学校法人ヴィアトール学園 洛星中学校・高等学校

2017年度のデータによると、一橋大学学部入学者の約3分の2が1都3県(千葉・埼玉・神奈川)の出身者で占められている。しかし一橋大学は"首都圏の国立大学"を目指しているわけではない。なぜこのような事象が起こっているのか。そして、どんな時代においても、全国から優秀な学生が集まってくる国立大学であるためには、何が必要か。その背景を探り、同時に一橋大学を正しく認知してもらうために、本学の教員が母校を訪ね、ヒアリングと広報活動を行うこの「母校を訪ねて」。第2回は、経済学研究科長・経済学部長の岡室博之教授が、京都市の私立、学校法人ヴィアトール学園 洛星中学校・高等学校を訪問した。その様子をレポートしながら、進路指導の先生との対話や、実際の生徒たちとの議論を通して見えてきた課題について共有する。

阿南孝也校長

阿南孝也校長

岡室博之教授

岡室博之教授

子安克実主任

子安克実主任

伊藤眞一郎副校長

伊藤眞一郎副校長

左から伊藤眞一郎副校長、岡室博之教授、阿南孝也校長、子安克実主任

左から伊藤眞一郎副校長、岡室博之教授、阿南孝也校長、子安克実主任

オーケストラ部で青春を過ごした岡室教授

今回取材を受け入れてくださったのは、岡室教授の母校、京都市の私立、学校法人ヴィアトール学園 洛星中学校・高等学校。現地では阿南孝也校長、伊藤眞一郎副校長、教育部進路指導主任子安克実教諭が対応してくださった。同校は卒業生間のつながりが強く、同窓会が定期的に開催される。岡室教授も一橋大生の頃から何度か母校を訪れているとのこと。しかし今回のように平日、生徒たちが勉強しているタイミングでの訪問は卒業後初めてになるという。
岡室教授は大阪府の出身。洛星中学校には23期生として入学し、毎日自宅から通っていた。学校ではオーケストラ部に所属し、バイオリンを担当する。高校時代、東京大学・京都大学合格圏という好成績を残しながら、一橋大学への進学を決意した。「オーケストラ部の2期上でコンサートマスターをしていた先輩が一橋大学に進学するまでは、一橋大学を意識することもなかった」と話す。重要なきっかけは、一橋大学の学長を務めた増田四郎による『大学でいかに学ぶか』(講談社現代新書)という本だった。町の書店で何気なく手に取ったその本に、岡室教授は感銘を覚えた。ヨーロッパ中世史の専門である増田四郎が一橋大学の前身である東京商科大学で学んだのは昭和初期であるが、当時、歴史家を志していた岡室教授は、このような碩学を育てた学風、特にゼミナールの伝統に感激したのである。しかし、関西における一橋大学の知名度は高くないため、岡室教授の決意を聞いた両親は驚く。「なぜ京都大学ではだめなのか。同じ東京に行くのなら、東京大学はどうか」というのが最初の反応だったそうだ。
しかし岡室教授は自分の意志を貫き、1980年に一橋大学経済学部に入学。卒業後、一橋大学経済学研究科の修士及び博士課程に進み、さらにドイツ・ボン大学に留学して博士学位を取得し、1993年、一橋大学経済学部の講師となる。イギリス・バーミンガム大学やドイツ・ベルリン社会科学研究所(WZB)の客員研究員、文部科学省科学技術・学術政策研究所の客員研究官などを歴任し、2017年に現職に就任するという経歴を持つ。

心、頭、体のバランスの取れた人間を育てる「全人教育」の中高一貫校

洛星中学校・高等学校は、京都市北区にあるカトリック系の男子校で、関西エリアを代表する進学校だ。1学年220人前後、全校生徒1322人(2017年度)という小規模の中高一貫教育を行っている。創立は1952(昭和27)年、キリスト教カトリック精神に基づく「全人教育」を教育方針に掲げ、授業、クラブ活動、学校行事、宗教行事などを通じて、心、頭、体のバランスの取れた人間の育成に取り組んでいる。
教科指導の面では、中高6年間を基礎期(中学1~2年)・充実期(中学3年~高校1年)・発展期(高校2~3年)に分け、生徒一人ひとりの成長に応じた教育を行っている。学年や科目によって分割少人数制授業を実施していることも大きな特徴だ。物理コンテスト、科学地理オリンピック、科学の甲子園、国際物理オリンピックなどで上位入賞を果たしていることからも分かるように、興味のある分野を自ら極めようとする生徒も多い。
全人教育を目指す同校ではクラブ活動(文化クラブ21・体育クラブ18・同好会18)も盛んで、高校2年までは参加が必須となっている。岡室教授がオーケストラ部に所属していたことはすでにふれたが、創立60周年記念の一環として42期生が管弦楽曲「翔星」を作曲。ホームページで視聴ができる。
また、国際交流にも力を入れている。シアトル語学研修(2週間/高校1年12人)、ハーバード大学での次世代リーダー養成プログラム(9日間/高校2年約20人)、オーストラリア語学研修(11日間/中学3年約100人)、カナダ・ヴィアトール修道会との交流(1週間/中学3年5人)、日豪国際交流(15日間/中学2年~高校3年5人)などを通して、グローバルな視点を養う機会を提供している。2010年には、中学校・高等学校のみを設置する法人としては初めて「国連グローバル・コンパクト」にも正式参加した。少人数教育を行っていること、国際交流が盛んであること。一橋大学との共通点は非常に多いと言える。

