学内シェア9割以上、一橋大学生専用の時間割アプリ 「バシコマ」をリリース。持続的な運営のためにBashikoma合同会社を立ち上げる

2025年12月22日 掲載

  • 経営管理研究科修士課程1年 竹内 昭広さん

竹内 昭広さん

2021年に一橋大学商学部に入学した竹内昭広さんは、履修登録や時間割作成に手間がかかると感じた経験から、仲間とともに時間割アプリの開発に着手。「自分にとって便利なものを」という思いからの挑戦が、リリース後も改良を重ねるうちに学内シェア9割以上を誇るまでに拡大しました。今では一橋大学生の学生生活を支えるインフラともいえるアプリに成長した「バシコマ」。開発の裏側や今後の挑戦について、竹内さんにお話を伺いました。

一橋大学生に特化した時間割アプリ「バシコマ」を開発

バシコマのロゴ

時間割一覧の画面

実際の時間割一覧の画面。UIも順次進化し、学生たちにとって良質なインフラとなっている。

今現在(2025年)、一橋大学で学んでいる学生であれば「バシコマ」を知らない人はいないだろう。「バシコマ」は、コンピュータ研究会に所属していた3人を中心に制作された、一橋大学生に特化した時間割アプリである。もしかしたら学生たちは皆、今期の時間割も「バシコマ」で管理しているのかもしれない。

アプリ開発に着手した背景には、入学して間もなく竹内さんが感じた「オンラインでの履修登録や時間割づくりが複雑で分かりにくい」という問題意識があった。入学して最初の履修登録で、画面を行き来しながら情報を探すのに手間を感じたのである。検索はできるものの、授業の比較や保存をする際に工夫が必要で、もう少しスムーズになればという思いが芽生えた。

「検索画面や検索結果のUIがあまり整理されていなくて、情報を読み取りにくいと感じました。春学期科目と春夏学期科目を別で調べなければならず、検索性の面でも改善の余地がありました」

履修を検討するプロセスでは、授業を見つけても保存ができず、再度検索をし直さなければならないことも多かった。さらに、一橋大学の学務情報システム「CELS」は一定時間が経つと認証が切れるため、再ログインを求められることも学生にとっては小さな負担であったという。実際の履修決定には、シラバスを検索して内容を確認しながら入力するという二重の作業が必要で、竹内さんは「もっとシンプルにできないかな。システム化すれば便利になるのではないかな」と考えるようになったという。

「最初から『みんなに提供しよう』という大きなビジョンがあったわけではなく、『自分にとって使いやすいものが欲しい』という気持ちから始まりました」

春の履修登録をきっかけに、学生のインフラとして定着

インタビュー中の様子01

ちょうど1年生の冬休みでまとまった時間があったため、その時間を活用して、所属していたコンピュータ研究会の有志と一緒につくったのが「バシコマ」だった。サークルにはエンジニア志向の人やデザインを学んでいる人もいて、3人で集まって開発を進める中で、課題を管理できるリマインダーや、同じ授業を取っている人を一覧できる機能など、自分たちがユーザーとして欲しいと思う機能を中心に盛り込んでいった。

さらに、周囲の友人に実際に欲しい機能を聞きながら開発を進めたことが、結果としてユーザーインタビューの役割を果たしていたようで、一橋大学生の、一橋大学生による、一橋大学生のための時間割アプリができ上がっていった。SNS経由で「友人とのチャット機能が欲しい」といった要望も寄せられたが、それは既存のSNSで十分に代替可能だと判断し、採用はしなかった(その後、利用方法を再検討し、授業チャットとして2025年9月から実装)。

「既存のツールで代わりがきくものは入れず、このアプリならではの独自性を大事にしました」

2022年6月にβ版、11月に正式版をリリース。当時の利用者は数十人から数百人だったが、翌年4月の履修登録期になると一気に利用者数が広がり、数千人規模に達した。現在は一橋大学生の9割以上が利用しているという。

