商学部 マーケティング・消費者行動論/上原渉ゼミ
『HQ2021』より
上原渉准教授
購買行動のデータから企業価値を創造
消費者目線のマーケティングを習得する
マーケティング領域の研究分野である「消費者行動論」。分かりやすく言えば、私たち消費者がどのような影響やプロセスを経てモノを購入しているかを明らかにすることである。
購買行動には、感情や嗜好、習慣やライフスタイル、社会のトレンドや変化など、さまざまな要因が絡む。
さらに、インターネットやSNSの発達などによって消費行動が多様になり、消費者に商品サービスを提供する企業にとってはデータの活用や分析も重要な課題となっている。あらゆる業種が変革を迫られている転換期の中で、上原ゼミで研究しているのが消費者目線のマーケティングである。ゼミナールでは、マーケティングの理論に加えて新たなビジネスの可能性にも踏み込んだ議論が行われている。
マーケティングは
企業中心から消費者中心へ
マーケティングはこれまでも消費者の視点を重視してきたものの、それに基づいて企業が戦略的に販売する活動を指していた。いわば、売りたいモノを売り込むという企業中心の概念である。しかし、市場が飽和状態に近づき、今後は人口減少が進むことを踏まえると、もはや通用しない概念といえるだろう。では、消費者目線のマーケティングとはどのような概念なのか。学生の指導にあたる上原准教授に話を伺った。
「これからは消費者の購買時点だけではなく製品を実際に消費する時点に焦点を移して新たな価値創造にシフトしなければ、上手なマーケティングはできないでしょう。そこで重要になるのが、消費者目線のマーケティングです。調査においても、収集したデータを数値化して統計学的に分析する定量調査に加えて、インターネット上で消費者が発する言葉やコメント、投稿された画像や動画といった数値化できないデータの分析を目的とする調査が重要になります。なぜなら、消費者が製品やサービスを消費する時点の活動がそのまま可視化されているからです。SNSやIoTといった情報環境の変化によって、マーケティングの目標が変わるかもしれません。」
最新のマーケティング手法を学び、
研究活動に必要な視座を養う
コロナ禍の影響もあり、春夏学期は完全オンライン、秋冬学期はオンラインと対面のハイブリッドで行われた。
3年次の春夏学期は、マーケティング研究を進めていくうえで基礎となる知識や理論を習得していく。その際に使用されるのが、近年のマーケティング手法に触れる2冊の専門書である。『データ・ドリブン・マーケティング』(マーク・ジェフリー 著)からは、多種多様なデータが企業でどのように活用されているのかを学習。経営における意思決定や、売上やブランド価値の向上などに活かす、具体的な施策に触れる機会となる。そして、『The Organic Growth Playbook』(Bernard J. Jaworski and Robert S. Lurie 共著)から学ぶのは、既存のマーケティング・マネジメントに加え自社が持つ資産に目を向けることによって自律的成長発展を遂げるという考え方である。BtoC企業のケースだけでなく、精密機器メーカーのようなBtoB企業のケースも取り上げられている。
2冊の輪読を通して知識や理論を習得した後、秋冬学期からはグループに分かれてケーススタディが行われる。取材班が上原ゼミを訪れた日も、各グループによる発表や議論が行われていた。
さまざまな業態のトピックを取り上げ、
消費者目線のマーケティングを分析
たとえば、"デリバリー業界はアフターコロナ時代も繁栄し続けるのか"をテーマに発表したグループは、空前のデリバリーブームを背景に成長する国内市場に加え、比較対象としてアジア各国におけるデリバリー企業間の競争戦略や生活様式などについても調査。価格と文化の両面からアプローチする施策を打ち出すことで、今後も利用者の拡大は可能と結論づけていた。また、あるグループは"家庭用ゲーム機メーカーはゲームのオンライン化にどう対応するべきか"をテーマに掲げ、ゲームタイプ別にユーザーの行動特性を調査分析。ゲーム専用機とモバイルゲームの共存を想定し、サブスクリプションサービスの拡充や割引によるネットワーク効果などを解決策として挙げていた。
各グループの発表後は、ゼミ全体で活発な意見交換や議論が行われた。印象的だったのは、学生に対して投げかけられる上原准教授からの指摘である。各種データの読解き方や、浮かび上がる新たなビジネスの可能性など、マーケティングの研究者として培ってきた知見が注入される。そのやりとりこそ、上原ゼミの学生にとって貴重な学びといえるだろう。そして、各自で進められる4年次からの卒業論文の質を大きく高めるに違いない。
卒業論文テーマ例
- 自動車シェアリングビジネスの普及
- デザインの価値と製品戦略
- オフラインビジネスに参入するオンラインショップのオムニチャネル戦略
- パッケージ変更の成功要因
- 果物市場の低迷
- 消費者の行動変容を促すCSR
- エシカル消費とブランド・イメージの適合
Student's Voice
消費者起点でマーケティング戦略を考える力
佐原利周さん
商学部3年
上原ゼミを選んだのは、ここで学んだマーケティングが卒業後の武器になると思ったからです。消費者行動論は、今後の日本企業が新たな時代で躍進するためのヒントだと確信しました。
ケーススタディでは、コロナ禍の中で急速に成長したデリバリー業界に焦点をあてました。今後の利用拡大策を考案するため、インターネットやSNS上に溢れるコメントや海外での事例を収集し、自分自身も各社のサ-ビスを実際に利用してみました。活動を通して感じるのは、消費者起点でのマーケティング戦略を考察する癖が自然と身についたことです。1・2年次の学習は、比較的企業目線での理論が中心でしたので、その意味でも上原ゼミでの実践は非常に有意義な時間になっています。
消費者の心が動くような商品やサービスを、ロジックと感性をバランスよく用いて分析する習慣が身についたことは大きな収穫です。就職活動では "世の人々の心を動かしたい"を企業選びの軸に置き、自分のアイデアを発信するという形で、これを実現できる仕事に携わりたいと考えています。(談)
自分に置き換えて考えやすい点がマーケティングを学ぶ面白さ
北村愛さん
商学部3年
1・2年次の授業を通して、顧客と企業のミクロ的な接点についての理解を深めたいと思い、マーケティングや消費者行動を研究できる上原ゼミを選択しました。
2冊の専門書を使って行った輪読では、マーケティングに対する印象が大きく変わり、さまざまな気づきを得ることができました。『データ・ドリブン・マーケティング』を学んで実感したのは、消費者が求める商品やサービスを掘り下げていくうえでデータが重要な役割を果たしているということです。また、『The Organic Growth Playbook』では、フレームワークや4P分析※を通してターゲットを決定するという従来のマーケティング手法ではなく、自社の企業価値そのものに目を向ける手法があると知り、視野が大きく広がりました。
マーケティングの面白さは、自分に置き換えて考えやすい点にあると思います。そして、最新のトピックを扱い、市場のトレンドについて考察できることに上原ゼミの魅力を感じています。(談)
※4P分析:Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)の4つの視点を組み合わせて行う企業戦略を策定するための分析手法。