商学部 財務会計/円谷昭一ゼミ

(『HQ』2016年春号より)

円谷昭一准教授

円谷昭一准教授

"財務分析"に挑む数々のステージが自分の論理を"立証できる力"を生む

"IR"という用語を聞いたことはあるだろうか。インベスター・リレーションズの略で、企業が行う投資家向けの広報活動を指す。経営状況や業績動向などをディスクロージャー(情報開示)していくわけだが、企業にとっては効果的なものにできるか否かで資金調達の命運が決まり、投資家にとっては投資効率を上げられるか否かの判断材料になる。ここで重要になるのが、円谷ゼミのテーマでもある"財務分析"だ。迅速さ・公平さ・正確さが求められる中で、ゼミ生が日々実践形式で取り組んでいるのは、自分の論理を"立証できる力"を養う会計学といえるだろう。

知識の前に、自己評価能力がなければ、"実務"で通用する人材になれない

IRを中心としたディスクロージャー研究を専門とする円谷准教授。まずはゼミ生の指導にあたって心掛けていることを尋ねてみた。
「企業は、知識だけを詰め込んだ頭でっかちな人材を求めていません。私が育てたいのは、"実務"で活躍できる人材です。資質としては、自分の能力や水準を正当に評価できることが大切だと思います。評価できなければ、足りないスキルは何かと考え、獲得しようと主体的に動くことができません。そして、思い込みではなく、論理や根拠のあるディスカッションができてこそ、財務会計のスペシャリストとして活躍できるのです」ゼミ活動の中心になるのは、実在する企業の会計情報を用いた財務分析だ。基礎知識は、テキストの輪読などを通じて3年次のスタートから約2か月間で修得。その後は実践形式で分析に取り組み、結果のプレゼンテーションを繰り返していく。また、グローバルな動きに対応するため"英語"による実践にも力を注いでいる。ゼミには留学生も在籍し、ディスカッションを英語で行うことも少なくないという。そして、財務分析の"精度"を試すステージとして設定されているのが、企業や関連団体が毎年開催している主要なコンテストだ。

コンテストでの発表の様子

発表を行う様子

学外の財務分析のコンテストに挑戦。英語によるプレゼンテーションも行う

国内外の"コンペティター"と競い合い、財務分析力の精度を高める

その一つがプロネクサス総合研究所が募集する『プロネクサス懸賞論文』。上場企業のディスクロージャー・IRをより効果的・効率的なものにする提案を、実務をサポートする専門企業が募る。対象は学生、若手研究者、社会人と幅広い。円谷ゼミでは今年度、全ゼミ生が4つのチームに分かれて参加し、そのうち1チームが最優秀賞を受賞。一橋大学初の快挙となり、学長表彰を受けた。
日本経済新聞社が主催し、中・高・大学生を対象にした株式学習コンテスト『日経STOCKリーグ』にも毎年エントリーしている。仮想資金は500万円。独自の投資視点で全上場会社の中から20社を選び、バーチャル株式の売買によるポートフォリオを作成して提出する。儲けた金額ではなく、投資の視点の論理性や斬新さが評価の対象となっているのが特徴だ。全国約600チームの頂点を目指して日々奮闘している。
知識を試す機会は国内に留まらない。国際的な証券アナリスト団体が開催する『CFA協会リサーチ・チャレンジ』では、社会人経験者を含む世界中の学生と調査・分析内容の優劣を競い合っている。作成したレポートは、名立たるアナリストやファンドマネージャーなどによって審査される。円谷ゼミでは今年度、国内大会で一次審査を勝ち抜き、最終審査で英語によるプレゼンテーションを行った。目標は、アジア太平洋地区大会への出場権の獲得、そして、世界大会への進出だが、2015年は残念ながらアジア太平洋地区大会への出場はかなわなかった。

真の実力を養う最高の教材は、ビジネスの最前線で起きている"出来事"

このような機会を設けているのは、ゼミ生の目を"外"に向けさせるためでもあると話す円谷准教授。自身が持つ財界とのネットワークを活用する努力を惜しまない。財務分析の研究者として関わる企業の経営課題に取り組ませることもゼミ活動の一環だ。
「大事なことは、財務諸表の比率分析のみに終始せず、ビジネスの最前線で起きている"出来事"に着目することです。その会計情報を頼りに、背後にある原因やメカニズムを明らかにしていくことで真の実力を養うわけですが、必要に応じて当事者へのインタビューや実地見学によるリサーチを行うことも、ゼミ生にとっては日常茶飯事なのです」
教室でゼミが開かれるのは基本的に週1回。これは活動報告や発表、ディスカッションからヒントを得るための時間だ。つまり、ゼミ活動の大半は、学内外で日常的に各自で行っているというから驚く。学生の主体性や積極性に委ねるのが円谷ゼミのポリシーであり、"実務"で活躍できる人材育成の鍵なのだ。

なお、ゼミの活動はホームページで詳しく紹介されている。

ゼミ授業風景

ゼミ集合写真中央には円谷准教授

ゼミで行うのは活動報告など。大事なことは教室の外。
ビジネスの最前線で起きている"出来事"だ

Student's Voice

実業界と関わりながら知識を試せるゼミ。結果は必ずついてくる

岸本 実さん

岸本 実さん

商学部3年

ゼミを選ぶにあたって、1・2年次で培った財務会計の知識を試せる場が欲しいと思っていました。円谷ゼミを志望したのは、"実業界と関わる機会"があったからです。外部のコンテストは、財務分析のプロフェッショナルに自分の実力を評価される点に大きな意義があると思います。私がエントリーしたのは、9月が応募締め切りの『プロネクサス懸賞論文』です。やりがいは、賞を取ることよりも、研究内容を論文という形に残せるところに感じました。とはいえ、リサーチの段階から一筋縄では行きませんでした。自分たちが立てた仮説の甘さを痛感し、実力の低さを思い知りましたね。そこで奮起し、論文の作成ではチーム全員が夏休みを返上。苦労は尽きませんでしたが、やればやるほど分析の進め方や手法も身につきます。頑張れば結果は必ずついてくる。それは間違いありません。(談)

コンテストへの参加が、自分の視野や価値観を大きく広げてくれます

林 雅蘭(イム・アラン)さん

林 雅蘭(イム・アラン)さん

商学部3年

日本に関心があり、日本語も高校2年から学んでいました。そして、大学に進んだら金融について詳しく研究したいとも思っていました。一橋大学に留学したのは、金融に強く、活躍する人材を数多く輩出している日本の大学だったからです。そして、より多くの企業で知識を活かせる財務会計に興味が移ったのは入学後のことです。円谷ゼミでは、カンボジアに開設される証券市場について現地の大学生と議論するプロジェクトも進行中で、開発途上国に興味があった私にとって魅力的でした。現在は、『日経STOCKリーグ』への参加で忙しい毎日を送っています。どんな論文にするか構想を練っているところですが、女性の活躍を支援するビジネスなど"代行"をテーマに独自のポートフォリオを構築したいと考えています。自分の視野や価値観が大きく広がる。そこが円谷ゼミの魅力だと思います。(談)

ABOUT

一橋大学について