【法曹コース第1期生座談会】
法曹コース修了第1期生全員が、学部3年+法科大学院2年で司法試験に在学中合格!

2024年7月5日 掲載

坂上航太郎

参加者:坂上航太郎
(出身校:私立海城高等学校)

渕山嵩央

参加者:渕山嵩央
(出身校:東京都立西高等学校)

南秀太

参加者:南秀太
(出身校:神奈川県立柏陽高等学校)

髙橋真弓准教授

モデレーター:髙橋真弓
大学院法学研究科准教授

5人全員が在学中受験で司法試験に合格

一橋大学法学部は、2020年度から、法学部と一橋大学法科大学院の既修者コース(2年)とを接続させる「法曹コース」を開設。2019年4月以降の法学部入学生を受け入れ、その第1期生が、2024年3月、法科大学院を修了した。法曹コースから法科大学院に進んだ5人全員が学部の早期卒業を経て、法科大学院在学中に司法試験に合格した。

大学入学後に法曹コース設置のアナウンスがあった第1期生の中には、法曹コースがなければ法曹を目指すこともなかったと話す学生や、法学部を3年で卒業して法科大学院で学ぶことに不安もあったと話す学生もいる。奇しくもコロナ禍が重なり、大学としても手探りの中、どのように学びを進めていったのだろうか。

今回は、3人の修了生と、法学研究科の髙橋真弓准教授に、第1期募集告知から司法試験合格までのすべてを語っていただいた。

■「法曹コース:パターン1」(法学部3年+法科大学院2年)

法学部を3年で卒業し、法科大学院既修者コース2年間の教育課程である。司法試験(在学中受験)を経て、最短5年で司法修習生になることが可能なコース設計になっている。

画像:「法曹コース」(法学部3年+法科大学院2年)

■「法曹コース:パターン2」(法学部4年+法科大学院2年)

法学部に4年間在籍し、所定の成績を収めることで、一橋大学法科大学院への一貫教育型教育選抜の対象になる。学士課程の在籍期間に少しゆとりができることで、派遣留学等の経験を積むことも可能である。

画像:「法曹コース」(法学部4年+法科大学院2年)

法学部入学後に募集が告知された法曹コース第1期生

座談会の様子

髙橋:司法試験合格、おめでとうございます。まず、皆さんが一橋大学へ進学したきっかけを教えていただけますか。

坂上:私は、法科大学院の司法試験の合格率が高いこと、そして他学部の授業が必修であることを知り、進路の可能性が広がると考えて志望しました。

渕山:高校生の時に一橋大学のオープンキャンパスで受けた模擬授業が面白くて、法学部への進学を決めました。ただ、その時点では、法曹を目指すことは考えていませんでした。

南:私は中学生の頃から弁護士になりたかったので、法科大学院の司法試験の合格率の高さに魅力を感じて入学しました。入学した時は法曹コースや予備試験についての知識はありませんでした。

渕山:法曹コースについての説明は、入学後にあったと記憶しています。

髙橋:法曹コース設置のための文部科学大臣認定の申請準備が本格化したのが、皆さんが入学する直前でした。原則として2年から入るコースですが、1年から積み重ねて勉強していただかなければいけないため、厳密にはコース設置前でしたが、急いで説明会を開きました。

坂上:私も最初の説明会に行きました。法曹コースに入るには、かなり高い成績要件が必要だと聞き、1年のうちから真剣に勉強しなければならないと意識しました。

渕山:私は法曹を目指していたわけではなかったので、進路の選択肢の一つになればいいかなというくらいの気持ちで話を聞いていました。

南:私はせっかく大学に来たのだから、自分が学びたい科目を自由に履修したいと考えていたので、法曹コースに入るための高い成績要件に怯えながら説明を聞いていました。

髙橋:法曹コースに進むには一定の法律基本科目の履修を要件にしているので、必修科目が多くなってしまいます。結果として、同じ時間に開講している別の科目は選択できません。ただし、一旦法曹コースに所属して、後でほかの選択もできるような設計にしています。

