大学と学生でつくる「開かれた一橋」
2024年10月2日 掲載
創立150周年記念事業/「多様性に関する学生活動応援プロジェクト(サスプロ)」
創立150周年記念事業の施策として実施された「多様性に関する学生活動応援プロジェクト(通称サスプロ)」。DEI(ダイバーシティ、エクイティ及びインクルージョン)推進につながるアイデアを学生から公募し、大学がその活動を支援していくプロジェクトで、第一期では4グループが採択され始動した。その中の一つであるMCP(Mutual Connection Point)は、交換留学生と一般学生との交流促進を目的に課題解決に取り組んでいる。取組の推進の成果や新たに見えてきた課題は何か、そして活動をどのように未来へとつなげていくのか。約半年間活動を続けてきた、推進メンバーの5人に語っていただいた。
サスプロにエントリーした経緯や目的を教えてください。
臼井:交換留学先のフランスで、大学からのメールを見てサスプロの開催を知ったのですが、【多様性】【学生が主体的に行動する】というキーワードに関心を持ちました。当時私が留学していたパリ政治学院は留学生率が約50%とまさに多様性に富んだ環境でしたし、学内で積極的に課題を見つけ人を巻き込んで解決するような活動をやってみたいと1年生の頃から考えていました。そこで、既に他団体の副代表の経験がある松下さんに相談し、一緒にMCPのプランを提案することにしました。
松下:一橋大学にはすでに国際交流に関心がある学生と留学生をマッチングさせる団体が数多くありましたが、MCPは国際交流に関心が薄い学生にもアプローチすることを目的としています。
友永:以前から学内の食堂や教室で、一般学生と留学生が積極的にコミュニケーションを取らないような場面があり、せっかく同じ大学で学んでいるにもかかわらず、語学を使って留学生と積極的に関わろうとする学生が少ないと感じていました。そんな環境を変えるきっかけになればと思い、このプロジェクトへの参加を決めました。
具体的にどのような活動を行いましたか?
臼井:まず、多くの関係者にご協力いただき、現状把握のためのヒアリングを行いました。その結果、日本の大学生活において重要な役割を果たしている部活やサークル活動に留学生も参加できるようにサポートすることで在校生と留学生の交流がより深まり、学内コミュニティの多様性が広がる可能性にいきつきました。この点に関して、ダイバーシティ推進室の責任者である野口副学長や国際課を統括する阿部教授にもアドバイスをいただき、さらに新歓委員会の委員長とも対話を重ね協力体制を築きながら制度の変革を試みました。
友永:中でもクラブ活動やサークルは、英語での情報発信や連絡の不足から留学生が参加しづらい状況があり、結果として留学生同士でしか交流しないことにつながっていました。
片山:たとえば体育会の部活は短期の留学生を選手として受け入れることが難しかったり、言葉の壁や費用負担などの理由で受け入れに前向きではない部活やサークルもあったりしましたが、少しでもそういった団体に留学生を受け入れる環境をつくってもらえるよう交渉を重ねました。
臼井:こうして実現した事例としては、3月末に実施したウェルカムプログラム(ウェルカムセレモニーと部活サークル体験ツアー)があります。こちらには25カ国150人以上の留学生と一般学生が参加してくれました。
山村:MCPの組織は、発起人のお二人(松下さん、臼井さん)が全体を統括し、メンバー9人が属する広報班、渉外班、企画班という3グループから成っています。私は広報班のリーダーで、一般学生に向けたサスプロの認知度向上とサークル体験会への参加促進を考え活動していました。サークル体験会ではSNSでの募集と知り合いへの声かけで一般学生が約20人集まった一方で、留学生は25か国から約120人が集まってくれました。
片山:私も留学生、一般学生双方に対しイベント告知を中心とした広報活動を行いました。またSNSを通して、サスプロやDEIの推進に関する知識を深められるような発信を日本語と英語で行ってきました。
友永:私は企画班のリーダーとして、ウェルカムプログラム2日間の全体の内容と構成を担当しました。1日目のウェルカムセレモニーでは、日本についてのオリエンテーションや先輩留学生に体験談を語っていただく場を設けました。2日目のサークルツアーでは、事前に留学生と部活、サークルにアンケートを実施して希望や受け入れ状況を確認しておき、当日は交流に関心のある団体や個人の方にツアーガイドとして同行してもらいながら少人数のグループで学内の部活やサークルを訪問していただきました。以降も体験会を開催し、参加までの交渉などをサポートしています。
松下:そして現在も継続して二つのことに取り組んでいます。一つは、実際に留学生が情報を得た後、コミュニティ(部活、サークル)に入る手助けをすること。もう一つは、MCPの活動を長期的・持続的な取り組みにするため大学との交渉を行うことです。
MCPの活動で感じた手応えや課題はありましたか?
