スポーツを共通言語とした国際交流でラクロス選手たちが体験した「グローバル」

  • 一橋大学男子ラクロス部

(『HQ』2014年春号より)

ラクロス用具

ラクロスプレー中の様子

先端にネットの付いた「クロス」というスティックを使い、ボールを相手ゴールに入れた点数を競い合うスポーツ「ラクロス」。"スタイリッシュなフィールドスポーツ〞というイメージから、新興スポーツとしての印象を受けるかもしれないが、その歴史は意外に古い。北米先住民の神事で行われていたゲームが起源とされるこのスポーツは、19世紀中頃からカナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリアを中心に広まっていった。日本国内では、1986年に慶應義塾大学でチームが結成されたことをきっかけに普及し始め、2年後の1988年には大学チームによる国内リーグ戦がスタート。同年に、ラクロス先進国・アメリカの大学を視察、翌年には日本での国際親善試合なども始まり、スポーツを通じた国際的な交流も盛んに行われるようになった。

藤田裕二さん

藤田裕二さん

阪田隆治さん

阪田隆治さん

久利生莉里子さん

久利生莉里子さん

戦術重視のチーム方針で代表クラスの選手が活躍する強豪チームに

一橋大学における男子ラクロス部の創立は1990年。「SERPENTS」と名付けられたチームは現在、約30チームで構成される関東学生リーグのなか、上位12校の1部リーグに属し、2009年の「第1回全日本ラクロス大学選手権大会」で見事に優勝を果たすなど、大学では有数の強豪チームへと成長している。また、2013年には日本代表に2人、ユース代表に4人を送り出すなど、所属する選手個人の実力もレベルアップし続けているが、選手たちは大学に入ってからラクロスを始めた"初心者〞がほとんどだという。現在、在籍している約80人の選手たちも、そのほとんどが中学、高校でのラクロス競技経験がなかったメンバーだ。未経験スタートの選手を中心に構成されたチームにもかかわらず、なぜ各メンバー・チームともに高いレベルを維持できているのだろうか。その理由について、同チームの広報を担当する阿部悠希さん(法学部4年)に聞いた。
「チームメンバーは、過去にサッカーや野球、バスケットなどほかの球技の経験者は多いのですが、ラクロスをやったことがある人はほとんどいません。選手たちの経験が浅くても試合に勝てるのは、私たちがチームとしての"戦術〞を重視しているからだと思います。ラクロスは、オフェンス・ディフェンスそれぞれのシーンでハーフラインを越えてもいい人数が決まっているなど、複雑なルールが数多くあります。だから、攻守の切り替えやフォーメーションなど、戦術面の充実度が試合の勝敗を左右することも多いのです」

ボールを奪い合う際の激しいボディコンタクト、マークする相手をかわす動きなど、個人の身体能力を問われる場面も多いラクロスだが、それ以上に重要なのが戦術を組み立て実践する力だということだ。その戦術の要となるミッドフィルダーであり、チームの主将を務める藤田裕二さん(商学部4年)は、中学・高校とサッカー部に所属していた自身の経験を踏まえ、ラクロスというスポーツの特徴と魅力について語ってくれた。
「ラクロスは、それまで自分がやっていた競技の経験を活かせるスポーツだと思います。僕の場合は、サッカーで身につけたフェイントの技術が役に立っています。そして、ほかのスポーツに比べて頭を使うことがより求められるのも大きな特徴です。言い換えれば、戦術を構築し理解する力があれば、自分の経験を転換させながら選手として成長できるということです」

関東学生リーグのなかでは、慶應義塾大学や東京大学、早稲田大学などが強豪校として知られているが、いずれの大学も体力面に加え"頭脳〞を駆使した戦術によって好成績を残している。一橋大学のラクロス選手たちは、戦術面に重きを置いたチーム方針の下で各選手が努力を続け、リーグ内の競争に打ち勝ちながら代表選手を輩出するほどの強豪校となったのである。

