経済学部 環境経済学
『HQ2020』より
横尾英史講師
経済学というツールを使い、あらゆる環境問題の最適解を検討する
経済学は、さまざまな経済活動の仕組みを研究し、政策効果を分析するためのツールといえる。たとえば、ミクロ経済学やマクロ経済学は理論的な枠組みの土台となり、計量経済学は理論を実際の経済活動と照らし合わせて検証する際に役立つ。そして、どのような経済活動を研究の対象とするかによって、経済学はさらに細かな枝葉に分かれている。その一つが、今回取り上げる環境経済学。あらゆる人々や産業が環境問題と無関係ではいられなくなった現代においては、社会に出るうえで身につけておくべき知識ではないだろうか。
あらゆる環境政策の手段を学び、政策提言を行うためのスキルやアイデアを培う
気候変動、海洋汚染、ゴミの廃棄、森林や生態系の破壊......環境問題は多岐にわたる。また、問題解決の手段を見出すための学問領域もさまざまだ。技術開発や発明によって解決策を生み出す工学もあれば、起きている現象の原理や原因を解明する自然科学もある。それでは、環境経済学とはどのような学問領域なのか。授業を担当する横尾英史講師に聞いた。
「経済学の理論や手法を使って、環境問題を解決する手段を考案し、比較検討・検証する学問が環境経済学といえます。環境問題は生産や消費や輸送といった経済活動の結果として起きます。また、環境というのは、当事者一人だけに影響を与えるのではなく、多数の人からなる社会に影響します。ですから、環境問題の解決には、原因となっている経済活動を理解する必要があり、問題がどこにあるのかを特定することが求められます。そして、社会全体で解決に動くための政策づくりが重要になります」
授業は、あらゆる角度から環境問題を考察し、政策の手段を学習する。啓発、教育、技術開発、規制、税制、取引制度、情報提供、国際協定など、そこにはさまざまなカードが存在する。税制を例にあげれば、"環境税"の導入がある。温室効果ガスを発生する石炭などの化石燃料に税金を課すことで、地球温暖化を抑制する仕組みだ。取引の制度としては、温室効果ガスの"排出量取引"という、権利を売買できる新しい制度がある。排出できる量を"排出枠"という形で定め、実際の排出量が排出枠よりも多い国や企業が、少ない国や企業から排出枠を購入できる。この制度を導入すると、単なる規制よりも効率的に抑制を進められる。
「さまざまなカードがある中で、費用対効果を比較検討しながら優先順位を決めることが大切。その際の判断基準や根拠を経済学の考え方を使って検証していきます」
多分野の知見を融合させて問題を解く
そこに環境経済学の醍醐味がある
授業では、ミクロ経済学理論などのロジックに基づいた政策の設計から、政策案の試行や計量経済学的な事後評価の方法まで幅広い分析手法を扱う。これらを通じて環境政策の設計と評価に必要となる基礎知識や考え方の習得を目指す。さらに、国内外の具体的な環境問題・政策の事例を学び、政策形成を合理的に行うための思考法を養っていく。横尾講師は、国立環境研究所や環境省におけるプロジェクトのメンバーとして活動し、アジア諸国を対象とした環境政策の設計や評価に取り組んできた。その経験やノウハウが授業に注入されている。
期末試験の形式にも特徴がある。学生自身で特定の環境問題をみつけ、それに対する政策・制度設計のアイデアを調査・考察したうえで小論文にまとめる。経済学の考え方を活用することは求められるものの、どの環境問題・政策を選ぶかは学生に委ねられ、正解があるわけでもない。
「高校までの科目にたとえれば、環境問題の理解には物理・化学・生物の知識が欠かせません。その上で、数学を使って"理論化"や"データ分析"、歴史や政治・経済による"過去の考察"と"社会の理解"、国語で考えをまとめて"法制化"する。その成果を、英語を使って"国際的に共有"し"国際社会で議論"する。つまり、環境経済学は幅広い分野の知見を融合させることによって最適解を見つけていく学問です。そこに面白さや醍醐味があると思います。学生には、環境問題に対する知識や意識をいっそう深めてもらい、経済学の活用法やソリューションの導き方を身につけてもらいたいと考えています」
授業のテーマ
- 環境と健康・経済
- 消費者・企業行動と環境汚染
- 環境政策とは何か?
- 規制的手法と経済的手法とは何か?
- 環境評価
- 国際貿易と環境問題
- 国際環境協定とは何か?
- エネルギーの経済学
- 生物多様性の経済学
- 気候変動と健康・経済
- 気候変動の経済学
- 発展途上国のための環境経済学
- 行動経済学と環境政策
Student's Voice
数ある経済学の授業の中でも、理論と現実のつながりを感じやすい
小村来世さん
経済学部2年
SDGs(持続可能な開発目標)の締結など、世界全体で環境に対する動きが高まっていることはメディアを通して知っていました。また、炭素税の提唱者が2018年にノーベル経済学賞を受賞するなど、環境はこれから非常に重要な分野になると思い、受講しました。
授業では、横尾先生が国立環境研究所や環境省のプロジェクトでの経験を話してくださり、東南アジアを現地視察した際の動画も見せてくださいました。おかげで、経済学の理論と現実がつながっているイメージを持つことができました。
最も大きな収穫は、環境問題の難しさを学んだことです。環境にとっての悪影響を減らすことと、経済的な発展は、トレードオフの関係。単に環境に良いことをするのではなく、あくまでも人々の生活の豊かさを最大化することが大切だと思いました。環境問題は、産学官民すべてに関わる問題。そういう意味でも、汎用性の高い知識や視座を得ることができました。
2019年12月撮影
経済学的な視点から、環境問題を理解するチャンスだと思った
須田麻美さん
社会学部2年
環境税やパリ協定といった環境問題に関連するキーワードは、耳にしたことはあっても、説明できるほどの知識はありませんでした。しかしながら、環境問題は今後ますます重要度が増していく分野であるため、全学部の学生が履修できる選択科目であることを知り、履修を決めました。
授業を受けたことで、ニュースだけでは分からない環境問題を多面的にとらえられるようになりました。なにより、講義の分かりやすさも魅力の一つです。さまざまな環境政策の手段についても、カードを用いるなど工夫しながら解説をしてくださるので、経済学を学んだことのない私でも理解を深めることができました。
また、温室効果ガスの排出量を貨幣に換算する、費用対効果を測るといった考え方は、社会学では得られない視点であり、とても新鮮でした。経済学の考え方に触れられたことで視野が広がり、経済学が現実の問題を解決するためのツールとなることを実感できました。
2019年11月撮影