商学部 経営戦略論/福地宏之ゼミ

『HQ2019』より

福地宏之准教授の写真

福地宏之准教授

ビジネスの背後にある社会現象を理解し分析する能力を養う

「商学部のゼミナール」と聞くと、ビジネスモデルやフレームワーク、マーケティング理論などについて専門的に学ぶ場、というものをイメージするかもしれない。
しかし、今回クローズアップする福地ゼミでは、まず「社会科学的思考」を学ぶための輪読から取り組む。その上で、専門的な内容を学び、データ分析を用いて仮説検証を行うグループワークに入る。ビジネスを社会現象の一つとしてとらえ、社会現象は何によって起こるのか・どう動いているのか、その基本原理を理解して初めて、具体的な解決策を考え出すことができるからだ。

グループワークで行った仮説検証とその結果は、実際のビジネスにも当てはめることができる

福地准教授は、ゼミの目的を改めてこう説明する。
「社会科学的な思考方法や分析方法を身につけて、社会現象に関しての丹念な分析と深い思考ができるようになることが目標です。表層の知識や分析枠組みを教えることは簡単ですが、それだけでは学生が分析したり解決策を提示したりすることはできません。背後にある社会現象を理解し、分析する力が必要なのです」
2018年度を例に挙げると、福地ゼミでは、まず4月から4回かけて『知的複眼思考法』(苅谷剛彦著)を輪読。次に『ミクロ動機とマクロ行動』(トーマス・シェリング著)を輪読し、その後ブルーオーシャン戦略など典型的なビジネス戦略論を学ぶという流れをとっている。
「ビジネスも、一つの社会現象です。問いを立て、そこからの展開を見つめ、因果関係を明らかにすることが重要です」
データ分析を用いて仮説検証を行うグループワークでは、ユニークなテーマが設定された。一橋大学に入学した1年生の満足・不満足を左右している要因は何か、まず仮説を立て、データを集めて検証するというものだ。人間関係・学業の二大要因のうち、ゼミ生が挙げた仮説は「人間関係」。それが学業にも影響を与え、結果として大学生活の満足・不満足の印象につながっているのではないかというものだった。しかし実際にアンケートでデータをとり、重回帰分析などを使って検証したところ、学業に関する要因が大学生活の満足・不満足を分ける主要な要因となっていた。
「理由を分析してみると、『興味・関心』『履修システム』などが挙げられました。とはいえ人間関係の『入学前の知り合いの有無』『サークル活動』などの理由ももちろん絡んできます。大切なのは、大学生活という社会現象の背後にあるものの理解です。ここが理解できると、グループワークで得た知見が、たとえばスポーツジムや塾の運営など、さまざまなビジネスにも当てはめられる。会員や塾生が退会しないための施策――キャンペーンや単価の設定など――について仮説を立て、検証、実行することができますから。ゼミで強調しているのはこういったことを考える頭が大事なのだ、ということです」

「n=1」のビジネスに相対するそのためには、社会現象に対してメタレベルでの理解が不可欠

将来学生が相対するビジネスは「n=1」。フレームワークや分析手法をどれだけたくさん詰め込んでも、結局はたった一つの「n」に取り組む力を持たなければならない。それが福地ゼミにおけるメッセージと言えるだろう。
「既存のフレームワークは数多くありますが、それらが目の前にある『n=1』の現象にそのまま当てはまることはめったにありません。そして分析手法も日進月歩で変化していきます。両方を吸収しながら直面する『n』の解決にあたるためには、社会現象に対する深い、メタレベルでの理解が大前提となるのです。真に優れた自動車修理工は、マニュアルなどに頼ることなくどんな車でも直せますよね。それは自動車に対する基本、メタレベルでの理解が備わっているからです。私のゼミで学生に身につけてほしいのは、そのような力です」

Student's Voice

一般常識とされているものを鵜呑みにせず自分の思い込みを捨てる姿勢が身についた

松澤萌さん

松澤萌さん

商学部3年

たとえば化粧品の場合、日本では「なるべく目を大きく見せよう」「肌を白くしよう」という指向に応える商品が主流です。でもアメリカのユーザーは「むしろ日焼けしていたほうがかっこいい」と思う。このように同じ化粧品でも、国や市場が違えば、ニーズも戦略も異なってきます。この点に、私はマーケティングの面白さを感じ、さらに学びを深めたいと考えていました。福地ゼミを選んだのは、福地先生が教えている分野・研究内容と私の興味が合致していたからです。
面接の時に、私がそれまで学んできたことや読んできた本、ゼミで学びたいことなどについてしっかり話を聞いてもらえたことも大きかったですね。あくまで私の話に主眼を置いてくださる先生の、「押しつけない感じ」にも好感を持ちました。先生が年代的に近いこともあり、映画やサッカーなど私たちに身近な例で説明してくれるので、理解しやすかったのも大きいです。
テキストを輪読して感じたのは、「一般常識を疑おう」ということです。読めば読むほど、「自分が今まで当たり前と思っていたことは本当か?」と問われている気持ちになりました。ゼミでのこのような学びを通して、いったん自分の思い込みを捨てる姿勢が身についたと感じています。それができると、今までつながって見えなかった社会現象間につながりを見出せるようになるのです。とても大きな収穫でした。

自ら運営にコミットし、仲間と一緒に学びを深めたい人に向いているゼミです

内田大貴さん

内田大貴さん

商学部3年

福地ゼミを選んだのは、経営戦略やマーケティングについて学べるということに加えて、「ゼミ一期生」という理由からです。一期生であれば、過去のゼミの運営にしばられることなく、自由にやれるということが、ゼミを選ぶうえで大きなポイントでした。
夏休み前までは、『知的複眼思考法』や『ミクロ動機とマクロ行動』といった、社会学系のハイレベルなテキストの輪読をしていました。抽象度が高い内容なので、ゼミの仲間と議論しながら理解を深められたおかげで、ハイレベルのテキストに対する抵抗感はなくなったようです。1人ではとても太刀打ちできない内容でしたが、仲間がいることによってそのハードルを越えることができました。そして、ゼミに入る前の自分であればつながりを見出せなかったAとBの社会現象について、深いところで共通項を探し出すという力がついたと思います。
福地先生の方針もあり、ゼミの運営は予想通り自由でした。自分たちで計画してワークを進め、発表までの段取りを組む。そのプロセスで、ゼミの仲間同士で力を合わせてテキストに取り組むという方法も学べたと感じています。言い換えればこのゼミは、学びに対して受け身の人には向いていません。自分からゼミの運営にコミットし、どんどん周囲とコミュニケーションをとりながら学びを深めていきたい。そんな人が向いているのではないでしょうか。

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