SDGsをテーマに、オンラインで世界の学生と交流できる「SIGMA」

2020年9月30日 掲載

一橋大学は2019年度より、グローバル戦略として、国境を超えた大学連携「SIGMA」(シグマ:Societal Impact & Global Management Alliance)が開催するオンライン・アクティブ・ラーニングのメンバーとなっている。このプログラムは、参加7校の教員によるリレー講義と、4名前後の学生でチームを組み、オンラインのみでコミュニケーションをとりながらショートビデオを作成するグループワークの2軸で構成されている。※詳しくは『HQ』サイト内の記事「SIGMA:社会イノベーションへの貢献という志を共有するグローバル連携」および「SDGsをテーマに、第3期を迎えるSIGMAオンライン講義」を参照。
後者のグループワークは全編英語かつオンラインによるコミュニケーションであることが大きな特徴だ。以下にこのプログラムに参加した学生のコメントを紹介するが、彼らが貴重な経験を積んだこと、そして「海外に行くことのみが必ずしもグローバルではない」ということが伝わってくる。新しい価値観でさまざまな課題に向き合わなければならない今こそ、日本にいながらにして世界と交流できるSIGMAは、学生にとって価値あるプログラムと言える。

情報収集能力に優れ、経営学の知識も豊富なメンバー。
積極的な発言を大切にする彼らの姿勢に刺激を受けた

法学部 3年
松下雄飛さん

私がSIGMAに参加した理由は2つあります。まず、グローバル企業がSDGsにどう貢献しているかを知りたかった、ということ。国際関係の研究では、SDGsのプレイヤーとしてよく「企業」が取り上げられます。利潤を追求する企業が、なぜSDGsに取り組むのか。そのことを学ぼうと思いました。
次に、研究を通して海外の学生と議論をしたいと考えたからです。私は高校時代、ドイツとイギリスに1か月半ほど語学留学をした経験があります。一橋大学入学後、学術的な交流を行うチャンスを探っているうちに、SIGMAの存在を知りました。SIGMAは講義もグループワークもオンラインですから、学費以外の負担はゼロです。この機会を逃す手はないと、参加を決めました。

私のグループは4名。シンガポール経営大学から1名、ウィーン経済大学から2名、そして一橋大学から私、という構成です。テーマに選んだのはIKEA。私以外の3名のうち、2名は大学院生だったこともあり、グループワークではレベルの高さに刺激を受けました。

たとえば情報収集能力。私は主にIKEAのホームページや有名な監査機関から情報を収集しましたが、彼らはホームページにとどまらず、IKEAに関する論文を調べたり、他企業からIKEAの情報をピックアップしてきたりと、すごく巧みなのです。また、IKEAがSDGsにかける予算規模を簡単に他企業と比較するなど、会計の知識も豊富でした。

彼らとのグループワークを通して「経営のあり方・考え方のフレームワーク」を学べたと感じています。SDGsは、企業の利潤追求の延長線上にあり、腰の重い国家と比してグローバルガバナンスの観点から企業という存在が重要であるという結論が得られたことは、私にとっては大きな収穫でした。

また、レベルの違いはあっても、議論には積極的に参加できました。日本の授業などでは、発言を躊躇してしまうこともあるかもしれません。でもSIGMAのグループワークでは、そういうことは一切ありません。

メンバーは全員、積極的に発言することに価値を置いているので、私も自然に意見を言うことができました。おかげで議論の進め方を体得できたので、現在は少人数の授業などのグループワークで活かしています。時差やお互いの都合を考慮したうえでミーティングを行い、設定した期日までにレポートを仕上げるなどスケジュール管理能力も身についたように思います。

国際交流はしたいけれど、いきなり長期の語学留学は不安......という人にとって、SIGMAはよいトレーニングの場、自分の実力を図る試金石となるはずです。(談)

オンラインでのコミュニケーションにストレスが表面化。
メンバー間の衝突に割って入り、グループの結束を強めた

商学部 4年
京嶋晃毅さん

私は将来、海外の人々と一緒に働きたいと考え、商学部の「渋沢スカラープログラム(SSP)」に参加していました。そこで、海外の学生と共同プログラムを進めるSIGMAに興味を持ち、3年生の秋、留学先(オーストラリア・メルボルン大学)からメンバーに加わったのです。

私のグループは、シンガポール経営大学、ザンクト・ガレン大学、ESADEビジネス・スクールの学生、そして私の4名。テーマに選んだのはアパレルメーカーのGAPです。SDGsのなかでもジェンダー問題に注力しているGAPは、多様な人々が多いことで有名です。

