オンラインで一気に促進された新しいタイプの国際交流

2021年1月20日 掲載

第2回「U7+ Alliance」のサミットの写真

社会科学系9大学のグローバルな大学連携「SIGMA」で確立されたオンライン交流の雛形

5年前の2016年12月、一橋大学は、新たにグローバルな大学連携としてスタートした「SIGMA」(Societal Impact & Global Management Alliance)に加わった。SIGMA参加校は、一橋大学の他、パリ第9ドフィーヌ大学(フランス)、シンガポール経営大学(シンガポール)、コペンハーゲン経済大学(デンマーク)、ウィーン経済大学(オーストリア)、ESADEビジネス・スクール(スペイン)、ザンクト・ガレン大学(スイス)、ジェトゥリオ・ヴァルガス大学(ブラジル)、中国人民大学(中国)の計9校で構成されており、本学は日本で唯一の参加校である。

SIGMAの母体となったのは"Alliance of Like-Minded Universities"。つまり、グローバル競争において大学のプレゼンスを高めるという共通の課題を持つ「似たもの同士」の大学が互いに知恵を出し合い、研究・教育面での交流と連携を強化し、課題に取り組むという試みからスタートしている。そして、それは試みに終わらず、年を経るごとにより実質的・具体的な取組を行うアライアンスへと発展した。

その成果の一つが、オンライン・アクティブ・ラーニング「SIGMA Global Virtual Course: Managing the SDGs」である。SIGMAのフラッグシップ・プロジェクトに参加した一橋大学の学生は、オンライン上でのリレー講義及びショートビデオ作成という2つのコースにおいて、優秀な成績を修めている。学生にとっては貴重な学びを得る機会になったと同時に、一橋大学のプレゼンスを高めることにも成功した。

何より重要なことは、この取組がいわゆるコロナ禍に先んじて行われ、「オンラインによるグローバルな大学連携」の雛形として確立されたことである。一橋大学は、新しい国際交流の形を築きつつある。中でも今般のコロナ禍で一気に促進されたのが、今回紹介する学長間のオンライントップ会談である。

SIGMAオンライン・アクティブ・ラーニングについては、こちらの記事(SDGsをテーマに、第3期を迎えるSIGMAオンライン講義)をご覧ください。

IE大学・ルイス大学共催で世界同時配信された国際シンポジウムへの参加

オンライントップ会談の第一の例として挙げられるのが、2020年11月17日に世界同時配信された国際シンポジウム『Reinventing Higher Education: New Realities, New Visions for Higher Education』である。IE大学(スペイン)とルイス大学(イタリア)の共催で行われたこのオンラインシンポジウムに、中野聡学長はパネリストとして参加。ポスト・コロナ時代に高等教育が直面する諸課題について、イギリス、フランス、南アフリカを代表する4大学の学長たちと討議した。話題はBrexitにも及び、EUの枠組みで国際化に成功したイギリスの大学が現在直面している課題について、「他人事ではなく国際的な大学コミュニティ全体の課題と捉え、応援していかなければならない」という点で意見が一致した。

世界主要大学の学長が集い、議論を交わした「U7+ Alliance」のサミット

第二の例は、その後の11月22~23日にアメリカ・ノースウェスタン大学がホストとなって開催された「U7+ Alliance」のサミットである。このサミットは、G7加盟国に加え、アフリカ、中南米、アジア、オセアニアなどの大学が参加する大学連合のU7+ Allianceの年次総会である。G7諸国やその他の国々の政府首脳と連携し、地球規模の課題に大学が一丸となって取り組むための具体的な行動を議論し、国際社会に発信することを目的としている。日本からは一橋大学を含む4大学が加盟している。

第1回サミットは2019年、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の後援を得て、パリ政治学院(SciencePo)で開催された。今回の第2回サミットでは、オンライン上に中野学長をはじめ世界20カ国の大学のトップリーダーたちが集い、「世代間正義(Intergenerational Justice)」を主要テーマに対話を進めた。世界中の名だたる大学の学長が、パネリストとして、あるいはブレイクアウトセッションのメンバーとして、コロナ禍が大学に及ぼす影響や、オンラインを活用する意義について意見を交わし合った。そのような場が提供されたことについて、中野学長は「かつてない規模のトップ会談であり、オンラインの効果を実感した」と語る。

