グローバルとは、自分自身の魅力、価値観を理解して個性を武器にチャレンジできる環境を意味する

  • 社会学部4年鐵見祐太郎さん

(『HQ』2014年秋号より)

異国を舞台に身一つで勝負する。そんな"カッコよさ"を持つロールモデルの存在

社会学部4年の鐵見祐太郎さんは現在、同窓会組織の如水会が支援する「一橋大学海外留学奨学金制度」によって、オーストラリアのクイーンズランド大学に留学中だ。
もともと留学に対して"選ばれたエリートしか行けないもの"というイメージがあったことから、鐵見さんは学生生活のなかで海外に留学する計画はなかったという。しかし、大学2年生で経験したアメリカ・カリフォルニア大学デーヴィス校への短期語学研修によって気持ちが大きく変化した。
「最初で最後の海外経験のつもりで参加しましたが、1か月の研修期間中に大きな刺激を受けました。予想以上に海外という環境で生き生きできましたし、1年ぐらい滞在したらもっと違うものが見えるかもしれない、と思うようになったんです」

それまでは海外への渡航経験もなく、日本で勉強したレベルの英語力だったにもかかわらず、初めての海外生活に強い魅力を感じたということだ。帰国後、本格的に海外留学を考えるようになった鐵見さんは、過去に留学を経験していた先輩からのアドバイスを受け、留学プログラムへの応募を決めた。
「相談に乗ってくれた先輩もそうですが、海外で活躍する人への憧れもありました。アメリカでお世話になったホストファーザーは、出身地の香港から身一つでアメリカにやってきてビジネスを立ち上げた方だったのですが、その生き様から大きな影響を受けました。そんな"カッコいい"人たちに少しでも近づきたい、自分も知らない世界で勝負してみたいという思いから、留学を決めました」

一橋大学で社会学を専攻し、雇用と労働に関する研究テーマを持つ鐵見さんは、さまざまな文化が混じり合うオーストラリアを留学先として選択。最も興味を持っていた人材マネジメントの授業があるクイーンズランド大学を選択した。
「日本の企業でもアジア各国への進出が活発になっていますし、これからのビジネスではアジアの人々を含めた人材マネジメントが非常に重要になるはずです。英語圏でありながら多くのアジア系移民が生活するオーストラリアは、留学先として最適だと思いました。留学にあたって、まずは英語力を身につけなければなりませんでしたが、あまり時間がないなかで猛勉強して、何とか試験に合格することができました」

一橋大学に交換留学できていた2人と再会したときの写真(中央が鐵見さん)

一橋大学に交換留学できていた2人と再会し校内で写真を撮った。
右の女性がDaphneで、一橋大学での学内セミナーでクイーンズランド大学をすすめてくれた恩人(中央が鐵見さん)

ブリスベンの美しい風景写真

ブリスベンの美しい風景。フェリーで街を移動するのがおしゃれ

自分の居場所を見つけるためにはアピール力と発信力が必要

オーストラリアでの留学生活を始めた鐵見さんにとって、最初の苦労は自分の「居場所づくり」だったという。
「オーストラリアに到着して、寮の小さな部屋で一息ついたときに、これは大変だぞと思いました。当たり前のことですが、知らない街で、自分のことを誰も知らない。まるでロールプレイングゲームがスタートした直後の主人公のようでした(笑)」
鐵見さんの留学生活は戸惑いからスタートしたが、すぐに自分の意識をリセットし、存在をアピールしながら、居場所をつくるための行動に出た。
「部屋にこもらずに外に出て、いろいろな人たちに話しかける。それは、周りの人たちのことを理解すると同時に、自分の存在を認知してもらうことになりますので、積極的に行動しなければいけないと思っていました。とはいえ、それを英語でやっていかなければならなかったので、覚悟はしていましたが心も体もへとへとになるぐらい疲れましたね。睡眠時間も、日本にいたときの2倍ぐらいになりました(笑)」

多文化国家であるオーストラリアにおいては、その人の出身国がどこであろうと平等に扱われるのは当然のこと。留学生というだけで特別扱いを受けることは皆無だったという。それでも鐵見さんは、出身国ごとにさまざまなアクセントを持つ友人たちとの英会話に苦労しつつも、楽しみながら関係を深めていくことができたという。
「毎日何か一つ話題を提供して、友人たちとコミュニケーションを図るということから始めました。雇用や労働について学んでいた私は、たとえば"皆の国ではいつ、どうやって仕事を見つけているの"と問いかけたり、ちょっとユーモアを加えて"月給100万円のトイレ掃除の仕事を一生続けられるか"と聞いてみたり、海外事情や職業に対する価値観がわかるような話題を提供していました。あるときは、日本の合コン文化を紹介して大いに盛り上がったり(笑)。そんなことを繰り返しているうちに、"あいつは面白い"と思ってもらえるようになり、次第に相手からも話題を振ってもらえるようになっていきました」

