「心に火を灯す」人々と、多くの出会いがある大学
2025年10月2日 掲載
社会で活躍する一橋大学卒業生の今をレポートする「つなぐつなげる一橋」。卒業から数年を経た卒業生に、一橋を選んだ理由や大学での学び、現在のキャリアなどについて語っていただきます。
第五回のゲストスピーカーは、山本瑛久さん(2019年商学部卒、2025年シカゴ大学MBA取得)と、松井咲樹さん(2020年商学部卒、ソフトバンク株式会社勤務)です。コーディネーターは、瀬川こずえさん(2020年商学部卒、丸紅株式会社勤務)に務めていただきました。
瀬川 こずえ(せがわ・こずえ)
私立女子学院高等学校出身。2020年に商学部を卒業後、丸紅株式会社に入社。入社後4年間は営業経理部に配属され、海外電力事業に係る予決算業務の対応および会計税務面での営業部支援に携わった。2024年より、経営企画部にて国内事業の収益基盤の拡充支援・新規事業検討等に従事。
山本 瑛久(やまもと・てるひさ)
私立栄光学園高等学校出身。2019年に商学部を卒業後、グーグル合同会社に入社。デジタル広告を通じて企業を支援する広告営業職などを経験し、幅広い業種でのマーケティング戦略の立案・実行に携わる。2023年に同社を退社し、MBA取得のためシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスに2年間留学。
松井 咲樹(まつい・さき)
私立学習院女子高等科出身。2020年に商学部を卒業後、ソフトバンク株式会社に入社。国内企業に商材を提案する法人営業を経て、2024年より新規事業開発を手がけるアライアンス戦略本部に異動し、AI関連に注力した投資関連業務に従事。
実務に通じる知見を求めて
一橋大学の門を叩く
瀬川:まずは、お二人が一橋大学を選ばれた理由からお聞かせください。
山本:高校時代に文化祭の実行委員として、駅などにポスターを張ってもらったり、YouTubeやアメーバブログに投稿したり、といった集客活動をしていたのですが、とても面白い経験でした。その後、高校2年生の夏に行った一橋大学のオープンキャンパスで、商学部の「消費者行動論」の模擬授業に参加し、自分が経験した集客活動が、いわゆる広報・マーケティングにつながっていることだと知りました。こんな面白いジャンルがあるのか、と興味が湧き、そこから一橋大学の商学部を第一志望に考えるようになりました。
松井:私は大学付属の中高一貫校に通っていたのですが、当時所属していたバレーボール部の先輩が一度に3人も一橋大学に進学したことから、関心を持つようになりました。実際に見学に行ってみると、他大学と比べて規模が大きすぎず、少人数でアットホームな雰囲気に好感を持ちました。私は高校2年生までは理系に進学することを考えていましたが、得意な数学を活かせる文系学科を選ぶほうが将来的に有利ではないかと思い、さらに父の勧めもあって、実務に役立つことを学べそうな商学部を選びました。
瀬川:入学後はどのようなゼミに所属されていましたか?
山本:軽部
瀬川:密度の濃いゼミですね。どんな点が印象に残っていますか?
山本:学生が選ぶテーマの大半は、世の中ですでに表面化している問題にフォーカスしたものでしたが、軽部先生はその裏にある真の問題を突き詰める方で、ゼミでも「それは何の問題の一部なのか?」「どんな問題を解きたいのか?」と、ずっと問われ続けました。自分が選んだテーマが面白いかどうかを追求し続ける中で、「問題を自分で定義して解く」という、仕事の本質に通じる考え方を学ぶことができたと感じています。今思い返しても、それまでの頭の使い方とは全く違うため本当に大変でしたが(笑)、叱咤激励される環境の中で成長させてもらいました。今も当時のゼミの友人とよく会うのですが、苦楽をともにしたからこそ、結束が強まったと思います。
松井:私が所属していたのは、藤原雅俊先生の経営戦略のゼミです。授業内容は経営戦略の本を読み、会社の実例を調べたうえで財務諸表を読んでいくというものでした。山本さんのゼミとは違って(笑)、授業は和やかな雰囲気でしたが、その中で藤原先生がよくおっしゃっていたのが「実際の財務諸表や経営戦略から読み取る現実と、いわゆる本に書かれている経営戦略の理論、現実と理論の往復運動をしよう」ということで、それを念頭に置いて実践を積み重ねてきました。社会に出て、その「現実と理論の往復」が仕事に直結する学びだったと実感しており、改めてとてもありがたく感じています。
瀬川:お二人とも今につながるゼミ生活を送られたのですね。ところで、部活やサークルには入られていましたか?
松井:「Swings」というバドミントンサークルに入っていました。入学する前の年にできたサークルで、留学準備に入る2年生の時までは、サークル活動に注力していました。
山本:私は「劇団コギト」という演劇サークルで、1年目は舞台の実制作、2年目からは舞台監督として役者以外のスタッフの全般的な取りまとめを担当していました。集客のためのマーケティングや、公演をスムーズに遂行するためのプロジェクトマネジメントも行っていたので、これも現在の仕事につながっていますね。
英語力への危機感から
志した長期留学への道
瀬川:お二人とも在学中に留学されていますが、留学を決めたきっかけはどんなものでしたか?