英語でのコミュニケーションに不安はありませんでした。ただ、ツールはオンラインのみ、というのが苦労しましたね。その苦労がお互いにストレスになっていたようです。初めはメールで意見交換をしていたのですが、そのときはあらわれなかった不満が、スカイプに切り替えたタイミングで表面化したのです。

プロジェクトの進め方について、二人の学生の意見が衝突しました。期限が近づき、終盤に差し掛かる作業について、「全員で確認しながらやるか」「各自のパートをそれぞれがやり切るか」が争点。二人とも感情的になり、建設的な意見交換ではなく、言い合いに発展しそうな雲行きでした。

ここで決裂して終わり、などということにはしたくない。そう考えた私は割って入り、現状を整理しました。

まずプロジェクトのゴールは、ショートビデオという成果物にまとめること。ゴールに対して、残された期間やミーティングできる回数、そして残されたタスク数を明示。「だったら、このタスクはみんなで、このタスクは個人でやったらどうだろう」と切り分ける提案をしたところ、その場をうまく収めることができました。

しかし、この衝突があったおかげで課題が明確になり、グループの結束はかえって強まりました。そして、全員で協力して成果物にまとめることができたのです。目の前にいない人たちと一つのプロジェクトを成し遂げられたことは、本当に貴重な経験でした。何事もなく順調に進むより、得るものも大きかったのではないでしょうか。

一方で、自分自身の発信力をもっと高めなければ、とも感じました。衝突を収束させるスキルは大事です。でも衝突を恐れず、メンバーに自分の意見をぶつけることもまた大事だと思いました。グループとして何がよいか?どうすべきか?を考える機会になるからです。「自分はこう思う」という意見を発信して、多様なメンバーをゴールに導けるようになりたいですね。(談)

プロジェクトの進め方を話し合う前に、自分がどんな人間かを
伝えることで人間関係を構築し、グループに貢献する力を養った

法学部 3年
宮川燿太朗さん

私は子どものころ、ポルトガルとアンゴラに合わせて7年住み、インターナショナルスクールで英語を身につけました。帰国後、外交に興味を持つようになり、国際関係を1年生からしっかり学べる一橋大学に入学。当初から希望していたグローバル・リーダーズ・プログラム(GLP)にも参加しました。

そのGLPでは「英語での講義」を受けることが制度上の要件となっていたこと。また、国際関係を学んでいると、どの分野でもSDGsというテーマが出てくるので、しっかり学びたかったこと。これが、SIGMAのプログラムに参加した理由です。

私のグループは、ザンクト・ガレン大学の院生、ウィーン経済大学の学部生、そして私の3名です。テーマには、VOLVOを選びました。電気自動車の研究・開発などで、SDGsへの取り組みは世界トップクラスの企業です。

そのことを、私はSIGMAに参加するまで知りませんでした。また、SIGMAの講義自体が商学寄りの内容だったことなどから、初めは戸惑ったところもあります。それでも、メンバーと仲よくなれたおかげで、常に前向きに取り組めました。

ポイントは、「グループワークのメンバーとして」というよりも、「人間同士として」という関係を構築できたことです。初めはメールですが、いきなり「プロジェクトをどうするか?」という議論ではなく、自己紹介に力を入れました。

その後もWhatsAppを通して雑談をし合うようになり、どんどん打ち解けていったのです。授業やアルバイトなど、相手の事情がよくわかってくると、オンラインでのミーティングも相手の時間に合わせたり、「たまにはこっちが昼のときにミーティングさせてくれる?」などワガママも言い合える関係に。 人間関係が構築できたことで、タスクを頼まれていても「やらされ感」は一切なし。「グループに貢献しよう」「せっかくならよい成果物を作ろう」という思いで頑張れました。海外に住んでいた私でも経験できなかった、貴重な交流の機会でした。

欲を言えば、どの講義をいつまでに受講すれば、グループ内で知識の差が出ないかというガイドラインのようなものがあればよかったです。講義はオンデマンドでいつでも受講できるため、私はスローペースで進めていました。ところがほかのメンバーはどんどん先に進んでいたことがミーティングで発覚し、やや焦りました。ビデオ講義の視聴締め切りが明示され、学生間で共有されていると、さらによいプログラムになるのではないかと思います。(談)

ENVIRONMENT

学びの環境