社会学部 都市・地域政策特論/堂免隆浩ゼミ

『HQ2019』より

堂免隆浩教授の写真

堂免隆浩教授

都市・地域という題材をもとに身につける、社会問題の「真因を特定する力」

社会学部の魅力は、あらゆる社会現象が研究対象になり得ること。そのため、自分の関心事や身近に生じている不思議を取り上げ、その因果関係の解明を学べる学部ともいえる。
そんな社会学部を象徴する学びの一つが、ここで紹介する「都市・地域政策特論」である。地方創生や地方活性化、人口減少時代の街づくり、 減災・防災・復旧復興などにフォーカスし、問題の本質を探る。そして、解決策を提案するため、さまざまな知識を身に付け、獲得した知識を直面する問題に適用する、つまり、知恵へと変換する方法を習得する。課題解決や検証に重きが置かれているだけに、養われた力はあらゆる分野の問題に応用できるといえるだろう。どのような学びが行われているのか、その魅力に迫った。

講義で「知識」を蓄え、グループ演習で「知恵」に変換

まず「都市・地域政策特論」の全体像から説明すると、授業は講義形式とグループ演習形式によって構成されている。講義形式は"知識を蓄積する"ための第1ステップ。都市環境のシステムとその問題をテーマに設定し、理解を深めていく。そして、第2ステップとなるグループ演習では、フィールドワークを通じて、蓄えた知識を"知恵に変換する"ための方法を学ぶ。地域における課題に対して、どのような社会資源やアイデアを活用することで解決できるのか、各グループは自らが地域コンサルタントであると仮定し、計画の立案に取り組む。こうした学びの狙いについて、指導にあたる堂免隆浩教授に話を聞いた。
「科目名にある都市・地域というのは、社会問題を絞るためのひとつの領域です。それでも、同じ問題は一つとしてなく、その問題の背景はケースバイケースで、利害関係者によって問題のとらえ方も異なります。そして、政策では知恵が不可欠です。取り組む課題によって多様な知識をどのように組み合わせれば解決できるのか、知識を知恵に変える必要があります。その力を養うために重点を置いているのがグループ演習でのフィールドワークです。実際に問題が発生している現場を観察することで、社会の常識に左右されることなく、問題の抜本的な原因に辿り着けるようになります。学生たちは講義とグループ演習の両方に参加し、一連の流れの中で都市・地域政策の提案プロセスを学んでいきます」

「知識生産の技法」を磨く第3のステップ

指導を受ける学生にとっては、堂免教授の理工系出身という学問のバックグラウンドも魅力となっている。
「私はもともと都市工学分野で学んできました。工学的思考法には、試行錯誤的で対処療法的な傾向があります。これに対して社会科学では、社会現象の原理原則を探究することが志向されてきました。つまり、社会科学的な"本質に迫る思考法"を応用できれば、社会問題の根本原因に迫ることにつながり、環境や空間に関わる問題の克服にもつながります」
このような考えから、効果的な都市・地域政策を探索し、政策の成立条件を明らかにする研究に取り組むようになった堂免教授。培われてきた知見は、学生への助言にも活かされている。
実は、「都市・地域政策特論」には第3ステップも用意されている。授業と連動して行われるゼミ活動である。例えば、課題解決に活用できる知識が既にあればそのまま応用できる。しかし、必ずしもそのような知識が用意されているわけではない。そのため、堂免ゼミでは、新たな知識を生産する技法の習得にも取り組んでいる。応用可能な知識が不足している都市・地域の問題をゼミ生自ら探索し、研究テーマを設定。現地に赴いて社会調査も実施し、分析や検証を行いながら、研究成果は最終的に卒業論文としてまとめられていく。過去の卒業論文のタイトルを見ると、個々のゼミ生の関心事は幅広く、都市・地域政策といってもテーマが多岐にわたる点が興味深い。
最後に、授業とゼミ活動を通して学生に身につけて欲しい力とは何か、堂免教授に尋ねてみた。
「ひとことで言えば、真因を特定する力です。そして、都市・地域政策だけでなく他の学問分野の知識も駆使し、私たちが直面する課題の克服につながるアイデアを社会に提案できる人材を育てたいと考えています」