山本:1年生の夏、「モニター留学」という如水会(一橋大学同窓会組織)の留学プログラムの抽選にたまたま当選し、オーストラリアのシドニーで1か月間の語学留学を経験しました。現地での生活の中で、帰宅途中に道に迷ってしまい、英語が話せなかった私は誰かに助けを求めることもできず途方にくれたことがありました。その時は、日本語が話せるオーストラリア人に偶然出会って助けてもらったのですが、そこから自分の英語力に危機感を持つようになり、それがきっかけとなって長期の留学を決意しました。オンライン英会話や、当時一橋大学にあったIELTS対策の授業を活用して英語のスコアとGPA(成績評価値)を上げ、4年生で留学することができました。
松井:私も高校生の時に、学校プログラムの関係でハワイに行く機会があったのですが、英語の成績は良かったにもかかわらず、何を話しても上手く通じませんでした。それがきっかけとなって、大学での留学を考え始めました。実は、一橋大学が海外留学を奨励している印象を受けたことも、進学の理由の一つになっています。入学後、留学経験のある方にアドバイスをいただいて、GPAを高く保てるよう勉強を頑張っていました。私も山本さんと同じ「モニター留学」でアメリカのミシガン州にホームステイをしたのですが、1か月では挨拶や簡単な日常会話ができるようになっただけで、「これでは何にもならない」ということを実感したので、1年間本格的に学ぼうという思いで、3年生の時に留学しました。
瀬川:お二人とも準備を重ねて留学に臨まれたのですね。それぞれどちらの国に行かれたのですか?
山本:フィンランドのヘルシンキ近くにあるアアルト大学です。アアルト大学は全カリキュラムが英語で、しかも大学院に編入できるプログラムなので選びました。授業のほぼすべてがグループワークとディスカッションで、積極的に発言するメンバーに囲まれカルチャーショックを受けながらも、徐々に順応していきました。EU圏内の人が短期で利用できる「エラスムス留学プログラム」で来る留学生が多く、私のルームメイトもスロバキア人とドイツ人でした。3人でサッカーの国際試合やヨーロッパリーグを一緒に応援するのが楽しかったですね。
松井:私はオーストラリアのキャンベラにあるオーストラリア国立大学に行きました。英語圏で、かつ日本と時差が少なく、家族とコミュニケーションを取りやすい環境だったことが理由です。当初は携帯のSIM契約や銀行口座の開設など、生活基盤を整える段階での苦労もありましたが、大学キャンパス内に寮があり、留学生も現地の学生も一緒に生活する楽しいコミュニティでした。アジア圏はもちろん、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカなど多様な地域から留学生が来ていたので、いろいろな国籍を持つ友人ができました。
留学中にGoogleに出会い
企業の戦略的マーケティングに開眼
瀬川:お二人とも留学を経ての就職ですが、山本さんは留学中に就職先を決めたそうですね。
山本:Googleに入社したのは、フィンランド留学中に受けた授業がきっかけでしたね。現地のスタートアップと組んでものづくりをする「プロダクトデベロップメントプロジェクト」という授業で、スマートデバイスを扱うことになりました。その際に、アメリカで開催されるCES(Consumer Electronics Show)という家電の見本市に最新の技術を見に行こう!ということになり、大学から予算が下りてヘルシンキからラスベガスに行ったのです。当時Googleはホームデバイスの展開に注力していて、見本市での規模の大きさはもちろん、「Hey Google」のロゴが街中に溢れており、その最先端のビジネススタイルに圧倒されました。調べてみると、日本法人では広告営業の職種で新卒採用を実施していたので、応募しました。
瀬川:運命的な出会いでしたね。入社されてみていかがでしたか?
山本:最初に配属された部門は、企業のお客様を対象にGoogleが持つデジタル広告を活用したソリューションを提供するチームでした。お客様のビジネスの収益を上げるためにGoogleのサービスをどう活用するか、というご提案を通して、いろいろな会社のマーケティングに関わることができた経験はとても大きかったですね。もちろん、営業担当としての目標達成も目指していましたが、それ以上に、軽部ゼミで学んだ「面白い問題を自分で定義して解く」という意識を常に持って内外の組織の課題に自発的に取り組んでいました。それが評価されたと実感できたこともあったので、ゼミで学んだ思考法がとても役に立ちました。
「一流」を知るソフトバンクで
法人営業経験を積み新規戦略を担う
瀬川:松井さんが入社された経緯を教えてください。
松井:以前、大学の授業でミスミグループの
瀬川:最初は法人営業からのスタートだったそうですね。
松井:国内の大手小売企業に向けた営業を担当しました。日本の大手企業がどのぐらいデジタル技術を使いこなしているか、反対にどれだけ紙媒体やアナログ技術に頼っているか、といった肌感覚が身についたと感じています。業務を通して、社会のDXに関する「現実」と、自社が目指す「理想」とのギャップがしっかりと見えたことは本当にいい経験になりました。
瀬川:その後異動されたということですが、今はどんなお仕事をされていますか?
