商学部 コーポレート・ファイナンス/安田行宏ゼミ

『HQ2022』より

安田行宏教授の写真

安田行宏教授

金融という文脈から企業活動を考察し、
経済問題の分析を通じて"考え抜く力"を養う

一橋大学の商学部には、大きく分けて、経営学、会計学、マーケティング、金融論という4つの学問領域がある。その中で金融に属し、安田ゼミの主な研究分野となっているのがコーポレート・ファイナンスである。コーポレート・ファイナンスとは、主として企業価値の最大化を目的に、資金の調達や運用、投資をはじめとする企業の財務活動について研究する分野を指す。

その実態を分析する観点は、マネーフローの変化、投資家への利益還元、財務情報の開示、金融業界の動向など多岐にわたる。それだけに研究テーマも広範囲で、安田ゼミの学生も個々の関心事からテーマを設定して分析に取り組み、卒業論文の完成を目指している。企業活動全般を金融の視点から考察するゼミナールの魅力に迫った。

企業財務に留まらない汎用性の高さこそ、
コーポレート・ファイナンスを学ぶ魅力

ゼミ中の写真

全学年に採り入れられた商学部のゼミナール制度において、安田ゼミは専門性を磨く場として開講される3・4年次の後期ゼミにあたる。金融システム、銀行規制、中小企業金融などを研究分野とする安田教授のゼミだけに、金融業界を志望する学生が集うという印象を持ったが、それは早合点だった。あらゆる業界や分野に応用できる体系的な理論を修得したい学生や、数理的な分析が好きという動機から志願する学生もゼミには所属しているという。コーポレート・ファイナンスを学ぶ魅力について安田教授に話を伺った。

「ゼミでは企業に関わることすべてを金融という側面から考察していきます。お金が関わらない経済活動は存在しませんし、利益を出さなければ持続的成長は望めず、リスクとリターンの最適なバランスを常に考えて判断する必要があります。その際に活きる理論や分析の視点を修得できるのがコーポレート・ファイナンスを学ぶ魅力であり、その分析手法は金融にかかわらず非常に汎用性の高い知識とスキルであると考えています」

商品サービスの提供や労働力の確保など、経済活動を行うにはあらゆる面で費用が発生する。なかでも忘れられがちなのが、現金を保有するだけでも資本コストがかかるという事実であり、「カネ」に対するコスト意識を持つことが非常に大切であると安田教授は力説する。

外部コンテストへの参加を通じて
習得した理論を分析力に変える

ゼミ活動で始めに行うのは、ファイナンスに関する基礎理論の修得である。第一段階として世界的に定評のある文献や専門書を中心に英語で学び、輪読や議論を通じて理解を深めていく。その後に基本概念を用いて実際に経済問題の分析に取り組んでいく。卒業論文の作成を念頭に置いた分析のテーマは、学生自身で決めるのが安田教授の方針である。

「ファイナンスの問題のみならず、日本経済全般について理解を深めることを視野に入れてテーマを選択してもらいます。ミクロ経済学やマクロ経済学という近代の経済学の基本的な考え方を自分のものにし、それをプラットホームとして独自の視点を養ってもらいたいと考えています」

学んだ理論や経済問題の分析手法の有効性を検証するためには、実践の場が有効である。そこで安田教授は、外部で開催されるコンテストへの積極的な参加を学生に推奨している。たとえば、仮想の500万円を元手にバーチャル株式投資を行う「日経STOCKリーグ」や、日本銀行が主催する金融・経済分野の小論文・プレゼンテーションコンテスト「日銀グランプリ」がそれにあたる。少人数でチームを組み、企業の財務データ調査をはじめさまざまな検証のプロセスを通じて、統計分析ソフトの活用法やプログラミングのスキル、そして経済問題を分析する独自の視点を養っていく。

学生はこのようなゼミ活動を積み重ね、集大成となる卒業論文の完成度を上げていく。最後に、安田教授が学生に期待する成長について尋ねてみた。

「金融という文脈の中で、より多くの視点から企業を考察しながら身につけてほしいのは考え抜く力です。正解の見えない経済問題に対し、理論に裏付けされた根拠をもって説明できる人材に育ってほしいと願っています」

Student's Voice

金融に限らず、現実世界は
理論に裏付けられていると、
ゼミ活動を通じて実感しました

藤村奎吾さんの写真

藤村奎吾さん

商学部4年

私は高校時代に理系から文系に転じ、入学後は社会で幅広く役立つ実学として金融を学修したいと考えていました。安田ゼミを志望するきっかけになったのは、1年次に安田先生の授業「ビジネス・エコノミクス入門」を履修し、企業を取り巻く市場環境を理解する上でミクロ経済学の有用性を知ったからです。その理論が金融について理解を深める際のベースになると考え、3年次からの後期ゼミでも先生のもとで研鑽を積みたいと考えました。現在は卒業論文の作成に向けて研究を進めており、設定したテーマは「企業の"現金保有量"と融資における"コミットメントライン※"」です。それらの関係性はコロナ禍によってどのように変化したのか。銀行は現金を保有していない企業とその融資契約を結ぶ傾向にあるという仮説を立て、検証や分析を行っています。その際に重要になるのが、統計分析ソフトの活用です。必要になる知識やプログラミングのスキルを修得できることも安田ゼミの魅力だと思います。

※コミットメントライン:企業側の請求に基づいて、銀行側があらかじめ設定した期間・融資枠の範囲内で融資の実行を約束する契約形態のこと

文系領域の学問ですが、
数学のスキルが活きると
実感できるゼミです

宗安平資さんの写真

宗安平資さん

商学部4年

金融という経済活動は可視化が難しく、実感が湧きにくい。理解が難しいからこそ、学んでみたいと考え、安田ゼミを志望しました。学んだ理論を活かす場として例年エントリーしている「日経STOCKリーグ」に参加し、バーチャル株式投資に挑戦したことで金融に対する理解が進みました。仮想の500万円という元手を20社に投資をする際、背景にある根拠を分析結果とともにレポートにまとめ、その妥当性が評価されます。私たちのチームは、従業員の働くモチベーションを指標に設定し、それが高いほど株価が上がるという見立てで投資を行いました。結果は、約800のエントリーがあった中でベスト30に入り、自分の視点に自信を持つことができました。金融という文系領域の学問ほど、データ分析やプログラミングといった理系領域のスキルが活きる。そんな安田先生の教えを社会でも実践していくつもりです。

研究テーマ一覧

  1. 日本企業の現金保有とコミットメントライン
  2. 経営者の在職期間とクロスボーダーM&Aのパフォーマンス
  3. 銀行の生産性が融資先企業の株価に与える影響
  4. 銀行の合併が企業に与える影響
  5. 女性役員が企業の業績に与える影響ー傾向スコアマッチング法を用いた分析-
  6. メディアのイベント発生時における株価への影響
  7. 日本企業における配当政策の決定要因
  8. 実効税率が企業の設備投資に与える影響の国際比較