案ずるよりも、動いてみる。外に出ることで、想像以上の収穫がありました

  • 経済学部4年(中国・上海財経大学へ1年間留学)鈴木絵美さん

(『HQ』2013年秋号より)

大学卒業を前に明確な意見を持たない自分に苛立ちを感じた

バータルホ ホス・エルディンさん

大学3年から後期ゼミでさまざまなテーマについて議論する場を定期的に持つようになり、主義主張をはっきりするゼミテン(ゼミ生)を前にして、自分の知識や意見のあまりの弱さに気づき焦りを感じました。そこで初めて、今までの自分の大学生活に強い後悔を感じました。今まで自分は、興味の方向性や明確な目的意識を持ってこなかったということに気づいたのです。ターニングポイントは、部活を引退し就職活動を開始した3年の秋です。残り1年半の大学生活のプランがないこと、そして就職活動においても目的意識を持っていないことに気づき、変われない自分への強い苛立ちを感じました。
留学してみようかなと思ったのは、突然です。一橋大学に充実した海外留学制度があるのは知っていましたが、それまで留学は全く考えていませんでした。英語が得意だったわけでもなく、海外志向があったわけでもありません。如水会の留学制度は敷居が高い、とも思っていました。しかし留学は間違いなく、今までかなり小さなコミュニティーで生きてきた自分が視野を広げるチャンスだと思いました。
留学が心に浮かんでから決心するまでは、自分でも驚くほど迅速に決断しました。留学先を上海財経大学に決めたのは、まだ一橋大学から誰も行ったことのない大学に行ったほうが面白そう、というシンプルな理由が一番大きいです。中国語は、一橋大学で1年間学んだ程度でしたが、行ってしまえば何とかなるだろうと思いました(笑)。とにかく、今まで自分が経験してこなかったような「チャレンジ」をしてみることが大事だと思ったのです。

「格好悪い自分」を経て、「あきらめない自分」に

まずは香港の語学学校で1か月間にわたり中国語を勉強し、上海に行ったのは2012年の9月でした。マネジメントやマーケティングを中心に学部科目から4科目・9単位と、中国語・6単位の取得にチャレンジすることにしました。
上海での最初の1か月はさんざんでした。上海財経大学は欧米からの留学生が多く、授業が英語で行われる科目と中国語で行われる科目があります。私は主に英語で行われる授業を受けていましたが、その授業の進め方はグループワークが中心で、毎回のようにグループディスカッションやプレゼンテーションなどを行います。しかし私の英語のレベルでは、クラスメートの言っていることすら満足にわからず、ディスカッションに参加するどころではなかったのです。
「格好悪いな、私」と思いながら時間だけが過ぎていきました。中国語の授業でも、やはり中国語の勉強不足を感じ、もっと勉強しておけばよかったと悔やみました。
そのときは確かに辛かったですし、これでは何のために留学したのかわからないとも思いましたが、途中であきらめたくはありませんでした。授業に慣れるにつれ、手ごたえを感じたからです。言葉の壁を徐々に乗り越えていき、少しずつクラスメートについていけるようになったのです。2学期になる頃には、自分の成長を少しずつ感じて、留学生活を楽しめるようになっていました。

友だちと安徽省に旅行した際の写真

友だちと安徽省に旅行した際に

ポタラ宮殿の前にて

50時間鉄道に乗りチベット自治区に旅行した際に、ポタラ宮殿の前にて

中国の友人に本場の餃子づくりを教えてもらう

中国人の友だちが家にきて、本場の餃子のつくり方を教えてくれたときの様子

上海在住の卒業生に接触。将来の方向性が定まった

上海財経大学での勉強と並行して、上海でしかできないことに積極的にトライしました。その一つが、上海在住の一橋大学OB・OGの方にお会いしたことです。一橋大学の留学相談室にメールして如水会上海支部の連絡先を教えてもらい、自分で電話をかけ希望を伝えました。その結果、多くの先輩方にお会いすることができました。夕食に招待していただいたり、社会の第一線で活躍している方の貴重なお話をうかがったり、如水会を介さなければとてもお会いできないようなトップの方に助言をいただいたりしました。緊張しましたが、とてもいい経験でした。一橋大学のネットワークは強く、誇りを持てる大学だと改めて実感しました。
上海で開催された、日本人留学生と日本語ができる中国人学生を対象としたキャリアフォーラムにも参加しました。説明会兼一次面接のようなものです。留学前は、卒業が1年延びると就職に不利になるのではと危惧していましたが、実はこのフォーラムが就職への道を拓いてくれました。フォーラムに参加したのは、留学して1〜2か月目の頃。落ち込んでいた時期だったので、気持ちの切り替えにも役立ったと思います。

インプットに重きを置く中国勢アウトプット型の欧米勢

私が上海に着いた2012年9月は、日中で尖閣諸島の問題が発生した時期でした。不穏な空気に包まれてはいましたが、私自身は幸いにも危ない目に遭うことはありませんでした。中国人の友人は、デモの日程や場所をメールで教えてくれたり、外出時は一緒にきてくれるなど、日本人である私を気遣ってくれました。
私は最初、中国人は反日感情を持っているのではないかと、中国人の学生とのコミュニケーションに、臆病になっていました。あとでわかったことですが、中国人の学生も、日本人は反中感情を持っているのではないかと、私とのコミュニケーションに消極的になっていたのだそうです。当たり前のことですが、国政と、人と人とのつきあいは、全く別ものなのです。
中国人の学生は真面目ですし、朝から晩まで図書館にこもって勉強し、いい成績を目指しています。インプットに重きを置いていて試験では好成績でも授業中は総じて静かです。一方、欧米系の学生は意見を積極的に述べ、自分をしっかり表現することを何より大切に考えていたように見えました。
これは、どちらが優秀かという問題ではなく、優秀さの質が違うということだと思います。こういう違いに出合ったときに、それぞれのスタイルに優劣をつけるのではなく、尊重しあいたいと素直に思えるようになりました。

雲南省昆明の石林に旅行した際の写真

雲南省昆明の石林に旅行した際に

中国の友人の故郷の旧正月のお祭りで撮影

中国人の友だちの故郷の旧正月のお祭りにて

多くの人との出会いを楽しむ。人的ネットワークという財産

留学を通して、何が一番収穫だったかと問われれば、「価値観を見つめ直すことができたこと」だと答えたいと思います。
価値観というのは、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちとふれあうことで、自分とは異なる文化、生活習慣、考え方に出合い、その都度比較してみて自分のなかでここは譲れない、ここは変えたほうがいいのかもしれないと考え続けることで形成されるものだと思います。この体験を経て、自分を客観視できるようになりました。留学を通じてつきあう人の幅が広がったという事実が、これを可能にしてくれたのだと思います。自分の人生における価値観や選択肢が広がり、より多くの可能性を感じることができるようになったという点で、留学前の自分より一歩進めたのではないかと思っています。
つきあう人の幅が広がることは、本当に楽しく、嬉しいこと。グローバルとは、柔軟であることだと、今私は心からそう思っています。(談)

ENVIRONMENT

学びの環境