「多くの方に便利だと言っていただけるのが、友人の時間割が見られる機能です。友人がどの授業をとっているか分かるので、昼休みにランチに誘いたいときや、空きコマに一緒に課題をしたいときなどに便利に使っていただけます」

学業から就職まで、学生生活をつなぐ情報ハブへと進化

インタビュー中の様子02

アプリには、直感的な操作性と必要不可欠な情報とがまとまっている。不要なものは極力入れないという基本姿勢は変わらない。

今では、時間割だけでなく学生生活の外側にまで領域を広げて、サークルやゼミの情報のほか、「一橋新聞」(一橋大学の課外活動団体「一橋新聞部」が発行する新聞)や「HQウェブマガジン」の更新情報とも連動している。また、企業とも連携し、インターン情報を提供するなど、情報のハブとしても機能し始めている。

アプリが広く使われるようになった今、「バシコマ」は一橋大学生にとってインフラの一部のような存在となった。そのため、竹内さんは、責任感を持って運営することを強く意識している。情報の安全性やシステムの安定性のほか、アプリ自体の継続性についても考えている。ユーザー数の増加に伴ってデータ処理にコストがかかるようになった。また、一緒に開発をした2名はすでに大学を卒業しており、自身の大学院修了を考えると、新たな担い手の確保も必要だ。そこで、「バシコマ」が持続的に運営できる体制を整えるために、自身が代表を務める形で法人化に踏み切った。2024年春にBashikoma合同会社を設立し、同社が「バシコマ」の運営を担うことになった。

「これでとりあえず、私が社会人になった後も数年は継続してアプリを使ってもらえる目途が立ちました。企業にご協力いただいて得た収益を運営資金に充てることで、持続的にサービスを提供できるようにもしていきます。一橋大学に入学したときは、まさかこのような起業をするとは考えもしていませんでした」

行動することで、思いもよらない未来が拓けていく

インタビュー中の様子03

「バシコマ」は、今や一橋大学生にとってなくてはならないものだが、竹内さんにとっても、学生時代に仲間と協力してアプリを開発した経験は、有意義なものとなった。

「私自身は、好奇心が旺盛で行動力のあるタイプだと思っています。でもそれは、勉強中心の高校生活を送ったことの反省も影響しています。学生の間は何にでもチャレンジできる環境にあるので、やりたいと思うことがあれば、すぐ動いて、全部やったほうがいいと思います。出会った人を大切にして、その縁の中で自分ができることに一生懸命取り組んでいけば、必ずその先につながっていきます」

「バシコマ」の継続に目途が立ったところで、竹内さんは自身の将来に向かって動き始めている。

「学部1年の後半に田村俊夫先生(経営管理研究科教授)のゼミでコーポレートファイナンスに出合い、企業価値評価の面白さに強く惹かれました。会計分野は浪人生の時から勉強を始め、入学後に本格的に勉強を進めていて、得意ではありましたが一生の仕事にするには少し物足りなさを感じました。その点、コーポレートファイナンスは会計の知識を基盤にしながらも、企業の将来や戦略、市場環境まで見据えて判断を下す必要があり、数字以上の発想力と分析力が求められるところに大きな魅力があります」

竹内さんにとって、商学部の授業はどれも興味深いものだったという。特にコーポレートファイナンスと、学部2年生から参加した「データ・デザイン・プログラム」での経験が、「投資銀行での仕事をしてみたい」との夢につながった。

「将来の方向性は一度決めたからといって固定されるものではありません。私自身も官僚になりたいと思った時期や、会計士の勉強をした時期もありましたが、学びや経験を通して関心は少しずつ変わっていきました。その都度、出会った人の話をよく聞き、自分自身でよく考え、方向を変えながら歩んできた結果が今につながっています。変わり続けること自体を楽しみながら行動していけば、その経験がきっと次につながると思います」

ENVIRONMENT

学びの環境