ソーシャル・データサイエンス学部 ソーシャル・データサイエンス入門Ⅱ

『HQ2024』より

檜山 敦氏の写真

檜山 敦 教授

フィールドワークを通して社会課題に触れ、
データサイエンスの知見を活用し、解決策の糸口を探る

2023年4月に新設されたソーシャル・データサイエンス学部。〝ソーシャル〞は経済学、経営学、法学、政治学、社会学などの社会科学を意味する。つまり、この新学部で学修するのは統計学や情報・AIなどのデータサイエンスのみにとどまらない。社会科学も幅広く体系的に学び、データサイエンスの知見を実装することで現代社会における新たな課題を解決できる人材の養成を目指している。そして、新たな学術領域への第一歩となる科目の一つが、ソーシャル・データサイエンス学部の全学生が1年次に履修する「ソーシャル・データサイエンス入門Ⅱ」である。

学修の舞台はキャンパスの外に広がっている。国立市や企業・団体などの協力を得て、フィールドワークを通して社会課題の理解や発見に力を注ぐ。より良い社会を構築するために、どのようなデータを収集・分析することで人と社会への働きかけにつなげていくべきか。そうした考察と実践を重ねる授業の魅力に迫る。

どんなシステムが社会に必要か、
想像力を拡張するための第一歩

「ソーシャル・データサイエンス入門Ⅱ」は1年次の秋冬学期に開講される。ローカルおよびグローバルな社会課題を洞察したうえで、社会システムをデザインする方法や、社会課題の解決におけるソーシャル・データサイエンス活用の視点を育てる。それに先立ち、学生は、春夏学期に「ソーシャル・データサイエンス入門Ⅰ」を履修する。この授業ではソーシャル・データサイエンスの全体像をつかみ、社会科学やビジネス・社会課題の各領域におけるデータ分析事例のほか、4年間の学修の礎となるグループワークの手法、資料収集と分析手法などについても学んでいく。これらの学びを踏まえ、知識を活用する機会となるのが「ソーシャル・データサイエンス入門Ⅱ」である。指導を行う檜山教授に、授業の狙いについて話を聞いた。

「ソーシャル・データサイエンスを学ぶ材料は世の中にあります。授業では、実際に現場に出るフィールドワークを課題として与え、教室の中では体験できないリアルな社会に飛び込んでもらいます。学生たちは学部で4年間学んだ後、社会に求められる実践的なシステムをつくっていく立場に立つでしょう。そのときに、本質的にどんなシステムが世の中に必要なのかを想像できなければ、社会課題の達成に近づくことができません。この科目は、その想像力を拡張していく第一歩となります」

ゼミ風景1

ゼミ風景2

データは単なる数値ではなく、
その裏には人々の気持ちがある

全13回にわたる授業では、序盤に国内外の社会課題について学修する。実例を参考にしながら理解を深めるとともに、データ活用による科学的なアプローチによって社会システムを構築していくシステム工学的な物事の考え方を身につける。また、社会課題の解決に有効なデザイン思考やコミュニケーション手法についても学び、多様性を重要視することが社会のイノベーションにつながることを学生同士で議論しながら感じ取っていく。

その後、学生は大学近辺でフィールドワークに取り組む。用意されるフィールドは、国立市役所や公共施設、社会福祉協議会やボランティアセンターなど実に多彩である。2023年度は12のグループに分かれて展開した。現場でのヒアリングや実態調査に始まり、課題の領域設定、データの収集・分析、課題へのアプローチ、中間報告を含むプレゼンテーションへと進んでいく。こうしたフィールドワークを通して、学生は、社会や人々の生の声を聞き、抱える課題について多角的に検討する。学生に対して期待することを檜山教授に尋ねた。

「フィールドワークでは、想定外の問題に直面することも当然あります。そこから何を学び取り、どのような発見があったのかが非常に大事であり、最も評価される部分といえます。学生に覚えていてほしいことの一つは、扱うデータは単なる数値ではなく、その裏には一人ひとりの人間の気持ちやドラマがあるということです。授業の中で学問と現実とを行き来しながら困難に直面し、社会課題を解決するための知識を渇望してほしいと願っています」