法曹コースの独自科目「法律実務入門」でキャリアを考える

髙橋:皆さんが学部を3年で卒業しようと決められたのは、どのタイミングでしたか。

坂上:私は、初めから、3年で卒業できる制度があるなら早く法科大学院に進んだほうがいいと考えていました。

渕山:2年の終わりの「法律実務入門」の授業に参加して、法曹を目指そうと考えるようになりました。3年での卒業が可能な単位取得状況だと分かり、その段階で決めました。

南:私は3年の途中まで迷っていました。法曹コースの単位要件を考えると、自分が取りたい科目をすべて履修することはできないため、4年まで学部に在籍し、好きな勉強をした後で法曹コースから法科大学院に進学することも考えていました。ただ、一度1人で司法試験の勉強をしてみて、とても難しいことに気づきました。これは早い段階から本気で一緒に勉強できる人たちとともに学んだほうが良いと感じ、3年での卒業を決めました。

髙橋:「法律実務入門」は、法曹コース独自の科目です。一橋大学法科大学院を修了した弁護士が講師を務め、法律文書の書き方の指導からキャリア教育まで行います。法律事務所や裁判所を訪問して、法曹の仕事を実際に見てもらおうという授業です。いかがでしたか。

坂上:すごく良かったと思います。私は、親戚や親しい知人に法曹がいるわけではなかったため、弁護士、裁判官、検察官、企業法務や労働法務の実務家のことも知ることができました。

渕山:私もこの授業で進路を決めたと言っても過言ではないほど刺激的な体験でした。自分の仕事に魅力を感じて働いていらっしゃる実務家の方々の姿が見られたことも良かったと思います。

南:もともと法曹志望ではあったのですが、「法律実務入門」をきっかけに視野が広がり、企業法務系の事務所で働きたいと思うようになりました。

髙橋:法曹のキャリアに関して、かなり早い段階で接する機会になったと思います。今振り返ってみて、タイミング的にはいかがでしたか。

坂上:3年になる直前のタイミングで、仕事の魅力について講師の方のお話を聞く機会があったのは、学修へのモチベーションアップにつながりました。

渕山:私は進路が決まっていなかったため、一般的な就職活動を始める前に法曹のキャリアについて学べて良かったと思っています。

南:法科大学院に進学してからでは、司法試験のことで頭がいっぱいになり、就活やキャリアプランを考えることに集中できなかっただろうと思うので、いいタイミングでした。

法曹コースからの進学者には担任制を導入して不安を解消

髙橋:法曹コース第1期生は、先例がなく、先輩からの情報もないという状態で学ばれたと思います。しかも皆さんはコロナ禍の影響を強く受け、学部の授業も通例とはかなり違うものになりました。不安や困ったことはなかったですか。

坂上:法科大学院に入って1年ちょっとで在学中受験をすることになったので、本当に太刀打ちできるのか分かりませんでした。また、1年早く法科大学院に入ったことで、授業についていけるのだろうかという不安もありました。だからというわけではありませんが、法科大学院に入る直前には5人で自主ゼミを組んで勉強していました。

南:オンラインで3、4回やりましたね。

渕山:法科大学院の入試問題を解きました。今考えれば、よくやったなと思います。5人とも経験がないわけですから、誰もリーダーシップが執れない中での自主ゼミでした。

南:少なくとも私たち5人には、法科大学院の入試問題を解いていないという面での共通の不安がありました。5人いたので、自分だけじゃないと思えたのは良かったことです。

髙橋:第1期生は、不安が大きかったでしょうね。特にコロナ禍の影響で対面でのコミュニケーションが限られたことは残念でした。教員たちも心配していて、法曹コースから法科大学院に進まれる方には、それぞれに担当教員を置くようにしました。いつでも窓口になる教員がいたため、そこは安心していただけたのではないでしょうか。法科大学院はいかがでしたか。