山村:コミュニケーションの重要性を感じました。課題の解決に向けていろいろな機会につなげるためにも、大学と学生、学生間のコミュニケーションを増やす手段として意義を感じたプロジェクトでした。私たち学生の意識が大切であり、学生が適切な場でしっかりと意見を言えることを認識してもらえた場にもなったと思います。
片山:私たちがアプローチを続けたことで、多くの学生や団体に「留学生を受け入れよう」という意識を共有してもらうことができ、大学側にも「受け入れが進んでいない状況がある」という事実を把握してもらうことで次への課題意識を持ってもらえたと感じています。また、これまでも学生主体の留学生と一般学生の交流促進のための活動はありましたが、このサスプロは学生と大学が協力して課題解決のためのアプローチをするという部分において新しい試みだったと思います。多くの人を動かす上でやはり大学の支援が効果的であると感じたので、これからも学生と大学が協力した形での交流促進が続いてほしいと願っています。
友永:サークル体験会では、今まで線引きをされていた一般学生と留学生の領域を少しだけつなげることができましたが、入学後の留学生の生活においては一般学生と対比するとまだ足りていないところが多いと思います。一橋大学が世界的な学術機関として発展していくためには、時代に合わせてアップデートする必要があるとともに、内側から変えていこうという思考が醸成されていくことが欠かせないのだと思います。
松下:私はこのプロジェクトを通して、大学を「課題を発見して解決を実践する場」として見直すことができたと感じています。自分たちが影響を与えられる場、課題解決を推進する場として大学はちょうどよい規模感だと思います。
臼井:松下さんに声をかけるという一歩を踏み出した結果、構想が大きく広がり、強みや考え方が違ういろいろなメンバーが集まってくれ、学生では珍しい体験を生み出すことができました。入学式に祝辞でいただいた「模範解答がない問題に、解を生み出すプロセスをぜひ4年間で学んでください」というメッセージが強く印象に残っているのですが、今回MCPで実践したのはまさに解答のないプロセスへの挑戦でした。一橋大学はそういう意欲を応援してくれる環境が揃っていることを、これを読んでくださっている受験生の皆さんにぜひお伝えしたいです。
最後にMCPの活動を通して、皆さんが一橋大学に思い描く未来は?
松下:こういった活動があと5年位は持続できるようにしていきたいです。そのために必要なことは二つあります。一つは大学との共同の枠組みを残したまま継続させていくこと、そしてもう一つは思いが息づく組織にしていくことです。環境もいろいろと変わる中で、一番大切なのは、達成への思いを持つことと考えること。この二つをしっかり持った人たちが集まる組織になってほしいです。
友永:一般学生同士の交流と同様に、留学生との交流が当たり前になることですね。留学生と一般学生がお互いに視野を広げていけるよう、大学と学生が共同でより良い大学の環境づくりができるようになっていってほしいです。
片山:私も、こういったプロジェクトがなくても留学生が一般学生に溶け込んでいるという状態ができてほしいと思います。
山村:プロセスも重要ですが、オープンマインドな人をいかに増やせるか?を大事にしていってほしいですね。「〇〇だからやらない」ではなく「〇〇だけどやってみよう」という思考ができるような環境に変えていくことが重要なのではないかと思います。
臼井:最後は個人的な思いになりますが、数ある中から一橋大学を選択してくれた留学生にとって、一橋大学が将来の大きな選択に繋がる留学生活を送れる大学であってほしいと思います。一橋大学に来る留学生は世界のトップクラスの大学から来ており、将来の産業界や経済界のリーダーの卵でもあります。そのような留学生達に短期間ではあっても日本社会への関心を深めてもらい、将来彼らが行動する際に一橋大学から始まった日本での生活を思い出してもらえるようにしたい。そういう連鎖ができることで、日本がグローバル社会の中でプレゼンスを保つことができると考えています。