一橋大学は、刺激し合える仲間が集う場所です

2024年7月5日 掲載

社会で活躍する一橋大学卒業生の今をレポートする「つなぐつなげる一橋」。
本企画では、卒業から数年を経た卒業生たちに、一橋を選んだ理由や現在の仕事、今後のキャリアについて語っていただきます。
第三回目のゲストスピーカーは、坂本南さん(2018年法学部卒/2020年法学研究科修了、札幌家庭裁判所勤務)と澤部里菜さん(2019年社会学部卒、東京都公立中学校勤務)です。
コーディネーターは、七戸香名さん(2019年社会学部卒、アビームコンサルティング株式会社勤務)が務めてくださいました。

七戸 香名さん

七戸 香名(しちのへ・かな)

石川県立金沢二水高等学校出身。2019年社会学部卒業後、新卒で株式会社GUに入社し、店舗マネジメントやECサイトの企画運営を担当。2022年株式会社アビームコンサルティングのCRMセクター(現CXセクター)へ転職。官公庁・金融・自動車メーカーなど幅広い業界のクライアントへのコンサルティング業務に従事し、エンドクライアントの体験価値の向上に貢献(例:官公庁の案件では、申請書類の電子化を検討するプロジェクトに参画)。現在はBtoB企業に対し、カスタマ―サクセス(製品販売後の利用・定着化による継続率やアップセル・クロスセル向上を実現する仕組み)導入にむけた戦略立案を支援。

坂本 南さん

坂本 南(さかもと・みなみ)

岩手県立黒沢尻北高等学校出身。2018年一橋大学法学部法律学科卒業、2020年同大学大学院法学研究科法学・国際関係専攻修士課程修了後、2020年4月東京家庭裁判所調査官補に就任。2022年札幌家庭裁判所家庭裁判所調査官に就任、現在に至る。

澤部 里菜さん

澤部 里菜(さわべ・りな)

東京都立戸山高校出身。2019年社会学部卒業後、東京都の公立中学校教諭として勤務する。特別支援学級担任として知的障害のある生徒の学習指導、生活指導、進路指導、行事の運営などに取り組む。特別支援学校教諭2種免許の取得を目指し、通信教育を活用して単位を取得している。その他部活動(ソフトテニス部)の顧問、小中一貫教育クリエイター、ICT推進委員として学校全体の運営にも関わる。GIGAスクール構想では、オンライン授業の企画立案やルールの検討、生徒用タブレットの管理・更新などに携わった。

個性と意欲に溢れた学友に
刺激を受け続けた学生生活

七戸:まずは大学時代のお話からお願いいたします。先に紹介しますと澤部さんとは同じ社会学部で中国語のクラスが一緒でしたが、坂本さんとお会いするのは初めてですね。私は石川県出身で、石川県立金沢二水高等学校に通っていました。もともと社会心理学に興味があって、国公立大学の中でも社会学部がある一橋大学を選びました。入学後は「劇団コギト」という演劇サークルで、役者をやったり脚本を書いたりしていました。

坂本:私は岩手県出身で、岩手県立黒沢尻北高等学校を卒業しました。法学部に進学したのは、高校生の時に見たドラマに影響を受け、弁護士など法曹の道を目指したいと考えたからです。入学後は体育会の洋弓(アーチェリー)部に入部し、部活と両立して授業やゼミに取り組んでいました。

澤部:私は東京都出身で、東京都立戸山高等学校から一橋大学に進学しました。大学では体育会のソフトテニス部に入り、テニス漬けの楽しい日々でした。教職課程も取っていたので、教職にゼミ、部活、バイトと、かなり忙しい大学生活を送っていました。

七戸:お2人とも大学時代は毎日、課題に追われながらもやりたいことを一生懸命やった記憶があるのですね。一方で私は、進学当初のキャンパスライフを思い出していました。初めての一人暮らしに慣れず、仲の良い友人ができるまで少し辛かったです。坂本さんも地方のご出身ですが、すぐに慣れましたか?

坂本:まさにその不安があったので、なるべく早く部活かサークルに入ろうと思い、4月中にはアーチェリー部に入りました。大学でないとなかなかできないスポーツですし、弓も格好良かったので。大所帯の部活で先輩たちもみんな優しく、毎日練習するのが楽しかったです。

七戸:一橋大学について、印象に残っていることはありますか?