坂上:最初は、ついていくだけで精一杯でした。法科大学院の授業ではソクラテスメソッドが採用され深い議論が求められたので、毎日必死で予習していました。

渕山:私は基礎ができていないこともあって、民事訴訟法の演習科目が一番大変でした。

南:ソクラテスメソッドは、全員が初めから武器を持っている状態で、「君たちはその武器をどう使う?」という感じの授業だったのですが、当初は「私には武器がない!」という状況でしたので、困惑していました。

渕山:程度の差はあれ、皆苦労していたのだろうと思います。でも当時は、自分以外の人が皆強そうに見えたということはありました。

髙橋:教員からすると、法曹コースの学生には相当高いハードルを課していて、それを突破して進学しているのですから、自信を持って学修を進めていただいていいとお伝えしたいです。

3年で卒業するには、1年間でゼミ2つと卒業論文が必須

髙橋:一橋大学は法学部でも卒業論文の執筆が必須になっているのですが、これは全国的には例が少ないのだそうです。しかも、後期ゼミナール8単位と卒業論文というカリキュラムは3年で卒業する場合にも残しました。

渕山:卒業論文は大学生ならではの経験なので、やったほうがいいし、楽しかったです。ゼミに2つ入らなければいけないということも、私の場合は結果的に自分の進路に大きく影響しました。主ゼミは憲法の只野雅人教授のゼミに入ったのですが、副ゼミは民法の石綿はる美准教授のゼミに入りました。このゼミの経験がきっかけとなり、博士課程に進むことになりました。

髙橋:法科大学院出身者の枠で博士課程に進まれるのですね。通常、博士課程への進学には修士論文を書かなければならないのですが、法科大学院出身者の場合、リサーチペーパーを代用するという仕組みがあります。法曹コース第1期生からこの仕組みで進学される方が出たのは、とても喜ばしいことです。

坂上:私は主ゼミが行政法で副ゼミが民法だったのですが、ゼミを2つ取りながら卒業論文を書くというのは、大変ではありましたが、複数分野にまたがる勉強ができたという意味ですごく良かったと思っています。

南:私も2つのゼミを履修できて良かったと思っています。法学部の授業では、ゼミが最も法科大学院のソクラテスメソッドの授業に近いと思います。2つのゼミでそれを経験できたことが、法科大学院でとても役に立ちました。

髙橋:第1期生だからこそ言える、法曹コースのここは直したがほうがいいという部分はありますか。

坂上:法科大学院に入った時の周りとの学力差ですね。そこは一番しんどかったです。

渕山:学部と法科大学院の学びの接合が、自分としてはうまくできないまま進学してしまったという印象があり、最初は苦労しました。

南:同じく学部の授業と法科大学院の授業、もっというと司法試験対策の接合の部分は、多少なりとも何かあったほうがいいかもしれないですね。たとえば、強制参加の答案作成会のような機会があると安心かもしれません。

髙橋:法科大学院へ進学することが決まった後、入学前に、法科大学院の未修者コース1年生向けの期末試験の問題を解いてもらって、法科大学院の学修を体感してもらったと思いますよ。

渕山:ありましたね!このままじゃまずいですよ、と先生から言われた記憶がよみがえりました。

南:私もたくさん赤字添削が入ったことを思い出しました。

学生同士が切磋琢磨する自主ゼミは、一橋大学の伝統

髙橋:法科大学院の環境はいかがでしたか。

渕山:法科大学院にはさまざまな大学から学生が来ていて、バックグラウンドも多様でした。そういう方々と触れ合えたのは、刺激になりました。

南:特に未修者コースの方の中には、バックグラウンドが法律ではなく、一度社会人経験をしてから法曹になりたいと考えて入学された方もいました。そういった方の経験や考えに触れられたのは、良い経験でした。

