自分を形作る価値観と仲間が得られる大学です
2023年10月2日 掲載
社会で活躍する一橋大学卒業生の今をレポートする「つなぐつなげる一橋」。
本企画では、卒業して数年の卒業生たちに、一橋を選んだ理由や現在の仕事と今後のキャリアについて、語っていただきます。
第二回のゲストスピーカーは、松田和輝さん(2017年法学部卒、トヨタ自動車株式会社)と小森美紀さん(2018年経済学部卒、日本銀行)です。
コーディネーターは、平川穂乃香さん(2018年経済学部卒、一橋大学大学院経営管理研究科経営管理プログラム修士課程2年)が務めてくださいました。
平川 穂乃香(ひらかわ・ほのか)
2018年に一橋大学経済学部を卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社し、主に事業のリスク管理や経理業務に携わる。2022年よりグループ会社の株式会社日本アクセス(総合食品卸)に出向しながら、夜間に一橋大学大学院経営管理研究科経営管理プログラム修士課程へ通っている。
松田 和輝(まつだ・かずき)
2017年に一橋大学法学部を卒業後、トヨタ自動車に入社。アジア地域の海外渉外を担当後、ワシントンDCオフィスの政府渉外部にて勤務。帰国後は米州地域を中心とする政策渉外を担当。
小森 美紀(こもり・みき)
2018年に一橋大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。現在は金融市場の機能度に関する調査のほか、金融市場の制度設計や市場インフラの整備に関する業務に携わる。
知識の習得に留まらない、
思考する力を支える"知"を求めて
平川:まずは一橋大学を選んだ理由から伺います。小森さんは私と同じ経済学部ですが、経済学部を選んだ理由も教えてください。
小森:私は小さい頃から日本や海外の経済に興味があって。高校でも地理が好きで、国ごとの暮らし方や価値観の違いはどのように生まれるのか?途上国が先進国になるためにどんなプロセスが必要なのか?といったテーマに関心を持っていました。そんなときに「赤本」で出会った一橋大学の地理の論述問題が、まさにそうしたテーマで、とても面白かったんですね。そこから一橋大学の経済学部で、こうした分野(経済地理学、国際経済学)を学べると知ったのが大きな理由です。
平川:入試問題を通じて一橋大学にシンパシーを感じたとは。入りたい学部は最初から明確だったのですね。
小森:数学も好きだったので経済学部一択でした。また在学中に留学をしたいと考えていたので、留学制度が充実しているところにも魅力を感じましたね。
平川:松田さんが一橋を選ばれたのは、どのような理由ですか?
松田:きっかけは、高校1年の時に行ったKODAIRA祭(春の学園祭)です。当時の僕は勉強面が遅れに遅れていて、3年後はどうなるんだろう...と不安を抱いていたのですが、KODAIRA祭の受験生応援企画で、齢の近い先輩たちがとてもポジティブなアドバイスをしてくれて。そこで世界が大きく開けた感覚があり、一橋大学という環境に身を置けば学ぶことを楽しめそうだと思いました。そこから進学を真剣に考え始める中で、世界史で学ぶ人間社会の盛衰のサイクルに興味が湧き、勉強が軌道に乗ってきたんです。
平川:そこから社会科学の一橋大学へ、という選択肢が見えてきたのですね。
松田:そうですね。一橋大学の法学部は、法律や法学と国際関係がセットになっているのが魅力でした。歴史の事実を学んで国際的なリスクを認識するだけではなく、今生きている世の中がどういうものなのかを知り、その中で自分が何かに取り組める手がかりをつかめるのではないか?と思い、法学部に進みました。
自ら鍛錬を重ね、組織として人を成長させる
醍醐味を知った端艇(ボート)部での4年間
平川:学生生活で強く印象に残っていることは何ですか?
小森:一番は端艇(ボート)部(以下、「ボート部」)の活動ですね。大学4年間は部活一色でした。新歓期に話した先輩たちの、大学生活を捧げて一つの目標に挑戦する潔さにとても惹かれたんです。長期留学と部活のどちらをとるか、かなり迷いましたが、「日本一を目指す機会は今しかない」と言われて「確かにそうだ」と。思い切って入部を決めました。
平川:一橋大学のボート部はオリンピック選手も輩出していますよね。規模も大きくて、部活に対する熱量が非常に高いメンバーが揃っている印象です。
小森:はい。100名以上の部員と戸田の合宿所で家族のように暮らしながら練習をしていました。「日本一」という一つの壮大な目標に向かって、チーム一丸となって努力し続ける環境に身を置けたのは本当にいい経験でした。中でも3年の時に漕手から運営マネージャーに転向したことが大きな転機になりましたね。
平川:マネージャー職は自ら志願されたとか。立場が変わってどのような変化がありましたか?