ゼミ風景3

ゼミ風景4

Student's Voice

現場に出るからこそ得られる視点があり、
課題解決の糸口を見いだすプロセスが学べます

宮原 堪爾さんの写真

宮原 堪爾さん

ソーシャル・データサイエンス学部1年

この科目は、他の授業で修得した統計分析やプログラミングのスキルを試す実践の場になりました。また、定量的・定性的な調査の手順や手法を学べたことも収穫でした。私が参加したフィールドワークの舞台は、キャンパスの近くにある新しいコンセプトの本屋・コワーキングスペース『ひらくスペース』でした。この施設では孤独を感じている子どものサポートが行われており、そのための実態調査を依頼されて取り組みました。子どもと対面してヒアリングを行い、地域の中学校にアンケートを依頼し、データの収集と分析に努めました。調査を進める中で、孤独の原因となるファクターにまで踏み込めなかったことが反省点でした。授業を通して感じたのは、現場に出るからこそ想像力が膨らみ、得られる視点があるということです。そして、社会課題へのアプローチ方法が学べる。そこに、ソーシャル・データサイエンスを学ぶ価値があると思いました。

データサイエンスの知見は手段であり、
あらゆる社会課題の解決に有効だと実感しました

菅原 万愛さんの写真

菅原 万愛さん

ソーシャル・データサイエンス学部1年

大学ではAIなどのテクノロジーを学修し、高齢化社会が抱える課題にアプローチしたいと考えており、社会科学とデータサイエンスを複合的に学べることが入学の決め手でした。この科目は修得した知識を活用できる機会であり、期待が膨らみました。フィールドワークでは、東京女子体育大学が行っている地域交流活動に携わりました。希望した理由は、高齢者介護教室の改善がテーマだったからです。受講する高齢者とサポートする学生、それぞれに対面ヒアリングやアンケート調査を実施しました。その後のデータ分析や報告書作成に至るプロセスの中で改めて感じたのは、データサイエンスはあらゆる社会課題の解決に有効な手段だということです。一方で痛感したのは、相手の本音を引き出すコミュニケーションやユーザーインサイトを探ることの難しさでした。フィールドワークで得た教訓を活かし、今後は収集したい情報に偏りなくリーチできる社会調査のスキルやさまざまなデータ分析の手法を修得して、社会のニーズをとらえた課題解決に取り組んでいきたいと思っています。

授業のテーマ(2023年度実績)

第1回:ガイダンス
第2回:国内外の社会課題1
第3回:国内外の社会課題2
第4回:SDS入門課題Ⅰ:社会課題の領域設定
第5回:SDS入門課題Ⅰ:データを集める
第6回:SDS入門課題Ⅰ:データを表示する
第7回:SDS入門課題Ⅰ:プレゼンテーション
第8回:SDS入門課題Ⅱ:ローカルな課題を発見し達成する
第9回:SDS入門課題Ⅱ:ニーズ調査
第10回:SDS入門課題Ⅱ:データに基づく俯瞰
第11回:SDS入門課題Ⅱ:プロトタイピング
第12回:SDS入門課題Ⅱ:課題へのアプローチ方法の評価
第13回:SDS入門課題Ⅱ:プレゼンテーションとまとめ

フィールドワークにご協力くださった団体・施設一覧

  • 国立市公民館
  • NPO法人 くにたち農園の会
  • くにたち未来共創拠点 矢川プラス
  • 東京女子体育大学
  • 国立市社会福祉協議会(くにたち社協)
  • 国立市ボランティアセンター
  • NPO法人 国立市観光まちづくり協会
  • Jazz & Bar Harbor Light( 一般社団法人ナガイキ)
  • 立川市社会福祉協議会 BASE☆298
  • NPO法人 くにたち富士見台人間環境キーステーション
  • 国立市役所 健康まちづくり戦略室
  • 国立市 ひらくスペース

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