グローバルな視点を養う、新たなアプローチ"部活動"による国際交流

(『HQ』2018年冬号より)

大学生活の中で海外で学ぶ機会といえば、海外留学や現地語学研修が一般的。一橋大学にも数々のグローバル人材育成プログラムが用意されているが、いわゆる学習を目的とした留学と一線を画すアプローチで海外を学べる機会がある。それが今回ご紹介する〝部活動〟を通じた国際交流だ。スポーツやカルチャーが世界と自分をつなげる共通語となり、多様な人々との交流や異文化との関わりが学生たちのグローバルな視点を育てる機会になっている。

一橋大学バレーボール部が国立台湾大学バレーボール部を日本に招き、交流イベントを開催

歓迎レセプション集合写真

レセプションの様子

歓迎レセプションの様子

2017年7月25日、来日した国立台湾大学バレーボール部の歓迎レセプションが如水会館で開催された。国立台湾大学バレーボール部一行を迎えたのは、主催を務める一橋大学バレーボール部全部員とバレーボール部を支援する同部OB・OGの面々である。式典は英語で行われ、両校の部員たちも一人ひとり英語で挨拶をした。国立台湾大学バレーボール部が来日した目的は、計5日間にわたって行われる対抗戦を主にした学生間交流にある。
国立台湾大学歓迎レセプションの翌日からは一橋大学体育館で対抗戦が行われ、その他交流討論会やキャンパスの見学ツアー、東京都内の観光もプログラムに組み込まれていた。
ちなみに台湾の大学バレーは1部に12チーム、2部に30チーム、3部に100チーム程度所属しているが、国立台湾大学は1部に所属する強豪校で、元台湾代表選手であった部長兼監督のもとにセレクションの選手も数人いる。
その中で2日にわたった交流戦では、体格で劣る国立台湾大学に対して両日とも勝利を収めたが、特筆すべきは、このイベントが単にスポーツを通した国際交流だけではなく、討論会の実施といった知的交流も含んでいるという点である。今回の討論会では「大学生の留学の是非」について話し合うなど、将来グローバル人材として活躍することが期待される日台のトップ校で学ぶ学生たちが、文化や価値観、問題意識や人生観の違いなどを感じながら、意見を交わし合い、お互いに刺激し合うのである。この取り組みによって学生たちは、グローバルな視点を学び、気づきや発見を糧に、さらなる成長を遂げていくのである。

世界への橋渡し役となり学生の部活動を支援するOB・OGと同窓会組織

レセプションで歓談する部員

一橋大学バレーボール部の国際交流がスタートしたのは2010年。橋渡し役となったのは、日頃から熱心に部活動を支援するOB・OG組織だ。「部活動に勤しみながら視野を世界に広げてほしい」そこには、後輩たちの成長を願う、OB・OGたちの想いが込められている。さらにこうした活動を実現に導いたのが、同窓会組織である如水会が持つグローバルネットワークと母校支援体制である。
国内の対抗戦などで多忙な体育会系の学生は、留学に割ける時間が限られる。それに代わる機会として海外遠征という案が俎上に載せられた。しかし、数十人にのぼる運動部員全員が海外渡航をするには、膨大な費用が必要になる。その費用の一部を同窓会組織と部活動のOB・OGが支援するという仕組みがつくられた。そうした手厚い支援のもと、学生の費用負担を抑えながらの有益な国際交流が可能になったのである。ちなみに如水会は、バレーボール部に限らず広く学生の国際交流を支援している。
これまで同部では、西オーストラリア大学(2010年)、中国人民大学(2012年)、シンガポール国立大学(2014年)、国立台湾大学(2016年)に遠征し、交流会を実施してきた。当初より海外遠征をした翌年には日本に招待するという基本方針を立てていたが、相手方の都合もあり、これまで実現できずにいたのだ。しかしついに2016年に実施した国立台湾大学への遠征が契機となり、初の海外チームの招聘が叶った。

実現に向けて動く全プロセスが、現役部員の成長の機会となる

スピーチをする部員

国際交流イベントの企画・運営は、学生が主体となって行う。バレーボール部のOB・OGで組織される海外遠征アドバイザリー委員会は、あくまでも指南役に過ぎない。開催前年の秋口に行われるOB・OG会とのミーティングを皮切りに、年末には交流する国や大学を選定して交渉を開始する。3月には幹事を務める相手校の部員とプログラムや日程の検討に入り、夏休み期間中に実施される本番の運営のやりとりも、すべて両校の学生間で行われる。こうした一連の実務プロセスは、計画力や交渉力、マネジメント力や語学力を磨くトレーニングとなり、社会で活きる実践力を身につける機会になっている。その教育効果について、参加した部員たちに話を聞いた。

