美しいキャンパスを護る「一橋植樹会」の活動

一橋植樹会 第9代会長 河村 進
2023年7月3日 掲載

一橋大学の魅力の一つに、キャンパスの美しさが挙げられる。兼松講堂や図書館などの歴史的な建物と、武蔵野の木立や草花が一体となってつくりだされる美観は、わが国の大学キャンパスにおいて屈指の存在と言えるだろう。そんな美観が維持されているのは、本学の卒業生有志による「一橋植樹会」のボランティア活動の成果であることは、あまり知られていないかもしれない。そこで、2023年に創立50周年を迎える同会の活動について、河村進会長に伺った。

画像:改修前の東本館1

一橋植樹会 第9代会長 河村進氏(1974年 経済学部卒)

卒業生、学生、教職員による"三位一体"

国立キャンパスで時折、エンジン式刈払機を使って雑草を刈っている職人風の一団を見かけることがある。その装束や手慣れた作業の様子から、大学が依頼しているプロの造園業者かと思いきや、なんと一橋大学の卒業生による「一橋植樹会」のメンバーであった。"三位一体"を重んじる同会では、現在月1回の定例作業に卒業生、教職員、学生理事の三者からなる会員が集まるほか、週1回のペースで10~15人の卒業生の有志会員が自主的に集まり、ボランティアとしてキャンパス全域で4~5時間ほど雑草刈りや樹木の剪定作業を行っている。
「国立キャンパスは31ヘクタールあり、主要な樹木は約3,000本あると言われています。特に夏場は雑草を刈っても1か月もすれば元に戻ってしまいます。とても月1回のペースでは追い付かないので、4~5年前から有志が週1回程度集まって作業をするようになりました。このような、卒業生によるボランティア組織は、ほかに聞いたことがありません」と河村会長は話す。

画像:改修前の東本館1

プロフェッショナルの造園従事者と見紛うほど慣れた手つきでキャンパス整備を行う植樹会の方々

画像:改修前の東本館1

週一回のペースで有志が集い、キャンパス整備を行う

「母校へ植樹を」運動が契機に

ここで、同会の歴史を振り返ってみよう。
1967年(昭和42)年、当時の増田四郎学長が国立キャンパスの松の木の多くが枯れていくのに気づき、これを食い止めたいと一橋大学同窓会誌である如水会々報に寄稿した。それを読んだ卒業生の加藤彌兵衛氏が「母校へ植樹を」運動を始め、有志が如水会員から募金を行って大学への寄付を始めた。この活動が母体となって、1973(昭和48)年10月、「一橋植樹会」が創立される。定款には、「一橋植樹会は一橋大学のキャンパスの緑化推進、環境整備に必要な援助をすることを目的とする。『必要な援助』は財政的援助、樹木や草花などを寄付する物的援助ないし労力奉仕などを含む」という活動目的が記された。
初年度の1年で184万円の寄付や会費を集め、ヒマラヤスギの植樹などを行う。以降、同会は毎年のように一橋大学キャンパスに植樹するための資金提供を行うことが活動の本旨となった。創立から10年以上が過ぎると、その活動もマンネリ化の兆しが表れるようになる。また、植樹が密となり、伸びた枝葉が鬱蒼とした状態となった。その落ち葉が建物の屋根に落ち、美観を損なう原因にもなり始めた。

国立大学初の「国立キャンパス緑地基本計画」

1998年に就任した石弘光学長は、その翌年の一橋植樹会総会で「キャンパス内に散乱するゴミは大学の顔を汚し、いくら研究・教育面で名声を上げても良い大学だと胸を張って人前で誇れない」と問題意識を表明した。同会の内部からも「樹木や芝生の管理に手が回らず『汚い危ない負の環境』になりかねない。緑の環境保全には『不断のきめ細かい手入れ』が必要」といった声が上がり、学長に同会の改革を申し入れた。
これを受け、一橋大学は植生管理学を専門とし、後に植生学会会長を務めた東京農工大学農学部の福嶋司教授にアドバイスを依頼。同会と大学側が連携して調査を行い、その結果、2004年に「国立キャンパス緑地基本計画」をまとめた。
それとともに、同会の定款を大幅に改正し、活動目的を苗木の提供から緑の環境保全の支援へ変更した。また、卒業生だけでなく学生会員も新設し、大学当局(教職員)との"三位一体"の団体として活動を行うことに改めた。これ以来、毎月の定例作業会として環境保全活動を行うことになるが、「それでは到底追い付かない」(河村氏)と、別に週1回程度の臨時作業活動を開始した。

大学と植樹会の"Win-Win"の関係性

2023年の現在、会員数は約1,400名。うち約1,260名が卒業生で、140名が大学の教職員および団体会員・学生理事という構成である。そのうち、毎週の活動に参加するコアメンバーは約20名の卒業生。活動が続く理由を、河村会長は次のように話す。
「雑草がなくなると、きれいになって非常にやりがいを感じます。また、仲間と役割分担して整然と作業が進むプロセスが面白く、クラブ活動のような楽しさがあるんです。私は72歳ですが、メンバーも70代が中心でほとんどが定年退職者です。ですから、有り余る時間を有効活用できています。体を動かすので健康にも良いですね。作業が終わったあと、みんなと打ち上げをするのも楽しみです。大学側としては、無償でキャンパスの美観が保たれるわけですから、まさに"Win-Win"の関係性ができていると思います」
学生と同会との関係性も良好だ。参加する学生は初夏に開催される学園祭「KODAIRA祭」や秋の学園祭「一橋祭」の実行委員・運営委員などが中心であるが、大学祭の際に会場整備のうえで雑草刈りが必要となり、同会に支援を要請している。また、体育会系の部活におけるグラウンド整備も同会が手伝っている。そのお返しではないが、こうした学生たちが植樹会の定例作業会に参加しその活動に加わっているのだ。

キャンパスの美しさに引かれて、一橋大学への入学を志望する高校生も多い。また、一橋大学国立キャンパスは、文教都市・国立市のコアとなる存在でもあり、大学通りの桜並木とともにその美観を維持することは大きな意義がある。
「私も入試で訪れた国立キャンパスに感激し、ぜひここで学びたいと思いました。OBの一人として、母校のキャンパスの美しさにはプライドがあります。これを自らの手で護ることは、自分の喜びそのものですね」と河村会長は結んだ。

画像:改修前の東本館1

キャンパスの景観は、卒業生によって支えられている

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