坂本:入学して最初に感じたのは、いろいろなことを頑張っている人が周りにたくさんいたことです。すでに司法試験に向けて勉強している人、部活一筋の人、留学のために語学の習得に励む人、アルバイトを一生懸命やっている人と、それぞれのやりたいことに邁進している人がとにかく多い印象を受けました。

澤部:私も今お話を聞いていて、本当にいろんな人がいたな(笑)と改めて思い出しました。部活の中でも、トレーニングを熱心にやっている人もいれば、会計士や法曹を目指して計画的に勉強している人もいて。いろいろな思考の人と関われたことは自分の財産になりました。七戸さんの劇も観にいきましたね。違う分野でも、お互いに頑張っている人から刺激を得られたのは、とてもいい経験でした。

七戸:あの時はありがとうございました。私もこうして再会して、また新しい刺激をもらえています。ほかに、一橋大学の印象についてお聞かせいただけますか?

澤部:国立のキャンパスは、大学通りののどかな感じが大好きでした。国立駅を出た瞬間や大学通りを歩いていく時、季節を感じられて心地よかったです。

坂本:私も国立の雰囲気は好きですね。穏やかな空気が流れていて、大学に行くのが楽しみでした。

七戸:よくわかります。私も入試の面接でキャンパスに行った時、きれいな景色に「ここなら通えそう」とホッとした気持ちになったのを覚えています。大学通りは春の桜、秋のイチョウ、そしてイルミネーションもきれいですけど、お気に入りの季節はありますか?

澤部:私は冬です。夜、駅に向かって光が照らされている感じがとてもきれいなんです。部活が終わって図書館に行き、夜に帰宅する時によく見ていました。

七戸:テスト前には、本当によく図書館に行きましたね。

澤部:キャンパスの中で地元の子どもたちが遊んでいたり、大きな鳥が東の池にいたり、カモの親子が歩いていたのも思い出深いです。

七戸:かわいかったですね。自然に慣れ親しんだ学校生活でした。

「格差」を解決すべく一橋で
幅広い知識を修得・教育の道へ

七戸:澤部さんは教員のお仕事をされていますね。大学進学前から教員を志しておられたそうですが、なぜ一橋大学を選んだのですか?

澤部:最初は教育に特化した大学への進学も考えていたのですが、周りと相談するうちに「社会科の教員を目指すのなら、社会の勉強をちゃんとするべき」という考えになったからです。また、教員志望の人だけでなくいろいろな人が周りにいる環境で学ぶ方が、後々自分の役に立つのではないかと思いました。

七戸:部活との両立でお忙しい中、学びは順調でしたか?

澤部:毎日目の前のことに必死でした。ただ教職課程は絶対に取ると決めていたので、どうやったら部活の時間と教職の週1回の授業をうまく組み合わせて取れるかを、4年計画で考えました。ただ、実は大学3年の時に一度、教員になるかどうかすごく迷ったことがありました。自分がずっと考え続けてきた「格差」というテーマに取り組むにあたり、大学院への進学、一般企業への就職、文部科学省などの行政機関、といろいろな進路があると思って。そんな時に授業で「学校は社会の鏡だ」という言葉を教わり、やはりまずは教育の現場を知るべきだと思い、教員を目指し続けることに決めました。

七戸:現在はどのような教育現場にいらっしゃいますか?

澤部:今は特別支援学級を担当していて、知的障害のある子どもたちを教えています。教員になって6年目ですが、ようやく自分が学んできた知識を授業に反映できることが増えてきました。教育の世界はどうしても視野が狭くなりがちですが、いろいろな人からお話を聞き、社会とのさまざまなつながりを理解しておくことはとても重要だと感じています。在学中は採用試験の時に情報が少なくて苦労したり、採用後も教育実習期間の短さからくる経験不足に悩んだりして、教育学部のある大学にすればよかったかな?と思ったことも正直ありましたが、今は一橋大学を選んで大正解だったと思っています。

七戸:大学での経験は、お仕事にどう活かされていますか?

