ビジネスプランコンテストを通じて体験したビジネスの実践とグローバルなフィールド

(『HQ』2016年春号より)

一橋大学学生ビジネスプランコンテスト

第6回大会優勝チームの、(左から)堀田さん、田邊さん、服部さん。

第6回大会優勝チームの、(左から)堀田さん、田邊さん、服部さん。

「起業家論」の講義で知り合ったメンバーがチームを結成し優勝

ビジネスプランコンテストチラシ

今年度で6回目となった「一橋大学学生ビジネスプランコンテスト」は、新たなビジネスにチャレンジしようと考える学生を支援する企画だ。株式会社JOUJUの協力・支援を受け、一橋大学生を対象に開催されている。優勝チームには賞金15万円に加え、ベトナムのハノイ貿易大学において現地学生と交流するための渡航費が与えられる。その〝特典〞の魅力もあって、イベントには高い意欲を持った学生たちが数多く参加する。
このコンテストには、一橋大学の学生であれば学年を問わず誰でも参加できる。7月に設けられた応募期間にA4用紙10枚以内にまとめられたビジネスプランを提出し、書類選考通過チームが二次審査に進む。第6回大会の優勝者である堀田遼人さん(商学部4年)、田邊竜昂さん(経済学部3年)、服部紘太朗さん(商学部2年)の3人が結成したチームは2015年11月21日から24日の4日間にわたってハノイへの研修旅行を体験した。
「起業家論」の授業では、起業にまつわるテーマや成功事例を学ぶプログラムに加え、国内のベンチャーキャピタル企業の代表者による講演も組み込まれている。3人はその授業を通してお互いを知ることになる。授業を履修する学生たちは、全員が起業に興味を持っているかといえば、必ずしもそうではない。チーム最上級生の堀田さんは「自分で事業を組み立てる方法を学びたかった」という。一方で、2年生の服部さんは「特に起業は視野に入れていなかったものの、将来に役立つ知識が得られそうだったから」と話す。また3年生の田邊さんは、ビジネスプランコンテストを企画するサークルに所属していたこともあり、その活動の延長線上にこの授業があったという。

田邊さん

「僕は、さまざまなビジネスプランコンテストを見ていくうちに、起業というものに興味を持つようになりました。3年生になってこのビジネスプランコンテストで勝つためのサークルもつくり、授業で組んだチームとサークルとの両方でエントリーしました。この授業でいいメンバーと巡り会えたことは、本当にラッキーだったと思っています」(田邊さん)

問題解決を目指すサービスのプランが現実的なビジネスとして評価される

前述の通りそれまで3人は面識もなく、この授業を通して初めて顔を合わせたのだった。考え方やバックグラウンドも異なる3人が出会った経緯や、ビジネスプランができあがるまでのプロセスについて聞いてみた。
「チーム編成については、単独で受講している学生が多かったので、先生がランダムにメンバーを選んでチームを決めるという形になったんです」(服部さん)

堀田さん

「『起業家論』の授業は6月ぐらいまではインプットが中心で、その後自分たちのプランをつくるという流れでした。授業の中では、アメリカのシリコンバレーでビジネス構築プロセスとして提唱された『リーン・スタートアップ(lean startup)』を重点的に勉強し、それに基づいてプランをつくるというのが全体的なテーマです。ビジネスプランづくりを行うにあたり、まず考えたことは、プランの方向性の擦り合わせです。そのうえでどういう分野のビジネスを企画するかを決めていきました。まったく知らない者同士でしたので、まずは雑談のような形でアイデアを出し合いながら共感できる部分を一つひとつ確認していきました」(堀田さん)

服部さん

ディスカッションを重ね、生まれたアイデアが「外国人観光客と、英会話をしたい日本人をマッチングさせる」というビジネスプランだった。英語による会話、観光案内、英会話の学習が実現するというアイデアを、いかにビジネスとして成立させ、サービスをブラッシュアップさせるかにテーマを絞っていったという。
「日本人は英語が苦手だと一般的に言われていますが、義務教育で英語をしっかり学んでいます。さらに英会話教室に通う方々もたくさんいます。それでも英語が苦手ということは、その二つの学び方に何かしらの課題があるからなのではないか。その課題を埋めるワンステップがビジネスにつながるのではないか、というところからアイデアを絞り込んでいきました」(服部さん)

