商学部 Intermediate Course in Finance

(『HQ』2015年春号より)

カン・シンウー(Shinwoo Kang)特任講師

カン・シンウー(Shinwoo Kang)特任講師

グローバルな環境で《Captains of Industry》を体現できる人材育成を目指す「渋沢スカラープログラム」

一橋大学商学部では、2013年度以降の入学者を対象に、独自の選抜教育プログラム「渋沢スカラープログラム」を実施している。《Captains ofIndustry》としての役割を、グローバルな環境で体現できる人材育成がねらいだ。

近代日本資本主義の父・渋沢栄一をロールモデルにした選抜プログラム

プログラム名に冠された「渋沢」とは、近代日本資本主義の父と言われ、商法講習所(一橋大学の前身)の創設にもかかわった渋沢栄一のことである。
明治維新後、ヨーロッパから帰国した渋沢は、近代日本の租税・貨幣・銀行制度の樹立、殖産興業政策の指導、株式会社制度の啓蒙・普及などに携わる。日本初の銀行である第一国立銀行をはじめ、約500もの会社の設立・経営に参画した。これが「近代日本資本主義の父」と言われる理由だ。
その渋沢栄一をロールモデルに、グローバルな環境で《Captains of Industry》を体現する人材を育てていく。「渋沢スカラープログラム」という名称には、そんな意味が込められている。

プログラム内で提供される専門科目を英語で学び1年間、協定校に留学するという特徴

「渋沢スカラープログラム」には選抜試験がある。書類選考や面接試験を通して、思考力・洞察力・志・情熱・コミュニケーション能力などの観点から総合的に評価している。選抜された学生は大学2年次からプログラムに参加する。
プログラム最大の特徴は、専門科目を英語で学ぶことだ。プログラム修了要件の単位数は38単位で、卒業要件の約3分の1の単位を英語による専門科目で取得することとなる。また、選抜された学生は海外の協定校へ1年間留学することも、大きな特徴だ。留学先で受講した商学関連科目についても、プログラム修了要件として積極的に単位を認定していく。
先進性に富んだ同プログラムでは、学生が段階を経て学習できるよう、初級、中級、上級レベルで各分野の専門科目が英語で開講されている。また、これらの授業は、2010年度よりスタートした教育プログラム「HGP」(Hitotsubashi UniversityGlobal Education Program)科目の一部でもあり、学生交流協定校からの交換留学生も履修できる。二つの教育プログラムの相乗効果により、日本人学生と海外からの留学生が肩を並べて学び、議論を交わすための学習環境が整備されている。

授業、オフィスアワー、ランチ、少人数クラスという環境を活かして講師と学生が密にコミュニケーションをとる

同プログラムにおいて、「Intermediate Coursein Finance」は金融を英語で学ぶ中級レベルの授業である。この授業を履修する学生は現在15人、うち5人は交換留学生である。この少人数クラスで教鞭をとるのがカン・シンウー(Shinwoo Kang)特任講師だ。カン講師は、韓国・ソウル大学校を卒業後、渡米。University of Michiganにて経営学博士号を取得し、2014年度より一橋大学商学部の教員を務めている。
「『Intermediate Course in Finance』は、講師と学生が議論をしながら進めるには不向きな授業と判断し、通常のレクチャースタイルを取っています。ただし履修者が少数ということもあり、自由に質疑応答ができる授業環境にしました」(カン講師)

授業終了後には必ず宿題(assignment)が出る。カン講師によれば「1回につき3〜4時間はかかる」とのことなので相当なボリュームだ。次回の授業は、つねにその宿題を終えていることが前提になっているため、90分の授業の後も、学生たちは気が抜けない。そこで授業後にはオフィスアワーを設けて、学生の質問や相談に対応するようにしている。なおオフィスアワーとは、教員が学生のために研究室を開放する特定の時間のことで、基本的に事前の予約は必要ない。カン講師のオフィスアワーには、毎回1〜2人の学生が訪ねてくるそうだ。
「少人数クラスで授業を行ううえで、私は一人ひとりの学生の〝人となり〞を理解し、学生が何でも気軽に話せる関係を築きたいと考えています。ときには学生と学外でランチをとり、授業以外の話をすることで、お互いに理解を深めるようにしています。もちろん強制ではありませんが」(カン講師)

