在学中も卒業後も。強い絆を感じる大学です

2025年3月28日 掲載

社会で活躍する一橋大学卒業生の今をレポートする「つなぐつなげる一橋」。卒業から数年を経た卒業生たちに、一橋大学を選んだ理由や現在の仕事、今後のキャリアについて語っていただきます。
第四回のゲストスピーカーは、瀬川こずえさん(2020年商学部卒、丸紅株式会社勤務)と、小村来世さん(2023年経済学部卒、宿泊施設「Rise's House」経営)です。
コーディネーターは前回に引き続き、七戸香名さん(2019年社会学部卒、アビームコンサルティング株式会社勤務)が務めてくださいました。

七戸 香名さん

七戸 香名(しちのへ・かな)

石川県立金沢二水高等学校出身。2019年社会学部卒業後、新卒で株式会社GUに入社し、店舗マネジメントやECサイトの企画運営を担当。2022年株式会社アビームコンサルティングのCRMセクター(現CXセクター)へ転職。官公庁・金融・自動車メーカーなど幅広い業界のクライアントへのコンサルティング業務に従事し、エンドクライアントの体験価値の向上に貢献(例:官公庁の案件では、申請書類の電子化を検討するプロジェクトに参画)。現在はBtoB企業に対し、カスタマ―サクセス(製品販売後の利用・定着化による継続率やアップセル・クロスセル向上を実現する仕組み)導入にむけた戦略立案を支援。

小村 来世さん

小村 来世(こむら・りせ)

2023年経済学部を成績優秀者として卒業。在学中、給付型奨学金で米ミシガン大学に交換留学し、海外の日本文化ファンの多さに感動する。帰国後、地元愛知県西尾市には、日本トップクラスの抹茶やうなぎ、小京都の町並みなど、日本らしい魅力が多いことを再発見し、宿の開業を考え始める。宿泊業の経験を積むため、新卒で株式会社星野リゾート・マネジメントへ入社し、山梨県のリゾナーレ八ヶ岳にて清掃・フロント・レストラン・洗い場業務を経験。インバウンド対策のため、社内で英語研修講師も担当。一時帰省した際、市のサポートや、空き家との出会いがきっかけで、体験型貸切宿Rise's Houseの開業を決意し、2024年1月に独立。クラウドファンディングや補助金を活用して改装し、2024年7月オープン。これまでに20カ国以上からの訪日客が滞在。男性初の西尾観光アンバサダーも務める。

瀬川 こずえさん

瀬川 こずえ(せがわ・こずえ)

2020年商学部を卒業後、丸紅株式会社に入社。入社後4年間は、営業経理部に配属され、海外電力事業に係る予決算業務の対応および会計税務面での営業部支援に携わった。2024年より、経営企画部にて国内事業の収益基盤の拡充支援・新規事業検討等に従事している。

地元の魅力を余さず伝える
1日1組・体験型の宿を運営

七戸:小村さんは本日、お仕事で東京にいらっしゃったのですね。

小村:はい。地元の愛知県西尾市で宿を経営しているのですが、同時に西尾市の観光アンバサダーも務めておりまして、展示会に出席するために上京しました。

七戸:観光アンバサダーは、どのような活動をされるのですか?

小村:西尾市がイベントを開催するときに、シンボルとして参加するイメージです。たとえば地元のお祭りで、屋形の上に乗って手を振るとか(笑)。PRイベントなどで東京に来る機会もあります。

七戸:本職の宿の経営についても教えてください。

小村:1日1組限定のローカル体験型の宿「Rise's House」を営んでいます。お客様の6割は海外の方です。観光はお客様の希望やペースに合わせて内容を決めていくスタイルで、たとえば酒蔵や味噌蔵、お茶農家、えびせんべい店、うなぎの養殖場など、西尾市の特産品の産地にお客様を自分の車でお連れして、地元の人と触れ合いゆっくり対話しながら楽しんでいただく体験型のサービスを提供しています。