コラム

堂免ゼミナールの卒業研究一覧

  • 区民が管理運営を行う未利用公共用地活用型コミュニティガーデンの継続性について
  • 地域おこし協力隊の地域定住プロセス―千葉県館山市における地域おこし協力隊を事例に―
  • 学生と地域の共生に関する研究―神田淡路町のケーススタディ―
  • 「生きづらさ」を和らげる地域拠点づくり
  • 地域における橋渡し型ソーシャル・キャピタルの形成
  • ストリートからパークへ ―スケートボーダーはいかにして公共性を獲得したか―
  • 学校・公園複合施設の設立・維持にはたらく要因に関する研究―杉並第十小学校・蚕糸の森公園を事例に―
  • エンドユーザーを取り込んだ美術館づくりの条件―ある美術館における学芸員の設計参加―
  • 昭和の遺産「屋上遊園地」が生き残るための条件―東急プラザ蒲田の屋上遊園地を事例に―

Student's Voice

社会調査を通じて得られる、気づきや視点の多さが魅力

飯塚雄介さん

飯塚雄介さん

社会学部4年

私は秋田県出身で、地方創生に興味があり、街づくりや地域政策について研究したいと考えていました。そこで、「都市・地域政策特論」を3年次に履修し、堂免ゼミを志望したのです。
ゼミでの研究テーマは、国の重要無形文化財になっている秋田県羽後町の"西馬音内(にしもない)盆踊り"についてです。こうした郷土芸能が、全国各地へと飛び火していく現象に興味を持ち、その背景や理由などを探るために社会調査を行っています。人々に飛び火していくのは、ファンを増やして認知を広めていきたいからなのか。伝統を守りたいからなのか。それとも、郷土のアイデンティティに近づきたいからなのか。答えは、インタビューをする対象者の立場や考え方などによって異なります。社会調査を通じて気づいたのは、誰が何を目的に行っている事柄なのか"主語"を明確にすることの重要性でした。このことは、誰に対してどのような地域政策が必要かを考え、その目的からブレることのない課題解決策を提案する際にも必要なスタンスだと思っています。
研究成果を発表する場では、ゼミの仲間と白熱した議論や意見交換をすることで新たな視点を発見できますし、自分の思考力が磨かれる感覚があります。考えが曖昧なまま発表すると、そのことを仲間に見抜かれてしまうため緊張感があり、発表の意図を明確にして臨むようになりました。堂免ゼミでの活動を通じて、あらゆる社会現象を多角的に見る視点や、広い意味でのコミュニケーション力が身についたと思います。

自分の仮説が裏切られることも、都市・地域政策を考える面白さ

平田知子さん

平田知子さん

社会学部4年

社会学に興味を持ったきっかけは、高校生の頃に読んだ新聞の寄稿でした。人を社会資源ととらえ、関係性を豊かにすることで地域の復興力を高められるという内容で、根源的なテーマを扱いながら研究成果を社会に還元できる学問をしたくなったことが、一橋大学の社会学部に入学した理由の一つです。私はもともと都市や地域で起きている問題や現象に興味があり、街づくりを将来の仕事にしたいと思っていました。「都市・地域政策特論」は、課題解決型の授業。生じている問題の根本的な原因を突き詰め、それを克服する政策提案までできるところに魅力を感じて受講しました。
そして、堂免ゼミで活動することで、都市・地域政策を考えることが面白くなりました。それは、社会調査を通じて地域で暮らす人々の実態が見えてきますし、調査した街にも愛着が湧いてきます。以前、兵庫県の加古川市で、地域住民によって運営されている自主防災組織に注目して調査を行いました。どのような使命感が活動のモチベーションになっているのか、さまざまな仮説を立ててインタビューを行いましたが、皆さんが大事にしているのは"活動そのものを楽しむこと"だったのです。そこに長期間にわたって活動を続けられる真実があり衝撃を受けましたが、このような経験から現場に出向いてこそ解明できることは多いと実感しましたし、ある意味で自分の仮説が裏切られることを楽しむようになりました。
卒業後は、堂免ゼミで身につけたスキルを活かし、内定した都市・地域政策を提案するコンサルティング企業で街づくりに取り組む予定です。

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