参加した部員の体験談

バレー部の活動の様子1

バレー部の活動の様子2

バレー部集合写真

グローバルという扉を開く、ターニングポイントになりました

小林稔啓さん

小林稔啓さん

法学部4年

私が初めて交流に参加したのは入部した1年次、シンガポールへの海外遠征でした。海外の学生と戦ってみたいと期待して参加しましたが、収穫はそれだけではありませんでした。対抗戦以外での学生同士の交流が、自分にさまざまな気づきを与えてくれました。「語学力の前に、相手を知りたいという気持ちがなければ、交流はうまくいかない」。そう痛感したことが転機になり、グローバルマインドを持ちながら海外で同世代のネットワークを広げたいと思うようになったのです。こうした経験を糧にして次に活かせることが、行事が恒例化されている良さだと思います。国立台湾大学との交流では、討論しながら、卒業後も交流が予見できるほど、親交を深められました。主将を務めた立場からいえば、「知的体育会であれ」という理念に基づき、国際交流をバレーボール部の大きな魅力としてPRしていきたいと思っています。(談)

バレーボールが共通語。だから海外に人脈が広がりやすい

山浦 拓さん

山浦 拓さん

社会学部4年

部活動による国際交流の魅力は、海外を自分の目で確かめられることにあると思います。シンガポールへの海外遠征では、如水会OB・OGの方々のご厚意で日本の現地法人数社を視察する機会をいただきました。シンガポールがアジアのハブとしての機能を担っていることを、身をもって実感しました。また、交流を通じて感じたのが、海外の学生の問題意識や学習意欲の高さです。台湾遠征ではそういった学生たちとともに交流計画を練り上げることが刺激となって、自分を奮起させる原動力になりました。そして、卒業後の目標も明確になり、世界中の国々に貢献できる業界を志望することにしたのです。しかし、自分にとって一番の収穫は海外の友人のネットワークが広がったことです(さらに、現在では帰国後もSNSでつながり、交流を保つことができます)。また、仲良くなるきっかけは、語学に加えてバレーボールが共通言語になったからだと思います。夢中になっていることが共通であれば、積極的にコミュニケーションをとることができ、仲良くなることもできる。そこが留学との違いで、部活動に時間を費やす学生にとってのメリットです。(談)

「世界に出ても何とかなる」という度胸がつきました

佐々木拓海さん

佐々木拓海さん

経済学部3年

私はバレーボール部での国際交流で、初めて世界に触れました。入学当初には、留学は私の計画にありませんでしたので、入部していなければ海外と触れる機会はなかったかもしれません。今年、国立台湾大学の来日にあたって幹事を務めました。先方の幹事と数か月間協働しましたが、そのプロセスを体験できたことはとても良い経験になりました。まず、英語力の重要性を痛感しました。国立台湾大学は台湾のトップ校ということもあり、学生たちは世界を視野に入れて学んでいる雰囲気がありました。総合大学ということもあり、部員が持つ知見も自然科学や工学など幅広く、加えて英語も堪能で、自分の意見を積極的に発信します。そんな台湾の学生を相手に、私は伝えたいことがうまく伝わらないもどかしさを感じましたが、それが英語力を鍛え直したいというモチベーションに変わりました。また、今回のような一大プロジェクトを取り仕切ったことで、組織運営力がついたという自信になりました。何より、「世界に出ても何とかなる」という度胸がついたのが自分にとって大きいですね。来年の海外遠征予定先はタイの大学で、すでに活動がスタートしています。(談)

国際交流を推進する部活動Report

フィールドホッケー部

23年間続くソウル大学校との国際交流。新たな試みも計画中

フィールドホッケー部写真

フィールドホッケー部集合写真

一橋大学フィールドホッケー部の国際交流は、同部の創立70周年を迎えた1994年に始まった。きっかけは、OB・OG会である一橋大学ホッケー倶楽部の提案だった。関東学生ホッケーリーグの上位に入ることが難しかった当時、「選手に誇りを持たせたい」という親心が実現の原動力になったという。交流先は韓国・ソウル大学校であり、1994年の初回から23年間続く伝統行事となっている。両校の学生が主体となって企画から実施まで行っており、1年ごとに相手国を訪問するのが慣例だ。遠征にはOB・OGも加わり、総勢30人以上がソウル大学校を訪れる。定期戦をはじめとしたさまざまな行事が催され、ソウル大学校で開講される授業の受講や、ホームステイ先の家族との交流も行事の一つとなっている。25年目を迎えようとしている2018年に向け、新たな試みも計画中だという。それは、中国の大学も加えた3か国による国際交流である。強い絆を持つ輪は今、さらに外へ向かって広がろうとしている。

世界で生き抜くための力とは何か、考えさせられました

浪江陽一さん

浪江陽一さん

経済学部4年

ソウル大学校はアジアでもトップレベルの大学です。同世代のエリートがどのような学生か、知る機会になりました。知識の多さから学習量の差は明らかで、英語に加えて日本語まで流暢な学生も少なくありません。自分とのギャップの大きさに危機感を覚えましたが、おかげで自分も同じ土俵に立ちたいと奮起するきっかけになりました。国際交流は留学プログラムと違って、学生がゼロから計画を立てます。ソウル大学校の学生が来日する年は、国立エリアでホームステイ先を地道に探すことも活動の一つです。私は幹事を務めましたが、運営力や行動力が身についたのは確かです。遠征をした年、異国ならではのハプニングに遭遇しました。食事会が催された夜、体調を崩した出席者と街で取り残されてしまったのです。タクシーを止めて行き先を伝えようとしても通じない。そんな言葉の壁を痛感しながら彷徨いましたが、「世界で生き抜くための力とは何か」を考えさせられる貴重な体験になりました。(談)

