法学部 民法/角田美穂子ゼミ

(『HQ』2015年春号より)

角田美穂子教授

角田美穂子教授

ローファームさながらの実践演習。解決者の視点から法律の活用方法を学ぶ

最新判例の分析を通じて、民法(消費者法、財産法)を研究する角田美穂子ゼミ。その方針は、今もっともホットな技術やトレンドをめぐる諸問題を題材に、ビジネスにおけるリスクや発展可能性などの法的な裏づけを検討し、将来、法曹やビジネスパーソンとして役立つ実践的なものの考え方や説明能力、チームワークなどを身につけることにある。

前例のないケースにチャレンジすることで、法律的な思考力を鍛える

角田ゼミでは、学生3人が1チームとなり、1〜2週間かけて一つの事案を検討し、法律的な解釈を加え、ゼミの場で発表・議論する学習スタイルを取っている。こうすることで、学生たちは自分が担当した以外のさまざまな分野の事案まで、効率的に把握することが可能となる。
「年度の初めに、面白そうな事案をリストアップして学生に選んでもらいます。学生たちは、今勉強しておくと将来に役立ちそう、と思うものを選んでいますね」と角田教授は言う。
同ゼミを選択する学生には、卒業後はロースクールに進学する法曹志望者が多い。そうした学生はほぼ全員が、大学の講義に加えて課外で自主的に勉強会を組んだり、司法試験の予備校でも学んでいる。「大学の講義や予備校では、主に法律の基本的な知識を学びます。そのことも考慮し、ゼミでは判例という応用を学ぶことに重点を置いているわけです。言わば、基礎的な筋トレは各自が自主的にやり、ゼミでは実践的な練習試合をやる、というイメージでしょうか。いろいろな事案にチャレンジして、実社会では許されないようなミスも学生のうちに経験しておいてほしい、との思いもあります」(角田教授)

ゼミの場で発表・議論する様子

学生3人が1チームとなり、1~2週間かけて一つの事案を検討。法律的な解釈を加え、ゼミの場で発表・議論する

プレゼンテーションの資料

「一橋祭」で発表したプレゼンテーション。一般の人にも難しい法律の話に関心を持ってもらえるよう工夫した

運転支援システムを備えた車が事故を起こした場合、責任は誰が負う?

そんな角田ゼミの大きなイベントの一つに、夏合宿がある。合宿の目的は、ゼミ生全員で一つのプロジェクトに取り組むことと親睦を深めることだ。
合宿は「一橋祭」(大学祭)でゼミとしての研究成果を発表するプロジェクトのためのキックオフ的な場となっている。そこでテーマを決め、合宿後、ゼミでの研究とは別に、11月の一橋祭までに全員で分担して発表内容をつくり上げていくのだ。
「一橋祭で発表する内容に関連した判例をゼミで取り上げる場合もあり、両者は連携していると言えます」(角田教授)

2014年の一橋祭での発表テーマは、「車の運転支援システムを作動させていたにもかかわらず事故を起こしてしまった場合、自動車メーカーに損害賠償請求できるか?」というもの。発表会には、学生だけでなく一般の方も多く見にくる。
「一般の方々に、難しい法律の話をいかにして関心を持って聴いてもらうか、工夫が必要です。学生たちは、写真や図版を多用し要点をわかりやすくまとめることはもちろん、学生らしく寸劇なども交えてプレゼンテーションしましたね。こうした〝いかにして伝えるか〞という訓練も、実社会では大いに役立つと考えています」(角田教授)

パソコンが得意な学生、新聞部員の学生など、得意分野を持ち寄りながら3年生を主体に計12人の学生が一つのプロジェクトを完遂させていく。
「将来もし法曹になれば、このように大勢の仲間と一つのことを成し遂げていく機会など、実社会ではそうそうあるものではありません。また、学生時代に同じ釜の飯を食べた仲間は、社会に出てからも何かと協力し合える貴重な財産となります。そういったことを話すと、学生の目の色が変わりますね(笑)」(角田教授)

