商学部 マーケティング・リサーチ特論
『HQ2023』より
田頭拓己准教授
マーケティングに関する関心事を検証可能な問題に落とし込み、
分析結果を正しく解釈する
商品サービスの開発や消費者行動に関心があれば、大学で専攻したい学問としてマーケティングを挙げる人も多いだろう。その専門知識や理論を、ビジネスシーンで活用できるものとして発展させる方法を学ぶのがマーケティング・リサーチ特論である。
この講義では、マーケティング施策を設計する上で参考となりうる市場や顧客に関する調査・分析について学ぶ。その中でも特に、研究プロジェクトの管理における、実務的問題、研究課題、仮説、分析手法間の一貫性の維持と、統計的分析手法の適切な解釈に焦点を合わせ、講義が構成されている。
問いの立て方に表れる
マーケティング・リサーチの真髄
マーケティング・リサーチ特論は、基本的なマーケティング枠組みや基礎的な統計学の知識を有する学生を対象に開講されている。履修対象者は3・4年次の学部生のほか、大学院経営管理研究科MBA(経営学修士)コースの在籍者や研究者を目指す院生にも門戸を開いている。
授業の内容は、定量的なマーケティング・リサーチでよく用いられる分析手法を学ぶ講義のほか、調査分析手法を適切に設計できるようになることを目的とした演習、クラス内ディスカッション、分析実習、グループプレゼンテーションなどで構成されている。統計分析フリーソフトRを用いて定量的な分析を行うことも特色の一つである。
指導を行う田頭准教授に授業の特長について話を聞いた。「本講義で特に強調しているのは、マーケティング・リサーチに関する問いを立てることの難しさと重要性です。多くのマーケティングに興味を持つ学生は、実務的な問題を解決するための手段やアイデアといった実務的な問題意識を扱うことに慣れている傾向があります。対してマーケティング・リサーチでは、企業の取組と消費者の知覚や行動との間にどのような関係があるかを調査、分析します。つまり、マーケティング・リサーチでは"どうすれば問題を解決できるか"ではなく、"問題を正しく理解するためには、どんな問いに答えるべきか"という研究課題を考えることが求められます。学生が持っている"実務的な問題意識をどのように研究課題に変換するか"という問題設定についても力を入れて議論していることが、本講義の特色です」
発想力やアイデアには、
あえてフォーカスしない
実務的な問題に対して、客観的に検証可能な問いを立てる。そして、立てた問いをどうすれば検証できるかを考察する。そうした一連のプロセスを講義内の課題やデータ分析演習を通じて体験できる点に、この授業の魅力がある。特に演習用データを用いた分析レポート課題では、学生自身で立てた仮説をもとに分析モデルを構築し分析作業を実施する。そして得た結果をもとに適切な解釈を議論し、レポートとしてまとめる。「課題レポートでは、目的や仮説、分析手法や分析結果を簡潔にまとめることが求められます。そのうえで一貫したロジックで矛盾のないレポートを書けるようになることが目標です。発想力やユニークな視点は本講義における評価基準には含めていません。重視しているのは、分析手法に対する正しい理解や、自身が論じている内容(実務的問題、研究課題、仮説、分析手法、結果、結論)の一貫性です。面白さやユニークさはこれらの先に求めるものだと考えています」
非常にハイレベルな授業だが、身の回りで起きている消費者行動を検証可能な問題に落とし込み、可視化や言語化に取り組める面白さは格別といえるだろう。
Student's Voice
この授業で学んだ分析手法を
大学院の研究で活かしたい
川端俊也さん
経営管理研究科
研究者養成コース1年
私は現在、企業の研究開発活動に寄与するイノベーション研究に取り組んでいます。この授業を履修したのは、マーケティング・リサーチの分析手法を修得し、研究に活かしたいと思ったからです。中でも私が求めていたのは、マーケティング施策を評価できる分析手法でした。重要な顧客層を特定するRFM分析や、顧客層を細分化して特徴を把握するクラスター分析などは、この授業でしか学べません。学部生と大学院生がグループワークを通して学び合えることもメリットだと思います。協働しながら課題に取り組むことは、知識の定着に役立っています。高校では情報が必修科目になりましたが、学んだ知識が社会でどう役立つのかを学べるのがマーケティング・リサーチ特論といえます。膨大なデータをもとに、ソフトを使った分析によって数々の発見を得られる。経験則や感覚値ではなく、根拠に基づいて分析結果を語れるようになる。そうした魅力が授業に詰まっています。
立証したい仮説に近づくための道筋に
迷いがなくなりました
江﨑玲奈さん
商学部4年
この授業を履修したのは、統計分析フリーソフトRを用いた分析手法を学びたい、マーケティング戦略の立案方法を学びたいと思ったからです。きっかけは、3年次に海外派遣留学制度を利用してオランダの大学に留学したことでした。マーケット調査やコンピュータサイエンスに関する理論を学びましたが、こうした知見をマーケティング戦略の立案に活用できるのか疑問を残したまま帰国しました。この授業を履修したことで、どのような調査分析を行うべきか、アプローチの仕方を理解することができました。事業者や商品サービス提供者の目線で、消費者データを効果的に扱う方法を学べるのが、授業の魅力です。現在はSNSでハッシュタグ検索をする消費者の行動を研究テーマとして卒業論文の作成に取り組んでいます。この授業で学んだ分析手法の適切な選び方や、分析結果の正しい解釈の仕方を活用し、より説得力のある卒業論文を作成したいと思います。
授業の内容
- イントロダクション:コース概要、マーケティング・消費者行動復習
- マーケティング・リサーチ外観とRについての導入
- データタイプ、リサーチデザインとリサーチ目的の設定
- データ分析導入(顧客関係管理入門):データハンドリングと記述統計
- 変数間の関係のチェックと統計的検定
- 回帰分析1:成果の予測と線形モデル
- 回帰分析2:重回帰モデルと回帰分析における留意点
- 探索的定量分析1:セグメントの視覚化とクラスター分析
- 探索的定量分析2:消費者の知覚の整理と因子分析
- マーケティングツールのための調査・分析法:知覚マップと価格感応度測定
- リサーチデザイン(復習)とアンケート設計
- まとめ、グループワーク
- グループプレゼンテーション