経済学部 西洋経済史/森宜人ゼミ
(『HQ』2017年春号より)
森 宜人准教授
社会や人々の営みの歴史を学び現代から未来へのヒントを探る
歴史を学ぶ意義とは何だろう。それは、過去に起きた出来事を単に把握することだけではない。重要なことは、起きた現象をどのように解釈し、どの部分に焦点をあてるか。そんな思考プロセスを経ることこそ、これからの未来を生きていくための実践力となる。
森ゼミにおける学びの面白さは、広義の〝経済〟という観点から歴史にアプローチできる点にある。社会や人々は、いかにして営んできたのか。マクロレベルの経済史というより、都市や地域というミクロレベルでの営みの変遷に注目しながら、現代社会が築かれるまでのヒストリーを具体的に把握できることが魅力の一つだ。総じて、未来を創造するための実践的な〝温故知新〟となる度合いは高い。過去と現代を比較する。変化の背景や原因を分析する。仮説を論理的に実証する。これらの研究活動を通じて養われる力は、社会やビジネスシーンで活かせるだけに興味深い。
日本の理解、世界との対峙にも役立つ歴史学
ゼミで研究に取り組むのは、近現代ヨーロッパの社会経済史だ。産業革命などの大きな変革を背景に学知としての社会科学が確立された時代だけに、現代社会や未来に活かすためにも実態を把握する意義は大きい。経済史とは、過去の経済社会と対話しながら、自分が今生きている社会をトータルにとらえる学問。そう語る森宜人准教授に、ゼミを指導する上での狙いを伺った。
「研究対象としているのは、ヨーロッパの中でもドイツです。特に近現代の都市史を専門としています。その理由は、中世以来の都市自治の伝統があり、学ぶべき好事例が多いからです。ドイツの都市は、近代になっても、都市化によって生じた社会問題に対して、国の動きを待たずに独自の対策をとり、のちの福祉国家の源流となるさまざまな社会保障制度を展開しています。また、都市計画にも力が入れられ、その徹底性は多くの国々で模範とされました。今でもドイツに行くと街並みの統一性を感じますが、こうした歴史が背景にあるわけです。一方で、日本では個人の自由が尊重されるためそうしたことが実現されにくい現実がある。このように、他国と比較して初めて自国の社会を語れますし、学ぶべきことは学び、批判すべきことは批判できるわけです。このような問題意識を持って、対象とする社会を地域史的な視点から具体的に理解することは、卒業後、グローバルに活躍していくうえでも活きるはずです」
3年次は専門分野の英文テキストを輪読。西洋社会経済史研究の基礎を固め、歴史学の思考方法などを養っていく。そして、学んだことを試しながら実践力を育む場となるのが、毎年開催される二つのイベントだ。
知識を実践力に変える"三商ゼミ"や"一橋祭"
一つ目は"三商ゼミ"。これは、一橋大学・大阪市立大学・神戸大学の学生が集って開催される研究発表の場を指す。遡れば、三大学ともに日本の商学・経済学をリードする希少な専門大学として創立されたルーツを持ち、60年以上にわたる伝統的な交流活動が森ゼミでも受け継がれている。
「共通の課題をあらかじめ設定し、各大学が独自のアプローチで研究成果を発表し合います。学生たちが設定したテーマを紹介すると、2014年度は"歴史の中のグローバルシティ"。昨年度は"格差拡大社会における人々の生存"。そして今年度は"グローバル化の中の社会変動"という共通課題の下で、"オーガナイズド・モダニティとは何か?"という切り口で発表を行いました。オーガナイズド・モダニティとは近代化に伴う社会変動が激化する中、国家が主体となって社会システムを計画的に策定し、社会生活上の不確実性を抑制することが試みられた時代です。現代社会が形成された歴史的経路を把握するうえでも非常に有意義なアプローチなのです」そして、もう一つが"一橋祭"だ。毎年11月初旬頃に開催される一橋大学の全学祭で、多くの来場者が訪れるこの機会を積極的に活用している。その特徴は、高校生向けのプログラムにある。
「昨年度より、"森ゼミの世界史講座"と題して、歴史分析の意義と面白さを高校生に伝えてきました。教えることは、学ぶことでもあります。ゼミ生にとっては、"なぜ自分はヨーロッパの社会経済史を学んでいるのか"という意義や目的を明確にする機会になり、"どうすれば高校生に興味を持ってもらえるのか"と工夫することで、伝える技術の訓練にもなります」
いずれの準備もグループワーク主体で行われる。3・4年生が合同で進めるのが森ゼミのスタイルで、さまざまな視点や知を共有できるのも魅力といえるだろう。ちなみに、4年次に取り組む卒論のテーマは基本的には自由で、対象とする時代や地域なども多岐にわたる。起きた現象をどのようにとらえ、どの部分に焦点をあてるか、実践力が問われる集大成の場だ。
卒論テーマ例
- J.ホープレヒトと19世紀ベルリンの都市計画
- 19世紀におけるアイルランド移民のアメリカ化
- 戦後ドイツにおける移民教育の展開
- カフカの時代におけるプラハの社会的位相
- ヨーロッパ型・中国型結婚パターンの比較史
- 日本における田園都市運動の受容
- 東京オリンピックと日本社会の近代化 など
Student's Voice
イベントは、自分の知識を深掘りする絶好の機会です
阿部拓也さん
経済学部4年
過去の社会現象を分析するにしても、歴史は事実であり説得力があるので学ぶ意義は大きいです。ゼミ活動で身についたのは、一橋祭で鍛えられたプレゼンテーション力。そして三商ゼミは、卒論をまとめる手法を学ぶ機会にもなりました。これらのイベントを通じて、蓄えた知識を深掘りする力を養えたことも大きな収穫です。(談)
ゼミ活動を通じて、"疑う"という習慣が身につきました
相原恭平さん
経済学部4年
森ゼミを志願した一番の理由は、開設されたばかりの若いゼミだったからです。新しいことにチャレンジできると期待しました。グループワークでは学年を超えて学び合えるので、得るものも多いです。社会現象の分析などを通じて気づいたのは、現象や物事を"疑う"ことの大切さ。習慣になりました。(談)
経済学部の学生との学び合いそのものが大きな刺激に
門田祥江さん
社会学部4年
地方出身のため、都市に関心があったこと。ドイツへの留学が決まっていたこと。そして、歴史学に興味を持ったことが森ゼミを選んだ理由です。私は社会学部の学生で、人々の営みを研究したいと思っていました。経済学部の学生とは背景にある知識や思考法など異なるので、学び合うこと自体が刺激になっています。(談)
森ゼミの魅力は、先生も学生も対等に議論できるムード
奥貫真緒さん
経済学部3年
風通しの良さも森ゼミの魅力だと思います。先輩も後輩も関係なく対等に、フラットな目線でディスカッションできますし、森先生がムードメーカー的な存在なのでモチベーションも上がります。1年目を終えて印象深いのは、一橋祭での高校生向け講義。伝える技術を磨けましたし、ゼミでの学習目的が明確になりました。(談)