松井:アライアンス戦略本部という部署に異動し、ソフトバンクが注力しているAI領域で、投資という手段を用いた新規事業開発に取り組んでいます。その中でも、国内AI関連のスタートアップを探す、スタートアップとの接点を増やすためにVC(ベンチャーキャピタル)・CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とのコネクションをつくる、といった活動をしています。シリコンバレーでは何が起きているかという最先端のAIの情報をキャッチしながら、国内にいる私たちはどうすべきかという戦略を考えていくことに、とても楽しさとやりがいを感じています。国内企業や投資家との対面が多く、現在の業務で英語を使うのは10%程ですが、学んでいなかったらつまずいていたであろうフェーズは実際にあったので、英語力を持っていることは強みになっていると感じます。
瀬川:今後はどのようなキャリアを描いていきたいですか?
松井:異動してまだ日が浅いので、まずは今の環境に身を置きながら、英語力や営業経験、そこにプラスして財務諸表を読めること、投資に関するナレッジの蓄積など、さまざまな自分の武器を掛け合わせていきたいですね。
貴重な試行錯誤を重ねた
シカゴ大学へのMBA留学
瀬川:山本さんはGoogleを退社され、現在は新たな道に進まれたそうですね。
山本:Googleは人、組織ともに素晴らしい企業なので大変惜しかったのですが、新しい環境での成長を求めてMBA取得を志しました。海外を舞台にしたビジネスでは、コミュニケーションやプロジェクトの進め方において国内と違う作法や能力が必要になってくると感じ、言語を超えた働き方を学びたいと思い、2023年の夏からシカゴ大学に2年間留学しました。シカゴ大学を選択したのは、一橋大学同様、社会科学に強い大学という良いイメージがあったからです。
瀬川:2年間でどんな学びを得られましたか?
山本:授業から学べる知識や新しい事例なども非常に興味深かったですが、一番価値を感じたのは、やはり各国のビジネス界の人と出会い、真剣勝負でグループワークやクラブ活動ができたことでした。自分の能力を超えた試行錯誤を重ねることができたのは、大学院ならではの経験でした。また、日本の大学におけるクラブの多くとは異なり、シカゴ大学ではこの業界のことを学びたい、この業界に進みたい、という明確な目的があるクラブが多かったです。私も2年目にはそのようなクラブのリーダーになって、1年生に向けて教育プログラムを作成してレクチャーしたりしていました。
瀬川:MBAを取得されて、次はどんな道に進まれるのですか?
山本:今後はどうなるか分からない部分も多いのですが、引き続きITの業界で、今度はアメリカというフィールドで挑戦できればと考えています。一橋大学で学んだこと、会社で学んだこと、シカゴ大学で学んだことを上手に融合させ、より多くの人々にサービスを届けることができる人になっていきたいですし、ITにはその力があると思っているので、これからもこの業界で従事できるようなキャリアを世界で実現したいです。
豊富なリソースを最大限に活用し
豊かなネットワークを築いてほしい
瀬川:最後に、一橋大学への進学を考えている方々にメッセージをお願いします。
松井:一橋大学は少人数ゆえのアットホームな雰囲気があり、友人を介してまた友人になるような出会いが生まれやすい環境だと思います。一橋大学の人は皆さん静かな印象ですが、お話をすると「心に火を灯されている」方が多く、とても刺激をもらえます。私は在学中に一橋大学の留学制度を3回利用したのですが、それも友人からいろいろと話を聞き、情報や意欲をもらいながら挑戦していました。皆さんにも一橋大学の豊かな環境を活用し、持っているリソースはすべて使って充実した学生生活を送ってほしいです。
山本:自分が「面白い」と感じた気持ちを大切にしてほしいですね。一橋大学は小規模な大学なので、留学も含めて数多くのチャンスがある中で、それをつかみ取るための倍率が比較的低く、挑戦できる可能性がとても高いと思います。私も、最初は興味がなかった留学というものに対し、「モニター留学」を体験してから考え方が大きく変わったので、「面白い」と思う気持ちに素直になって、楽しいことを探していってほしいですね。
そしてもう一つ、シカゴ大学に留学していたときに如水会シカゴ支部の方に多くの交流の機会を設けていただき、一橋大学は人とのつながりが強いことを改めて実感しました。同期にも優秀な人が多く、自分と全く違う領域で面白いことをやっている人もたくさんいます。このように縦にも横にも強いネットワークができるのも一橋大学で学ぶ魅力です。
瀬川:私自身、お二人に一橋大学の諸制度について教えていただき、学生のためのリソースが充実している大学だと改めて実感しました。また、今回のお話にもあった通り、社会人になってからも友人や先輩を介して同窓生とつながることが多く、誰と話しても刺激をいただけるのが、一橋大学ならではの良さだと感じています。今回も、出身学部は同じでも全く違うキャリアパスを歩むお二方とお話ができ、大変刺激を受けました。本日は本当にありがとうございました。