商学部 金融論/中村恒ゼミ

(『HQ』2017年春号より)

中村 恒准教授

中村 恒准教授

立証力を身につけることで、イノベーションをリードできる人材へ

つねに経営判断を求められるビジネスリーダーには、あらゆる知見が必要になる。〝金融〟も知らないでは済まされない知識の一つといえるだろう。金銭の貸借にとどまらず、金融機関や金融政策の動向を把握することは、収益確保やリスク回避などにおいても重要である。
中村ゼミで身につくのは、〝金融を正しく読み解く力〟だ。しかし、それは金融業界のみで活きる特殊な能力ではない。確かな理論と計算式によって構築されている金融の世界だが、時に矛盾した、説明のできない現実が起こりうる。世界的金融危機〝リーマン・ショック〟は最大級の事例といえるが、問題解決のための仮説⇔検証を繰り返すゼミ活動では、あらゆるビジネスシーンで汎用性の高い〝立証力〟が養われるという。ゼミ活動を通じて育てたいのは、理論と現実の間で社会のイノベーションをリードできる人材。そう語る中村恒准教授に話を伺った。

金融を題材に、金融以外の業界でも活かせるスキルを養う

「仮説を立て、検証し、問題解決策を立証していく。そのプロセスには、自分の観点やアイデアを相手に提示して納得させるというパートも含まれています。もし納得させる説明ができないとしたら、ベースとなる理論がどこかで破綻しているか、根本的に理解できていないことになります。このような立証力が問われるのは、金融の世界に限りません。業界を問わず、マーケティング調査の分析や新たなビジネスモデルの構築などにも求められる能力です」
中村准教授は、かつて日本銀行に勤務し、経済をリードする最前線に立っていたプロフェッショナル。金融の世界は、大学の学術研究の世界に近いらしい。つまり、社会で実践しやすいのだ。ゼミ活動では数学を駆使する場面も多いというが、それは実社会で役立つ数学といえるだろう。
「金融の世界に存在する諸問題を取り上げていきますが、学生が触れたことがある金融の世界といえばATMの利用程度です。そこで、ゼミがスタートする3年次の前半は、基礎知識の習得に時間を割きます。具体的には、ミクロ的な事例として"コーポレート・ファイナンス"(企業財務)を学ぶことで諸問題のイメージを掴み、金融の世界の常識を理解していきます」

ゼミの授業風景1

ゼミの授業風景2

"金融を正しく読み解く力"ひいては、あらゆるビジネスシーンで汎用性の高い"立証力"を身につけることができる。

料理人とグルメレポーター、双方の視点がリーダーには必要

3年次の後半に入ると、問題を解くための方法論を身につけていく。金融のマクロ的な理論として〝ダイナミック・アセット・プライシング・セオリー〟(資産価格理論)などを学習し、並行して『エコノミスト』『フィナンシャルタイムズ』といった経済紙の記事を題材にしたケーススタディも行って日々変化する現実の金融問題に対してビジネス観を育てていく。
「金融の性質を深く理解していないと、問題は解けません。一方で、世の中には金融に関する憶測や誤った情報が溢れています。つまり、創造力と評価力という両方の能力が必要で、これらは社会をリードする人材に欠かせない資質でもある。食の世界にたとえれば、料理人とグルメレポーターの視点を併せ持つことが大切ということです」
4年次は学生各自で卒論に取り組むが、中村准教授には重視している三つのステップがある。
ステップ①は〝正しく問題意識を持てているか〟。金融における問題を提起して目的を設定するにも、礎となる社会通念やビジネス観が誤っていると意味を持たないからだ。ステップ②は〝ロジカルに解けているか〟。仮説を立証する数式を導き出したとしても、矛盾や破綻が生じていれば役に立たない。冒頭で中村准教授が語った、相手を納得させる説明が求められるパートだ。最後の関門となるステップ③は〝新しい何かを提示したか〟。①と②をクリアしていても、盛り込んだアイデアがすでに存在しているものなら価値は下がる。社会にイノベーションを起こすには必須の観点といえる。
この三つのステップを、学生はフレームワークとしてあらゆる問題に取り組む。立証力を自分に定着させ、習慣づけるトレーニングといえるだろう。最後に、どのような学生が中村ゼミに向いているかを尋ねてみた。
「金融に興味があることはもちろんですが、〝チャレンジが好き〟な人は夢中になれると思います。解けるかどうか分からない問題を自ら設定し、なおかつ解いていくので、努力を続けることが大切。この資質は社会でも求められます。そういう意味では、能力を過信して努力を怠る人よりも、気が小さくて不安だからこそ努力する人のほうが伸びるポテンシャルは高いと私は思います」

ゼミの授業風景3

ゼミ集合写真

仮説を立て、検証し、問題解決策を立証する。答えのない問題に、チャレンジして努力を続けてこそ、伸びる。

Student's Voice

金融業界ですぐに使えるスキルが身につくゼミです

綛谷友規さん

綛谷友規さん

商学部4年

先生が日本銀行でキャリアを積んだ方なので、現場レベルの実践的な専門知識を学べると期待して中村ゼミを志望しました。実際に活動してみて、金融業界で働く際は必ず役立つという実感を持ちましたし、金融業界のプロのレベルがいかに高いかを知ったことも収穫です。ゼミに入る前は金融の知識がなく、数学も得意ではありませんでした。しかし、優秀な仲間に囲まれ、着眼点の凄さなど多くの刺激をもらうことで、自分の能力を高めることができました。卒業後は、投資信託会社で活躍したいと思っています。(談)

分からないことが分かるようになる喜びや、自信を得ました

山口滉平さん

山口滉平さん

商学部4年

数学を駆使して金融の問題を解いていくだけに、難易度はかなり高いです。それでも、勉強したいと本気で思えたのは、テキストには載っていない理論を学べることや、金融の現場で起きているエピソードを聞けるからです。自分で問題を見つけ、仮説を立て、導き出した答えを立証していくので、受け身ではなく主体的に取り組める点も魅力だと思います。活動を通じて得たのは、分からないことが分かるようになる喜び、そして自信です。卒業後は大学院に進学し、さらに金融の研究を続ける予定です。(談)

このゼミで学ぶと「もっと上を目指したい」と思うようになります

孫 昌煕さん

孫 昌煕さん

商学部4年

経済学的な視点を学べることから金融に関心を持っていましたが、中村ゼミで活動したことは、卒業後の進路を決めるうえで大きな転機になりました。きっかけは、金融における諸問題を解く"数式"を導き出す面白さを知ったこと。それから、デリバティブやリスク管理といったスキルの習得でもっと上のレベルを目指したいと思うようになりました。難解な問題を解いていく中で感じたのは、あきらめることなく取り組む努力の大切さです。卒業後は、トレーダーとして金融の世界に携わりたいと考えています。(談)

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