることが分かるようになり、たとえば"景気は上向きでも実質賃金は下がっている"といった実態を把握できるようになりました。さまざまな分析手法を学んだことで、思考力や視野が広がったことも収穫ですね。優秀なゼミ仲間から刺激を受けてモチベーションも上がりました。身につけたスキルは、卒業後の目標でもある経営コンサルティングに活かすつもりです。(談)

経済学は高度になるほど英語で学んだほうが効率的。そう実感できるはずです

パオプラユーン・ピーラビチさん

パオプラユーン・ピーラビチさん

経済学部3年

私の母国タイは発展途上にあることから、経済学に強い関心がありました。それをアジアの大国である日本で学びたかったことが、一橋大学に留学したきっかけです。山本ゼミを志望したのは、研究者を目指していることもあり、経済学の最先端に立つ先生の元で学びたかったからです。英語で学べることも決め手の一つでした。経済学は高度になればなるほど英語のほうが理解も早い。これは、日本の学生でも同じだと思います。ゼミ活動を通じて、データや数式を言葉で説明できる力や、難解なものを分かりやすく伝える力が身についたと実感しています。(談)

さまざまな事象や理論を、数字で解き明かす面白さに目覚めました

萩尾 亘さん

萩尾 亘さん

経済学部3年(ルーヴェン・カトリック大学に留学中)

留学に興味を持ったのは、高校3年生の時です。それ以来、入学後も授業科目の中から英語で行われている授業などを積極的に履修し、長期留学を視野に入れて準備を進めてきました。計量経済学を専門に選んだのは、経済学の抽象的な理論を数字で解き明かすというアプローチに興味が湧いたからです。現在は、留学先で帰国後に備え、意識的に大学院レベルの授業も履修しています。一橋大学に復学した後は、滞在中に学んだことを基に、5年で修士の学位が取得できる一貫プログラムにチャレンジしたいと思っています。(談)

ABOUT

一橋大学について