法学部 刑事訴訟法/緑大輔ゼミ

(『HQ』2018年春号より)

緑 大輔准教授

緑大輔准教授

犯罪事件の刑事裁判を通じて養う「自分なりの判断基準」

一橋大学の法学部には、検察官や弁護士など法曹界を目指す学生もいれば、企業の第一線で活躍するビジネスパーソンを目指す学生もいる。それは、ここで紹介する「刑事訴訟法」を研究する緑ゼミの学生にも当てはまる。
刑事訴訟法とは、ある罪を犯したと疑われる者について、有罪か無罪か、刑罰を科すか否かを判断する手続を定めた法律である。とはいえ、緑ゼミの活動目的は法律を隅々まで暗記することや、犯罪事件の真実を究明することではない。取り上げる事案の研究を通じて養うのは、「自分なりの判断基準」。犯罪や事件に限らず、私たちの身の回りではさまざまな問題が起きる。どのようなフィールドで活躍を目指すにしても、自分なりの物事の見方や判断のための枠組みを持つことは、社会の風潮や溢れる情報に惑わされずに生きていく礎になるはずだ。

企業で活躍したい学生は「制度を見る目」を、法曹界を目指したい学生は「事案を見る目」も鍛える

3年生と4年生が一堂に会して行われ、学生によって主体的に運営されている緑ゼミ。普段のゼミ活動は、学生が決めたテーマに基づき、刑事事件の裁判例や制度が取り上げられる。
取材で訪れた日は「性格証拠」をテーマに議論が行われていた。人の性格に関する証拠は裁判所に偏見を与えて判断を誤らせる危険性があることから、被告人が犯人であることを証明するために採用することはできないというルールがある。学生が発表を行っていた切り口は、「性格証拠の許容性」「前科・類似事実による犯人性立証」とさまざま。興味深いワードが散見されるが、どのような視点で研究を行っているのだろう。指導にあたる緑大輔准教授に話を聞いた。
「ミクロ視点でいえば、過去の裁判での判例を分析して事案の異同に着目し、判例が適用される射程を探り出します。特に法曹界を目指している学生が関心を持つ点であり、身につけば将来に活きるスキルになると思います。一方で、マクロ視点でいえば、法制度の比較や法改正が行われた理由などについて学んでいきます。これは、法が定める基本原則との関係を意識しつつ、制度をどのように構築して、問題をどう解決するかを考えるトレーニングになります。言葉を鍛えるという側面もあります。知識がない人にも論理的かつ分かりやすく説明できることを目指しており、企業での活躍を目指す学生にとっても、意味があると思っています」

ゼミ風景1

ゼミ風景2

事案の研究を通じて養うのは「自分なりの判断基準」。
物事の見方や判断のための枠組みを持つことは、自己を見失わないための礎となる

「見極める力」と「価値を考える力」が、自分なりの判断基準を培う

刑事訴訟法を研究することは、「不幸」を扱うことでもある。被告人と被害者、それぞれの背景や想いに触れることもある。弁護人、検察官、裁判官、それぞれの視点を学ぶ。緑ゼミは、ニュースやワイドショーでは語られない刑事裁判の背景に迫り、多様な人々や社会の悩みの深層を学ぶゼミといえるだろう。
「活動を通じて身につけて欲しい力としては、主に二つあります。一つ目は、事案の違いを見極めて、議論する力です。ゼミでは判例を分析しますが、たとえば似ている事案であっても裁判所の判断が異なるケースがあります。なぜ違うのか。学生同士で意見をぶつけ合うことで、相手の考えを理解しながら自分の主張を伝える力が養われます。もう一つは、自分なりの価値観を考える力です。より良い刑事司法制度をつくるために、何が大切なのか、どのような制度が相応しいのか。また、法律学上の常識と、一般社会の常識の間には、時にはズレがあるものです。なぜズレが生じるのか。そのズレにはどのような意味があるのか。常識と非常識の違いが生じる意味を読み解く技術を、自分の中に持つことは、社会で生きていくうえでも役立つと考えています」
議論を通じて「自分なりの判断基準」をつくってくれれば、と話す緑准教授。ぜひ注目して欲しいゼミである。

ゼミイメージ

ゼミ集合写真

Student's Voice

法曹界志望も民間企業志望も、ともに高め合えるゼミです

山本茉友さん

山本茉友さん

法学部3年

緑ゼミに入ったきっかけは、2年次に受けた刑事訴訟法の授業です。講義を聴いた時には、制度の中にある、人道的な価値と事実を究明する価値との間のせめぎ合いに、大いに興味を持ちました。学ぶ内容は、法律分野の中でも高度で難しい部類に入ると思いますが、法曹・民間の志望を問わず、自分を高められます。私は企業活動を広い視野でとらえて、全体を統括できるような仕事に就きたいと思っています。ゼミを通じて培った、物事を解釈する力は、どのような職業に就いても間違いなく私の強みになると思います。(談)

実務に関わる内容で、深く考える力が身につきます

青嶋良弥さん

青嶋良弥さん

法学部4年

卒業後は法科大学院に進学し、将来は検察官になりたいと考えています。刑法はすでに学んでいましたが、刑事訴訟法には触れたことがありませんでした。検察官の実務に刑事訴訟法は欠かせず、じっくり学びたいと思ったことが緑ゼミを選んだ理由です。開設されて間もないゼミだったので、どんなことにもチャレンジしやすいと期待しましたが、その通りでした。学ぶプロセスを通じて身につくのは、深く考える力だと思います。数多くの事案に触れるので、興味が枝葉のように広がっていきました。(談)

自由に刑事法に関する社会問題を扱えるゼミ

北村栞さん

北村栞さん

法学部4年

一橋大学に入学した頃は検察官を目指していました。しかし、法律の解釈を学んでいくうちに憧れが薄れ、自由な立場で意見を発信できる仕事に就きたいと思うようになったのです。そんな私にも緑ゼミは合っていました。学生が主体となってゼミ活動を運営し、刑事訴訟法にとどまらず、興味のあるテーマを自由に設定して研究できるからです。活動を通じて、自分が気づかなかった社会の問題に気づくことができましたし、問題の存在を知ることで視野が広がったという実感があります。卒業後は新聞記者として報道に携わりたいと考えています。(談)

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