小森:漕手の時は自分がレースでいい成績を出すことが第一でしたが、マネージャー転向後は、いかに間接的にチームに貢献するかを意識するようになりました。特に、新入部員の育成担当を務めた際、最初は腹筋も満足にできなかった新人が立派にボートを漕げるようになり、レースでメダル獲得する姿を見たときは本当に嬉しかったです。組織として人を成長させるプロセスを体感できたことは、今のキャリアへの方向性にもつながっていると感じます。
KODAIRA祭の実行委員長として
二度とない感動をつくり上げた充足感
平川:松田さんの学生時代の印象的な出来事を教えてください。
松田:はい。平川さん、KODAIRA祭(春の学園祭)の時はありがとうございました。
平川:こちらこそ!松田さんが2年生でKODAIRA祭の委員長をされていたときに、私は1年生委員として受験生応援企画に参加しました。松田さんは、1年生委員160名を2~3か月間で束ね上げてイベントを成功させる、という大きなミッションを背負う2年生委員のリーダーで、求心力のある人だなと尊敬していました。
松田:私自身1年生委員として活動したときに、自分が高校時代に好きだったKODAIRA祭に関われる感動や交友関係が広がる喜びで本当に楽しい経験ができたので、次年の委員長を引き受けたんですよね。2年生委員がやるのはいわゆるマネジメント業務で、1年生の時とは全く違ういろいろな困難に向き合い衝突しながらも、「1年生委員や来場する学生、新入生のためになるものをつくりたい」という思い一つで、がむしゃらにやり切った感があります。あんなに感動的な体験は一生に一度だと思いますね。
平川:2年生委員は1年生が楽しく活動に取り組めるように導いてくれて、進捗もきっちり管理してくれて。学年が1年違うだけなのに、本当に大人だなと当時感じていました。
松田:いや、悩みの連続でしたよ。どう伝えれば1年生が納得してついてきてくれるだろうか、と考えたこともなかった問いに向き合って。この時期から一気に、自分の使う言葉やコミュニケーションの取り方が変わっていったように感じます。おかげで交流の幅がさらに広がり、同期の絆も一段と強くなりました。
語学力とプレゼンスキルも磨かれた
All Englishのゼミ授業
平川:小森さんは授業でどのようなことを学びましたか?
小森:古澤 泰治先生(現東京大学大学院経済学研究科教授)の国際経済学のゼミを専攻し、世界各国の貿易を通じた経済発展のプロセスなど、ケーススタディも交えながら、、国際経済・貿易について幅広く学びました。授業はAll Englishで、質問やディスカッションも英語。最初は質問されても聞かれていることがよく分からなかったのですが(笑)、徐々に言いたいことが言えるようになり、語学面の成長も併せて感じられた有意義な時間になりました。
平川:ボート部とAll Englishのゼミを両立されていたのはタフですね。特に印象に残っていることはありますか?
小森:ソウル大学で開催された、他大学のゼミとお互いの研究成果を発表し合う合同ゼミに参加した際、アジア諸国の大学生のレベルの高さに衝撃を受けました。プレゼンテーションが素晴らしかったですし、発表会後の交流会でも主張や質問が飛び交うなど、皆、会話力もとても高くて。学んだ内容をアウトプットするスキルが自分に足りないことを痛感し、その後の自己研鑽に励む大きなきっかけになりました。
国際情勢の変化を当事者としてとらえ
自分なりの答えを生み出す力が鍛えられた
平川:松田さんはどのようなことを学んでいましたか?
松田:秋山信将先生のゼミで、国際安全保障や国際政治経済を専攻しました。私も小森さんと同じく国内外の大学で開催された合同ゼミに参加し、過去・現在・未来を通して社会に対する理解を一歩でも深めようという試みに大きな刺激を受けました。またケンブリッジ大学のゼミに参加したときにちょうどパリで同時多発テロが起き、宿泊していたロンドンも厳戒態勢になり街並みが一変したんですね。当時は移民政策をテーマに扱っていたのですが、現地で移民への対応が厳しくなる様子を目の当たりにして、日本では味わえない緊迫感と当事者意識を肌で感じました。卒業論文執筆時は、秋山先生が学外に出向されており、市原麻衣子先生にもお世話になりました。
平川:まさに現実に即したテーマ選定ですね。ほかにはどのようなテーマを取り扱いましたか?
