社会学部 社会心理学/稲葉哲郎ゼミ

(『HQ』2016年春号より)

稲葉哲郎教授

稲葉哲郎教授

社会心理学の視点からメディアを研究"論理的かつ批判的思考"を磨く

テレビ、Webサイト、SNS......。私たちは日頃、さまざまなメディアから発信される情報のシャワーを浴びながら暮らしている。すべてが正確かつ信憑性のある情報とは限らないし、発信者の意図や思惑によって社会が扇動されることも十分にありえる。稲葉ゼミが研究しているのは、メディアが人々の意識や行動に与える影響だ。最大の特徴は、"社会心理学"の視点からメディアを深く掘り下げ、実証的な方法を使って調査・分析できるところにある。そして、学生がゼミ活動を通じて得ていくのは、"論理的思考"や"批判的思考"といった現代のビジネスリーダーに求められる能力だ。

実験・調査・分析によって、"立てた仮説"を徹底検証

社会心理学は、その名が示す通り、互いに影響を与え合っている人間の心や行動を科学的に明らかにすることを目指している。その研究分野は、個人に焦点を合わせるマイクロな領域から集団や社会現象に焦点を合わせるマクロな領域まで多岐にわたる。
社会学部には、社会心理学系のゼミがいくつか存在する。その中で稲葉ゼミは、"応用的な側面(メディア・政治コミュニケーション等)"を研究するところに特色がある。社会心理学の研究者で、メディア効果研究や世論研究に長年取り組んできた稲葉哲郎教授に、ゼミ活動の中身について聞いた。
「社会現象や人々の行動について仮説を立て、徹底検証していきます。立てた仮説は、論理的に筋の通ったものであるか。ある行動を引き起こすと考えた要因について、別の説明要因が考えられないか。そんな議論を全員でしながら研究計画を練り上げていきます」

ゼミ授業の様子1

ゼミ授業の様子2

ゼミ授業の様子3

長い議論が行き詰まると、稲葉教授やティーチング・アシスタントの大学院生が考えを促す声をかけ、再び学生の議論が盛り上がる

統計分析のノウハウも使いこなし、人間行動の仕組みに迫る

インターネットの発達により、個人発信型のメディアが注目されるようになっている。口コミサイトはその代表例だが、発信者の意見が純粋に反映されているとは限らない。「知ってか知らでか」膨大な情報の影響を受けているからだ。ある卒論は、人は先に口コミを書いた人々の判断に引きずられて評価を行ってしまうという"アンカリング"が生じていることを明らかにした。こういった人間行動の仕組みを、実験・調査・内容分析といった方法によって明らかにしていくところも稲葉ゼミの魅力といえる。
「研究のプロセスで学生が養っていくのは、"論理的に考える力"や"人を説得する力"、"物事を批判的に見る力"です。議論を繰り返す中で、自分が前提と考えていたことが覆されたり、それまで全く思いつけなかった面白い発見が生み出されたりもします。一方で、実証的な手法を用いることで"データを読み解く力"や"分析する力"も身につけていきます。そのためには、統計分析ソフトも使いこなせないといけません。そのスキルを磨く実習も用意しています」
これらの力は、社会に出てからも汎用性が高く、ビジネスシーンでも大いに役立つものだ。

"グループワーク"で能力を磨き、"卒業論文"で関心事を掘り下げる

3年次は、前半の夏学期に文献輪読や統計分析ソフトの学習、テーマ学習を行う。夏季休暇中は課題研究や論文作成に取り組み、毎年恒例のゼミ合宿も実施。後半の冬学期はグループワークに比重が置かれている。そして4年次になると、個々で集大成となる卒業論文の作成に時間を費やす。テーマは自由に設定でき、現代におけるメディア環境の多様性を反映して実に幅広い。
ゼミ活動は通常3年生と4年生に分かれて行われているが、3年生の研究発表会や4年生の卒論発表会は合同で開催。学年を超えて互いに刺激を受ける場になっている。
最後に、稲葉教授の印象を学生に聞いてみた。すると、「指導やアドバイスが的確なので成長が早い」「学生のいろいろな考え方や価値観に寛容な先生なので、縛られず自由に取り組める」といった評価が目立った。そして、「やさしくて面倒見がいい」「よく話すし、よく笑う」という声も多い。学生は稲葉教授の人柄にも惹かれているようだ。ちなみに、毎回ゼミで議論が始まるとエンドレスになるらしい。居心地の良さや楽しさも稲葉ゼミが選ばれる理由といえるだろう。

スマートフォンを使って確認をするゼミ生の様子

ゼミ集合写真

研究の一環で行うWeb調査の質問項目を検討中。内容とともに、パソコンのモニターやスマホで実際にどのように見えるかも確認

Student's Voice

人々が何となく感じていることを論理的に解明できるゼミです

稲垣茉佑子さん

稲垣茉佑子さん

社会学部3年

貧困などの社会問題に興味があり、多角的なアプローチができることから社会学部に入学しました。稲葉ゼミを選んだのは、メディアに心理学からアプローチできるからです。社会問題の実態や真実を広く世の中に発信する際に活かせると考えました。私の研究テーマは"広告効果"です。最近のテレビCMの傾向として"ストーリー性"が挙げられます。物語にどんな条件が揃うと共感され、効果が高まるのか。それをデータ分析によって明らかにするのが目標です。研究活動を通じて、物事の裏側にある"からくり"や"思惑"が読めるようになりました。(談)

心理学は、魔法じゃない。地道な科学的アプローチだからこそ面白い

笠井勇作さん

笠井勇作さん

社会学部3年

統計分析ソフトによるデータ分析を、心理学に多用する。そこに新しさを感じたことが稲葉ゼミを選んだきっかけです。人の心を読み取る"魔法のような心理学"ではなく、"科学的にアプローチする心理学"を研究に活かせるのが稲葉ゼミの魅力だと思います。知的好奇心が強い人は絶対に楽しめるゼミです。私が取り組んでいる研究テーマは"消費行動"で、「今買うと得するよ」と「今買わないと損するよ」ではどちらが効果的なメッセージなのかといった研究をしています。結果をもとに、新しい広告のスタイルを見出していきたいと考えています。(談)

社会現象の真相に迫り、分析するスキルを身につけることができます

笠井勇作さん

小川美波さん

社会学部3年

私は"報道"をテーマに配信情報や伝達方法の分析に取り組んでいます。現在注目しているのが"デモの報道"です。若者の参加が増えましたが、それは政治への関心の高まりからなのか、ただのムーブメントなのか。真相に迫るため、報道されるコメントや映像を細かく分析しています。その手法やツールの使い方を学べることも稲葉ゼミの魅力だと思います。マスコミへの興味が志望理由の一つですが、入学前は学びたいことが絞れませんでした。ちなみに社会学部を選んだのは、さまざまな社会現象を学べると同時に、自分を見つめられると思ったからです。(談)

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