大学院の2年間で、一橋大学と海外の大学院、2つの学位が取得できる
ダブルディグリー・プログラム
2021年12月22日 掲載
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻(一橋ICS)及び法学研究科では、海外の提携大学院の学位も取得できる「ダブルディグリー・プログラム」を運営している。その概要を紹介するとともに、当プログラムを履修している学生に、狙いや感想を聞いた。
ダブルディグリー・プログラムとは
経営管理研究科国際企業戦略専攻(一橋ICS)
北京大学光華管理学院、ソウル大学経営専門大学院、中国人民大学商学院、インド経営大学院バンガロール校、イェール大学経営大学院と提携。一橋ICSのMBA2年制プログラムに在籍する学生は、その期間内に提携校のMBAプログラムに在籍して単位要件を満たすことで、一橋大学と提携大学からそれぞれMBAの学位が授与される。
法学研究科
中国人民大学法学院、国立台湾大学法律学院、ルーヴェン・カトリック大学(KUL)と提携。本プログラムに参加する学生は、所定の期間内に、一橋大学と提携大学において、単位要件を満たし修士論文を提出、論文審査に合格することで、一橋大学と提携大学からそれぞれ修士の学位が授与される。
学生へのインタビュー
"2つの極"を体験する重要性
トチラカル ジラウィン
TOCHIRAKUL JIRAWINさん
(一橋ICS→イェール大学)
私はタイのバンコク出身です。17歳で親元を離れてシンガポールの高校に入学し、大学は英国ロンドンのユニバーシティ・カレッジに進学して機械工学とファイナンスを専攻しました。卒業後はロンドンに残って、グローバルコンサルティングファームでテクノロジーのコンサルタントとして7年ほど働きました。その後、家族が暮らすアジアに生活の拠点を移したいと思い、日本に興味を持ちました。日本には、利益の追求だけでなく顧客を重視する独特のビジネスモデルがあります。宅配業者はお客さまが希望する日時や場所に届ける仕組みを構築していますし、携帯会社は子ども向けの携帯電話までもつくっていることに驚きました。こうしたビジネスのあり方に強く惹かれ、ビジネスモデルを学ぶために日本でMBAを取得しようと考えました。
そこで着目したのが、一橋ICSです。100%英語で履修できるうえに、世界32のトップビジネススクールが加盟する Global Network for Advanced Management (GNAM)の国内唯一の創設メンバーとして、世界中に強いネットワークを持っていたからです。そして、入学当初よりイェール大学とのダブルディグリー・プログラムを希望していました。理由は2つあります。
1つは、シンガポールの高校の先生から「ほかの人にはない自分らしさは、2つの極を体験することから生まれる」と教わった言葉が、ずっと頭の中に残っていることです。ロンドンの大学では全く異なる2つの分野を専攻し、コンサルティングファームでは専門ではないPythonやSQLなどのプログラミングを習得しました。そんな私にとって、一橋ICSとイェール大学の両方で学ぶことは非常に大きな意義があると感じました。私は、いずれは東洋と西洋の架け橋となって、社会に貢献したいという想いがあります。このダブルディグリー・プログラムは、そんな私に有用な視点を提供してくれると確信しています。
もう1つは、これまでに4つの国で暮らすことで、人とのつながりが極めて大切なものだと知ったためです。人間関係を築くためには、言葉や文化、ユーモアのセンスなどが重要です。そして、それらを会得するためには、その国で実際に生活してみることが大切です。これからは、こうした学びを数多くの国で経験した"グローバル市民"のアイデンティティが価値を持つ時代ではないでしょうか。イェール大学での学生生活を楽しみにしています。
中国語で中国人学生と同様の"濃い"学びを
ヤマダ コウセイ
山田 浩成さん
法学研究科博士後期課程在籍(一橋大学→中国人民大学)
