社会学部 日本近現代史/石居人也ゼミ

(『HQ』2018年春号より)

石居人也教授

石居人也教授

歴史と現在を往復しながら身につける、調べる力・判断する力・伝える力

過去を遡ることは、今日を学ぶこと。なぜ今日の社会や人々の生活に至ったのか、相対的にとらえ直せることも歴史を研究する魅力の一つである。
石居ゼミがフォーカスする「日本近現代史」は、幕末以後に起きた事象について紐解く歴史学。注目する対象が今日とかけ離れ過ぎていないだけに、自分との接点を実感しやすい学問といえるだろう。そして、日本の近現代を教材に、調べる・判断する・伝えるという三つの力を磨けるという点では、歴史に関心がなかった人にも勧めたい万能な学びでもある。

関心がなかったテーマにも、関心が向く学び方

まずは日本近現代史を学ぶ魅力について、石居教授に尋ねてみた。
「現在、私たちが立っている場所、培ってきた意識や感覚というものを、これまでの歴史からとらえ直すことができる点に魅力があると思います。『いま』『ここ』で当たり前と思われている常識や価値観が、全く通用しない時代や社会がすぐそこにあるという事実を知ることは、客観的な視点を養ううえでも大事なことではないでしょうか」
ゼミ活動がスタートする3年次の春夏学期に行われるのは、歴史研究の下地となる知識や分析方法を習得する歴史学概論的な演習。文献・史料を共通テキストとして使用し、読解・報告・議論を行う。そして、次の秋冬学期には、各学生が自らのテーマを設定して研究を進めていく。
「テーマの設定にあたっては、まずゼミ生一人ひとりと面談をして関心事をヒアリングします。その内容を踏まえて、私がまずはじめに読んでみて欲しい文献をリストアップします。その際、文献は一人ひとりを念頭において数冊ずつ選んでいるわけですが、それをこちらで『これは○○さんむけの文献』といったかたちでは示さず、あえて全員に対してすべての文献を示すところがポイントです。すると、イメージどおりの文献を選ぶ学生もいれば、面談の際には関心のかけらも示していなかったような文献を選ぶ学生もいます。ここでの出会い如何でテーマが決まったり、変わったりすることもあるわけです」
石居教授が情報を集め、吟味したうえで学生に提示する文献は30を超える。ゼミ生一人ひとりの関心を一旦シャッフルし、視野を広げることにねらいがある。3年生は、年度末までに4000字程度のゼミ論文を作成するが、こうしたプロセスは4年次に取り組む卒業論文の予行練習にもなる。

ゼミ風景1

ゼミ風景2

ゼミ集合写真

キャンパスの内外で日本の近現代の研究を行うことで、調べる・判断する・伝えるという三つの力を磨く

現在を断ち切り、再び現在に戻ることが、客観的な考察に欠かせない

このようなゼミ活動を通じて、どのような能力が養われていくだろう。
「学生には三つの力を身につけて欲しいと考えています。まずは、自分の関心事について素材(文献・史料)を集め、調べる能力。次に、集めた素材を吟味し、判断する能力。そして、自ら解釈してそれを説得的に伝える能力です。料理人にたとえれば、食材を探し、それを活かす調理方法を考え、料理として提供する力といえます。結果的に美味しい料理ができなくても、自分なりの味を出すことができるようになることが目標です」
ゼミ活動はキャンパスの外でも行われる。春夏学期と秋冬学期に各1回開催されるのが、特定の地域を調査・観察するフィールドワーク。訪れる地域は学生が多数決で決め、どのような性格を持つ場所なのかを肌で学ぶ学外活動だ。現地に立って歴史の痕跡を探したり、現状とかつての地図や写真を見比べたりするなど、そこで起きた出来事や広がっていた光景、人々の生活などを想像しながら考察する。さらに、フィールドワークの遠征版としてゼミ合宿も実施される。そのほか、東北大学が拠点となって進めている、東日本大震災で被災した史料の修復・保存プロジェクトに参加するワークショップも年1回行っている。
「歴史を考えるということは、対象とする時代に飛び込むことです。その時に大事なのは、今日的な価値観や知識や感覚を一旦断ち切ること。はじめから、今日的な価値観や知識に基づいて歴史的な事象を評価しようとしたり、現在の社会と比較したりするようなことをせず、極力当時の人や社会の目線に近いところに立って事象をみたり、考えたりすることを目指します。そのうえで、再び現在との回路を開いて、歴史から現在をとらえ直す。こうしたスタンスで臨むことで、自分なりの歴史とのむきあい方や、翻って今日の社会をみる眼を育んでもらいたいと思っています」
スイッチのオフとオンを繰り返しながら、歴史と現在を往復する。そんな歴史学の旅に、ぜひ出かけてみて欲しい。