日本人としての"看板"を背負うことなく、1人の人間として関係を築いていく。海外とはいえ、その手法は日本で友人をつくる場合とまったく同じなのである。現在は、和太鼓クラブや日本語学習のボランティアにも参加しながら、活動の範囲を広げているという鐵見さん。「活動を通して、友人は二次関数的に増えていった」と語る彼は今、"日本人の鐵見祐太郎"としてではなく"世界に生きる鐵見祐太郎"としての存在をアピールしながら、自分の居場所を広げている。

和太鼓クラブUQTAIKOの大学内での野外ライブでの集合写真

今年結成された和太鼓クラブUQTAIKOの大学内での野外ライブ

和太鼓クラブのメンバーと校内でプロモーションビデオを撮影したとき

和太鼓クラブのメンバーたちと校内でクラブのプロモーションビデオを撮影した

異国での違いを、咀嚼(そしゃく)して受け入れる。そこから新しい発見や刺激が生まれる

雇用・労働という研究テーマを持つ鐵見さんだが、専門が学べる次学期に備えて、家族社会学やオーストラリアの歴史・文化、社会問題に関する授業を履修している。社会学という学問を専攻する鐵見さんにとって、海外の大学で学ぶ意義とはどのようなものなのだろうか。
「海外で勉強することで、日本にいるときには"これは当たり前のこと"として無意識に見落としてしまう細かいことも、先入観なしに問題として見つめることができます。それが一番の魅力であり意義なのかもしれません」
また鐵見さんは、留学を通して矛盾を感じたり不快に思うことをしっかりと認識することも大事だと指摘している。
「海外での生活に際して、"違いを受け入れることが大事"と言われることがありますが、ただ受け入れるだけではダメだと思うんです。"違うものは違う"で片づけてしまう前に、それはなぜ違うのかといったことを主体的に考えて掘り下げていく。そうすることで、新しい発見や刺激を得られるのだと、私は思っています」

一方で「日本を離れたことで日本のよさにも気づくことができた」と鐵見さんは語る。「雇用や労働にも関係することですが、いろいろな国の人たちがチームを組んで仕事をする場合は、文化や価値観の違いを解消するためにある程度の時間が必要になります。一方日本には、多くを語らずともわかりあえる"阿吽(あうん)の呼吸"というものがあります。これは、ここで知り合った友人たちと議論を重ねていくうちに、気づけた違いです。もちろんそこには、不慣れな英語によるコミュニケーションというものも影響しているかもしれません。表面的なことは言えても、心の奥にある思いや隠れた感情を表現できるようになるには、もう少し時間がかかりそうです」

友人たちとラグビー観戦の時に撮った写真

友人たちと地元のラグビーチームREDSの試合を観戦しに行った際のスタジアム前で

寮での月に一度のフォーマルディナー後の写真

寮での月に一度のフォーマルディナー後の写真。
このディナーは、各国の代表者が母国語でスピーチを行うなどのセレモニーがあり、インターナショナルな寮ならではのイベント

表面的に取り繕うことなくありのままの自分を出すことの大切さ

留学生活を通して、鐵見さんは「グローバル」をどのように考えるようになったのだろうか。
「グローバルとは、多様性のなかに身を置きながら、肩書きではなく"自分自身の人間としての価値"に気づくことだと思います」
日本では、所属するゼミやサークル、部活といったものが自らの"個性"をつくっていたと語る鐵見さんは、オーストラリアでは国籍さえ問われず、自分の内面にあるものこそが他者から認識される判断基準になるということを実感している。
「自分の場合は、これまでの人生経験に加えて、ユーモアや好奇心といったものが、周りの友人たちの印象につながっていると思います。グローバルな環境では、一人ひとりが持っている素養や人間として愛される部分、言い換えれば人間くささみたいなものこそが個性になるはずです。ある意味では"裸"にされるような感覚もありますが(笑)、自分自身の真価を個性として勝負できる、そんなチャレンジングな環境だと思います」

自分という人間をしっかりと理解し、世界を視野に入れながらできることを模索していく。それが鐵見さんにとってのグローバルであり、そのことに気づかせてくれたことがオーストラリア留学で得た最大の収穫なのかもしれない。(談)

ENVIRONMENT

学びの環境