経済学部 公共経済学/山重慎二ゼミ

(『HQ』2015年春号より)

山重慎二准教授

山重慎二准教授

一人ひとりの研究をゼミが一体となり、高めていく

公共経済学において、計量経済学の分析手法なども活用しながら、政策立案の手法を学ぶ山重ゼミ。山重慎二准教授は、優しい人柄ながらも厳しい指導で学生を徹底的に鍛えることで知られる。集大成となる卒業論文の作成プロセスでは、ゼミ生全員による発表会を開き、全員で意見を言い合い、発表者にとっては貴重なアドバイスが受けられる場となっていることも特徴的だ。ここで身につく経済学的なものごとの考え方は、実社会で大いに役立つもの。卒業後は、官公庁はもちろん、金融事業やエネルギー事業など公共的な企業への就職にも有利と言えよう。

近経済学の分析手法を活用し、さまざまな課題解決に挑む

一般的に、問題解決への取り組みは、まずは"直感"から始まる。「これはおかしいのではないか?」という問題意識を持ち、どこが問題なのか、どうすれば解決できるのかという"仮説"を立てる。次に、この仮説が正しいかどうか、正しくないところはどう修正すればいいかを論理的に検証する。そして、検証結果を論理的に説明し、解決策を実行する。これらのノウハウは、社会のさまざまな局面で大いに役立つものだ。
公共経済学を専門とする山重ゼミでは、こうしたノウハウを身につけるために、諸問題を多面的にとらえ、その本質にアプローチするための経済学的な分析手法を学ぶ。
「いろいろな場面で応用できるので、キャリア構築の力になるはずです。そんな人材がさまざまなポジションで活躍し日本が良くなることを願っています」と山重准教授は言う。卒業生の就職先としては、金融やエネルギー、通信、交通など社会インフラとなる事業や官公庁が多い。
同ゼミで学ぶ分析手法には、データを用いる計量経済分析のほか、データが使えない場合のケーススタディ分析や経済理論モデルを用いて分析する方法がある。ただし、理論モデル分析は難易度が高く、1・2年生のときに経済理論の基礎をしっかり学んだ学生でなければ扱うのは難しいので、サブ的な位置づけにしている。
同ゼミでは、3・4年生は基本的に一緒に学ぶが、夏学期だけ分かれて、3年生だけを対象とする英語の論文講読や計量経済分析の"特訓"の時間がある。1・2年生の間に必要な基礎知識が定着していない学生に対しては、日本語のテキストによるサブゼミでキャッチアップさせるという配慮もしている。
こうして基礎的な分析手法を学んだ後、学生は具体的な卒業論文のテーマを選定し、その問題の本質にアプローチして解決法を導き出す実践的な研究を行う。そして、全員の前でプレゼンテーションを行う機会が何度か設けられている。

ゼミ授業の様子

政策立案の手法を学ぶ山重ゼミ。問題意識を持ち解決方法の仮説を立て、論理的に検証・説明し解決策を実行。さまざまな場面で応用できる

生徒に愛のあるダメダシをする山重准教授

学生のプレゼンテーションに、愛のある"ダメ出し"をする。ロジカルな説明で人を納得させるスキルをぜひ身につけてほしい

愛のある「ダメ出し」が、卒業研究を深めていく

「このプレゼンテーションには、私はうるさく"ダメ出し"をします。ロジカルな説明ができないと誰も納得させられないからです。重要なスキルですので、しっかり身につけてもらいたいと考えています」(山重准教授)

もちろん、ゼミ生同士で意見を言い合うことは大歓迎。一橋大学の特徴でもあるゼミは、ゼミ生同士で議論し学び合うところに大きな意義があるからだ。
「むしろ、私が何も発言せずとも学生だけで議論して終わることが理想ですが、実際は意見を言えるだけの知識がなかったり、学生同士の遠慮もあったりしますので、そう簡単ではありません。しかし、実社会ではそんなことも言っていられないので、なんとか壁を突き破ってほしいと思っています」(山重准教授)

4年生の後半からは、研究してきたことを集大成する卒業論文の仕上げに取り掛かる。テーマは自由だが、経済学の論文として「政策提言を入れること」「経済学的なアプローチでまとめること」という二つの条件が課される。一方で、「経済学だけにとらわれず、社会学や心理学など学際的・多面的にアプローチし、少しでもクリエイティビティのある内容に高めてほしい」と山重准教授は期待している。卒論は12月に3年生が司会を務める発表会を行い、学生や教員からの意見やアドバイスを踏まえ、完成させるというステップを踏む。学生にも教員にも、発表者の論文をより良くするために、率直な意見を言い合う雰囲気が醸成されている。発表者も、ほかの学生の意見を素直に聞き、質問を受けるなかで自分の論文の足りない部分に気づいていくという貴重な機会となっているのだ。
「私にとってのゼミのゴールは、『勉強は面白い』と感じてもらうことです。実際には、『叱られてばかりで辛かった』と感じる学生もいるようですが(笑)、半数ぐらいの学生が面白かったと感じてくれているようです。より多くの学生に、学ぶことの面白さを感じてもらいたいですね」と山重准教授は結ぶ。