澤部:知的障害のある子どもには「ポイントを絞ってわかりやすく教える」ことが大切なのですが、そこには大学での学びが活きていると思います。教育のことは後からいくらでも学べるから、今しかできないものを!と思って履修した政治学の田中拓道ゼミは、内容が難しいうえに週一冊本を読まなければならず、本当に苦労しました。しかし本を読んで議論を繰り返す中で、話のポイントをつかむことができるようになっていったんですね。教えるべきポイントを捉えてそれを理解してもらうにはどうしたらいいだろう、と今もスムーズに考えられているのは、田中ゼミで学んだおかげです。

ゼミで出合った少年法の授業をきっかけに
法律外の知見を備えた調査官に

七戸:坂本さんは家庭裁判所の調査官をされていますが、どのようなお仕事ですか?

坂本:家庭裁判所は家庭内の紛争や少年・未成年の人の犯罪などに特化して扱いますが、調査官は、争議の当事者や事件を起こした少年と面接をしたり、関係機関や関係者のお宅を訪問して話を聞いたりして、家庭内の紛争ならどんな形で解決するのが望ましいのか、少年事件ならどういう処分にするのがいいのか、裁判官に意見を進言する職務です。もちろん基本的には法律にのっとって裁判官が判断しますが、やはり心情やこれまでの生い立ちなど、法律論だけでは片付けられないものがあります。調査官は、心理学や教育学、社会学など、自分が持つ法律以外の分野の知見を活用して、より望ましい裁判ができるような判断材料を提供していきます。

七戸:お仕事に就きたいと思ったきっかけは何ですか?

坂本:この仕事がいいなと思ったきっかけは、法学部で履修した少年法の授業でした。さらに大学院に進んでから参加した裁判所のボランティアで、審判手続中の少年に勉強を教えたり一緒に清掃活動をしたりするうちに、そういう子どもたちに関わる意義を感じるようになりました。またその中で素晴らしい調査官の方々ともたくさんお会いできたので、一緒に働きたいと思い、研究ではなく就職の道に進みました。

七戸:大学の授業が、仕事を理解し人生を決めるきっかけになったのですね。

坂本:そうですね。ゼミの本庄武先生が少年法の研究を熱心にやっておられて、大変その分野に詳しい方だったので、ゼミで交わした議論を通してさらに興味が湧いていきました。

七戸:大学で学ばれたことは、実際のお仕事でどう活きていますか?

坂本:職場では調査官や裁判官とよく議論をしますが、それが自然にできるのは、ゼミで自分の主張をしっかりと話して議論を深め合う訓練ができていたからです。実際の事件は人間関係や感情、それぞれの関係者の認識の違いなどが入り混じって複雑で、そういった問題を解決するうえでは、学生の時から養ってきた「考える力」が活きていると思う場面がたくさんありますね。具体的な事例は話すことができないのですが......。

七戸:葛藤しつつ意欲的にお仕事をされているのですね。現在私が従事しているコンサルティングの現場でも、大学で学んできた「仮説を元に集めた情報を整理し思考する」といった「考える」プロセスが活きています。

司法/教育の現場それぞれで
子どもへの向き合い方を模索する

澤部:坂本さんは私と同じように、たとえば話がうまくできないような子どもとも日々接していらっしゃると思います。対応で心がけられていることはありますか?

坂本:おっしゃる通り、特に罪を犯した少年の中には、話が上手にできない子は結構いますね。普通の学級で授業についていくのがちょっと厳しいぐらいの子が体感的に一番多く、会話ですべてを理解することがなかなかできません。そういう子どもと話す時に気をつけているのは、ストーリーを大切にすることです。本人なりの事情や理由など話したいストーリーが必ずあるので、それをいろいろと想像しながら進めます。言葉が足りず会話の内容がわからない場合は、サポートをするような声掛けをして、彼らが話すことを大事に聞くようにしています。本人から聞くだけではどうしても要領を得ない時に、学校の先生からいただける情報はすごくありがたいです。ふだん学校でどんな風に過ごしているのか、先生や友達とどんな関係なのか、そういったことを教えてもらえると人物像が見えてくるので。先生方には本当にお世話になっています。
私は基本的に一対一でしか子どもと向き合わないので、クラスで複数人を受け持つ大変さややりがい、取り組む時の考え方などを教えてください。

澤部:私が所属している学校は比較的小規模なので、小回りもききやすい組織です。子どもたちはとても素直で思ったことを口にするので、コントみたいなやりとりが繰り広げられる日常でとても楽しいです。それに皆すごく一生懸命で、小さくても一つのことができるようそれぞれ頑張っているので、できた時に一緒に喜べることにすごくやりがいを感じています。大変なのは、一人ひとりまったく状態の違う子どもたちを同時に見ることです。たとえば、通常学級が大変で支援学級に来た子どももいれば、特別支援学校と迷って支援学級に来た子どももいるんですね。同じ学習でも、前者の子どもたちならもう一段階できることがあるし、逆に後者の子どもたちにはもう少し丁寧に見てあげたい。そのあたりのバランスをどう取るかが、一番葛藤するところです。

部活も学業もやり切る。
受験期の集中学習で一橋へ

七戸:お2人とも、愛を持って目の前の生徒さんや対象の方に接していらっしゃいますね。ご自身が高校生だった頃は、どんな生活をされていましたか?