日本人に英語を話す機会を与えるとともに、近年増え続ける外国人観光客のガイドニーズにも応えていく。果たしてそのようなニーズは実際にあるのだろうか。仮説を検証するためにフィールドワークを繰り返し行った。
「街に出て外国人観光客にインタビューした結果、漢字が読めないために本来の目的であったお店になかなかたどり着けないという意見がありました。たとえば寿司店に行きたいのに、別の店の行列に並んでしまったというような」(堀田さん)

問題解決のためのサービスを、多くの人に受け入れられるビジネスへと昇華させたといった視点が評価され、3人は約20組が参加したコンテストで見事優勝を勝ち取ることになった。

ベトナムへの研修旅行で感じた人々のエネルギーと街の活気が大きな刺激に

ハノイ貿易大学前で

ハノイ貿易大学前で。
ハノイ貿易大学の学生と引率のため同行した、国際教育センター長・五味政信教授(左から2番目)
商学研究科・神岡太郎教授(左から3番目)とともに。

2015年10月3日に行われた二次審査(プレゼンテーション)を経て優勝し、いよいよ3人は、ベトナム・ハノイへ研修旅行に出かけることになった。
「優勝が決まってから渡航までの約3週間は、英語によるプレゼンテーションの練習です。これも大学が支援してくれました。手厚いサポートにとても感謝しています」(服部さん)

ベトナムでの滞在は4日間。ハノイ貿易大学でのプレゼンテーションを3日目に控え、まずはハノイ観光や日本語学校・現地大型商業施設の視察をした。さらに卒業生同窓組織である現地如水会の交流会にも招かれた。
初めての海外体験となった田邊さんは、今回の研修旅行で感じたことを次のように語る。
「とにかくハノイの街に溢れる活気に圧倒されました。走っている車やバイクの数、人々のエネルギーなど、成長の勢いを感じました。やる気や情熱は、躊躇せずに素直に吐き出して良いのだと、自分の意識も変わりました」(田邊さん)

ベトナムで体感した人々のパワーについては、ほかのメンバーたちも同様の驚きを感じたという。研修最終日には、ハノイ貿易大学の学生たちによるビジネスプランも発表された。3人は、ハノイ貿易大学の学生たちの発表内容のレベルの高さはもちろん、意識の高さも感じたという。
「僕たちの目標はコンテストに勝つことでしたが、ハノイ貿易大学の学生たちは実際に起業へと発展させることを前提にしていました。特に優勝チームの中には、すでに就職を経験している学生もいて、プラン自体が現実社会に即したものでした。就職していずれチャンスがあれば独立・起業する、という感覚だった私たちとは違い、彼らは企業に勤務しながらもつねに成功のチャンスをねらっている。圧倒的なリアル感がありました」(服部さん)

成功したいという思いを実現させるために、就職は一つの選択であり、起業もまた選択の一つ。失敗を恐れずにチャレンジする。ハノイ貿易大学の学生たちから発せられた圧倒的なエネルギー、そうした学生たちと英語で議論。ここでの体験は、3人にとってすべてが新鮮に映ったようだ。