3年生の

3年生の"特訓"で使用するテキスト

ゼミの様子

経済学だけにとらわれず、学際的・多面的にアプローチしてほしい。そして「勉強は面白い」と感じてほしい

卒業論文のテーマ一覧

  • インフラの老朽化と維持管理のあり方
  • 中心市街地の活性化と市町村合併
  • 文化政策における補助金の効果
  • 安全確保政策の望ましいあり方
  • ODAがもたらす政治的・経済的便益
  • 日本経済の持続的成長と道州制
  • 企業による健康増進活動と政策
  • 持続可能なまちづくりの組織と支援策
  • 原発・再生可能エネルギー政策
  • 地方空港の再生・再編政策
  • 自殺を減らすための公民連携の取組み
  • 望ましい教育実習制度のあり方

発表テーマ

持続可能なまちづくりの組織と支援策

村上周平さん

村上周平さん

経済学部4年

父親が公務員で、普段からよく行政と経済の関係についての話を聞かされていました。いつしか自分も経済における行政のかかわり方について関心を深めていったことが、山重ゼミを履修する動機になりました。
実際にゼミで学んだことで、ものごとをより突き詰めて考えられるようになり、経済合理性の観点で考えるノウハウが身についたと思います。
経済学と聞くと、お金のことや景気について考える学問というイメージがあるかもしれませんが、私は「どれだけ多くの人を幸せにするか」を考える学問ではないかと思っています。私の卒論のテーマは街の活性化についての研究ですが、たとえば商店街に大型の商業施設ができたとき、そこだけが繁盛すればいいわけではなく、それをきっかけに商店街全体が潤って皆が幸せにならなければならないと思います。ではどうすればいいか、といったことを論文にまとめました。論文を書くプロセスでは、何回かの発表会でゼミ生たちや山重先生が親身になって貴重な意見をくれました。このゼミで、ものごとの考え方と貴重な仲間を得ることができましたね。(談)

文化政策における補助金の効果

佐々木遼さん

佐々木遼さん

経済学部4年

政策に関心があり、公共経済学に興味を持ちました。2年次のゼミ選択の際に行われるオープンゼミを見学し、山重先生の親身な指導ぶりに感銘を受け、志願しました。
3年生の夏学期に、計量経済分析と英語の論文講読について徹底的に鍛えられました。そのおかげで、英語の論文も抵抗感なく読み下せるようになりましたし、卒論にも引用できています。
卒論のテーマは、オーケストラを支援する適正な文化政策のあり方を考察するものです。ある知事が伝統芸能への公的支援を打ち切ったことに対する問題意識がベースになり、自分なりにどうすればいいかとの結論を導き出したいと考えてこのテーマを選びました。そうした問題意識を、具体的な政策提言にまで持っていく力が、このゼミで身につきました。卒論の発表会で、ゼミ生たちからいろいろな意見が聞けたのも大いに参考になりましたね。
山重ゼミは先生との距離が近く、多くのことを学ぶことができます。おかげで充実した学生生活を送れたという実感がありますね。(談)

インフラの老朽化と維持管理のあり方

風間亮祐さん

風間亮祐さん

経済学部4年

高校時代に、世の中の動きがどうなっているのかを俯瞰してみたいと思うようになり、経済学部に入学しました。しかし、1・2年次で基礎的な経済理論を学んだだけでは、世の中の動きを俯瞰して理解できるところまでは到達できなかったのです。そこで、3年生では、こうしたことが学べそうな山重ゼミを選択しました。そして、社会の事象を分析し政策提言にまとめていくという実践的な内容に触れ、「自分がやりたかった勉強はこれだ」と思いました。
政策提言には一見、数値的な要素がないものが多いですが、実際には「この政策でこれだけの効果が見込める」といった数値が必ず組み込まれています。こうしたときに用いられる計量経済学の手法をゼミではしっかりと勉強します。いわば"国語の問題を数学で証明する"的な側面がありますが、モヤモヤしていた疑問や事象を数値で立証できるところが面白いですね。
授業以外でもゼミ生同士が自主的に集まってお互いが解いた問題について意見を言い合うなど、普段から仲がいいゼミです。普段は優しくても授業では厳しい山重先生に皆で立ち向かう"戦友"の感覚です(笑)。(談)

ABOUT

一橋大学について