坂本:高校ではバドミントン部でした。朝は1時間前ぐらいに学校へ行って、体育館にこもって朝練をして、そのまま汗だくで授業を受けて、終わったらまた部活をして家に帰るような生活でした。

七戸:私もバドミントン部でした。練習がきつくて、勉強したいなと思いながら練習していましたね。

澤部:私は、大学時代と同じようにテニス漬けでした。授業を受けてテニスをして、自習室に行って帰る、と高校の時にはすでにルーティンができていました。

七戸:お2人ともすでに学業と部活を両立されていたのですね。

坂本:いえ、私は受験期になって大きく切り替えました。期末試験の時は頑張って勉強していましたけど、本格的に勉強しようとなったのは3年生の夏前くらいです。

澤部:受験対策はどのようにしていましたか?

坂本:私以外に一橋大学を受験する人がいなかったので、先生方に個別で対応していただきました。受験期は朝に授業をしてもらったり、赤本の解説をしてもらったりして、入試問題の傾向や勉強するべきポイントを色々と教えてもらいました。

七戸:澤部さんはいかがでしたか?

澤部:私の高校はとても環境が整っていて、自習室も夜8時まで開いているし、補習もありました。部活も行事も勉強もすべて全力でやる校風で、3年の夏休みも文化祭で上映する映画を撮っていましたが、2学期になってから実際に過去問を解き始め、一橋対策として、先生に解答の添削や数学の補習をしていただきました。冬になると受験対応の授業にシフトして、先生方にすごく助けていただきました。

やりたいことを自由に追求し
行きたい道を創り出せる環境

七戸:お2人がこれから思い描くキャリアを教えてください。

坂本:私は大学院にも行っていたので、研究活動に興味があります。今でも仕事をしながら関連分野の文献や論文を読んでいて、これからもよりアグレッシブに学び続ける姿勢を持っていたいと思っています。やはり人の人生に関わる仕事なので、それだけの責任を果たせるような知識と技術を常にアップデートして身につけていきたいです。

澤部:先ほどもお伝えしましたが、約6年間やってみて、学校の教員だからできること・できないことが明確に見えてきました。あとは縁あって支援学級を担当させてもらって、障害のある方の人生にも関わることができたので、もともと自分が関心を抱いていた「格差を減らすにはどうしたらいいか」というテーマに対して、何らかの形で貢献ができたらいいと思っています。

七戸:最後に、これから一橋大学への進学を検討している高校生の皆さんにメッセージをお願いします。

坂本:自分の大学生活を振り返ってみると、一橋大学は学ぶうえで最高の環境でした。その分野の第一人者として研究活動の結果を出されている先生方が揃っていますし、学業的にも優秀なだけではなく個性的な学生が大勢いて、そんな中でいろいろな人間関係を築いていくことができました。授業も少人数のゼミでやるからこその良さがあって、何百人もいる中でただ講義を聴くだけでなく、自分の考えを発信して自ら学ぶこともできる機会が豊富です。自分の勉強したいことをやりたいように学べる良さがあります。

澤部:本当にそうですね。一橋大学は商社や銀行など金融系のイメージがとても強いのですが、私は教職課程を取りましたし、留学する人もいればベンチャー企業に入っている人もいる。自分がやりたいと思ったことを自由に追求できる場所でした。他学部の授業を自由に取ることができるのも面白いところです。私もたとえば財政学など他学部の授業を取ったことで「こういう考え方もあるんだな」と視野が一気に広がりました。「〇〇をやるには〇〇大学・〇〇学部に行かないと」といった既定路線以外にも自分なりの道はつくれますし、その道の一つとして一橋大学はとても充実した環境があることをお伝えしたいです。

七戸:本日は本当にありがとうございました。

PEOPLE

一橋大学の「人」