囲碁部

アメリカ最大の囲碁イベントに遠征。囲碁という共通語を通して親睦を図る

囲碁部活動写真1

囲碁部活動写真2

囲碁部活動写真3

囲碁部活動写真3

一橋大学囲碁部は国際交流として海外の囲碁イベントに参加する。2016年には当時4年次だった部員の発案で「US碁コングレス」へ参加した。1週間程度の共同生活を送りながら対局する、アメリカ最大の囲碁イベントである。2016年は7月下旬からボストンで開催され、世界中から400人以上の囲碁ファンが詰めかけた。同部では部員20人中6人が遠征したが、成果は棋力(囲碁の実力)の向上だけではない。対局相手と囲碁を楽しむ仲間として親睦を深めながらグローバルな視点を養うことができたという。2017年は部員3人でドイツで開催された「EU碁コングレス」に参加した。囲碁の知名度や人気は、アジアに限らず欧米でも高く、日本のそれを上回ると聞く。国際交流には恰好のテーマといえるだろう。スポーツ系の部活動が多い中で、こうした文化系の部活動が舞台を海外に求める活発な動きにぜひ注目したい。

日本にいては分からない、発見の連続でした

入内嶋拓海さん

入内嶋拓海さん

経済学部2年

2016年「US碁コングレス」に出場しましたが、数々の発見がありました。囲碁用語の多くは、海外でも日本語がベースになっていること。アジアの文化というイメージが強い囲碁にあって、参加者の半数近くが欧米人だったこと。これらは日本にいては分からないことで、モノの見方が変わる貴重な体験になりましたし、囲碁が世界とのコミュニケーションツールになることも実感しました。囲碁では対局後に、お互いの手の良し悪しを振り返る「検討」が行われます。日本人同士なら気楽に会話できますが、アメリカでは英語で行わないといけません。ただでさえ説明が難しい囲碁ですが、どのようにすれば伝わるか考えながら相手と検討したことは、コミュニケーション力の向上にも役立ちました。一番の成果は、グローバルな舞台に出ても物怖じしない度胸がついたこと。2017年春には短期語学留学に参加しましたが、その事前トレーニングにもなりました。2017年の「EU碁コングレス」には参加しませんでしたが、また参加したいと思っています。(談)

空手道部

タイ・チュラロンコーン大学との合同合宿を年に2回実施

空手道部活動写真1着物を着て

空手道部活動写真2交流の様子

空手道部活動写真3

空手道部活動写真3

一橋大学空手道部が毎年定例行事として実施しているのが、タイ・チュラロンコーン大学との合同合宿だ。年に2回の交流機会があり、春先にチュラロンコーン大学の学生が来日し、夏休み期間中に一橋大学がタイを訪問する。1週間ほど滞在しながら親睦を図っている。スタートしたのは2004年で、タイ国内で空手を指導していた大村藤清氏(松濤館流師範)からの打診がきっかけとなった。氏とつながりがあった同部OB・OGの「留学、ひいてはグローバルに関心を持ってほしい」という想いから、合同合宿が始まったのである。同部が訪問する際には、空手の技術向上を図る合同練習のほか、バンコク市内観光、タイ語教室での受講、民芸品づくりなどもスケジュールに組み込まれ、タイの学生とともに体験しながら異国文化に触れるという。こうした合宿メニューを、担当となった双方の学生が中心となって企画しているのも特徴だ。スケジュールの作成や宿泊先の手配、如水会への補助申請など、すべてが学生主導で行われている。

コミュニケーションに消極的な自分から、積極的な自分へ

活田 誉さん

活田 誉さん

法学部4年

チュラロンコーン大学の空手道部には、タイのナショナルチームの選手も在籍しています。そういう意味では、稽古を通じて自分を磨く絶好の機会でした。また、タイ独自の文化や国民性に触れられたことも大きな収穫です。タイの人々は陽気で、積極的に話しかけてくれます。当初の私は気後れし、コミュニケーションにも消極的でしたが、合同合宿が4年間で計8回実施されることもあり、交流を続けるうちに自分の中で変化が起こりました。相手を知りたいという気持ちが高まり、4年次の頃には積極的な姿勢が身についていました。交流会が知り合うきっかけとなったOB・OGの方とも連絡を取り合う関係になり、来日された時に会食することもあるほどです。タイでの合同合宿での忘れられない思い出があります。部員が急病にかかり、パニックになりながらも現地の人々や医師と必死にやりとりして切り抜けました。語学力も留学経験もありませんでしたが、合同合宿のおかげで「異国の地でも何とかなる」という自信がつきました。(談)

ENVIRONMENT

学びの環境