校内風景1

校内風景2

図書館には卒業生の書籍が並ぶ

校内風景3

進学先は京都大学をはじめ関西圏の理系学部が中心

進路指導の子安主任に実際の進路状況を伺ったところ、「7割の生徒が理系を志望し、医学部、理工系の学部を目指している」とのこと。まず大学別の進学先として、国公立では京都大学がトップだ。創立以来1万2648人の卒業生を送り出しているが、国公立大学合格者数は1万538人、うち京都大学の合格者数は4199人と4割近い。過去4年間の大学別の入試合格者数としては、国公立大学では京都大学の224人がトップ。2位の大阪大学70人の3倍強という数字だ。以下、神戸大学61人、大阪府立大学46人、京都工芸繊維大学41人、6番目にようやく関東勢の東京大学39人となり、京都府立医科大学35人、大阪市立大学25人、北海道大学21人、滋賀医科大学20名と続く。一橋大学は7人で、圧倒的に関西圏の大学への進学が多い。関西圏、とりわけ京都大学への進学志望者は、今年も半数近くを占めるという。この背景について、子安主任は次のように説明する。
「当校では、生徒一人ひとりの志望を最優先することが進路指導の方針です。成績で輪切りにして進学先を提示する、ということはしていません。その前提でお話しすると、京都大学を志望する生徒が多いのは、卒業生の影響が大きいですね。タテのつながりが強いのです。たとえばクラブ活動では、先輩たちが後輩の面倒をよく見ています。中学1年の生徒にしてみれば、高校生の先輩はいわばロールモデルですから、その先輩が京都大学に進学したとなれば『自分もそうなりたい』と考えるのは自然なことです。また、5年前から、高校1年の中間考査終了後に全員で京都大学を訪問しています。その際、OB教員による学部説明や、OB学生によるキャンパス・研究室などの見学ツアーがあり、生徒たちは卒業生をとても身近に感じています。卒業生たちは、クラブ活動にもよく顔を見せますしね。仮に現役では行けなかったとしても、もう1年頑張ろうというモチベーションにつながっているようです」
そして、学部別の進学者数で見ると、やはり理系志望が多数を占める。たとえば2017年度の場合、国公立大学上位3校では、医学・理工系は京都大学32人(全合格者の70%)、大阪大学10人(同77%)、神戸大学5人(同50%)となっている。
「男子校の中学受験に成功した生徒は、数学にとても自信を持っています。その自信が成績につながり、実際の志望先の選択にもつながっているのでしょう。また最近では文系よりも、理系の大学・学部を卒業した後のキャリアに注目が集まっています。これは生徒本人というよりも、むしろ保護者のほうがポジティブなイメージを持っているようです。そこにお金の問題も絡んできますので、自宅から通える国公立大学の理系学部と言えば......と絞り込まれてくるのではないでしょうか」(子安主任)

主な大学合格実績(国公立)2014~2017年度

※( )は現役合格生

2017
年度
2016
年度
2015
年度
2014
年度
京都大学 46
(24)
59
(24)
56
(34)
63
(34)
東京大学 10
(6)
5
(4)
11
(8)
13
(10)
大阪大学 13
(7)
25
(15)
21
(11)
11
(5)
神戸大学 10
(2)
14
(7)
21
(11)
16
(4)
京都府立医科大学 9
(6)
12
(5)
7
(3)
7
(3)
滋賀医科大学 5 3
(2)
6
(2)
6
(3)
北海道大学 12
(8)
2
(2)
2 5
(2)
東北大学 1 1
(1)
2 1
東京工業大学 1
(1)
- 2 1
(1)
一橋大学 1 1 2
(1)
3
(2)
名古屋大学 - 1 2
(3)
1
滋賀大学 1 6
(5)
1
(1)
2
京都工芸繊維大学 10
(4)
11
(3)
13
(7)
7
(2)
大阪市立大学 10
(5)
5
(3)
4
(1)
6
(1)
大阪府立大学 10
(1)
9
(2)
16 11
(1)
その他の国公立大学 43
(11)
31
(11)
61
(17)
41
(12)