実社会を強く意識した同ゼミの運営方針は、一橋大学らしく産業界で活躍する人材育成の王道を行くものといえよう。

ゼミの集合写真1

ゼミの様子

ゼミの集合写真2

大勢の仲間と一つのことを成し遂げられるのは、学生ならではの経験。この仲間は、社会に出てからも協力し合える貴重な財産になる

Student's Voice

下地がないなかでつくり上げることに意味がある

後藤 彩さん

後藤 彩さん

法学部3年

将来は法曹を志望しています。角田ゼミを選択したのは、もともと民法に興味があったことと、このゼミが新しい判例を取り上げて具体的に検討していくというところに魅力を感じたからです。そのように普段のゼミでは実際の判例や学説という既存の題材を扱うわけですが、「一橋祭」で今回発表したのは、「運転支援システムの作動中に起こした事故での損害賠償請求」という、まだ発生していない仮想の事案です。私は法律構成の組み立てを担当しましたが、何も下地がないなかで、どう進めたらいいのか迷うことも多々ありました。今回は共同不法行為と製造物責任という観点から構成しましたが、債務不履行という観点もありました。そうしたなかで、いかに一般の方にわかりやすく説明できるかという視点から、先の二つに絞ったという経緯があります。このように、最終的な発表を踏まえてわかりやすく組み立てるということも学ぶことができ、とてもいい経験になりました。(談)

法律をより身近な存在にするという問題意識に惹かれて

高松礼奈さん

高松礼奈さん

法学部3年

私は法曹志望で、1年次に角田先生の民法を履修しました。そのとき、「法律をもっと身近にしていくべき」という問題意識を持っておられる角田先生の姿勢に惹かれました。自分もそうありたいと尊敬できる先生なので、ゼミも履修し学びたいと思ったのです。
普段のゼミでは、法律の条文を読んで実際にどう運用するかまでは考えたことがありませんでしたが、今回の「一橋祭」では、実際に法律家の立場になったとき、法律をどう運用するかを考えるいい機会になりました。アメリカのロースクールでは、法律が整備されていない分野で学生だけで実際に訴訟を起こしてみるという形での研究も行われているようですが、日本ではそうした動きはありません。ですから、学生という自由な身分のうちに、今回のような"まだ起きていない事象"をテーマに法律を考えるというのは、とても意義のあることだと思っています。普段のゼミでは膨大な量になるレジュメをいかにシンプルな発表資料にまとめるかということに苦労しましたが、普段意識していなかった、"一般の人にわかりやすく説明する"といういい訓練になったと思います。(談)

ゼミは、法の活用を学ぶ訓練の場でした

高鍋峻輔さん

高鍋峻輔さん

法学部4年

私は国家公務員試験に合格し、金融庁に入庁することになりました。3年次の「一橋祭」で、角田ゼミとして「子どもがソーシャルゲームで大金を使ってしまった場合、法的にどのように保護されるのか?」というテーマの研究発表をしました。そういった新しい分野の消費者保護はどこの官庁も関心が高く、就職活動では「一橋祭」での研究活動を基に自分の考えを整理して話すことができ、とても良かったと思います。
角田ゼミでは3・4年生が一緒に研究を進めますが、「一橋祭」の活動は3年生が主体です。2014年の「一橋祭」では、私は前年の経験を教えるとともに、一般の人のつもりで発表内容を聴いて「こうすればもっとわかりやすくなるのではないか」などとアドバイスさせてもらいました。
卒論は、証券会社の「損失補てん」を題材に、金融商品取引法について執筆しています。このテーマは角田ゼミで取り上げられたものですが、私には社会通念上、不公平で釈然としない判決に思えました。角田先生も「ゼミは、直感的に正しいかどうかを見極める訓練の場」とおっしゃっていましたが、その問題意識が自分を論文執筆に向かわせています。卒論は、法学部で4年間学んだことの集大成として、また自分の力量がどれほどなのかを測るものとしても大きな意義があると思っています。(談)

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