世界各国の留学生たちが一橋大を選んだ理由は?
2022年12月27日 掲載
世界中から優秀な外国人留学生が集う一橋大学。世界54の国・地域から受け入れた800人以上が学業や研究活動に勤しんでいます(2022年5月1日現在)。母国を離れ、一橋大学で学ぶ理由とは。3人の外国人留学生にお話を聞きました。
日本文学を堪能しながら、心落ち着く一橋ライフを謳歌しています
社会学研究科 修士課程1年
ベルギー出身 ボーネ・マティアスさん
Boone Mathias
交換留学生時代の有意義な時間を、再び味わうために
住む地域によって公用語(フランス語・オランダ語・ドイツ語)が異なるベルギー。フランス語圏で生まれ育ったマティアスさんは、日本文学を愛する両親の影響で、子どもの頃から日本を身近に感じ、地元ゲント大学の日本語学部で学んでいた。
「両親は特に三島由紀夫の作品を好み、いつしか私も日本文学に興味を持つようになりました。日本語が持つ表現の奥深さや響きの美しさに魅力を感じていたので、大学では言語学として日本語を学び、興味の範囲は日本史や古文にも広がっていきました。日本語を学ぶ中で "言語の魅力は現地で暮らしてこそ理解できる"という考えに至りました。そして、大学在学中に交換留学生として一橋大学に来ました。日本語教育に関する授業を中心に受講し、半年間留学生生活を楽しみました」
帰国後、彼はフランス語教員として教職に就いたが、日本語に対する探究心を抑えることができなかった。教員を3年間務めた後に退職し、ゲント大学に復学。大学院生となって研究活動を再開した。その後、一橋大学大学院に留学することになった。
「留学を決意した背景には、長年行ってきた言語学研究に一旦ピリオドを打ち、異なる学問分野で新たな研究を始める起点にしたいという気持ちもありました。また、交換留学生として過ごした有意義な時間を再び味わうことができるチャンスだと思いました」
日本語に不安を抱える留学生にとって最適な環境
2021年8月に来日し、社会学研究科修士課程の大学院生となった彼は、スポーツ社会学を専門とする坂上康博特任教授のゼミに籍を置いている。現在は、パラリンピック選手の社会における描写をテーマとして研究に取り組んでいる。
「交換留学生として一橋大学に来たときと比べると日本語はかなり上達したと思います。先生や学生とも日本語で円滑にコミュニケーションがとれるようになりました。一橋大学は小規模な大学で、教員と学生、または学生同士の距離が近いため、言葉を交わす機会が自ずと増え、先生方にも気兼ねなく質問や相談ができます。こうした環境で過ごせることは、コミュニケーションに不安を抱える留学生にとって大きなメリットだと思います」
濃密な人間関係を築けることが一橋大学の魅力と語るマティアスさん。研究活動で多忙な毎日を送る一方で、今も読み続けているのが日本文学である。
「来日してからは原作を読むようになり、読後感が翻訳版と全く異なることは嬉しい驚きでした。日本語の学習を続けてきて本当に良かったと思います」
今は言語学を趣味のようなものと語り、最近は中国語の習得に励んでいるという。修士課程修了後の展望について尋ねてみた。
「一橋大学で緑に囲まれた心落ち着く生活を過ごしたことで、日本の暮らしを味わいたい気持ちがいっそう強くなりました。修了後は日本で就職したいと考えています。複数の言語を使いこなせるという強みを活かし、外資系や貿易関係の企業でグローバルに活躍することが現在の目標です」
仕事を辞め、一橋で学び直す。今の自分にとって最良の選択でした
商学部2年
韓国出身 チェ・イェリンさん
Choi Yerin
ホテル業界から金融業界への転身を目指して再び大学へ
商学部で学ぶチェさんは異色の経歴を持つ。一橋大学への進学を決意する前までは、世界最大級のホテルチェーンで人事職に就いていた。ホテル・観光業界を離れ、キャリアチェンジのために学び直しを決心した彼女に、入学までの経緯について話を聞いた。
「高校卒業後は韓国を離れ、オーストラリアの大学で観光マネジメントを学びました。大学卒業後はそのまま現地でホテルに就職し、人事や採用活動などに2年間携わりました。ところが新型コロナウイルス感染症の影響でホテル・観光業界が大打撃を受けました。この経験を機に改めて将来について考えました。かねてより興味を持っていた金融について基礎から学びたいと思い、退職して大学での学び直しを決意しました」
留学先を検討する中で、アニメ作品を通じて日本の文化や暮らしに興味を持っていたこと、再就職を見据えたとき、市場規模の大きさや進出する外資系企業の多さに魅力を感じたことを理由に日本へ、そして、一橋大学に進学することになった。