サミット終了後は参加校の実務者同士の交流も続いている。オンラインによるグローバルな大学連携をさらに発展させる方法について、検討が進められているそうだ。

オンラインでの会談が、各大学の研究・教育にスピーディーに活かされる未来

このように、シンポジウム、サミット、ブレイクアウトセッションは、すべて学長同士のトップレベル会談として行われた。この短期間で、大学の学長がリアルな場に集まり、議論を行うことは相当困難である。オンラインだからこそ実現できた会談であるとともに、その場で話し合われたことは各大学の教育・研究の両面にスピード感を持って反映されることだろう。オンラインによって一気に促進された新しいタイプの国際交流は、パンデミックのもとにおける大学運営の起爆剤となることが期待されている。

ポスト・コロナを見据え、世界中の学生とオンラインで議論を交わす
『U7+ ワールドワイド・ステューデント・フォーラム』

学長によるトップ会談が行われる一方で、学生間でもオンラインによる新たな国際交流が行われている。2020年6月中旬から3週間にわたって開催された「U7+ ワールドワイド・ステューデント・フォーラム」。本稿では、実施の背景やオンライン・セッションの内容、成果などについて、一橋大学の代表の一人として参加した法学部2年生・橋ケ迫莉奈さんのコメントを交えて紹介していく。

ノースウェスタン大学がホストを務め12か国・22大学から85名の学生が参加

U7+ ワールドワイド・ステューデント・フォーラムは、地球規模の課題について議論や研究、人材育成を進めるため、2019年に創設された大学連合「U7+ Alliance」の活動の一環として開催された。

今回のフォーラムは、米ノースウェスタン大学がホストを務め、U7+ Allianceに加盟する12か国・22大学から85名(一橋大学からは4名)の学生が参加。新型コロナウイルス感染症の影響によって生活や社会が変化する中、大学が果たすべき役割についてオンラインによる議論が行われた。

意見を事前にSNSにアップし、オンラインのセッションで議論を深める

3週間(6月12日~7月1日)の開催期間中、セッションは2回の全体セッション(オープニング及びクロージング)と、4回の個別セッションに分けて行われていた。個別セッションには時差が小さい地域の学生が3~6名参加。

セッション前には事務局から、「コロナ禍を受けて変化した生活」「大学の状況」などのクエスチョンが出されるので、学生は自らの意見を英文200ワード前後でまとめて専用のSNSにアップする。同時にセッション相手の意見も確認したうえで、実際の議論に臨むという形式だ。

「事前に自分の意見を簡潔にまとめられたので、セッションでさらに踏みこんだ意見を伝えることができました」(法学部・橋ケ迫莉奈さん)

全セッション終了後に、自大学への提案を3分間のビデオにまとめて提出

参加者の経歴は、文系・理系、学部生・大学院生と多種多様だ。そして、橋ケ迫さんによれば、「熱意にあふれ、問題意識が高い人たちが多かった」とのことだ。コロナ禍を受けて、自分の大学に働きかけようとする人、社会を何とかしよう!と発信する人が多く、どのセッションもとても刺激的だったと語る。

参加者は全セッションの終了後、自分の大学に対する提案を3分間のプレゼンテーションビデオ(英語)にまとめる。そのビデオを大学に提出し、フォーラムは終了となる。

※ フォーラムで作成したビデオは、こちらからご覧いただけます。

意見交換はオンラインでも十分に対応が可能。
この体験を通して留学の目的も明確になった

橋ケ迫莉奈さんの写真

学生フォーラムに参加した法学部2年生
橋ケ迫莉奈さん

フォーラムに参加した橋ケ迫さんは、3週間の体験を以下のように振り返る。

「コロナ禍の状況が各国で異なるため、日本独自の『自粛』や『新しい生活様式』とはどういうものかを伝えるのに苦心しました。

一方で、意見交換自体はオンラインでもできることが分かりました。だからこそ、意見を発信する人と同じ景色を自分の目で見て、背景をしっかり理解したい。そう感じるようになったのです。私はもともと留学を強く希望していましたが、今回のフォーラムを経て、留学すべき理由や目的がいっそう明確になりました」

ENVIRONMENT

学びの環境