江戸川区陸上競技場でのUMBCと日本代表との試合の様子

江戸川区陸上競技場でのUMBCと日本代表との試合の様子

リエゾン阪田さん宅にホームステイにきたUMBC選手

リエゾン阪田さん宅にホームステイにきたUMBC選手

まだメジャーではないラクロスというスポーツを通して世界を知るチャンスを得た学生たち

このラクロスというスポーツを大学で始める魅力の一つに、競技経験の浅い選手でもつねに「世界」を意識しながら活躍できるということがある。日本国内でサッカーや野球ほどまだメジャーではないラクロスでは、大学チームの主力メンバーになるチャンスがあり、そこから世界各国の代表レベルのチームと対戦する機会を得る可能性もある。
発足間もない頃から海外チームとの関係強化を進めてきた日本ラクロス協会では、日本ラクロスのレベルアップを目指し、さまざまな国際交流の場を設けている。毎年、アメリカ各地の大学チームやオーストラリアの各年代代表チームが来日し、国際親善試合を開催しているのもその取り組みの一つ。関東学生リーグでファイナル4に勝ち進んだチームは、世界トップレベルの実力を持つ学生チームと直接対戦する機会が与えられるなど、「世界のラクロス」に触れる場が数多く用意されているのだ。そのほか、運営に携わるリエゾン(活動を支援する者)として活動することで、海外のラクロス選手たちとの交流を深めることもできる。
2013年は5月下旬から6月にかけて、米国・メリーランド大学ボルティモアカウンティー校(University of MarylandBaltimore County、以下UMBC)と、北京で開催された国際大会に参加するオーストラリア・23歳以下代表の2チームが来日した。2012年にファイナル4となっていた一橋大学は、6月4日にUMBCと対戦。結果は2-7の敗戦となったが、アメリカの強豪校相手に奪った2点は、選手たちの大きな自信になったという。当時4年生のメンバーとして対戦した阪田隆治さん(商学部卒業生)は、試合に加え、来日したUMBC選手のホームステイ先のホストとして海外の選手との交流を深めた1人だ。
「試合で対戦できたことはもちろんですが、自宅に招いて関係を築けたことはとても嬉しかったですね。まさか直接交流できるとは思っていなかったのですが、滞在中はいろいろな話を聞くことができました。驚いたのは学生スポーツに対する考え方の違いで、アメリカではチームを大学の資産と考えているということがわかりました。チームの遠征時には必ず学習アドバイザーを帯同するなど、さまざまな面で大学がチームをサポートしているのです」

リエゾンとして来日チームと接した1人で、同チームのマネージャーである久利生莉里子さん(商学部4年)も、彼らと長い時間を過ごすなかで、日米のラクロスに対する考え方に違いを感じたという。
「試合会場での案内や送迎バスの手配といった運営面だけではなく、UMBCのメンバーを鎌倉に案内したり、またオーストラリアの選手たちをファミリーレストランに連れて行ったり、とても長い時間をともに過ごしました。そのとき、たくさんの会話を交わすことができましたが、『ラクロスを始めたのは4歳ぐらい』『ラクロスをやる最適な環境のために大学を選んだ』といった話を聞いて、文化の違いを実感しました。彼らとはいい友人関係を築くことができ、今でもSNSなどを通じて交流を続けています」

ラクロスという一つのスポーツを基準に、国による環境や考え方、また学生スポーツに対する社会のかかわり方などの違いを知る。阪田さんと久利生さんは、今回の交流体験を通し、「グローバル」への第一歩である国際的な相互理解への気づきを得たのではないだろうか。

鎌倉にて、UMBCメンバーとリエゾンメンバーとの記念写真(左端が久利生さん、右端が阪田さん)

鎌倉にて、UMBCメンバーとリエゾンメンバー(左端が久利生さん、右端が阪田さん)

UMBCとの交流試合後の懇親会にて、UMBCメンバーと一橋大学ラクロス部マネージャーとの記念写真(左端が久利生さん)

UMBCとの交流試合後の懇親会にて、UMBCメンバーと一橋大学ラクロス部マネージャー(左端が久利生さん)

一橋大生宅にホームステイにきたUMBC選手たちとの写真

一橋大生宅にホームステイにきたUMBC選手たち

同じスポーツを愛好する連帯感が国際的な交流、グローバルを知るきっかけとなった

国際的な交流を図るうえで問題となる言葉の違いも、ラクロスという共通の要素を大きな助けとして乗り越えたと語るのは、主将の藤田さん。海外生活の経験があった阪田さんや久利生さんと違って、外国人との交流は初めてだったという藤田さんだが、言葉の不安を覚えたのは最初の頃だけだったそうだ。
「単語を並べたようなたどたどしい英語だったので、初めはぎこちない会話でしたが、共通の話題であるラクロスについてコミュニケーションを取るうちに打ち解けることができたと思っています。スポーツであるラクロスを共通言語として意思疎通を図りながら、関係を築けたことが楽しかったですし、とても嬉しかったのを覚えています」

同じスポーツに熱中する仲間として、そして国際的にはまだ決してメジャースポーツの域には達していないラクロスというスポーツを愛好する者同士として、そこには強い連帯感が生まれていたのかもしれない。そして、これまで経験のなかった国際交流という体験のなかで人間関係を築けたことは、藤田さんにとってとても大きな喜びだったに違いない。
阪田さんも、ラクロスをきっかけとした何気ない交流を日常のなかで体験したことがあると教えてくれた。
「自宅の近所を歩いているときに、突然外国人に話しかけられたことがありました。聞いてみると彼はアメリカ人で、近所でラクロスのクラブがないかずっと探していたところ、僕がクロスを持っている姿を見かけて声をかけたということでした」

2人のエピソードから、ラクロスが、競技者同士の気持ちのつながりを生み出していることがうかがえる。大きなフィールドでチーム同士が激しくぶつかり合う試合のなかだけではなく、日常生活での小さな空間でも、お互いを知るための共通要素があれば国際交流のチャンスは存在する。日本ラクロス協会の基本理念は「Lacrosse Makes Pride,Lacrosse Makes Culture, LacrosseMakes Friends」。今回の国際交流のなかで、一橋大学ラクロス部のメンバーは言葉によらない交流、まさに「LacrosseMakes Friends」を体験しながら、グローバルというものに触れたのではないだろうか。

一橋大学のリエゾン・ホームステイ受け入れメンバーと、ホームステイにきたUMBCメンバーとの記念写真(中央が阪田さん)

一橋大学のリエゾン・ホームステイ受け入れメンバーと、ホームステイにきたUMBCメンバー(中央が阪田さん)

ラクロス部集合写真

ENVIRONMENT

学びの環境