過去の卒業論文テーマ

  • 横浜中華街の歴史と日本における中華料理の定着に関する考察
  • 昭和戦前期における農民の時間意識の変化
  • 三河分県運動に影響を与えた、三河内部の事情─運動を内側から捉えなおす─
  • 水野広徳の思想とその社会的受容
  • 明治後期・大正期中学生のライフコースの選択─陸軍士官学校・海軍兵学校進学者を中心に─
  • 近代沖縄思想史における「抑圧移譲」―太田朝敷・伊波普猷・久志芙沙子を中心に─
  • 戦前期多摩における地域間競争─八王子・立川の関係を中心に─

書籍イメージ

横浜でのフィールドワークの様子(2016年度)

Student's Voice

リアルに実感できる、歴史と自分のつながり

市倉靖子さん

市倉靖子さん

社会学部3年

石居ゼミを選んだのは、高校の頃から日本史が好きだったからです。卒業論文は自分が一番関心のあるテーマに取り組みたい、と思っていたことも理由の一つです。
3年次春夏学期の歴史学概論を受けたことで、そもそも歴史学とはどのような学問なのか骨格がよく分かりました。歴史小説などを扱う文学と違い、史料に基づいて事実を正確に推察するところに学ぶ面白さを感じています。秋冬学期は自由なテーマで各自研究を行いますが、他の学生が選んだテーマやその発表を通じて、自分が関心を持たなかった歴史にも触れられるので新鮮です。3・4年次には合同でゼミ活動を行うので、人によって異なる歴史のとらえ方があることにも気づきました。毎回楽しみで、退屈だと思ったことは一度もありません。
日本近現代史を学ぶ魅力は、今の自分とのつながりを実感できるリアルさにあると思います。ちなみに、卒業論文では個人のライフヒストリーをテーマにする予定です。ある一つの街で、私と等身大の人々がどのような自分の歴史を持っているのか、または歴史を見たり生きたりしてきたのか。調査を行いながら自分なりの論証をまとめたいと考えています。(談)

今起きている物事に対する見方も変わります

山本陽裕さん

山本陽裕さん

社会学部4年

もともと歴史や、物事の成り立ちを知ることに興味がありました。しかし、何をテーマとして選び、どのようにそれを調べればよいのか手法も見当がつきませんでした。石居ゼミを選んだのは、日本の近現代をテーマに幅広いトピックを取り上げるゼミだったからです。
社会全体というより、庶民生活の変遷にフォーカスする点も、高校までの歴史の勉強ではあまりなかったので惹かれました。実際に学んでみて感じたのは、たとえば生活の拠点となる住まいや街の成り立ちだけでなく、国の政治や経済の動きとも関連づけて学ぶなど、両方の視点から近現代史を紐解くことができる面白さです。自分の興味をテーマとして設定できるので、さまざまなアプローチで自由に探究できることも特長です。一人ひとり観点が違うので、ゼミのメンバーによる発表や議論でも盛り上がります。
近現代史を学んだことで、今起きている物事に対する見方も変わりました。世の中にあふれている情報を鵜呑みにするのではなく、バックグラウンドを深掘りし、因果関係を考えるようになりました。その習慣こそが石居ゼミで身についた力だと思います。(談)

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