商学部 コーポレート・ファイナンス/中野 誠ゼミ
2025年3月28日 掲載
中野 誠 教授
会計学・経営学・金融論の知識を駆使して
財務のプロに求められる実践力を磨く
コーポレート・ファイナンス(企業財務)とは、企業経営を"おカネ"の視点から考える学問であり、その目的は、企業価値(企業が生み出すことのできるキャッシュフロー全体)を最大化することにある。
企業が価値を創造するためには、さまざまな意思決定が必要になる。どんな事業が社会的価値・経済的価値を生み出すか(事業投資の意思決定)、事業を行うための資金をいかにして調達するか(資金調達の意思決定)、資金提供者にどうやって報いるか(株主還元の意思決定)。これらについてCFO(Chief Financial Officer/最高財務責任者)の視点で考察し、財務のプロとして活躍するための理論や実践力の修得に取り組むのが、コーポレート・ファイナンスについて学ぶ中野ゼミである。
中野ゼミは商学部の後期ゼミ(3・4年次)として開講されている。所属する学生は3年生15人と4年生12人(2024年度)。会計、経営、金融の全方位に関心を持ち、ハイレベルな学び合いを求める意欲的な学生が集う。
ゼミナールの内外で用意される
"天井のない成長の機会"
ゼミナールの概要を紹介すると、3年次の序盤に取り組むのは理論の学修である。学生を指導する中野誠教授の著書『戦略的コーポレート・ファイナンス』(日経文庫)の輪読を行い、理解を深めた後は実在する企業の財務活動に関するケーススタディやデータ分析にグループ単位で取り組む。さらに、HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)の英文によるケースを取り上げ、海外におけるM&A事案などについて考察する。英語の読解力が求められるものの、戸惑う学生はいない。商学部では前期ゼミ(2年次)において、英語の文献からも専門知識を学ぶための基本的な能力を身につけるからである。
中野教授は、学生同士の交流も大切にしている。毎年実施される1泊2日のゼミ合宿では、3年生がグループワークの成果を発表し、4年生は卒業論文の中間報告を行うなど、学年を超えて学び合う。また、学修の成果を試す"対外試合"として随時開催されているのが、インカレ・ゼミ(慶應義塾大学、早稲田大学などと実施)である。他大学の学生と特定企業の価値評価や研究報告などを行い、自身の知識レベルや実力を知る機会にもなっている。
一方で、企業価値創造に向けた企業のリアルな取組や最新の潮流を、経営者から直接学ぶ機会も用意されている。中野教授が社外取締役を務める東証プライム上場企業のCEOを招いた「アバントグループ寄附講義・企業価値経営論」である。事業価値評価・向上、投資家との対話、M&Aなどに焦点を当て、企業が備えておくべき要件や役割を深く考察する。ほかにも、世界的な債券格付会社にてデータ分析などの補助業務に携わるインターンシップを希望者に紹介するなど、ゼミナール外での学修支援も少なくない。中野教授に指導方針を尋ねた。
「学生は非常に優秀です。私が行うべきことは"天井のない成長の機会"を用意すること。秘めた能力を明るいムードの中でストレッチできる環境づくりに重きを置いています」
企業分析や投資判断のスキルを
"グローバルな舞台"で競う
中野ゼミの活動の中で特色といえるのが、各企業が最大化を目指す企業価値の評価・分析に取り組むことである。企業価値を測ることは、コーポレート・ファイナンスと資本市場の関係性を学ぶことでもあり、会計学・経営学・金融論の知識を駆使する必要がある。取組の狙いを中野教授に伺った。
「このゼミには、理論を学修するだけではなく、知識を実践力に変換したい学生が集まっています。実践力を高めるためにはアウトプットの機会が必要です。企業価値の評価・分析を実践し、その観点や手法を身につけることは、財務のプロとして社会に出る学生にとって有効だと考えています。一方で、証券会社投資の銀行部門などで活躍する金融専門家は、実践で培った経験則は豊富に持つものの、根拠となる理論を十分理解できていないこともあります。そうした意味でも、理論と実践の両面から研鑽を重ねてほしいと思っています。取組の成果として、即戦力として期待される人材を数多く輩出できていることを誇らしく感じています」
ゼミでの取組の集大成として挑むのは、"グローバルな舞台"である。それは企業分析や投資判断のスキルを競う国内唯一の金融世界大会『CFA協会リサーチ・チャレンジ』であり、2024年度の大会では世界の1,100以上の大学から6,700人を超える大学生・大学院生がエントリーした。数名からなるチーム単位で参加し、日本からの参加者は、日本大会、アジア太平洋大会、世界へと続く大会を勝ち抜いていく。
日本大会では、全参加チームが同一の対象企業を分析し、投資推奨をまとめた英文調査レポートを書き上げる。株式投資のプロなど、第一線で活躍する金融専門家から指導を受けられるという点でも参加するメリットは大きい。一次審査を通過したチームは最終審査会に進み、英語によるプレゼンテーションと質疑応答を行う。過去には、中野ゼミが優勝した経験もある。
自ら問いを立てて答えを導き出す能力を
切磋琢磨しながら磨いていく