「日本への留学を検討する韓国の学生で、一橋大学を知らない人はほとんどいないと思います。また、興味を持っていたコーポレート・ファイナンスの分野で著名な中野誠教授がおられることも選択理由の一つでした」
濃密なコミュニケーションを重ね、互いに切磋琢磨できる環境
2021年に入学したものの、最初の一年はコロナ禍の影響から母国にてオンラインでの授業参加になった。2022年の4月に来日し、現在は企業財務について理解を深めている。
「ディスカッションやグループワークに臨む中で、周囲の仲間の学習意欲の高さを感じています。一橋大学の魅力は学生同士で濃密なコミュニケーションを重ね、互いに切磋琢磨できる学修環境があることです。それは、私が理想としていた学習スタイルでもありました。聞く・話す機会が多いことは、日本語と専門領域の双方を学ぶ留学生にとって素晴らしい環境だと思います」
そう話す彼女の日本語は、すでにネイティブレベルにある。パワフルなスピーチで世界的に有名な『TED』と一橋大学がコラボレーションするサークルでの活動も、上達を早めてくれているようだ。彼女は現在、日本で再就職し、ゼミナールで磨いたスキルを活かして企業のM&Aに携わりたいと考えている。
「仕事を辞め、一橋大学に留学したことは、今の自分にとって最良の選択だったと思います」
ビジネスで世界を変える力を養いたい。そのために一橋を選びました
商学部4年
スウェーデン出身 セルマ・ロビーサ・アットクイストさん
Selma Lovisa Oertqvist
母国では得られない刺激を求め、高校卒業後に日本へ
日本のポップカルチャーやアニメーション作品から影響を受け、幼少期を過ごした若者は海外でも少なくない。北欧の国スウェーデンで育ったセルマさんもその1人だ。
「私が夢中になったのは漫画作品でした。原作を読みたくなり、中学生1年生の時に地元の日本語教室に毎週通うようになりました。同じような趣味を持った日本人の方をSNSで探し、オンラインでメッセージを交換しながら日本語を学んだ時期もあります」
日本語の理解が進むにつれ、彼女の興味は日本という国に向いていく。
「初めて来日したのは高校2年生の時でした。1か月間の短期留学プログラムに応募し、横浜市でホームステイをしながら日本の暮らしや文化を体験しました。その時の記憶が私に日本留学を決心させたのです。"高校を卒業したら日本の大学に進学しよう"と」
日本人が自然に囲まれたスウェーデンの暮らしに憧れるように、彼女は日本の、特に活気溢れる東京の生活に魅了された。天候に恵まれ、変化を感じられる暮らしが、好奇心旺盛な彼女の心を動かしたのである。そして、日本での進学先として第一候補に挙げたのが一橋大学だった。
「"ビジネスには世界を変える力がある"という考えのもと、商学を学ぶことで広く社会に貢献したいという想いがありました。一橋大学は日本でトップレベルの国立大学であり、商学を源流とする大学であることを知って志望しました。また、比較的少人数のクラスで学べることも志望理由の一つでした。スウェーデンの教育環境と似ているため、一橋大学でもスムーズに学修を始められると思いました」
先々を決めずにアクションを起こしていく。それが自分流
2018年に来日した彼女は、1年間の準備期間を経て2019年4月から商学部での学生生活をスタートさせた。
「授業やゼミナールを受講して感じた一橋大学の魅力は、ハイレベルな理論が学べることに加え実践に役立つ知識を得られることです。実力を試す機会も豊富に設けられており、北京大学やソウル大学の学生と合同で行うビジネスコンテストなどにも参加しました」
入学前は少しシャイな性格だったが、教員や学生同士の距離が近く、誰にでも気軽に話しかけられる環境が自分を変えてくれたとセルマさんは語る。4年次となった現在は、卒業論文の作成で忙しい毎日を送っている。
「論文作成にあたって注目したのは、"B Corporation(Benefit Corporation)"と言われる、環境への配慮など社会性を重んじる企業を認証するアメリカで生まれた制度です。この制度の日本における消費者の認知度について調査研究を進めています」
日本での就職を希望していた彼女は、すでに日本での就職が決まっている。グローバルに食品事業を展開する韓国企業の日本法人から内定をもらい、入社後は人事職に携わる予定だ。将来のビジョンについて尋ねてみた。
「数年以内にはマーケティング業務に携わりたいと思っています。最終的な目標は自分で起業することです。しかし、働く国も含めて明確なキャリアパスを定めているわけではありません。自分の可能性を広げるためにも、先々を決めずに柔軟に考えたいですね」