自分の「好き」をより深く掘り下げられる一橋大学
2023年3月28日 掲載
社会で活躍する一橋大学卒業生の今をレポートする新企画「つなぐつなげる一橋」が今回よりスタートします。
本企画では、卒業して数年の卒業生たちに、一橋を選んだ理由や現在の仕事と今後のキャリアについて、リレー形式で語っていただきます。
第一回のゲストスピーカーは、川﨑絢未さん(2019年商学部卒、エムスリー株式会社勤務)と中村真梨さん(2019年法学部卒、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)勤務)です。
コーディネーターは、平川穂乃香さん(2018年経済学部卒、一橋大学大学院経営管理研究科経営管理プログラム修士課程1年)が務めてくださいました。
平川 穂乃香 (ひらかわ・ほのか)
2018年に一橋大学経済学部を卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社し、主に事業のリスク管理や経理業務に携わる。2022年よりグループ会社の株式会社日本アクセス(総合食品卸)に出向しながら、夜間に一橋大学大学院経営管理研究科経営管理プログラム修士課程へ通っている。
川﨑 絢未(かわさき・あやみ)
2019年に一橋大学商学部を卒業後、UDS株式会社に入社。中国・上海オフィスにてホテルなどの空間デザインプロジェクトの企画を担当。 2021年にエムスリー株式会社へ移り、製薬企業のマーケティング支援、新規事業の立ち上げ・運営、クリニックの開業支援を担当。 ビジネスとデザイン両方の視点から、医療者・患者の体験改善に取り組む。
中村 真梨(なかむら・まり)
2019年に一橋大学法学部を卒業後、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社。現在は人工衛星開発プロジェクトにおいて、ステークホルダーとの契約調整や新規プロジェクト立ち上げ等に携わる。
平川:川﨑さんは商学部、中村さんは法学部で学ばれていますが、そもそもなぜ一橋大学を選んだのか、その理由を教えていただけますか?まずは川﨑さんからお願いします。
川﨑:私はビジネスを勉強したかったからです。将来は好きだったファッションに関わる仕事がしたいけれど、絵が下手でデザイナーは難しそう。であればマーケティングや流通の知識を付けて、ビジネスサイドから業界に入り込もうと思いました。実践的なスキルを身に付けたかったので、商学部もしくは経営学部がいいなと思っていました。また、実は父の高校が大学に近く小さい頃から一橋の話を聞いていたこともあり、中学の時ぐらいから大学は一橋に行こうと決めていましたね。
平川:それで商学部を選んだわけですね。中村さんが法学部に進んだのはどのような理由ですか?
中村:高校の時世界史の授業に興味をもち、国際的な知識をもっと深く学びたいと思ったことがきっかけです。一橋大学は国際政治が法学部のカテゴリーに入っていたので法学部を選びました。高校1年の時にオープンキャンパスに行って、キャンパスの雰囲気に一目惚れしたこともモチベーションになりましたね。ゼミの授業が少人数制で、じっくり学べて楽しそうな印象がありました。
さまざまな歴史の事象が
体系的につながった青野ゼミ
平川:一橋大学に入学して、授業や学生生活で印象に残っていることはありますか?
中村:高校生の時に国際問題がニュースで数多く取り上げられたことをきっかけに世界史に興味を持ったのですが、高校生の時とくらべ、ぐっと深く、また理論と歴史の2つの面から多角的に国際関係について学ぶことができました。特に青野利彦先生の「アメリカ政治外交史」は毎週授業が楽しみで、ゼミも青野ゼミに決めました。通常ゼミでの輪読も勉強になりましたし、合宿で国際政治学のボードゲームをしたこと、他大学との合同ゼミで国内各地に行ったことも楽しかったです。
平川:部活動にもかなり熱心に取り組んでいましたね。
中村:はい。私はアーチェリー部で平川さんの後輩だったんですよね。国立キャンパスで授業を受けた後は小平国際キャンパスに移動して部活...の日々でした。アーチェリーは個人競技ではあるものの、試合はチームの合計点で競う団体戦。チームメイトと切磋琢磨した毎日は、本当に充実していました。
平川:雨の日も風の日も練習して、念願の一部リーグ昇格を果たして。部活を通じていろいろなことを一緒に経験しましたね。
中村:本当に。嬉しかったことも悔しかったこともたくさんありましたよね。あの時の経験が今も活きているなと感じます。
まさに実学!経営学の面白さを
教えてくれた沼上ゼミ
平川:川﨑さんは、授業がとても印象に残っているそうですね。
川﨑:そうですね。私は沼上幹先生のゼミに進んだのですが、入学してすぐに受けた沼上先生の経営学概論がとにかく面白くて、一橋大学に来て本当によかった!と思いました。学んだ内容が日常でどう活きて応用できるかという、まさに私が求めていた実学的な内容だったので。コンビニの棚の配置がどのように私たち消費者の視線を操っているかなど、学生でも身近な気づきがあるように内容を工夫していただいていたので、経営学の面白さに触れるきっかけになりました。
平川:私も大学院で沼上先生の経営戦略を受講したのですが、理論を経営にどのように活かすかを学べる点で非常に実用的で、また思考力が鍛えられる授業でした。
川﨑:ゼミでは毎週本を読んで小論文を書くのですが、本当に論理が通っているか、ほかにあり得る反証がないかなど、都度先生が添削・評価くださいます。「ここはこうしたらよかったのか」と、毎週毎週自分の知識が更新され、スキルが積み上がっていく実感がありましたね。
平川:沼上先生の赤ペン指導を、少人数のゼミで2年間受けると本当に鍛えられそうですね。サークルや部活動はやっていましたか?