七戸:地元のことを理解しているからこそできる、きめ細やかなサービスですね。

小村:昔ながらのご近所付き合いも体験できます。たとえば、宿の目の前に84歳のおばあさんが営む炭屋さんがあります。ふらっとお店に入ると、「お茶あげるから座りな〜」と温かく迎えてくれます。いつも庭のお花をいただいて、宿の玄関や茶室に生けています。宿のお客さんを炭屋さんにご挨拶に連れて行くことも多く、お客さんも地元の人との交流を楽しんでくれます。このようなローカル感を重視しています。

瀬川:外国人の方にとても喜ばれそうです。日本の良い所が詰まっている感じですね。

小村:おかげさまで、オープンから半年で20か国以上のお客さんが宿泊されています。予約管理からお客様のアテンド、送迎、通訳、清掃までをすべて自分一人で行っており、時々ご飯も一緒に食べます(笑)。一組ずつを大切にしたいため、軒数を増やすよりも一軒を尖らせることを重視しています。

七戸:独立は早くから考えていたのですか?

小村:大学4年次の留学をきっかけに自分の宿を経営したいと思うようになりました。しかし、知識も経験もないので、修業のつもりで星野リゾートに就職しました。働きながら良い物件が見つかり次第、独立をしようと考えていました。新卒1年目の11月、幼馴染の結婚式のために帰省しました。ついでに西尾市役所に相談に行ったところ、素敵な空き家を紹介いただき、3日後に会社に辞める連絡をしました。翌年1月にUターンし、補助金やクラウドファンディングで改装費などの初期費用を賄うことができました。

瀬川:クラウドファンディングで集められているのはすごいですね。

小村:ありがたいことに、一橋大学の卒業生の方々からたくさん支援をいただきました。留学した時にお世話になった如水会シカゴ支部の方、ゼミの岡室先生や卒業生など、3割位は大学関係者でした。そういう一橋大学の温かな雰囲気がとても好きだったことを改めて実感しています。

国内のリソースを活かし
新事業の可能性を提案

七戸:瀬川さんは現在、丸紅に勤務されていますね。入社の動機を教えてください。

瀬川:私は体育会でソフトテニスの部活に打ち込んだ結果、あまり社会のことを知らずに4年間過ごしてきたため、就職活動の当初はやりたいことがあまり明確ではありませんでした。改めてキャリアについて考えた時、私が一番尊敬している父親のファーストキャリアが総合商社だったことから商社に関心を持ちました。総合商社は職種も多くあらゆる業種に関われる面白さがありますし、先輩訪問ではモチベーションの高い人が多い印象を受けました。今までも環境で進路を選んできたので、会社も環境に恵まれた場所が良いと思いました。

七戸:入社してみていかがでしたか?

瀬川:入社後は経理部門に配属され、4年間はとにかく計数分野のプロになろう、と頑張ってきました。5年目のタイミングで経営企画部に異動し、会社全体の事業や社会のトレンドを俯瞰的に見られるようになってきましたし、視野が広がりました。

七戸:まさに今転機を迎えられているのですね。現在のお仕事内容について聞かせてください。

瀬川:私の課は4~5年前に設置された新しい部署で、当社全体の国内事業の収益基盤の拡充支援を行なっています。国内ビジネスの戦略を考えたり、今まで個々に動いていた部門をかけ合わせて新たな事業を創出するような提案を行ったりしています。やりがいはあるものの、簡単ではありません。

七戸:各組織の方たちに働きかけ、一緒に動かしていくような役割も求められているわけですね。

小村:体育会の時の経験が活かせそうですね。

瀬川:確かに(笑)。社内外で関係する皆さまのご要望やご意見を汲み取って調整するという点では体育会のマインドが活かせると良いと思います。

カレッジスポーツに邁進し
一体感の中で大学生活を満喫

七戸:一橋大学に入学された理由も、体育会に入りたかったからだそうですね。

瀬川:中学高校とソフトテニスをやっていましたが、スポーツエリートというわけではなかったので、体育会に入って競技に取り組むには、国立大学が良いと思いました。東京にある文系の大学、ということで一橋大学を検討し好印象を持ちました。体育会ではソフトテニス部か女子ラクロス部に入ることを検討していましたが、良い先輩と出会いテニス部に入りました。