授業はすべて英語、オフィスアワーでの質問や相談も英語。学生には集中力や緊張感が求められる環境のなか、英語で金融を学ぶ意味についてカン講師はこう語る。
「将来、海外を舞台に働きたいと希望する学生には、良いトレーニングだと思います。日本語で学ぶ金融と内容的には変わりませんが、英語の表現に慣れる絶好の機会になるでしょう。商学部の学生は1年次で日本語による金融概論を学んでいますので、私のクラスが良い復習になっているのではないかと感じています」(カン講師)

ゼミ授業の様子

「Intermediate Course in Finance」の授業。レクチャースタイルを取りながらも、自由に質疑応答ができるよう工夫している

学生と交流を兼ねてランチをする様子

ときには教員と学生が一緒にランチをとり授業以外の話もする。これも授業で学生が何でも気軽に話せる関係を築くためだ

英語で準備されている授業資料

授業はすべて英語。配付資料、質問・相談もすべて英語。将来海外を目指す学生には良いトレーニングになる

Student's Voice

少人数クラスだから、問題に対する洞察を深められる

陳 悦さん

陳 悦さん

商学部2年

「渋沢スカラープログラム」に応募したのは、一橋大学からさらに海外の大学に留学して、金融を学びたかったからです。英語での授業は、ハルピンにいた頃からずっと経験していたので、日本語の授業より安心でした。そもそも金融や会計などの学問は、アジアが欧米から輸入したものです。英語で学んだほうが理解しやすい面があります。また、インターネットで検索するときも英語のほうが便利です。日本語で検索するよりもたくさんの検索結果が出てきますから。
そして「Intermediate Course in Finance」の授業で重要なのは、英語で行われること以上に、少人数クラスであることです。1年次に履修した概論の授業はとても勉強になりましたが、100人を超える学生が受講していたので、一方的に知識を吸収するしかありませんでした。でも「Intermediate Course in Finance」の授業は少人数なので、カン先生に質問したり、学生同士で議論したりするチャンスがたくさんあります。コミュニケーションをとりながら学んでいると、問題に対する洞察が明らかに深まるのです。自分がどこまで理解しているか、理解したことをどう伝えればいいか、はっきりわかりますね。人間関係も築けますし、英語力もさらにアップするので、とても効率的です。(談)

英語の授業も膨大な宿題も、大変だから面白い

名東悠宇さん

名東悠宇さん

商学部2年

私はもともと海外志向が強いので、1年間の留学が必須の「渋沢スカラープログラム」には絶対に参加したいと考えていました。受験勉強をしていた頃から英語は得意でしたが、プログラムに応募するにあたってTOEFLに挑戦するなどして英語力を磨きました。それでも実際にプログラムに参加してみると、英語で表現することの大変さや金融の難しさに苦労します。カン先生に支えられて頑張っているうちに、その苦労が面白さに変わり、今ではすっかり夢中になってしまいました(笑)。
宿題は1回につき、大判のテキストで30ページ前後を読み、問題を解いてくるというものが中心です。ただ、そのページだけではなく章全体を理解していないと解けません。テキストを何度も読み返し、友だちと話し合ったり、インターネットで調べたり......。エクセルで表を作成したり計算したりすることも多いので、毎回必死です。
しかし、授業でも宿題でも、自分の力でどうしても乗り越えられないときには、カン先生が力を貸してくださいます。そして自分の理解が50%から100%になり、答えを出せたときは本当に嬉しいですね。切磋琢磨し合える仲間にも出会えて、今は大学に行くのが楽しくて仕方ありません。留学予定のシンガポール経営大学でも、きっとすぐにとけ込めるという自信もつきました。(談)

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