松田:イスラム国が激化する中での中東情勢のとらえ方や、ブレグジット、トランプ政権の動向などですね。アクセスできた情報を自分なりに解釈し、数多くの論文を読んだりして、調べるだけでは答えが出てこないような問いに答えを見つけてアウトプットする力が鍛えられました。また、ゼミでは自分が学んだことを周りと共有して議論の前提としていく作業も必要で、ここでも伝える力が鍛えられましたね。仲間と一緒に取り組むゼミだからこその経験ができたと感じています。
グローバル企業の一員として、
コーポレートコミュニケーションの一翼を担う
平川:松田さんはトヨタ自動車に入社されていますが、どのような経緯があったのですか?
松田:学生時代、国際社会の変化が激しさを増す中で、漠然とした不安を抱いていました。社会の変化に今後も高い関心を持ち続けたいと考える中で、その変化に晒され、対応を迫られているであろう産業界、中でも日本の基幹産業の話を聞いてみたいと思いました。そんな中で、トヨタ自動車の方と長時間話す機会に恵まれ、グローバルに多様な事業を展開する中での答えの無い難しさや責任の重さに、さまざまな業務を担う社員一人ひとりが当事者意識を持って、愚直に取り組んでいるのではないかと感じたんです。社会の不安定さ、将来事業の不透明さが増す世の中であっても、世界中で事業を行う企業は社会の変化やリスクに対するアンテナ感度を高めて、技術面でも公正な競争をしていきながら、変化に柔軟に対応していくしかないと感じました。言葉を整理しながら自分の関心事を改めて実感し、この会社の一員として、世の中の激しい変化に、当事者として向き合いたいと思いました。
入社後は海外の政策・政治対応を行う海外渉外部に配属され、アジア地域を担当した後、2020年からワシントンD.C.のオフィスに1年3か月ほど出向する機会をいただき、アナリストやロビイストと一緒に働いていました。
平川:2020年といえば、かなり政治経済が混乱していた時期ですね。
松田:そうですね。コロナ禍、Black Lives Matter、そして大混乱の大統領選挙など、「政治はこれでいいのか」と問われる課題、社会の分断が勃発する目まぐるしい日々を過ごすことになりました。帰国後も米州地域を担当し、経済産業省、外務省の方々や、各国の大使館の方等と日々やり取りをしながら、業務を行っています。
平川:自動車産業は変革期の真っただ中で、例えば電気自動車の市場拡大への関心も高まっているように思います。トヨタ自動車の動向には、いつも注目が集まっていますね。
松田:社会の関心としては、やはりカーボンニュートラルや電動化と呼ばれる分野への関心が高いですね。おっしゃる通りで、地域毎に差はありますが電気自動車の市場拡大が進んでおり、さらなる技術開発、商品投入が進められています。一方で大容量電池用の鉱物資源獲得競争が激しさを増し、新たな課題も見えてきている局面かと思います。弊社はグローバルに、フルラインナップの車種で事業を行っており、各国の経済、電力インフラ、お客様のニーズに向き合い、できる限り早く、できる限り多くの排出削減を行い、カーボンニュートラル達成というゴールに貢献する責任があると思います。よく「マルチパスウェイ」と言っていますが、電気自動車100%ですべてが解決するのではなく、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車、水素を活用したモビリティまで、多様な技術の強みを活かして貢献していきたいという考え方ですね。豊かなモビリティ社会を提供しながら、カーボンニュートラルに向かって社会一丸となって進んでいくことを目指し、生産~リサイクルや、エネルギーバリューチェーン全体で、産業横断で、政府とも連携しながら課題に取り組むことが求められているのだと思います。
平川:今後のキャリアとして、目指したいことはありますか?