坂上:これまでの先輩方がすごく頑張っていらっしゃったので、一橋大学法科大学院の司法試験の合格率はとても高くなっています。だから、この授業についていって、同期たちと一緒に勉強していれば司法試験に合格できるのではないかという期待はありました。自主ゼミで横のつながりができるという校風も、すごくありがたかったですね。

髙橋:自主ゼミは一橋大学の伝統ですね。大学側から教育を提供する「公助」、学生自ら研鑽を図る「自助」、そして学生同士が切磋琢磨しあい互いの学習を助ける「共助」があり、この3つが同時に実現できていることが合格率の高さにもつながっていますし、優れた法曹を輩出する基柱にもなっていると思います。さて、いよいよ司法試験についてですが、在学中受験も含め率直にいかがでしたか。

坂上:今までの制度で修了された方に比べると勉強量が2年分少ないのもあって、結果にあまり自信はありませんでした。たとえ1、2年遅くなっても、通常どおりの進捗なのでマイナスではないということは分かっていましたが、勉強自体がとても大変なので、できるなら早く受かってしまいたいという思いが強くありました。

渕山:在学中受験は並行して授業もあるので大変でした。でも、法科大学院3年(既修者は法科大学院2年目)の夏前には授業を減らしてくださるなど、配慮していただいたと思います。私個人としては、授業が進む中で試験に備えたほうが、1人でいる時間が減るので良かったと思います。新たにフォローしなければいけないところは、きっと授業でフォローしてくださっているのだろうという安心感もありました。

南:私は司法試験の1週間前まで法科大学院に来て、皆と一緒に勉強していました。授業が進むことによる負荷は、それほど大きくなかったと思います。

坂上:実際の司法試験の形式に似た「問題解決実践」の授業は、勉強のペースメーカーとしてもありがたかったです。

実務を念頭に置いた実践的な授業も多い法科大学院

髙橋:司法試験が終わったら、夏休み。やっとほっとされたのではないですか。

坂上:ほっとしたかったのですが、すぐに就職活動が始まりました。

渕山:私はリサーチペーパーの作成がありました。在学中受験だったので、後期は司法試験を考えなくてもいい状態でリサーチペーパーの作成に取り組めたことは良かったですね。

南:私は就職を強く希望する法律事務所が、司法試験が終わってすぐにエントリーシートを出さなければならないところだったため、ひと息つく間もなく就活の準備に入りました。

渕山:在学中受験をするために、特に大手四大法律事務所は、法科大学院2年(既修者は大学院1年目)の夏にインターンに行っておかなければならなくなりました。うっかりしていると、選考のチャンスすら逃してしまいます。その点に関しては早めに情報を提供していただけたら良かったかなと思いました。

髙橋:在学中受験に伴って、就職活動自体が相当前倒しになっているということですね。第1期生は、そういう面でも苦労がありましたね。こちらも十分にサポートが及ばず申し訳ないことをしました。さまざまな意見をいただくことで、改善していくものと思います。皆さん司法試験が終わった後に、実務系の科目が本格的に始まりましたね。

坂上:参考になる授業が多かったです。もちろん司法修習でも学ぶとは思うのですが、事前に一度勉強できたことは、今後必ず役に立つと思います。

渕山:実務系の科目は大変でしたが、とても楽しかったです。特に法廷に立った時の瞬発力ですね。それまでの勉強が基礎にはなりますが、勉強したことがそのまま活かせるわけではない、と痛感しました。

南:特に模擬裁判が楽しかったです。司法試験が終わった後なので、それまで司法試験に集中していた分、知識的にはだいぶ仕上がっている状態で授業に臨めました。皆で、ああでもない、こうでもないと法律論をぶつけ合って模擬裁判の準備をしました。

髙橋:司法研修所の先生方からも、一橋大学法科大学院の修了生は、水準の高い実務教育を受けてきているので大変期待していると仰って頂いたことがあります。ぜひ司法修習中もリーダーシップを発揮して、同期の皆さんと切磋琢磨していただければと思います。頑張ってください。

集合写真

ENVIRONMENT

学びの環境