川﨑:国際部のドラマセクションに所属し、英語劇の役者をやっていました。小平国際キャンパスに通って一日中稽古し、終電で帰る毎日が本当に楽しかったです。自分の誕生日がちょうど劇の本番前日ぐらいで、深夜0時に終電の南武線の中でメンバーから誕生日メッセージをたくさんもらい、「大学って最高!」という気持ちになったのを覚えています(笑)。
平川:川﨑さんは、在学中に留学もされていますよね。
川﨑:3年の時に1年間、ハーバード大学に留学しました。せっかく一橋を離れるので、元々のパッションに近いデザインやアートへの興味を深掘りする1年にしようと。特に後期セメスターに受けた建築デザインの授業がすごく面白く、この領域と元々学んでいたビジネスを掛け合わせた仕事がしたいと思って帰国し、新卒で空間デザインの会社に企画職で入社しました。留学のおかげで、好きだったデザインと一橋大学で学んだことがつながった感じですね。
デザインでQOLを上げる。
ヘルスケア業界に課題を見つけ
新規事業にもチャレンジ
平川:今のお勤め先ですが、川﨑さんは空間デザインの会社から、エムスリーに転職されていますね。
川﨑:はい。新卒当時はオリンピック前のホテルバブルで、会社として手がける案件もホテルばかりというタイミング。一方で、私はもっと課題解決性の高い、そこにいる人の体験を改善する余地・価値の大きいプロジェクトに携わりたいと思っていました。留学したときに、感染症が蔓延していたルワンダ郊外のクリニックを、換気システム含むデザイン上の工夫で改善し、その地域での感染症罹患率を大幅に下げたというプロジェクトに触れました。そのクリニックがとても美しいだけでなく、デザインによってその地域に住む人のQOL改善さえ実現した、という点にすごく魅力を感じたのです。改善の余地がまだまだあるヘルスケアのような業界に身を移し、デザインを通じた体験改善に自分のキャリアを使っていきたいと考え、資金力があり一番新しいことができそうなエムスリーを選びました。
平川:やりたいことを実現するためのリソースがある企業を選んだのですね。
川﨑:そうですね。現在は大きく三つの業務に携わっています。一つはエムスリーの基幹事業である製薬企業向けのマーケティング支援。二つ目はがん患者さんとそのご家族を支援するコミュニティ事業の運営企画、そして三つ目がクリニックの開業支援です。まさにやりたかったことに近く、支援の一つとして内装デザインも提案させていただいています。
平川:充実したお仕事ぶりですね。今後やっていきたいことはありますか?
川﨑:リードしている医師向けの新規サービスが次年度ローンチを目指しているので、まずは無事世の中に出し、きちんと売上を立てること。それから、昨年度立ち上げた患者様向けサービスを本格的にマネタイズしていくのも次年度の課題です。新規事業立ち上げと事業継続という二つの課題に試行錯誤しながら、医療者とその先にいる患者様の課題解決に少しでも貢献していきたいです。
ロケットエンジン・人工衛星の
開発プロジェクトを法務面で支える
平川:中村さんはJAXAにお勤めですが、就活時の志望動機はどのようなものだったのですか?