4年次は卒業論文の作成に取り組む。会計・経営・金融に関する研究で、財務・会計データやケースを用いる論文であれば、テーマは自由とされている。個々の興味関心が出発点となるため、過去のテーマを見ると実に多彩であり、コーポレート・ファイナンスという学問が対象とする事象の幅広さがわかる。中野教授の"ゼミは相互に成長を支え合う温かい場である"という考えは、論文作成の過程においても変わらない。毎週、各自が途中報告を行い、全員で議論や指摘し合いながら価値の高い論文へと昇華させていく。2年間のゼミナールを通して、学生はどんな能力や資質を身につけるのだろうか。
「データ分析力や論理的思考力に加えて養ってほしいのが、発想力やセンスです。特に企業価値を評価・分析する際は、ある事象をどのように捉えるかという視点が重要であり、斬新さやインパクトも調査レポートには求められます。正解がなく、自ら問いを立てて答えを導き出すという意味では、汎用性の高い能力が身につくこともコーポレート・ファイナンスを学ぶ魅力といえます」
卒業生は、証券アナリストやファンドマネジャー、企業財務の担当者、日本銀行、戦略コンサルタント、商社など、幅広い業界・職域で活躍しているという。また、MBA(経営学修士)取得や研究者を目指して大学院に進学する学生も多く、公認会計士資格の現役合格者も輩出している。中野ゼミは、アカデミックな学び場でありながら、学びがキャリアに直結するビジネススクールのような性質を持つ。
各学生チームは、昨年度大会に続いて一次審査を突破し、最終審査会に向けて英語のプレゼンテーションのリハーサルを行なっていた。教室はシナリオやレポートをブラッシュアップするための意見交換で熱気を帯びていた。
Student's Voice
企業価値分析の醍醐味は、
答えが一つではないところにある
浅井 凌太さん
商学部3年
2年次の前期ゼミナールから中野先生のもとで学んでいます。コーポレート・ファイナンスに興味を持ったのは、商学部の学問領域である会計学、経営学、金融論の知識を融合させて分析する点に惹かれたからです。3年次の後期ゼミナールで印象に残っているのは、HBSで紹介されている英文のケースです。グループワークでは実際のM&A事例をもとに、「買収時の価格は適切か」「自分なら買収するか」などをテーマに英語で議論することで、企業経営を財務的な視点で考察する力が身につきました。また、『CFA協会リサーチ・チャレンジ』に参加したことで、企業価値を分析する醍醐味を味わいました。それは、答えが一つではないということです。企業のケースでも、アナリストがどう切り取るかによって価値は変わります。だからこそ新たな分析視点を持つことが不可欠になります。中野ゼミの学生は大学院への進学希望者も少なくありません。私も商学部の「学部・修士5年一貫教育プログラム」に進学して、MBAの取得を目指します。
財務のプロを目指す人が集い、
切磋琢磨できるコミュニティ
田中 基豊さん
商学部3年
1年次から金融について重点的に学び、興味を持ったのがアセットプライシング(資産価格の算定)でした。企業に焦点を当て、価値の算定に取り組めることが中野ゼミを選んだ理由です。コーポレート・ファイナンスという学問の魅力は、理論がそのまま実践で活きる点にあると思います。理論の理解度と実践力を試す『CFA協会リサーチ・チャレンジ』では、完成度の高いアナリストレポートを作成することができました。楽しかった活動の一つが、他大学との交流です。インカレ・ゼミでは、慶應義塾大学の学生と研究報告や特定企業の価値評価を行い、刺激を受けながらスキルを高め合う貴重な時間になりました。また、ゼミ合宿では4年生と学び合い、金融業界などで活躍する卒業生の先輩方と交流することもできます。成長できる環境が整い、財務のプロを目指す人が集うコミュニティである点に、中野ゼミの魅力を感じています。卒業後の目標は、証券会社の投資銀行部門に就職し、M&A事案などで手腕を発揮することです。
コーポレート・ファイナンスの知識を、
途上国での社会貢献につなげたい
志村 明音さん
商学部3年
社会に貢献できる人材になるための手段を探りたいと思い、当初は社会学部に入学しました。学びを深める中で、金融や経済の知識を軸に置き、企業活動における発展と社会貢献の両立に寄与したいと考えるようになりました。そこで3年次から商学部に転籍し、中野ゼミを志望しました。コーポレート・ファイナンスについて学べる点に加えて、決め手になったのは中野先生の活動方針です。中野ゼミでは意欲的で優秀な学生同士が交流し、支え合って成長することを大切にしています。ゼミの明るいムードにも惹かれました。テキストを輪読して理論を学び、グループでフレームワークやケーススタディに取り組むなど、基礎を固めながら成長を重ねていける点も自分に合っていました。将来の目標は、途上国への融資の仕組みを整備し、経済発展に貢献することです。その第一歩として大事なことは、現地の状況を自分の目で確かめることだと考えています。そこで春休み期間を利用してタンザニアに渡り、マイクロファイナンス*を扱う金融機関でインターンシップに参加する予定です。
* マイクロファイナンス:貧困層や低所得者層の貧困緩和を目的とした、小規模の貸し付け・貯蓄・保険・送金などの金融サービス
過去の卒業論文テーマ
- M&A戦略と企業価値
- ESG投資
- 配当政策・自社株取得
- 内部統制
- R&D投資
- ファミリービジネス
- 現金保有
- 環境経営
- IT投資
- 利益の質
- 証券化
- ディスクロージャー
- CVC投資
- 投資戦略
- 多角化戦略の評価
- 資本構成
- 株主構成
- クリエイティブ産業
- デザインの価値評価
- 広告と株価
- IPO
- スタートアップ企業の評価 他