ベトナム研修旅行の様子1

ベトナム研修旅行の様子2

ベトナム研修旅行の様子3

コンテスト優勝の結果がもたらしたビジネスに対する考えと意識の変化

田邊竜昂さん

田邊竜昂さん

服部紘太朗さん

服部紘太朗さん

堀田遼人さん

堀田遼人さん

今回の経験から得たものについて田邊さんは、「これまでは、授業を通して知識のインプットを中心に行ってきました。今回は知識の活用方法を学べたことが収穫でした。しかも学んだことを実践に移し、さらに海外の学生たちとアイデアを競うことができました。その経験は、これからの自分にとって大きなプラスになると思います」と語る。
2年生である服部さんは、「私は2年生ですから、経営理論やビジネスについても概論的なことしか学んでいません。頭の中でなんとなく理解しているつもりでも、実際にこうした知識がどのように活きるかが実感できていませんでした。『起業家論』の授業やフィールドワークを経験することで、理論と実践が線でつながったという感覚があります。3年生になり専門的な科目を学ぶ前に、こうしたことを経験できたのは、学習を進めるうえでアドバンテージになると思います」という。
4月から社会人として新しい生活をスタートする4年生の堀田さんは、ベトナム体験を通してビジネスのグローバル化を実感したという。
「ベトナムの学生たちと交流して感じたことは、自分のやる気次第でチャンスは無限に広がるということでした。 またアジアに目を向けることで、そのチャンスはさらに広がっていく。ポテンシャルの高さを感じ、海外を視野に入れて働くというイメージも湧きました。特に成長著しいベトナムでは、やる気さえあれば何でもできるというエネルギーを感じます。〝とにかく行動してみる〞〝行動しながら考える〞というアプローチもありだと思いました。さらに成長するベトナムを前に、自分がこれから入ろうとしている日本のビジネス社会に、ある種の危機感を持つようになりました」(堀田さん)

チームでの意識共有と個性を活かした取り組みの大切さ

優勝メンバーの3人で

最後に、ビジネスプランコンテストの印象を、優勝を勝ち取ったメンバーそれぞれに聞いてみた。
「参加してみてまず驚いたのは、手厚い支援体制です。本当に恵まれていると思いました。特に『起業家論』の授業を経て出場した学生たちはそれを実感していると思います。しっかりと理論を学んだうえでコンテストに参加できるからです。つまり学ぶ場と実践の場の両方が用意されている。さらに専門家や業界のトップの方々から適切なアドバイスを受けることもできる。加えて優勝したら、英語によるプレゼンテーションに備えて英語力も鍛えてくれるのです。その手厚さが、より良いプランをつくろうとする学生たちのモチベーションにつながっています」(田邊さん)

ちなみに「起業家論」の授業はすべての学年が履修できるため、知識や経験が異なる学生同士で学び合うという体験もできるのだ。
「これまで、経営やマーケティングに関するものを中心に授業を受けてきましたが、主な学習対象は、既存企業の戦略や事例でした。一方で『起業家論』の授業で学ぶのは、新しい企業やサービス・製品の創造です。ゼロから企業や事業を立ち上げて、成功への道筋を描くことです。実践を交えながらそういった体験ができるので、新たな視点を得ることができます。知識や理論を現実的なものとして吸収できるのではないかと思っています」(服部さん)

また、知らない者同士でチームを組織するという方法についても、学習効果があるようだ。
「授業の中で見ず知らずの人とチームを組むことに抵抗を感じる場合もあるかもしれませんが、違ったバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの意見を出すことで、多様なアイデアが生まれます。目標さえ共有できれば、『お互いを知らない』ということは、さほど大きな問題ではない。そうしたことが身をもって実感できました。特に2年生で参加した私は、知識が豊富な先輩たちに囲まれて多くのことを学びました。知識不足を補うために、自分がチームに貢献できる方法を必死に考えました。お互いの個性を活かしながら取り組めたことが、いい結果につながったのだと思います」(服部さん)

知識が異なる仲間と、個性や強みを尊重しながら、実践を通して一つの成果を生み出していく。そのプロセスが自分たちを大きく成長させたと堀田さんは語り、今回の経験を次のようにまとめて、締めくくってくれた。
「ビジネスプランコンテストでいい結果を出すためには、チームワークが不可欠です。しかし良いチームは気の合う仲間からしか生まれないのかというと、必ずしもそうとは限らない。まして現実社会では、相手を選べないというのが一般的でしょう。そうした制約の中で一人ひとりの特徴や強みの理解に努め、チームとしての「納得解」を模索していく。そのうえでそれぞれが役割を認識し、良い結果に向けて努力していく。そしてベトナムという外の世界と外国の同世代の学生たちを通して自分たちの立ち位置を確認し、視野を広げていく。今回その経験ができたことは、自分のこれからのキャリアを考えるうえで大きなプラスになったと思います」(堀田さん)

ENVIRONMENT

学びの環境