中村:国際平和に貢献したかったという思いが一番だと思います。航空宇宙は、国境という概念もなく、地球規模の課題にアプローチできる可能性がある分野です。様々な国際問題がある中で、航空宇宙という視点から、未来の平和になんらかの貢献ができたらなと思いました。
平川:JAXAは理系の会社というイメージがありますが、入社してみてどうでしたか?
中村:実は当初理系のイメージをそこまで強く持っておらず、驚きと勉強の毎日でした。(笑)最初の勤務先は宮城県の角田宇宙センターという試験設備がたくさんある環境で、同期事務系の配属は私一人。そこで2年間勤務しました。
平川:1年目から1人とは、結構なプレッシャーですね...!
中村:最初は現場に近い場所へ行きたいという思いがありました。航空宇宙分野にこれまで全く馴染みがなかったこと、仕事のイメージもついていなかったことから、実際のモノがある環境に飛び込んでみたいなと。技術研究の分野に関わるのは初めてでしたが、自分の世界が広がる感覚もあり、周りの方にもすごく良くしていただけて、飛び込んでみて良かったなと思います。
平川:角田宇宙センターで、どのような業務をしていたのですか?
中村:角田宇宙センターでは主にロケットエンジンの研究開発を行っているのですが、その研究開発はJAXA単独で行っているのではなく、様々な企業・大学と連携して進めています。そしてその連携にはほぼ全て「契約」がベースにあるんですよね。そういった企業や大学との契約の調整業務、具体的には契約書に書かれている条件の交渉であったり、金額の確認などを行っていました。その他にも、広報イベントの運営や、地元小学校へのキャリア講演など、幅広い経験が出来ました。
平川:今は東京勤務だと伺いましたが、仕事内容は変わりましたか?
中村:現在は人工衛星開発のプロジェクトで、引き続き契約担当として取引先との契約調整を行っていたり、新規プロジェクト立ち上げにも関わっています。JAXAは国の予算で事業を運営しているので、利益を出すという観点ではなく、適切に予算を執行するという観点での確認も求められますね。
平川:契約の知識は学生時代に学んだものですか?
中村:契約業務に関連する知識としては民法や知財関連の法律、また簿記も背景知識として役立つと思います。学生時代は法学部であったものの法律の授業をあまり履修していなかったので、社会人になってから学び直したというのが近いです。実は2023年から一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻に通うことになりました。実務を行う中で、私法、特に会社法といった経営に関する法律への理解を深めたいと感じるようになり、進学を決めました。
平川:合格おめでとうございます!大学院では一定の幅と深さがある知識を体系立てて吸収できますし、意欲のある学生と仕事を超えたネットワークができるので本当に良い経験になりますよ。仕事との両立はなかなかハードで、かなり寝不足にはなりますが(笑)。中村さんはこれから会社でやってみたいことはありますか?
中村:法律についての専門性を高めたいのはもちろん、ビジネスの観点にも興味を持っているところです。航空宇宙はこれからますます広がる可能性のある分野で、民間企業も数多く参入してきています。JAXAは航空宇宙産業全体の発展を盛り上げるの立ち位置にあるので、企業の事業活動を後押しするような枠組みづくりに、特に法務面で貢献できればと思います。
ゼミで培った思考力が
社会での自分を支えている
平川:お2人ともお仕事が充実している今、改めて一橋大学で学んでよかったと感じていることはありますか?