学部は名古屋大学法学部に在籍し、第2外国語として中国語を履修しました。名古屋大学にも中国からの留学生が多く、交流する機会がありました。そこで、日本と中国の政治体制や価値観の違いを知り、国家の法制度はどうなっているのか、ということに強い関心を持ちました。そして、学部生の間に中国人民大学に留学して中国法を学び関心を深めたことで、中国法の研究者になろうと決意しました。
名古屋大学の指導教員が中国の大学で濃い学びを糧に研究していた姿に接し、自分もそうしたいと思いました。そこで、大学院に進学するにあたり、交換留学ではなく正規の学位が取得できるコースがないか探したところ、一橋大学大学院法学研究科に中国人民大学法学院に留学できるダブルディグリー・プログラムができたことを知り、出願しました。
中国人民大学には留学生を対象とした英語で学べるコースもありましたが、私は中国語のコースを選択しました。中国人学生と同じ環境で学ぶことで、単に法律諸分野の概観にとどまらない、より深い内容を学ぶことができると考えたからです。中国では普段から教員や学生との議論が活発に行われているのはもちろんのこと、さらには弁護士や裁判官の話を聞く機会も多く得られ、これらを通じて中国における法律論をリアルに学ぶことができました。
中国は実質的な共産党一党支配の下にあり、得体の知れない、外の世界に開かれていない国家というイメージが先行しがちですが、実際はそれほど閉鎖的ではなく、むしろ中国で法律を学ぼうとする外国人留学生は歓迎されていると感じました。その背景には、諸外国に自国をもっと理解してほしいという姿勢があることは否定できません。しかし、決して表面的な歓迎や宣伝ではなく、一人の法学研究者を目指す学生として接してくれていると強く感じさせるものでした。
現在は、一橋大学大学院の博士後期課程にて、目下中国の環境法を研究しているところです。私は熊本の出身で、小学校で水俣病について学んで以来環境に関心があることと、中国の経済発展の裏で環境汚染が深刻化しているところから、この分野を選びました。修了後は、単に法律や文献を翻訳するといったことではなく、実際の法律の運用をリサーチし、中国に関わる法実務家に情報以上の、深さのある見解を提供するといった実務的な貢献もしていきたいと考えています。
先行する日本で学び母国・台湾での先駆者に
トウヤシン
鄧雅心さん
法学研究科修士課程在籍(国立台湾大学→一橋大学)
私は好奇心が旺盛な性格なので、見聞を広めることに関心があります。国立台湾大学の法学部時代には、大阪大学に交換留学しました。その当時は専門とする研究テーマは決まっていませんでしたが、その後、老人の犯罪問題に関心を持ちました。台湾ではまだ問題にはなっていませんが、台湾の高齢者福祉政策は進んでおらず、早晩問題が表面化する可能性があると感じています。抑止政策には法的なアプローチが不可欠であり、私は台湾におけるこの領域をリードする存在になれればいいと思っています。
すでに台湾での司法試験に合格しているので、将来は弁護士になるつもりですが、その前に台湾大学法律学院に進学し、一橋大学とのダブルディグリー・プログラムを履修することにしました。その理由はいくつかあります。
まず、日本は高齢者による犯罪がすでに問題化していて、研究成果に厚みがあること。次に、学部時代の指導教官が一橋大学出身者であったことです。一橋大学法学部や大学院法学研究科の存在は台湾でも有名でした。また、東京に行ってみたいという思いもありました。残念ながら東京を体験するという希望は、一橋大学への入学が2020年11月というコロナ禍のさなかということもあり、小平寮からなかなか出ることができずあまり果たせていません。
現在は修士2年ですが、大学院での学びは少人数のゼミが中心で、日本語で積極的に意見を交わしながら、いい勉強ができていると感じます。一橋大学に来た当初は、日本語が上手に使えずに苦労しましたが、最近は努力の甲斐もあり、ずいぶんと慣れてきました。
台湾の法律は日本法の影響を受けていることもあり、台湾の法律家として日本で法律を学ぶことは、条文改善に役立てられると思っています。修士論文は政策面をテーマにしましたが、大学・大学院でずっと法律を学んできたことの集大成として何か自分なりに世の中に貢献したいとの想いもあります。その点でも、知見を広げることができるダブルディグリー・プログラムは、良い機会になっています。