七戸:一橋大学の大学生活で、印象に残っていることを聞かせてください。

瀬川:たくさんありますが(笑)、4年間、キャンパスの中にあるテニスコートをフルで使って部活動に熱中できたことは本当に良かったです。あとは人のつながりが強かったこと。小規模ならではの一体感がありました。関わる人がみんな良い人だったことも印象的でした。4年間続けられたのは、やはり人間関係が良かったからですね。部活動も学業も、人に支えられてきました。

七戸:大学時代の経験が今の仕事に活きていると思うことはありますか?

瀬川:就職活動の時に自己分析を行いましたが、やはりソフトテニス部で培われた行動力でしょうか。当時は、自分の実力向上も念頭に置きつつ相談相手にもなってもらえるような"いい人間関係をつくりたい"という思いで、自分からアクションを起こしていました。たとえば他大学の方々とも仲良くなって、練習試合をしたりプライベートでもつながったりしました。今所属している課は、外部の会社様・内部のグループ会社も含めて各会社をつなげていく職務なので、まさに自分の志向や経験をさらに活かせる可能性を感じています。

欧米への留学を機に
人生の目標が大きく変化

七戸:小村さんは、どういった動機で一橋大学を選んだのですか?

小村:理由は二つありました。一つは経済学の分野で影響力のある大学であるということ、もう一つは留学と奨学金の制度が充実しているということです。高校時代、新聞を読む中で、さまざまな事象は結局は経済とつながっていると感じ、経済学者になりたいと考えるようになりました。高校までは、西尾市内から出たことがなかったのですが、経済を学ぶなら東京がいいだろうと考え、さらに海外を体験する必要があると思いました。その意味で、学生の留学率が非常に高い一橋大学に興味を持ちました。特に愛知県内の高校卒業者を対象にした「堀海外留学支援資金」という留学奨学金の存在を知り、自分が呼ばれていると感じました(笑)。さらに少数精鋭の環境が自分には向いていると思い、単願で受験しました。ただ留学後、将来の夢は経済学者から大きく変わりましけど。

七戸:進路を変えるきっかけとなった留学のお話をもう少し聞かせてください。

小村:入学後は使える制度をフル活用し、いろいろな奨学金をいただきながら海外を経験しました。1・2年でスタンフォード大学とUCLAに短期留学し、さまざまな海外交流ができる経済学部のGLP(グローバル・リーダーズ・プログラム)にも参加しました。3年次はアメリカのミシガン大学で1年間を過ごす予定でしたが、コロナ禍で延期になりました。留学を諦めた学生も多かったのですが、卒業を遅らせてでも長期留学を実現したいと思っていました。1年後にはコロナ禍も落ち着き、無事ミシガン大学に留学、そこでの出会いが進路を決めるきっかけになりました。留学先では、日本の文化を紹介する「日本学生会」という組織が主催する、新歓イベントに参加しました。約200人の学生が集まりましたが、半数以上が日本以外からの学生でした。規模の大きさと参加者の日本への関心の高さに感動しました。「いつか日本に行くのが夢」と話す学生も多く、そういった方々のために何ができるかを考えるようになりました。その後ヨーロッパを周遊した時にも人との出会いがあり、いろいろな国の人が集まる「宿」をやりたいと考えました。

瀬川:行動すべてに理由があり、目標を持って達成し続けているのが素敵ですね。

小村:ありがとうございます。「なぜやるか?」ということは常に意識するようにしています。自分が楽しく、かつ周囲にプラスになることがしたいという思考でずっとやってきました。

今につながる知見を得た
ゼミナールでの学び

七戸:大学時代のゼミの活動について聞かせてください。

小村:私が所属していたのは岡室博之ゼミです。産業組織論や計量経済学の分野を専門にしていました。計量経済学は経済や社会の実態を統計学の方法で分析する学問で、産業組織論とは産業や企業にフォーカスして経済分析を行う学問です。経済学は理論を学ぶことも面白いですが 、実際のケースに基づいたデータを分析し、「理論と現実の接点」を見ることができるのが岡室ゼミの面白さだと思います。また、毎年恒例のOB・OG会では100人近くが集まるほど縦横のつながりが強いです。

瀬川:ゼミで学んだことは、現在の宿泊施設経営にも活かされていますか?