川﨑:やはりゼミでの経験に尽きます。先生にじっくり指導していただけたこと、思考力の高い同級生と少人数でしつこく議論できたこと、本当に贅沢な時間だったと思います。沼上先生は常に、「結論が直感に反しているかどうかが重要」とおっしゃっていて、あたりまえを疑わせるような、引っかかりがあるトピックで論文を書いているかどうかを繰り返し問われました。人が読んで面白いと思うことが書けているかにこだわる姿勢は、人が面白いと思うものをつくれているか、という今の仕事でもベースになっている観点を与え、思考力を鍛えていただいたと思います。
平川:大学院でワークショップレポート(修士論文)のテーマ設計を考えるときにも、そこは先生方からよく言われます。これは本当に正しいのか、これはどうして魅力的なのかという引っかかりを掘り下げていく。このスキルは新規事業などを提案するとき、特に活きるのではないかと考えます。
中村:私も川﨑さんと同じくゼミでの経験が印象的で、深い思考力がつくというのはまさにその通りだと思います。その他だと、学部間の垣根が低く、他学部の授業を取りやすかったのもよかったです。大学の時にたまたま取っていた他学部の授業内容が、意外と今の仕事につながっていたりしますので。他学部の学問について存在を知るだけでも、今後の選択肢の幅が広がるのではないかと思います。
平川:他学部の友だちに「この授業が面白いよ」と教えてもらって、じゃあ私も受けてみよう、ということができたのは一橋大学の魅力かもしれませんね。キャンパスも全学部が一緒なので、学部の垣根を越えた交流が自然と行われていたと感じます。
中村:最初の語学のクラスも全学部一緒でした(当時)。自然と他学部の友達ができるのも、今思えばとても良かったです。
受験対策は各学部の配点を理解し記述のトレーニングを計画的に
平川:話は少し遡りますが、一橋大学を受験したときどんなふうに勉強しましたか?お2人ともスマートなので、それほど苦労していないのでは、と思いますが(笑)。
川﨑:いや、苦労しました(笑)。私は予備校に行かなかったので自分で目標を定め、毎日ストップウォッチで勉強時間を計って追い込んでいました。
平川:一橋大学の試験問題は他大学と比べても記述する量が多いですからね。特に日本史や世界史は論述式なので書くトレーニングが必要。数学も大問の解答を時間内に書き上げる力が問われます。
川﨑:学部によって配点が分かりやすく違うので、戦略が立てやすいというのはあります。商学部だと英語と数学ができなくてはなりません。私は数学が苦手だったので、勉強時間の9割は数学に費やしました。でも一橋大学受験に向けた勉強のおかげで、最終的に数学が大好きになりましたね。
平川:経済学部は数学が鍵でしたので、私も数学は必死に勉強しました。
中村:法学部はバランスのよい配点なので、極端に得点の低い科目がないように勉強しました。記述については、学校の先生に添削をお願いしました。配点の特性を見ながら、目標をしっかり持って勉強するという感じでしょうか。
平川:そうですね。受験日から逆算してこのタイミングまでにはここまでやる、と目標を立てて少しずつスケジュールを完了していくのがいいと思います。
川﨑:私は英語のリスニングがてら、息抜きに海外YouTuberの動画を見ていました。昼休みの1時間だけごはんを食べつつ、彼女たちが服を爆買いして紹介している動画などを見て、受験が終わったらこういうことするんだ!と。
中村:モチベーションは大事ですよね。私は高校時代に部活をやりきってから引退したので、充実感があってスムーズに受験勉強に切り替えられた気がします。
好きなものを見つけて
大事に育てていく大学生活を
平川:最後にこれから一橋大学を受験する方・入学する方に向けてメッセージをお願いします。
川﨑:好きなものを見つけ、究めていけるような大学生活を送ってほしいですね。一見役に立たないように見えることだったとしても、それを好きであること自体が他の人にない才能であって、突き詰めれば絶対に自分ならではの個性や強みになっていくと思います。私もファッションが好きということから始まって空間デザインが仕事になり、今の会社でも、空間デザインの知識があることが私の強みとしてやりたい仕事を掴むきっかけになっています。周りに何と言われても、好きなことを大事にして時間やお金をかけていけば、最終的にはやりたいことに早く近づけるように思います。
中村:本当に。今自分が好きだと思っていることを大事にしてほしいです。私も高校生の時はなりたい職業がなくて、将来の夢を明確に持っている友人を見て焦ることもありました。でも高校では世界史、大学では国際政治、社会人では法律と、その時の関心に都度向き合ってきたことで、今ようやく納得感のあるキャリア像が見えてきた気がします。この先も興味関心は変わるかもしれませんが、それも含めて楽しんでいきたいですし、もし進路に悩む方がいれば、それくらい気軽な気持ちで考えてもよいのではと思います。一つアドバイスするとしたら今思っていることや興味のあることを言語化してみることでしょうか。職業という名詞にこだわらず、文章にしてみることをオススメします。言葉にした上でそれを周りの人にも話してみると、チャンスの幅が広がると思いますので、ぜひ周りの人ともいろいろ話してみてください。
平川:お2人ともありがとうございました。一橋の魅力は素敵な同級生や先生方、OB・OGなどがたくさんいることで、ここで培ったネットワークは貴重な財産になると思います。これから学ぶ皆さんも大学生活でぜひいろいろな人と出会ってほしいですし、いろいろなことに興味関心をもって、それを深く掘り下げて、自分が進みたい方向を見つける良い機会にしてほしいですね。
(2022年12月談)