松田:渉外広報というカテゴリーには強い関心を持っています。人と情報のネットワークや、国際政治経済に対する感度をさらに磨き、グローバル企業としてあるべきコミュニケーションについて、より主体的に取り組めるようになりたいですね。また、今後さらに地域毎に多様な経営が進むなかで、事業の最前線である海外事業体にも再度赴き、グローバル本社との橋渡しをするコミュニケーターにもなれればと思っています。
金融経済の発展に貢献する中央銀行で、
市場の声を聞き、提案と発信を続ける
平川:小森さんは日本銀行にお勤めですが、入行された理由をお聞かせください。
小森:ゼミで金融政策の重要性を学び、中央銀行の各国経済の発展に貢献するアプローチに興味を持ったことがきっかけでした。また、一橋大学で学問を幅広く学べたように、仕事でも、その業界で視野を広げられる環境が良いと思っていたところ、日本銀行はお金の流通や発行、金融政策の立案・実行、調査・分析...と、業務の幅がとても広いんですね。国内外に拠点も多く、長く働くうえで魅力的だと感じました。
入行後は国際局での国際収支統計の作成・公表事務や、秋田支店での県内の景気動向調査、金融市場局での金融機関から担保として受け入れる民間企業債務の信用力審査に携わりました。直近部署では、金融市場の機能度を高めていく観点から、金融市場取引に関する調査・分析のほか、市場関係者の方々と意見交換を行う場の運営を担っています。明確な正解がない中で、関係者と連携して提案・議論・実行...と試行錯誤を続ける仕事は学びが多く、とてもやりがいを感じます。また、日本銀行では金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合(金融政策決定会合)があるのですが、そこでは、私たちが吸い上げた市場の声も、判断材料の一つとして勘案されます。間接的ではありますが、市場に影響を与えている実感がありますね。
平川:今後のために取り組まれていることはありますか?
小森:夏から、イェール大学の国際開発経済学の修士課程に1年間留学します。データ分析に活かせる計量経済手法のほか、行動経済学、特に「市場参加者がどのような判断で市場取引を実施しているのか?」という側面から、ファイナンス理論を学びたいと思います。留学は大学時代からの目標だったので、実現して本当に嬉しいですね。
平川:大学時代のリベンジを果たしたのですね!留学後のキャリアはどう描いていますか?
小森:金融・決済システムに関する国際的な制度設計に関わりたいです。日本銀行は日本の金融政策を実行しているイメージが強いかもしれませんが、世界の中央銀行の一つでもあるんですよね。各国の中央銀行や関係機関と協議しながら、円滑かつ安全な国際金融・決済システムを実現するために、日本としてどう貢献できるか?という課題に取り組んでいきたいです。
興味から世界を大きく広げ、
前向きに人間関係を育んでほしい
平川:これから一橋大学を志望される方に向けて、メッセージをお願いします。
小森:大学で自分の世界を広げてほしいですね。留学やインターンシップ、部活など、何でもよいので興味を持ったことを突き詰め、チャンスを積極的につかみ取ってほしいです。私にとっては、ボート部やゼミでの活動がそうですが、自分を形作る価値観と仲間を得られたことが大学時代の一番の財産でした。社会人になってからも、大学での経験や仲間を思い出すことで、改めて自分の信念や働く意義に立ち返れる。このように、パワーチャージできる環境をつくれることはとても大事だと思います。今回の留学でも、現地にボート部の同期や先輩がいることで本当に助けられました。今後も、多くの仲間と違う形で再会できるチャンスがあることを、とても楽しみにしています。
松田:私が伝えたいのは、人間関係に前向きであってほしいということです。人に興味を持って交流していれば、自分に興味を持ってくれる人が現れ、人生に大きな影響を与えてくれる出会いが間違いなく訪れます。お金やビジネスなど利害関係がない状態で多様な価値観に一気に触れられるのは学生時代ならでは。若い多感な時期に多くの人と交流を重ね、結果として多様な価値観を柔軟に受け入れられるようになれば、社会に出てからも相談し合え、手を差し伸べあえるようなつながりをつくっていけると思います。
小森:一橋大学の学生は、一人ひとりが、みんな何かしらの興味を持ち、それを追求し続けているところが面白いですよね。
平川:確かにそうですね。「これがやりたい」というブレない軸やこだわりを持っている人が多いと思います。
松田:私は人と人との距離が近いところに魅力を感じていました。学部を超えて人と触れあい成長できる環境がありますよね。ゼミや課外活動など程良い規模感の中で一人ひとりが頑張らなきゃと奮起できる空間がどこかに必ずある。自主性を持って頑張れる人同士がお互いに刺激し合い、今でも尊敬しあっていることを感じます。
平川:変わらず高めあえる関係性が築けるのも一橋大学らしさだということですね。本日は本当にありがとうございました。