小村:知識が直接活きることもあります。たとえば、「先行者の優位性」という考え方があるため、メジャーな観光地ではなく、他にほとんど宿がない地域でやるからこそ、さまざまな事業者とゼロベースで連携しやすく、後から参入者がいても真似されにくいと考えました。また、インバウンド関連の記事やデータを見るとき、因果関係と相関関係を混在させないなど、データを正しく読み解こうとする習慣が身についていると思います。

七戸:瀬川さんのゼミナールについて教えてください。

瀬川:私が所属していたのは、尾畑裕(現明治学院大学経済学部教授)ゼミです。尾畑先生は管理会計・原価計算の専門家ですが、プログラミングを使ってより効率的に原価計算などを行うような手法を時代に先駆けて始めていました。JavaやPythonを使ったプログラミングに興味を持ち、志望しました。当初は理解することに苦心しましたが、プログラムのロジックを学べたため、職場でIT化が推進される中でも戸惑うことは少ないように思います。もう一度しっかり学ぼうと思っています。

七戸:商社には一橋大学の卒業生が多く勤めているイメージがあります。

瀬川:そうですね。丸紅にも多いです。皆さん一橋大学のつながりをとても大切にされている印象で、私もよく声をかけていただくので、ネットワークが広がることもあります。

自分の軸となる目標を掲げ続け
人とのつながりを育てる4年間に

七戸:一橋大学を目指す高校生たちへのアドバイスを兼ねて、お2人の受験対策についてお聞かせいただけますか?

小村:経済学部で配点の高い2科目、英語と数学に重点を置いて勉強しました。数学は50年分くらいの過去問をひたすらやりました。英語は単語帳の音声を使って正しい発音と単語を覚え、自然に例文が言えるようにトレーニングしました。単語はリーディングでもリスニングでも大事ですし、やった分だけ成績が伸びやすいのでコツコツ取り組みました。

瀬川:国立大学志望者は全学科にわたりバランス良く勉強をするイメージがありますが、商学部は数学の配点が高いので、とにかく好きな数学を自分の武器にしようと思いました。英語や国語は何とか食らいつける点数を取れるよう勉強しつつ、数学と地理にとにかく注力し、「頑張った」という自信をつけて挑みました。

七戸:日々どのようなペースで勉強しましたか?

瀬川:高3の夏以降は、学校が休みの日には朝8時に自習室に行って22時半まで集中。歩いているときも勉強していました(笑)。

小村:私は逆に短期集中が苦手なので、7時間半以上の睡眠を確保しつつ、3年間にわたり計画的に取り組みました。おかげで学校の体育祭・文化祭や部活にも一生懸命打ち込めました。

七戸:これから一橋を目指す方へ、メッセージをお願いします。

小村:何かしらの目標をもつことがモチベーションにつながると思います。私の場合は、経済学者になる夢であり、海外体験でした。キャリアの目標は途中で変わっていくわけですが、目標をもつことでやるべきことが明確になります。私自身もそうですが、入学後に目標が変わっても良いと思います。何かに夢中になることさえできれば、自然と別の選択肢も見えてくるし、結果的にもとの経験が活きることも多いです。

瀬川:そうですね。一橋大学は社会科学分野の最先端の研究者に学べるという利点がありますが、人の温かさやつながりの強さを実感できる場としてもとても優れた環境があります。生涯にわたる友人と出会う場としても魅力的な大学だと思います。

七戸:今後入学される皆さんにも、人とのつながりを深めていってほしいです。本日はありがとうございました。

PEOPLE

一橋大学の「人」