独自の強い意志を持った生徒が一橋大学を志望する

一方で、一橋大学への進学志望者は少ないながらも毎年1~2人は存在する。進学先については本人の自主性に委ねていることは前述の通りだが、子安主任によれば「一橋大学を志望する生徒は、自分の中に強い信念と根拠を持っていることが多い」そうだ。それは岡室教授が一橋大学への進学を決めた経緯とも重なる。
「漠然と『東京の国立大学に行きたい』という生徒は、その後関西圏や早稲田大学・慶應義塾大学に志望が変わることがあります。しかし『一橋大学に行きたい』と決め打ちする生徒の場合は、その後ブレることはありません。そういう意味では、浮動票が流れない大学だと言えます」
そして子安主任は、一橋大学の入試には高度な数学力と英語力が求められるが、その両方を解ける生徒には一橋大学以外にも選択肢が数多くあると指摘する。模擬試験の結果を見て「一橋大学の入試には太刀打ちできない」と判断した生徒は、そこで離れてしまうそうだ。「だからこそ、学問で生徒個々人をモチベートする必要があるのでは」と語る。
「今高校生が学んでいるさまざまな科目が、一橋大学で社会科学を学ぶ時にどのように活かされ、さらにその先にどんな活躍分野が待っているか。これが提示できれば、少なくとも数学が苦手で悩んでいる文系の生徒たちに光が差すと思います。経済効果を測る、起業行動を分析する、政策のデザインや評価を行う......こういったことに数学が必要と分かれば学ぼうとするモチベーションが上がります。そして、社会科学を学ぶことで身につけたスキル・ツールが自分の将来にも使えると分かれば、経済学など社会科学に対する考え方も変わり、一橋大学が選択肢に加わることも十分考えられます」

議論が白熱した高校生20人との模擬講義

この後、岡室教授は阿南校長との対話に臨んだ。洛星中学校・高等学校と一橋大学がそれぞれ取り組んでいる国際交流について情報交換を行い、お互いの共通点を改めて確認。また、阿南校長は、岡室教授が所属していたオーケストラ部の活躍にもふれ、2017年2月に大阪城ホールで行われた「高山右近列福式」に、洛星中学校・高等学校とノートルダム女学院中学高等学校両校のオーケストラ部が合同演奏したことも教えてくださった。
そして学校側の計らいで、模擬講義という形で同校の生徒に一橋大学を紹介する機会をいただく。放課後の教室に集まったのは、高校1~3年生20人。特に最前列に陣取った3年生は、議論する気満々で臨んでいるようだった。岡室教授が「私はオーケストラ部にいました」「今熱いのはたとえば医療経済です」「ゼミでは泊まり込みの合宿をします」と話しかけるたびに、「おお~」という太い歓声が上がる。一橋大学の特色であるゼミや国際交流等について説明を行った後、質疑応答へ。ある生徒から消費税増税について、岡室教授の意見とその根拠を求める発言があり、議論はアメリカにおける経済政策の効果から社会問題全般に及んだ。講義は予定時間の60分を超え、さらに講義終了後も数人の生徒が先輩である岡室教授の元に集まり、一橋大学の入試や経済学についての質問をぶつけていた。
最後に、洛星中学校・高等学校のOBであり、かつオーケストラ部のOBでもある伊藤副校長にオーケストラ部を案内していただき、岡室教授の母校訪問は終了した。

模擬講義1

模擬講義2

社会科学を総合的に学べる大学としての魅力を早期に先輩から発信すべき

オーケストラ部の様子

岡室教授は、今回の訪問の感想を次のように述べる。
「一橋大学を志望する生徒は、昔も今も強い意志を持って目指していることが分かって安心しました。洛星高等学校からの入学者数が少ないことは事実です。が、だからといって大量に宣伝すればいいわけではなく、経済学や社会科学全体の魅力をしっかり伝えるべきだということも分かりました。また、一橋大学ならではの特色を考えたアプローチも必要です。学問の魅力は当然として、社会科学の総合大学である一橋大学では学部間の垣根が低く、他学部の科目も学べること。たとえば、経済を学ぶうえでは民法、労働法などの法律の知識、財務諸表や複式簿記などの商学の知識も大切ですが、そのいずれも同じキャンパス内で学ぶことができます。また、垣根の低さは卒業後の幅広いネットワーク構築にも役立ちます。模擬講義に来てくれた生徒たちを思いうかべた時、このような訴求は有効ではないかと感じました。そしてもうひとつ、如水会の強力なサポートをもとにした国際交流も、同じように国際交流が盛んな洛星高等学校の生徒たちには本学の魅力として感じてもらえると思います。こういった一橋大学のさまざまな魅力を、より早い段階で伝えること。しかも、可能であれば一橋大学に在学中の先輩から伝えることが重要なのかもしれません」

PEOPLE

一橋大学の「人」